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プライド

 

 

「ちょっと、あなた最近調子に乗ってるんじゃないの?」

不機嫌そうな声に、最近デビューしたばかりのアイドルである少女、早苗はびっくりした様に後ろを振り返った。

「あ、奈緒さん、おはようございます」

二人は歳がほとんど一緒だけど、子役としてデビューして、十年以上芸能界にいる奈緒と、新人の早苗では、どうしてもこうなってしまう。さらに、気の弱い早苗には、この威張っている先輩にはつい、礼儀正しくしてしまう。

「まったく、ちょっと売れたからって」

完全に自分の世界に入ってしまい、嫌みを言い続ける。今は歌番組の収録前、用意が終わり、少し空いた時間、二人以外にはそこに誰もおらず、当然、奈緒を止める人間がいるわけではない。愚痴とも取れる奈緒の嫌みは続き、さすがの早苗も我慢しきれなくなった。

「ちょっと、そんなに言わなくてもいいじゃないですか」

「何? 歯向かうの?」

何も言い返さない早苗への嫌みは、安っぽい自尊心を満足させるためだったのだろう。奈緒には、心の奥では早苗に勝てないと思っていて、顔だけ見ても奈緒は早苗より数段落ちる。世間から見れば二人とも美少女だろうけど、それで譲歩できるわけがない。何より、話題性だけで歌を出した自分と違い、何万人という人間の中から選ばれ、たくさんの人に天才だのと言われる早苗では、周囲の扱いも違って当然と認めている。でも、長年芸能界にいて、今でも人気が高い事実が、負けることを認めようとせず、同じ扱いでも気に入らないのだ。歯向かわれれば、唯一の優位が崩れるようで、本人は認めないだろうけど、恐怖を感じていた。

「芸能界に長いこといるからって、そんなに言われる理由がありません。」

いつも通りの丁寧な口調に、いつもと違った怒りがこもっている。その手は震え、斜め下を見ている。何かを堪えるようなその仕草は、奈緒には明確な恐怖となっていた。あと一歩踏み出したら、俯いた顔を上げたら、そう思うと、心臓が張り裂けそうに高鳴り、汗が頬を伝う。

「そんなこと言って、私に負けるのが怖いんじゃないですか?」

ぼそっと、呟く様に言う早苗、その声は決して大きくは無かったが、部屋中に響いたような気がした。その言葉は、ある意味正解だった。ただ、もう自分が『勝っている』ことに気付いてないだけで。

「な、」

最も考えたくない事を言われ、動揺する奈緒、そして、次の瞬間。
早苗の髪を掴み、自分の方へ引っ張っていた。

「痛い、止め、離して」

「うるさい、誰が、誰があなたに負けるって」

奈緒は、早苗が反撃してきても、勝つ自信があった。それは、柔道をしていた事もあったし、今でも体力には自信があるからだ。部活のテニスでは、まずまずの成績を残しているし、それは、限られた練習時間から考えれば、奇跡のような記録だった。

「うう、このぉ、」

髪を掴まれた痛みから逃れる為に、早苗が右手を振り、奈緒の脇腹にぶつける。めちゃくちゃな一撃だが、意外に強い力で思わず奈緒の手が外れる。

「うぐ、んぐ、」

突然、気道を締め付けられる。気付いた時には奈緒は早苗に後ろから首を絞められていた。そのチョークスリーパーに、意識が朦朧としながらも、肘や足で外そうとするが、まったく当たらない。消え行く意識の中、奈緒は早苗の笑い声を聞いた気がした。

「はぁ、セットしなおさないと」

早苗は、乱れた髪を直しに、何事も無かったかのごとく鏡に向かった。
その日の収録は、奈緒がいつもより大人しく、いつもは控えめな性格の早苗が積極的にトークに参加したり、プロデューサーは不思議に思ったが、こっちの方が数が取れると思い、深く考えはしなかった。実際、その番組はいつも以上に視聴率が高かった。



あの日から一年が経ち、早苗は今や、CDを出せば必ずトップテンの上位に入り、雑誌の表紙やCMに、見ない日は無いぐらいの不動の人気を築いていた。写真集の発売日にはサイン会に長蛇の列が出来、一目見ようと楽屋に忍び込もうとするファンが続出。そんな中でも、嫌みの無い謙虚さや、真面目さ、派手な役にこだわらず、出来ることをやる懸命さ、それらの性格が、今でもファンを増やし続けていている。ドラマにも、主役でという話があったが、まだ演技力が足りないと、脇役で出演し、最初は拙い演技でも、最後には抜群の演技力を絶賛されたほどだ。だが、当然そんな早苗を嫌う人間は、芸能界には多い。特に、あれ以来、早苗と一緒になれば引き立て役にしかなれなくなった奈緒もそうである。

「なんで、あんな女が」

今まで何度繰り返したかわからない文句を吐きながら髪を乱暴に梳く。今は歌番組が終わった後で、奈緒は控え室にいる。尚も愚痴に近い文句を言い続けていると、ドアが開き、今最も会いたくない人間が顔を出した。

「な、早苗、何でここに?」

奈緒は、あれ以来、まともに早苗の顔を見るのさえ怖くなっていた。だから、さっきまでの自分の言葉が聞かれてないか、脳裏に不安がよぎる

「ちょっと、借りたい物があって」

「そ、そう」

ほっと胸をなでおろす。だが、

「それと、さっきのは誰のことを言ってたの?」

「えっ、な、何のこと?」

「とぼけても無駄よ、で、誰のこと?」

「それは、・・・・・」

何とか弁解しようとするが、声が出ない。

「あれは、私のことだと考えてもいいのね」

いつもの声だが、いつもとは違う凄みがあり、ゆっくりと奈緒の方へと歩いてくる。歌の時の衣装のままで、よく見れば結構露出が多く、すぐに脱げそうだ。テレビで見ればともかく、普通の部屋でそんな服装の人間がいれば変以外の何者でもないのだが、意外な迫力があった。

「くっ、あああああああああああああああ」

早苗がすぐ近くに来ると、恐怖を振り払うように飛び掛る。だが、一瞬、拳を握ってから躊躇していたので、その動きはばればれで、あっさりとかわされた。

「あの時のこと、忘れたの?」

自爆して倒れこんだ奈緒の耳元に軽く笑いながら囁く。そして、そのままキャメルクラッチの様にその上体を起こす。

「あ、うぐ、ぐぅ、止め、止めて、」

「どう、苦しい?」

前と同じく、早苗の顔には笑みが浮かんでいた。自分よりも弱い者に対する優越感か、その笑みは、どんな雑誌のそれよりも自然な、それでいて怖いと思わせる物だったが。

「ぐう、っこのぉ」

全身の力を振り絞って早苗を振り落とす奈緒、それには不意をつかれ、早苗が床に転がる。早苗は素早く立ち上がったが、そこへもう一度奈緒が飛び掛る。さすがにバランスを崩し、二人が床に倒れこんだ。

「この、離れなさいよ」

奈緒の髪を引っ張りながら、必死に抱きつくようにしている奈緒を引き離しにかかる。その奈緒の顔が早苗の豊かな胸の間に収まり、髪を引っ張っているのを振りほどこうと頭を嫌々する様に横に振っている。気のせいか、早苗の頬が少し赤く染まっていた。

「や、ぁ、は、離れなさいよ」

離せば確実に反撃がある、そして、悔しいが、奈緒は早苗に勝てることは万に一つも無い事を自覚していた。単純な腕力でも負けているし、一度あっさり負けているのだから。

「っく、離れろ」

痺れをきらせた早苗が力ずくで転がるように体勢を入れ替える。少し体を起こすと、服がずれて豊かな胸が半分こぼれていた。

「はぁ、はぁ、そんなに抱きついてきて、あなたそっちの気があるんじゃないの?」

呼吸を整え、汚い物でも見るように奈緒を見る。ちょうど足で奈緒の胸を挟むような座り方で、手で、奈緒の顔を覆うように掴んでいた。自分の乱れた服を見て、不愉快そうに眉をひそめて、

「この服、もう着れないじゃない」

と言いながら、顔を掴んでいた手を放し、両手を奈緒の服の胸元のボタンに掛け、一気に広げた。

「いやああああああああああああ」

もう半泣きで体をゆするが、早苗は重心を移動させてやり過ごし、上から退きはしなかった。

「ちっちゃいね、いつもは何か入れてたの?」

柔らかな感触を愉しむように奈緒の白いブラを指でつつき、面白そうに言う。

「ちが、違う、小さくなんか、」

確かに、奈緒の胸は小さいわけではなく、年相応だったが、早苗からすれば小さいものだった。

「本当に? じゃあ、本当に小さくないか見てあげましょうか?」

早苗に最初の笑みが戻った。奈緒が反撃すらしてこない事で、優越感が戻ったのだろう。そして、その手は隠された奈緒の胸を暴こうと、少しずつ近寄り、その端を掴んで引き下ろそうとした時。不意に人の足音がして、その手を止めた。早苗が恐る恐る外を覗くと、そこには次の番組の為にスタッフが走り回っていた。

「この続きは他でしましょう」

早苗が奈緒に提案、という形の脅迫をして、二人はすぐにその場を離れた。



早苗の指示で、着いた所は古びたカラオケボックスだった。早苗は顔見知りらしい店員と話している。どんな内容かは聞き取れないが、どうも代金をサービスしてとかで、奈緒は少しほっとしていた。

「さあ、続き、やりましょう」

二人とも、上は大きめのTシャツ、下はショーツという少々情けない格好で向かい合う。それは、奈緒が『お気に入りの服が汚れるのが嫌』だからで、途中のコンビニで二枚組みのシャツを買ってきた。下については、最初から穿いていた物で、二人ともミニのスカートなので破れると少し悲惨ではあったが、その時は二人ともそうなるとは考えていなかったし、コンビニで買う気も起きなかったからだった。

「どうしたの、来ないの?」

奈緒が黙っていて、動かないので、苛立った早苗が一歩踏み出す。すると、奈緒が少し後ずさりして、明らかに怯えているのが分かる。それが早苗には面白くて、意地の悪い笑みを浮かべながら少しずつ近寄っていく。

「私が怖いの?」

「だ、誰が、あなたなんかに」

そうは言うが、少しずつ後ろに下がり、声は最後の方は聞き取れないほど細くなり、図星なのが分かる。やがて、奈緒の足に何かが当たったような感じがあり、チラッと見ると、壁に追い込まれていた。ここで素直に泣きつくなり何なりすればその恐怖から逃げられるだろう。だが、奈緒の心の中ではまだ、『早苗には負けてない』と叫び続けていた。それが枷となって、逃げることも出来ず、ただ怯えるだけであった。

「そういえば、あの時はこんな事してくれたっけ」

奈緒の髪を自分の方へ引っ張る。

「痛い、止め、放して、」

頭を抑えて痛がる奈緒。さすがにこれは外そうと早苗の方に飛び掛る。

「あっ、く、」

頭突きを胸元に受け、よろけた拍子に手を離してしまい、歯噛みする。

「あなた、猪か何か? 真っ直ぐ突っ込むしか能の無い」

余裕ぶってはいるが、明らかに動揺している早苗。絶対無いと思っていた反撃があったのだから、当然だ。その早苗の動揺に気付き、素早く追撃をかけようとする奈緒。柔道をしていただけあり、その動きは機敏で、早苗のシャツを掴んで大外刈りをかけようとする。柔道着でもないし、しばらく練習もしていない為、いいかげんなものだったが、勢いがあり、気持ちの良い位完璧に早苗が床に倒れこむ。

「あぐっ、」

頭を打ち、その痛みに苦しんでいる所にフットスタンプ、形勢が逆転すれば、元から実力はあった奈緒だ、これくらいの事は出来る。

「この、よくもやってくれたわね、今までの借りは、返させてもらうわ」

何度も、早苗の柔らかいお腹を踏みつける。その早苗の口からは涎が流れ落ち、ゴホゴホとむせている。

「調子に、乗るな」

早苗が何度目かのフットスタンプをしようとした奈緒の軸足を掴んで引き倒す。

「きゃ、」

仰向けに倒れこんだ奈緒と入れ替わるように早苗が跳ね起きる。

「痛かったよ、すごく、確か、こうするんだっけ?」

怒気をはらんだ声で叫ぶように言いながらその右足を振り上げ、その踵を奈緒に振り下ろした。それは早苗がされていたよりもずっと下だったが。

「ぎ、・・・・・・・・・・・・・・」

一瞬顔をしかめると、その後には声にならない悲鳴が続いた。

「ごめんねぇ、ちょっと下過ぎたかも、これで赤ちゃんが産めなくなったら大変ねぇ」

冷たい笑いと共にそう言うが、奈緒はそれを聞く所じゃない。その痛みに苦しむも、早苗の足がまだ退いていないので、転がりも出来ない。

「どけぇ、」

際限なく溢れる涙を振り払い、奈緒が右足を振り上げる。その先には早苗の股間があったが、一瞬早く早苗が飛び退く。奈緒はその隙に立ち上がり、早苗を睨み付けた。

「痛そうね」

前かがみで股間を手で覆うようにしている奈緒に、早苗が笑いながらそう言うが、奈緒には反論する余裕が無い。その奈緒の方へゆっくりと歩いて行った早苗が、

「ここが痛いの?」

と言うと同時に早苗の右拳がそこを守る奈緒の手の上に突き刺さった。

「あがあ、」

大きく仰け反り、そのまま後ろに倒れこむ。

「あはは、どうしたの?」

もう一度そこを踏みつけている早苗の笑い声が室内に響く。その時の奈緒には、今自分に苦しみを与えている人間に同じ苦しみを与えたいとしか考えておらず、その目は一点を見ていた。

「もう終わり? 今度こそちょっとは反撃して欲しかったけど、仕方ないね」

そう言うや、奈緒が見つめていた一点が、段々と近づき、奈緒のすぐ目の前まで来ていた。

「これで、っぐ、い、痛い、な、何を、止め、は、離して、」

勝利を宣言しようとした早苗の動きが一瞬止まり、そんな悲鳴が口から出る。奈緒は、早苗がやろうとしたフェイスシットの寸前、首を伸ばしてその眼前の物に噛み付いた。しかし、その痛みで早苗が奈緒の首辺りにヒッププレスをする形になり、早苗の豊かなヒップで胸が押し潰され、息が殆ど出来なくなった。その為、先に音を上げたら負けのガチンコ勝負になったのだ。

「い、離しなさいよ、」

「ふぃふぁ、」

痛みに必死に耐え、平気な振りをする早苗に、聞き取りにくいが、拒絶の意思を見せる奈緒、しばらくその戦いは膠着状態に陥った。

「い、ひんっ、はな、し、っく、て」

痛くて悲鳴を上げそうでもそれを我慢しながら、早苗の腕は自分のヒップの後ろにある、覆いの半ば取れた二つの白い山、その頂に到着しようとしていた。

「離さないと」

脅すように言い放ち、その頂を握りつぶす。

「ぐ・・・・・・・・・・・・・・・」

痛いなんて物では無いはずだが、奇跡のような忍耐で、上げかけた悲鳴を押し流す。それでも口の力が弱まり、早苗に若干の余裕が出来た。

「それなら、こうよ」

その指を捻り、爪で抉り取る様にする。いつの間にか奈緒に握られていた脇腹に痛みが走ったが、

「ああああああ、あ、ああ、あ、ああああ」

奈緒は、今まで閉じようとしていた分まで口を大きく開いて悲鳴を上げた。早苗はその指をさらに捻り、今までの痛みをすべてぶつける様に力を込めた。

「やめ、千切れる、ちぎれるぅ、」

そして最後にひときわ大きな悲鳴と共に倒れこんだ。

「あーあ、お気に入りだったのに」

自分のショーツを眺めて早苗がそう呟く、それは、肝心な部分が破け、これ以上早苗のヒップを包み込むことは無理な状態だった。更に、それを外すと、そこには楕円を描く歯形に血が滲み、よく見ると脇腹にも爪の跡があり、そこにも血が滲んでいた。そして、早苗は、無事な奈緒のショーツを見て、

「これは貰っておくわ、その代わり、これをあげる」

そう言って奈緒の口に自分の破れたショーツを突っ込み、そのショーツを脱がした。ピチャッという音がして、見てみると、それはビショビショに濡れていた。

「変態」

吐き捨てるように言って、そのショーツを穿く。

「あっ」

ちょっときつめのショーツの湿っている部分が丁度傷口の近くで、痛みなのか、少し吐息を漏らす。更に、奈緒が着て来た服をズタズタに引き裂き、それに濡れたショーツを擦り付けた。ただ、少しその湿り気が多くなっていたのは気のせいだろうか? その服と、自分の着ているシャツ、奈緒のシャツを、すべてゴミ箱に放り込んで、全裸の奈緒を残して部屋を出た。
それ以降、奈緒は何をしても上手くいかず、自然と人の記憶から消えていった。




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