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第5章 強制特訓



 〜魔の小学生〜 (前編)



1 決意の告白


 通代は最弱女にされてしまった翌日の昼休み、生活指導主任である牧岡武則のもとを訪れた。どうせ遠くから誰かが監視しているのであろうが、もうそんなことはどうでもいい。父親は長期出張で海外にいる。自分のことは自分でせねば。彼女はそういい聞かせて、トイレから戻ってきた牧岡に声をかけた。K中学の職員室は長くうねった校舎の2階にあるが、牧岡の席があるのは3階の生活指導室である。

「せ、先生、お話したいことがあります」

 牧岡武則は現在担任を持っていない。学生たちが日々おこす問題に対処するため、様々な仕事をしている。自分の在任中だけは、何とか何も問題が起こらないで欲しいと願いつつ日々を過ごしているようだ。事件があるたびにワイドショーで会見に晒される学校関係者を“明日はわが身”と常々テレビで見つめる。
 組織なんて人を潰すために存在するようなものだ。一人ではできないことがあるから組織を作る。それもいいだろう。しかし組織による人間疎外に目を瞑って何が理想の教育だ。レポーターの突き刺すマイクが時々刃物のように見える。そう心を突き刺す刃物のように。誰だって自分を否定されたくはないさ…。そんなことをふと突然脳裏によぎらせながら牧岡は生活指導室に通代を招き入れた。6畳ほどの広さで黒い革の椅子が4つ並べてあり、中央には透明な机が置いてある。生活指導室の教員は他に2名いたが、この時間にはいなかった。

「わ、私、いじめにあっています。先生助けてください」

通代はこれまでのことをかいつまんで牧岡に話した。大野と親しくなったこと、密会を発見され脅されたこと。エスカレートしていった体育館や教室での女子の仕打ち。
 何か心のつかえがとれたような晴れやかな気分になってきた。話しているとどこまでも、自分が悲劇の主人公のように思えてくる。もちろん相手は男性であるので、内容もそれなりにオブラートに包んだ部分がある。例えば体育でどんな下着を履かされたかについては語らず、無理に指定されたと留めたりして話した。
 牧岡は丹念にメモをとり、まず事実確認をするからしばらく時間が欲しいと言い、それまでにまたひどい目に会わされそうになったらすぐ連絡するように告げた。通代がドアを閉める際、視線を合わせ、“大丈夫”とその美しい瞳に投げかけた。ドアを閉めるその手の添え方が、牧岡の心を潤した。
 部屋を出て廊下を歩きながら、通代はシナリオを描いてみた。まず教師の飯島、美香、智美、尚子の4名が呼び出され、事情を聴かれるだろう。彼女らは正直に話すだろうか。しかし体育館の地下にあるリングはすぐ存在が発覚する。大野とは連絡がとれれば私の言っていることが本当だと先生方に信じてもらえる。もちろん私の印象も少しは悪くなるだろうし、父も気を悪くしたり、がっかりするに違いない。進路にも影響を及ぼす。ああ、でも私は特別、大きな罪を犯したしたわけでもないのだ。しっかり勉強すればそれなりの高校に行ける。そう念じた。
 ひょっとしたら美香たちが投げやりになって写真やビデオをばらまくかもしれない。恥ずかしいが、これからもリングで戦わされるよりましだ。谷山くみや村山蘭子といったこの中学の女子達にも、それなりの罰が下るだろう。美香の母親はPTAの会長をやっているから、マスコミの餌食になるだろうか。毎日ブランドものを買いあさっていると噂される美香の母親を通代は想起した。
 そんな一連の思いにひたりながらすがすがしい表情で通代は教室へ戻った。あごを少し上に向け両手を後ろで組み、ちょっとスキップするように。こんなことをするのは何ヶ月ぶりだろう。
そんな彼女を鈴木浩二は生活指導室へ入っていくところからずっとその後姿をもの思いにふけりながら追っていた。生活指導室から出てきて、元気になるということは、やはり美香たちに、ひどい目にあわされ続けていたのだろうかと。そして少し想像しただけで股間を硬くするのであった。





2 生活指導主任の性欲


美香と蘭子が校舎の隅で何か話している。

「ねえ、蘭子。プリティーが牧岡のところへ行ったらしいの。しばらく可愛がってやるのは遠慮してやってよ」

「ふふ、そんなことくらい計算づくだったくせに。まあいいわ。その代わりけじめがついたらちょっと楽しませてもらうわよ」

「ああ、好きにするがいいさ。でも警察沙汰になるのだけはやめてよね」

「美香のやり方を勉強させてもらっているから。大丈夫さ」

数日後、通代が牧岡に何か話したということが女子たちの間で話題となった。美香は飯島に相談する。女子達の中にはいじめの加担者として裁かれることを恐れるものもいた。

「飯島先生、プリティーが牧岡のところに行ったって。ねえどうする?」

「そう、任しておきなさい。でもちょっとばかし手伝って欲しいことがあるわ」

飯島は牧岡の顔を想起して薄笑いを浮かべる。生活指導主任があのおやじで助かったわ…。
夕刻の繁華街、ネオンと雑踏のなか牧岡武則はあるビデオ試写の店に入った。探すビデオは女子高生ものだ。1時間3本1500円。パッケージを見て適当に選んだ。この近辺の店には悲しいくらいに通い詰めているので、もう見ていないものを探すのが難しい。2年以上も前の作品に“新作”のラベルが貼ってあるのが時折許せなくなるらしいのだが、それでも彼にとってここは憩いの場なのであろう。年輪を重ねた古いAVが棚から除去されることなく、日焼けしたパッケージに入れられて置かれているところもなんとなく愛しい。タバコ臭い試写室には、いい加減に買い換えて欲しいと思うビデオデッキと安そうなおしぼりがある。たいした美人は登場しないが、制服姿の女子高生を嫌というほど何度も見る男優が、教師役になって犯している。場所は教室だ。
 ああ、自分も教室で生徒と性交渉を持ってみたい。だめだと思うほどに欲情が沸いてくる。この間来た渡辺通代だったら最高だろうな。他にも何人かの女生徒が脳裏に浮かんだ。その中には大森美香も入っていた。牧岡は美香と話しをしたことがなかったが、いつも遠くから見ていた。きつそうな顔をしているが、それなりに色気があると思いながら。
 彼の担当科目は社会である。授業で精一杯の“笑い取り”を試みるもののほとんどが自爆だ。20時くらいに始まるお笑い番組を見て、彼なりに研究しているらしいのだが、かえってそうした行為が裏目にでているようだ。どっと爆笑になると思いこんだセリフが、教室を静寂にしてしまう。自分は生徒から人気がない。彼はそう思い込んでいる。そんな自分を頼ってくれた通代を牧岡は素直に守ってやりたくなっていた。
 彼には大学受験を控えた息子がいる。わんぱくでもいい…・などと彼は思っていたのだが、妻は小学生から名うての塾に通わせた。高校まである有名私立中学に合格し、今年ある国立大学の医学部を受験する予定だ。我ながら順調すぎるくらいに育ったと牧岡は思っている。とくに人を見下すこともなく、なめられることもなく。私学は公立よりもいじめがないなどという仮説を正面から信じてはいなかったが、自分の息子がそのような困難にいまのところ直面していないことに安堵感を覚えていた。AVの画面を早送りさせながら、父親としてまっとうでありたいという思いと、何かどこまでもはめをはずしてみたいという思いが交錯する。あるAVは最後までずっと早送りだった。





3 策略


 通代が生活指導室を訪れてから、3日がたった。牧岡はこの間のメモをもとに十数枚の書類を作成し、通代を生活指導室に招き、確認をとった。それは想像以上に自分の身を心配していると通代に思わせるものだった。

「せ、先生、ありがとうございます・・」

涙眼になって通代は感謝の念を述べる。

「先生はこういうことが仕事だから。もう安心しなさい」

自分で言ったセリフになぜか感動した。その晩、牧岡はなぜかうれしくなって、ハメをはずしたくなった。俺だって生徒に好かれているのだ。いや若者からとでもいうか、美人からとでもいうか…、などと語句を並べて楽しんでみる。繁華街をポツポツ歩き、ビデオ試写店の前を通りすぎる。
今日は、試写には行くまい。現実において新鮮さが感じられない毎日に嫌気がさしていた時に限って、出入りしていたような気がすると、試写店の看板を見ながら牧岡は自分のここ数年の心と振るまいを想起した。
 もう2,3歩、歩を進めたところで、テレホンクラブの派手な看板にでくわした。今日くらいは行ってみるか…。自分へのささやかな“ご苦労様”パーティー“だ。場合によっては、金を少々使ってもいいぞ、などと念じた。そして一呼吸置いて、テレホンクラブへの階段を上っていくのだった。
 その牧岡を尾行するものがいた。尚子である。公衆電話から飯島に連絡を入れる。

「もしもし、先生。牧岡が今、テレクラに入ったわ。店の名前は…」

飯島は自宅で、受話器を握りながら、薄笑いを浮かべた。

「美香さん、この番号よ。かけまっくて。牧岡がでるまでね。ちょっと鼻をつまんでブリッコしてみて」

ハイハイというように、美香は電話をかける。何と一回で牧岡の声がした。
牧岡はテレクラで話す。

「あの、おじさんさ、仕事ですごく疲れててね。若い女の子と仲良くしたいんだけど、実は立場上そうもいかなくてねえ」

「おじさん、何のお仕事をしているの?」

「ああ、うん、まあ学校の先生だよ」

「私もおじさんみたいな感じの先生だったら楽しい学校生活が送れそうだな」

少し鼻にかかったような甘えた声で美香はうまく話しをつなぐ。

「おじさん疲れてるのね…。声がとっても淋しそう。私ね、お父さんがいないの。それで歳をとった男の人となかなか話す機会がなくって」

美香の自宅に父親がいないのは事実であった。美香の母がまだ若い頃、離婚したのである。美香は父親に甘えた記憶がない。そして家にはいても自分に関心をもってくれない我が家の母親と、海外出張が多くても、空港から直行でおみやげを抱え小学校の授業参観日にやってきたダンディな通代の父親を比較し、通代を羨ましく思ったものだった。

「ねえ、おじさん。これから会って。お願い…。聴いて欲しい話が私もあるの。学校でいろいろあって。先生達は何でも相談しなさいなんていうけど、自分の学校の先生には言えないこともあるの。ねえお願い…。」

美香は切迫感を好演してみせた。牧岡は、あまり深入りするのは問題だと思いつつも、通代の件でなぜか調子づいて、よしという気になった。自分は学生の相談に振りまわされるのが天職なのかなどとうぬぼれながら。

「わ、わかった。おじさんは一応教育者だからね。うん。相談に乗るよ」





4 脅迫〜生活指導主任援助交際発覚!?〜


美香はかなりきつめの化粧をしていた。服は黒でシックに決めていて中学生とは思えなかった。
牧岡は伝えておいた目印をたよりに自分のところへ寄ってくる女性を高校生か大学生かと思った。遠くから見ると、自分の学校のある生徒に似ていると思った。
美香は牧岡に自分の声が知られていなくて良かったと思った。声の芝居まではそういつまでももたない。
 美香の短いスカートに牧岡は興奮し、喫茶店の後、とにかくどこかへ入ろうなどと言って、ラブホテルへ誘い入れた。美香は、芝居とはいえ、こんなに計画がうまく進んでいいものかと思うくらいだった。
美香はそれとなしに作り話を続けた。父親がいなくて寂しいというのは本当であるので、まったく嘘というわけではない。飯島との打ち合わせ通り、決して自分からは誘わなかった。誘うようには仕向けたが。
牧岡は一夜限りのと夢だとばかりに、美香をベッドに押し倒した。

「せめて今夜はおじさんの胸でお泣き…」

何がおじさんの胸でよ、忌み嫌いつつも美香はもう少し時間がたつのを待った。牧岡は美香の服を脱がし、愛撫しようとした。美香はそろそろいいかと、下着に隠した小型の連絡ボタンを押す。
すると、誰かがドアをノックする。

「フロントです。」

何だ、これからいいところなのにと思いつつ牧岡は自分の服装を直してドアを開ける。

「きゃああ、せ、先生助けて…」

と美香は叫ぶ。
ラブホテルの部屋に飯島と智美、尚子が入ってきた。一応演技として飯島に抱きつく美香。

「牧岡先生!これはどういうことなんですか!?」

牧岡に詰め寄る飯島。

「あっつ!?、うちの学校の…」

牧岡はやっと化粧で化けた少女が自分の学校の生徒であることに気づいた。

「牧岡先生、このこと他の人に知られたくなかったら私達のいうことを聞くのね」

と智美。

「彼女だってこんなことがバレたら…受験が大変だろう」

牧岡は動揺しつつも勢いで負けてはだめだと突っ張ろうとする。

「牧岡先生も往生際が悪いお方ね。実は私、K市教育委員会の極秘調査で教員のわいせつ行為調査を任命されているのですよ。大森さんには身の安全を私が保障するということで特別に協力してもらったわけです。ここに教育委員会からの委嘱状もあります。」

飯島の言っていることは事実であった。何だかいかめしい用紙には、確かにK市教育委員会委員長の印鑑が押してある。職場でもたまに目にするものだ。

「ところで牧岡先生、今年息子さん大学受験でしたっけ。大変ですわね。これからお金も必要ですし、“生活指導主任援助交際”なんてマスコミに騒がれたらお家の方も大変でしょう?再就職なんてできるでしょうかね。」

「わ、私を脅迫する気か?飯島君!」

「脅迫だなんてそんな。ただちょっとご協力していただきたいことがありますわ。一芝居打ってもらいたいんですよ」

飯島は通代について、本人はこう言ってきたであろうが、飯島のいうように職員会議で報告するように要求した。要求を聞き終わると牧岡は黙り込んだ。答えは決まっていても通代の悲痛な訴えと保身を比べてみるのだった。
 飯島の要求とは、何と通代がいじめの加害者であるということだった。





5 加害者通代


数日後、通代は牧岡に呼び出された。

「せ、先生。大森さんたちの処分は決まったのでしょうか?」

次の牧岡の言葉を聞いて通代は唖然とした。

「渡辺さん。確認するけれども君は小川恵美という生徒を何度も鞭で打ったね」

通代は、毅然とせねばと思いつつも動揺しながら答える。

「は、はい。確かに。でもそれは無理やりやらされたんです」

牧岡は芝居が辛いと思いながらも、飯島に言われたとおりに言葉を発する。

「実はね、大森や土井たちにいくら聞いても君のいうような事実はないというのだよ。体育館の地下にリングなんてないし。調べているうちに何人かの生徒が、君からいじめを受けたというのだ」

「そ、そんな…」

「でも、小川さんを鞭で打ったのは事実として認めるのだね」

「は、はい、でもそれは…」

「君は、いじめの加害者として告発される前に、私に甘えた声で寄ってきて被害者の動きをけん制しようとしたんじゃないか!」

「せ、先生、そんな。違います。私は…・、私を信じてください!」

通代はただ呆然とするばかりだ。既に学校はアンケートをとっていた。通代が牧岡から、君はとくに何も書かない様にといわれていたものだ。
すると通代にいじめられたとする女子の記述がたくさんでてきたのである。もちろん美香や蘭子の指示によるものなのだが、通代にトイレに呼び出されてオナニーをされられたとか、パンティを奪われて焼却炉に捨てられたとか、バイブを挿入されたまま授業を受けさせられたなどなど。お菓子やジュースを買わされたり、宿題をやらされたり、文房具や教科書を剥奪されたりなどというのもでてきた。果ては体育が自習の時に、体育館において全裸で走りまわされたなどというのさえあった。涙ながらに小川恵美は通代に鞭打たれたときのことを話したらしい。
 通代が恵美に敗れてから3週間ほどたった。再び招かれた生活指導室には、校長、教頭、学年主任、牧岡、それに飯島が座っていた。通代を加えた6名で体育館へまず行くことになっていた。

「だからどこにいったいリングなどあるんだね」

校長がつぶやく。

「こ、ここにボタンが隠れていて地下からリングが・・」

通代は必死に説明しようとするがそんなものは取り去られた後であった。

「君のために地下を掘り起こしたんだよ」

学年主任が言う。板がとられた体育館の床の下は、以前のように杭やコンクリート、歴代の男子学生が置いていった男性成年雑誌がいくつかあるだけだった。

「お、大野先生に確認してください!私の言っていることが本当だってきっと先生方に信じてもらえます」

「だから大野君には何度も連絡をとろうとしたり、親戚を当たったりしているのだが、本人がつかまらないのだよ」

牧岡はそっけなく答える。

「そ、そんな」

通代はなぜか、あの紫の下着で体育館を走らされたときの寒気を思い出した。
6名は再び生活指導室に戻る。


「証拠としてビデオがあります。これは匿名の生徒が提出してきたもので、彼女の名前は明かせませんが公開します。」

生活指導室のビデオには恵美を鞭打つ通代が映し出されている。

「渡辺さん、これでもまだ小川さんへのいじめを認めないつもり!」

飯島が詰め寄る。

「で、ですからこれは無理に鞭で打たされたのです。信じてください」

と必死に弁解する通代だ。

「今の時代はこういう、優等生だと思わせるような生徒がいじめをするんですね」

「今回のケースでうちの中学のイメージが落ちかねません。ここは厳正な対処を」

学年主任と教頭がそう言いながら相槌を打っている。

「先生方、渡辺通代の更生指導及び被害にあった生徒のケアに関しては私に任せていただけませんか?思春期の女子の心の問題は複雑です。男性の教員には話し辛いことも多くあると思うんです」

「牧岡先生、どうですか」

校長が尋ねる。

「え、ええそうしていただけると助かります」

牧岡の心に良心という言葉が切なく響く。通代は唖然として牧岡を見つめていた。

「飯島君に彼女たちへの対処を任せよう」

校長がそういうと、飯島以外の4名は部屋から出て行く。





6 玉石は磨かれる!?


静まりかえった部屋で通代は、何ともいえない心境でいた。飯島を思いの限り、ののしりたいという気持ちと、牧岡へ通告したことへの報復が何かあるのか、これまでのことの口止めで済むのか判断がつきかねていたのである。それでも少しニタニタした飯島を見て、思わず通代は口を開く。

「せ、先生。こんなことをして何が楽しいのですか?いったい私に何の恨みがあるというの?」

飯島はその問いには答えなかった。

「渡辺さん。これからは私の指示に従ってもらいますからね。しっかり反省するまで、おしおきよ。とりあえず反省文を5千字程度にまとめてきなさい。教育委員会にも報告しないといけないから、ちゃんと書くのよ。できによっては何回も書きなおしてもらうわ」

 数日後、女闘コンツエルンでは、大森信次が総帥に学内の状況をかいつまんで報告していた。
総帥は淡々とうなづくだけだ。報告が落ち着くと、信次は心情を吐露するように話す。

「勅使河原先生、ここまで彼女を追い詰めねばならないのでしょうか?」

「もし渡辺通代がラブビーナスの血を引いているならば、それこそとことん世の汚濁を彼女に味あわせねばならないのだよ。つらいことだがね。そうしないことには血統が確かめられないのだ」

「その血統だったらどうだというんですか?」

「世界史を変える力を秘めている」

信次ははっとして黙った。

「社会の混乱を楽しむ興行主にでも悪用されれば大変なことになるからね」

勅使河原が独り言のようにつぶやく。そして信次が出ていった後、総帥が秘書に尋ねる。

「あの大野とかいう男は地下で元気にやっているかね」

秘書が答える。

「はい、周りを固めてから特殊部隊に行動させましたので」

「飯島という女教師に特別報酬を与えたまえ」

「かしこまりました」

秘書は淡々と返答した。
 さてK中学における最大の変化は、通代が男子や保護者達といった人間から加害者として見られるようになってしまったということである。一時帰国した通代の父親は、彼女を伴って小川恵美の自宅に詫びを入れに行った。美香の母親はPTAの会長だったので、緊急に“いじめについて考える会”などというものを創設した。
鈴木浩二は不思議に思った。学校としては生徒たちに公表しなかったが、通代がいじめの加害者であったことは風のように伝わっていった。浩二にはどうしても通代がそのようなことをするとは思えない。美香たちが体育倉庫に呼び出していた経緯からいって、何か罠にでもはめられたのであろうと思った。いや通代が仕返しをしたのであろうか。男性のまえでは豹変する女性もいるというが通代はその類ではないだろうし…・。





7 小学校での特訓命令〜怪童女あらわる〜


通代が加害者として教員組織で扱われだしてから、はじめて体育の日がやってきた。彼女は朝から戦々恐々としていて、新しく買ったやや大きめのブルマーに、シャツの裾をしっかり入れ、体育館で教師が来るのを待っている。全体的にやせた感じがするし、太ももの肉もやや落ちているようだ。

「渡辺さん。今日貴方は隣のS女子大学付属小学校まで行くのよ」

体育教官室から趣味の悪いジャージ姿で、でてきた飯島が何か意味ありげに言う。

「あなたのような問題児は皆と同じ場所で体育をやらせるわけにはいかないのよ」

S女子大学付属小学校は通代らの学年が小学校を卒業した翌年に開校され、このあたりでは“付属”と呼ばれ、良家の令嬢候補が通うことで有名であった。女子高校や女子中学というのはよく聞くが、女子小学校というのはあまり耳にしない。建前はどうあれ、“付属”は事実上、“女子小学校”であった。つまり生徒に男子がいないのである。
校門は随分と離れているのだが、上空から見ると両校の敷地は隣り合わせになっている。教員どうしの友好関係から、動物を飼う檻だけをK中学でも見ることができるように、壁が一部取り払われていた。数ヶ月前まで、孔雀や兎を中学生と小学生が共同で飼育していたのだが、心無い生徒の行為のため、今は檻に動物がいない。

「あなた一人では、まじめに授業に参加するかどうか分らないから、体育委員の美香さん、特別の監視委員として智美さん、尚子さんについていってもらいます」

通代はうつむいて黙っている。

「返事は?学校への報告書に反省の色が見られないとでも書かれたいのかしら」

飯島がねちねちと問いただす。

「は、はい」

すでに恐怖感で瞳が潤む。

「じゃあ、美香さん、渡辺さんの更生のためにも、よろしくね」

「はい、先生。わたしたちにも友達として責任がありますから」

美香は楽しげに答える。

「渡辺さん、更生といのはね、罪を悔いあらためて、気持ちが根本から変わり新しい状態になることをいうのよ、いじめられた生徒がどんなに悲しく、辛かったかかよく考えなさい」

そういって飯島は通常の体育の授業をはじめようとした。通代は唖然とする余裕すらなく次なる恐怖にただおののくばかりだ。

「さあ、渡辺さん、更生のために頑張りましょう!」

美香たちははしゃぎながら、歩の進まない通代を強く促すように体育館をでていく。尚子が持っている鞄の中身が気がかりだったが、K中学の校門を出て3分ほど歩くと、もうそこはS小学校の体育館だった。
 通代は歩きながら、仕打ちが恐くなって

「み、美香さん。牧岡先生に密告しようとしたことは謝ります。美香さんのおっしゃることは何でもお聞きします。で、ですからもうひどいこはさせないで」

と哀願する。無視する美香が不気味だ。
 美香は返答しないで、しばらくしてから、

「体育委員としての務めを私は果たすだけだから」

とだけ答える。扉を開けると突き刺すような視線で通代は睨まれる。受験戦争のために心の潤いをなくしてしまった小学生だちは、大きな獲物でも捕らえたようなざわめきを放つ。

「この娘、前から可愛いと思ってたんだ…」

通代は以前から付属の少女たちの抑圧された表情が気がかりになっていた。塾、お受験。数名で遊ばせて、リーダーシップや他の子への気配りを試す。無口で協調性のない人間のどこがつまらないのであろう。多様性を無視すれば人間も自然も滅びる。通代はこの蒼ざめた時代への警鐘を心のなかで鳴らしていたのだ。だがそんな慈母のような通代を少女たちはニタニタと見つめる。

「何だか、いじめちゃいたいアイドルって感じしない…」

「する、する・・」

「男の子の目ばかり引きそうでムカツクのよね」

そこには目上の人物に対する礼儀などかけらも感じられなかった。やがて小学生とは思えない、強靭な体格の生徒が通代の視界に入る。

「この女ですね、いじめばかりしているおしおきの必要な女は」

ある大柄な小学生がいう。

「そうなのよ熊子ちゃん。申し訳ないんだけど鍛えてやって欲しいのよ」

美香が通代の体を突き出していう。よろめきながら通代ははっとする。
K中学にあったリングはS小学校にあったのだ。

「こ、こんなところにリングが!」

その小学生は鬼塚熊子といった。小学生ながらも柔道3段、空手2段で、あるプロレス団体も目をつけているという。

「熊子ちゃん。この女を何分で倒せる?」

美香がここでセリフとばかりに尋ねる。

「30秒あれば楽勝だわ。おまえなんかすぐにイカしてやるよ」

熊子は通代を睨んでいう。

「な、なんですって!?」

通代は気持ちで負けてはだめだと、唇を振るわせながらいう。

「渡辺さん、じゃあ30秒以内に負けたら、何でも彼女たちのいうことをきくのね?」

美香が意味ありげに尋ねる。

「な、何よ、目上の人をばかにするのもいい加減にしなさい! い、いいわよ」

通代はとっさに声を荒げた。いったん馬鹿にされたら終わりよ。ここで踏ん張るの。そういいきかせる。しかし目の前の小学生は、かなりの大柄で筋肉質だ。こんな小学生がいてもいいのかと思わせる。

「そう、その意気よ! 今日はK中学最弱女として、小学生相手に再出発させてあげようっていうのよ」

智美が面白がっていう。

「じゃあ意気があがったところで、早速コスチュームにお着替えよ」

尚子が鞄を持って、通代を、跳び箱などを置いている倉庫へと連れて行く。





8 再出発 〜バッドドール熊子VSプリティー通代〜


「全世界20億人のキャットファイト&女子プロレス&女子格闘技、ええと、それから、まあそういうジャンルのファンの皆さんこんばんは。女闘放送の古猫でございます。本日は場所をS小学校特設リングに変更しての放送です。解説はおなじみ、歩く女闘美辞典、勅使河原夢次郎先生と、最近主戦場を変更されたダイナマイト関東選手です。おふたかた、どうぞよろしくお願いいたします」

「どうぞ、よろしく」

「さ〜て、今日は先日K中学最弱女となってしまったプリティー通代選手が、小学生リーグに降格しての再出発第1戦です。ルールは、プリティー通代選手はホールもしくはギブアップの後、イカされたら負け、対する小学生のバッドドール熊子選手は、2回ホールもしくはギブアップしたら負けです。先生、プリティー選手。ここは頑張って欲しいところじゃないですか?」

「そうですね、小川を投げた変形スープレックスは天下一品でしたからね」

リング上ではコールが終わり尚子にガウンをとるように促される。通代は水色の清楚な下着を着用させられていた。パンテイーはTバックでシューズは濃い水色だ。牧岡への告発が失敗に終わり、更なる罠に陥る恐怖から、通代の体重はかなり落ちていた。先日彼女自身、入浴前体重計にのったところ、目盛は38.7キロを指していた。あばら骨が以前より明確に浮き出ている感じだ。腕や肩の肉も落ちか弱さがいっそう増している。ふくらはぎ、そして太ももも細くなった。むっちり布地が股間に吸い取られていた頃とは違い、歩くと布地と大切な部分との間に隙間ができそうだ。しかしそれでいてもなお、尻肉がたぷたぷとし、胸の谷間もいまだにブラのなかで狭そうに踊っている。つまり全体としてはげっそりやせたのだが、かえって女性の象徴的な部分の豊満さを目立たせることとなったのである。
 熊子は全身を覆うような迷彩色のリングウェアに身を包んでいる。コンバットスタイルという感じで、体重は65キロほどあろうか。身長も通代よりやや高い。顔面にも迷彩色のペイントを施している。頭髪は金色で肩ほどまである。
 通代は多くの小学生に丸出しのお尻を晒す恥ずかしさと、美香らの策略であろう強敵との対戦の恐怖で、か細い足を震わせる。両手を後ろへまわし尻を懸命に隠そうとするのだ。

「おい、てめえ、ランジェリーのファッションショーじゃあねえんだぞ!何だそのフリフリは!」

「お〜っと早くも、リング上ではバッドドール熊子がプリティーをマイクアピールで威嚇しております。さあ関東さん、このバッドドール熊子という選手ですが」

「うん、目下スカウトの注目度No.1で、プリティーにはちょっとキツイ相手かもしれないなあ。
ネーミングもまあ、ドールというと魅力的な少女っていう意味ですかね、先生?」

「ええ、まあ理知に欠ける美女という意味もありますが、年齢的には関東さんのおっしゃるように・・」

またなぜかリングアナをしている尚子が、嫌がる通代にショーアップなのだから何か言えとマイクを渡す。仕方なく通代はマイクを握る。

「あ、あなた…。目上の人にはそういう口のききかたは…」

そこへ熊子が襲いかかり、ゴングが鳴る。通代は負けじとばかりにか細い手で殴りかかろうとする。しかしそんな動きは鬼塚熊子にとって超スローモーションのように映った。試合開始2秒、熊子の強烈な空手ばりのケリが通代の腹部にねじ込まれる。

「お〜っと!バッドドール熊子、いきなり強烈な蹴りです」

「う、うう・・」

試合開始3秒、通代は自分の動きが止まったことに気づいたが、理由はわからないという表情だ。
次の瞬間、本能的に腹部を手で押さえて、どすっと膝をつく。そのまま前かがみになってリングに倒れ込む。やがてとてつもない苦痛が彼女を襲う。せきもだせない。

「うう、ああ…・。」

両手で腹部を覆い半ば放心状態で苦悶し、目はつぶっている。

「プリティー通代、たまらずダウンだあああ、関東さんこのケリはどうですか?」

「うん、本格的だね。重心がぶれてない」

「これくらいのケリでおねんねしてもらっちゃ、これからどうするの」

熊子は意地悪な笑みをうかべる。だが見下ろしていたのはほんのわずかな時間だった。
腹部にあてがった通代の手をとり、うつぶせにする。馬乗りになり葉の茎のような細い腕をすばやくひねりあげる。さらに小指だけをねじりあげた。この時点で試合開始8秒だ。
その痛みで目覚めたかのような通代は、今の自分の、体の位置に気がつく。そして今にも小指が折れそうな痛みに、ただ次の言葉を発する以外になかった。

「ギ、ギブアップします、ああ、お願い、はなして…、お、折れてしまいます」

レフェリーの小学生は、あまりの早さにあっけにとられている。

「試合開始9秒でプリティー通代ギブアップ!関東さん早いですね」

「ちょっと格が違うかな」





9 無念の15秒


「やりがいのない先輩ねえ!」

そういってTバックでむきだしのお尻にこれまた強烈な張り手を見舞う。乾いた音が体育館に鳴り響き、あまりの痛さに通代は思わず泣いてしまう。自然に泣きじゃくった顔を隠そうとすると、熊子は通代自身をいじり始めていた。
 これがまた凄い速さで、指を出し入れしているが、動きが見えない。

「ああ、ああん、だ、だめ…・やめて」

なよなよとした声を出したときは、既にイッてしまった後だった。リングには愛液がしたたっている。試合開始15秒で決着がついた。体育館にはゴングが鳴り響く。通代はうつぶせになっておなかとお尻を手でおさえている。
 セコンドと称して、美香と智美がリングへあがり、通代のそばへ行く。

「大丈夫?あらあら、こんなにお尻が赤くなっちゃって」

二人が通代を両側から抱えて立ちあがらせる。通代は手を伸ばしTの字になって二人に支えられている。何とも奇妙な取り合わせだ。
ただ泣きじゃくる通代に熊子は命令を言い渡す。

「おい、プリティー!、次の体育の時間から特訓だ!」

次におい、返事は!と恫喝されやっとの思いで首を縦に振る。そして肩を抱えられて控え室へ引き上げようとすると熊子が待ったをかける。

「記念にそのランジェリーおくれよ」

うなづいて歩を進めようとすると、リングで脱ぐようにいわれ美香らがさっと横に退く。よろめきながら脱ぐ過程でかすかな陰毛が覗くと、小学生たちはヒソヒソと薄笑いを浮かべるのだった。股間を手で覆いながらランジェリーを熊子に渡そうとすると、熊子はむしりとるように奪う。そして高らかにヒラヒラと振りまわし、小学生たちの喝采を浴びるのだった。通代の控え室ではインタビューだ。

「プリティー通代選手、残念ながら15秒で負けてしまいましたが」

「は、はい…頑張ろうとしたんですけど、さ、最初のキックがすごく痛くて…。」

通代は控え室の椅子に座るよう薦められたが、張り手を食らったお尻がヒリヒリと痛むので固辞した。股間と腹部を手で覆った。胸を隠すより腹部をいたわりたかったのだ。

「まず、小指をひねりあげられてのギブアップですが」

「折られそうな感じで、ギブアップするしかありませんでした…・」

「イカされてしまったのも早かったですね」

「逃げようと思ったんですけど。気がついたらイカされてしまった後でした」

「お尻に張り手がきて、思わす泣いてしまいましたが?」

「あ、あれも、情けないですけど、ほ、本当に痛くて…」

「小学生たちは特訓してやると意気込んでますが」

「え、ええ、生意気なことを言って申しわけなかったと謝って、できるだけ…」

言葉が続かない通代を美香は愉快げに見つめるのだった。一方熊子の控え室では代わる代わるランジェリーを小学生たちが摘み上げて、これからどうやって通代をいたぶり抜こうかと思案しているようだった。






〜覚醒の予感〜(後編)



10 特別委託!?


 美香らは通代を伴ってK中学へ帰ると、体育の授業を済ませた飯島のところへ行った。雑然とした体育教官室には、中学教師の雑用の多さを思わせる書類の山があちこちにできている。飯島は赤いジャージに、紫のトレーナーを着ており、首にかけたままの笛が、せわしなさを物語っているようだ。

「先生、ただいま戻りました!」

重い扉を開け、美香が勢いよく敬礼しながらいう。通代はといえば熊子に叩きのめされ、立っていることもままならない。やや細くなった太ももは大きめのブルマーを以前よりぶかぶかに見せている。うつむいていて飯島から表情はうかがえないが、じんじんと熊子の蹴りの効果が通代を襲っていた。そんな通代をしたからのぞくように小憎らしい女体育教師は髪をかきあげ声を発する。

「あら、お帰りなさい。それで、どうだったの?更生への第一歩は踏み出せたのかしら」

飯島はくたびれた事務用椅子に腰掛け、腕組をし、やや吊り上った目で通代をなめまわしている。通代がうつむいて、しばらく何も言えないでいると、美香が口を開いた。

「それがね、先生、“目上の人をばかにするのもいい加減にしなさ〜い!”なんて勢いは良かったのだけど、たった15秒で負けちゃったの」

「蹴りで、動きを止められた後、指をひねり上げられて、ギブア〜ップ。すかさず股間をいじくりまわされて、いっちゃいました!!!」

尚子が実況中継もどきの口調で嘲る。

「それでもね、彼女たち優しいから、これから渡辺さんを特訓してあげるって」

と智美が付け加える。

「よかったわね、渡辺さん」

美香が通代の肩を抱いて、意地悪く煽る。そしてうつむいているままの通代に対して飯島が続ける。

「渡辺さん、15秒とはどういうことなの。日頃あれほど私が女子中学生の体力増進に力を入れているというのに。まだ外部には公表されてないけど、この市のなかでK中の女子のスポーツテストの平均点は一番になったのよ。あなたは私の努力に報いる気があるの!全学で食事の注意などにも精力を注いでいるというのに」

理不尽な言いがかりだと思いつつも、ただうつむいているしかない通代だ。口答えしても適当に言い返され、また酷なことをいわれるのは、これまでの経験で身にしみている。熊子のあまりの強靭さと小学生たちの揶揄に、心を凍らせていた通代だったが、ようやく自尊心が回復してきたのか、唇をかみ締めて悔しそうな表情をする。

「何かおっしゃい!」

飯島が怒鳴り、一瞬時をためると通代は話し出した。

「す、すみませんでした。でも相手が小学生とは思えないほど力があって・・・。キックがとても強烈で。あれじゃたいていの中学生でも勝てないと思います。そんな相手といきなり試合をさせるなんてあんまりです」

思わず必死の弁明をする。熊子はどう見ても平均的な中学生が勝てそうな相手ではなかったので、飯島を含め美香らの陰謀が許せない。ここまでして自分をいたぶりたいのか。好きなようにすればいい、そう自分が思えば彼女らも面白くなくなるのだ。哀願や許しを請えば、請うほど、彼女らは面白がる。そうだ。これからは何も言わないで、されるがままにしてやろうか。そんな思惑とどこまでも戦々恐々とした気持ちが交錯する。

「ま、それくらい力のある小学生ならあなたを立派に特訓してくれるでしょう。その子の了承を得るまでは教育委員会に指導が完了したって報告しないから、ちゃんと頑張りなさい!K中でも指導中のままよ!」

一通りの言い分を聞いてやったという顔をして飯島が話す。なんということか。熊子の了承など得られるのだろうか。K中でも様々な教科でグループ分けをする際、通代は「指導中」ということで自由にグループを選択できなかったり、一人だけ別にされたりしているのだ。このままでは内申書にさえ、否定的なことを書かれかねない。そんな通代の不安を気にもせず、飯島は電話をかけだした。

「ああ、K中の飯島です。ええ、いつもお世話になります。うちの問題児の特別委託の件ですが、本日お世話になった生徒だけの特殊格闘技クラスに引き続き参加させていただけませんでしょうか? ええ、ええ、はい、ではそういうことでお願いいたします」

“生徒だけの特殊格闘技クラス・・・”。たしかに今日行ったクラスには教師がいなかった。格闘技を専門にしている生徒の集まりになど、入れられては勝てるはずなどないではないか。通代は憤りを抑えきれないようだ。ええ、ええと相槌をうっていたのも気になる。しかしまた、なぜ特殊格闘技クラスなどというものが存在するのか。それこそ管理者あるいは教育者がいなければ危険ではないのか。

「渡辺さん、私がむこうの先生に頭を下げたのだから、ちゃんとしてもらわないと困るわよ」

そういって次の授業のために部屋をあとにする。ガチャっとしまる体育教官室のドアの音がむなしく響き渡った。

 通代は着替えを済ませ教室へ向かう途中、廊下で鈴木浩二に会う。浩二は生気のなさと生来の色気が融合して放つ何ともいえない通代の魅力に圧倒されていた。そして通代がいじめなどに手を染めるはずがないという確信と、彼女を現状から救済すれば自分が好意を持たれるだろうかという期待を抱いた。しかしその一方で憔悴し切った彼女を密かに眺め続けたいという本能的な願望を抑えきれないでいた。

 さてS小学校には特殊格闘技クラスというものがある。私立というものは、とかく特色を出したがるものだが、S小の場合、スポーツの振興にも大変熱心である。小学生対抗の駅伝大会ではここ数年常にトップであるし、他の種目においても地域の有名指導者といわれる教員を公立から引き抜き、抜群の成績を残していた。

 ただ相撲やレスリング、空手といった格闘技については女子としての種目が、まだ地域内でも設定されていなかった。S小学校では、進学塾や補講のため放課後の運動活動は、とくに設定されておらず、体育の授業で個々のスポーツ選手の育成をはかっていたのだ。S小学校の体育の授業はそれぞれの得意種目に分かれて受ける。しかし名門私立に限って、親のコネのみで入学し、勉学についていけず、かといって退学させるわけにもいかないような生徒がいるものである。特殊格闘技クラスはまさに、S小の「はきだめ」であった。親の手前もあってか彼女らはわずかの“からかい”すら互いにできない環境にあったのだ。皮肉なことに彼女らは、通代をいたぶり抜くという“共通目的”によって組織として成立しようとしているのだ。

 もっとも正規に通代がS小へ赴くことが可能なのは、週のうちの1コマだけである。熊子らの特殊格闘技クラスと、通代らの体育の時間があうのは、その時間のみなのである。否応なく翌週が訪れ、通代が誰の付き添いもなく、戦々恐々としてS小の体育館へ赴くときは訪れたのであった。





11 ピストンスクワット


「あ、ああ、いや、お願い許して」

と本能的な鳴咽の発する通代は一糸まとわぬ姿のまま両方の手首を頭の後のほうで縛られている。

「おらおら、しゃがめっていうのが聞こえねえのかよ!」

通代の縄尻をしっかり握り締めている熊子が竹刀をS小学校の体育館の床に叩き付けながら怒号を浴びせ、竹刀の音が何度となく体育館に響き渡る。あげくの果てに、熊子は竹刀を叩き割ってしまった。熊子は軽く“竹を割る”ような恐ろしい性格なのか。通代はもはや演技で乗り切れるほど、彼女らの責めが甘くないと悟らざるを得ない。

通代の真下には勢いよくそそり立った男根模型があり、重りが装着されていて、ぐらつかないようにしてある。



熊子の特訓メニューが変更されたのは、つい先刻のことである。それは通代の次のような言動がきっかけとなった。

「あなたたち、私をいじめて嬉しいのなら、好きにするといいわ。そのかわり私だってあなたたちの望むような反応はしないから。“いや”とか“お願い許して”とか言わせて嬉しがるつもりなら勝手にすればいいけど!」

通代はいつになく強気だった。熊子は別にして相手は小学生よ。それに名門私立。根はまじめなはず。ちょっと威嚇すればなんとかなるわ。そう念じる通代だ。だがその態度にニヤリとした熊子はなにやら楽しげに言い放った。

「ふ〜ん、ずいぶん威勢のいいことね」

「それじゃや、好きにさせてもらいましょうよ」

周りの小学生たちがはやしたてる。

「ランニングから優しくはじめてあげようかと思ったけど、ピストンスクワットからいくわよ」

熊子がそう言うと、小学生たちはいっせいに通代を襲いかかり、体操服を脱がせ手首を頭の後ろのほうで縛り上げたのだった。さらに全裸にした後、熊子が竹刀で思いっきり通代の尻を叩き続けたので、通代は哀願の嗚咽をもらさざるを得なくなった。美香らに無理やり着せられた赤い上下揃いのランジェリーを小学生たちが通代の口に咥えさせる。息が苦しくなるのと同時にこらえようとしても涙があふれ、むっつりを決め込んだ決意がむなしく崩れ去ることに、いいようのない悲壮感を覚えるのだった。

「好きにしていいんでしょ、それならここも百叩きの刑にしてあげようか!」

熊子が通代の大切な部分を何本目かの竹刀の先でなであげる。とっさに股間をすり合わせ防御しようとするが、熊子はニヤニヤと面白がって通代自身を竹刀で追い掛け回す。尻を本気で叩かれた経緯からして、陰部も本気で叩きかねない。そうとっさに判断した通代は、もはやむっつりを決め込んだことなど忘れ去っていた。涙をあふれさせながら首を本能的に横に振り全身に冷や汗を流して哀訴するのだ。フー、フーとうい大きなうめき声を、下着を咥えさせられた口から漏らすので、ある小学生が話せるように取り去ってやる。大きな呼吸を何度かした後、やっとの思いで言葉を発する。

「お、お願い、生意気な口を利いたことは、誤る、だ、だから」

「口の利き方がわかってないんじゃないの」

小学生たちはひれ伏す中学生を見て日ごろの鬱積を晴らしているようだ。

「お、お願いします。そ、それだけは堪忍してください」

「ちゃんと“○○ンコはじっくり鍛えていただきたいので、今はお許しください”ってお願いしなさい!」

通代はその言葉を復唱させられ、そうかそれじゃやとっておきのメニューで特訓してやろうとスクワットをさせられているのだ。



「スクワットというのは、レスリングの練習では基本中の基本なのよ」

意地悪くある小学生がいう。熊子の一の子分である沢田留美だ。小学校らしいホットパンツは、赤色で横に二本の白い線が入っている。

「す、スクワットはするから、下のものをのけて」

わずかに自由のきく首を横に向け通代は哀願する。口のききかたが気に入らないのか留美はすかさず通代の頬を往復ビンタだ。

「いい、あなたはここへ更生のために特訓させてもらってるのよ。それを、のけてとは何よ」

頬がやや赤く腫れ、放心状態の通代は返答すらできない。

「いうなら、“お願いですから移動してください”でしょ」

他の小学生がいう。

「お、お願いですから移動してください」

言わせておいて、そんな通代の哀訴を留美は無視する。

「ふ〜ん。中学生になると、胸が大きくなるんだ」

そういって、通代のたわわな乳房をもみ絞るのだ。

「気持ちいい?」

留美が尋ねるが、通代は性的な快感を覚えぬよう必死にこらえるばかりだ。

「ちゃんとお答えができない子は、こうだ」

幼児を扱うかのような口調で、通代の自尊心をちくちくとつつきながら留美は乳首をつねりあげる。親指と人差し指の爪をたてながらギリギリと力を込める。

「あっつ、痛い!、やめて」

目をつむったまま通代は哀願する。

「だから、こうされると気持ちいいのって、聞いてるのよ」

留美は再び愛撫に戻る。黙っていては、結局乳首をつねり上げられるのだと悟った通代は、泣く泣く「は、はい」と答えるのだ。

「はい、じゃなくて“気持ちいいです”でしょ。」

一筋の涙を流しながら通代は、「気持ちいい」とつぶやくような声でいう。

「中学校では言葉の使い方は教えてもらえないのかしら」

と熊子が頬にビンタだ。

「気持ちいいです」

通代はやっとの思いで声にする。なぜこんな下品な小学生に愛撫され、気持ちいいですなどといわねばならないのか。この蟻地獄のような日々から抜け出すすべはないものか。牧岡には期待していただけに、落胆がいっそう脳裏を支配する。あの俺に任せておけというような態度は何だったのか。

「そ、ならもっと気持ちよくさせてあげるわ。体力作りとイカせっこ勝負対策の両方をやってあげようっていうのよ。ありがたいと思いなさい」

「あんたさ、イクのが早すぎるのよ」

他の小学生が揶揄するなか、熊子がカッターナイフで通代の腰あたりをなぞる。

「さあ、腰を下ろすのよ」

「ああ、お願い、許して」

「そう、じゃあこうして欲しいの」

熊子は通代の股間にカッターナイフをあてがった。肉芽をまさぐり、そしてゆっくりとナイフに力を込めようとする。ひんやりとした感覚に肉芽が包まれたかと思うと、ナイフの切っ先が身を切り刻むような恐怖に襲われ、やがてそれが現実味をおびてくる。

「や、やめて。わ、わかりました。腰を下ろします」

冷や汗をだらだらと流し哀願する。しかし通代がわずかにためらっているとニヤリとしたまま熊子はナイフを離さない。腰を下ろそうとする通代といっしょに熊子もしゃがむ。少しでも通代がためらおうとすると、熊子のナイフの力が増すのだ。

首をぐったりとさせ、髪を一度揺らすと、観念したように通代はその場にしゃがもうとした。やや痩せたとはいえ、生来の豊満さを漂わせるその肢体が中腰になって髪を振り乱す姿は何とも官能的である。そしてなかなか、うまくそれを受け入れることができず、腰をよじっている姿もまた小学生たちにさえ官能美を感じさせた。しかしそんな麗美さは、またたくまに嫉妬心と加虐心をかきたてるのだった。いったんはナイフを通代自身から離した熊子だが、再び密着させ、男根模型まで誘導する。

「もう、グズねえ。運動神経以前の問題だわ」

周りから嘲笑されても、かなりの大きさの男根模型を受け入れたくはなかったので、このまま時間をかせげればと通代は思う。

「ほらほら、ちゃんと腰を下ろすのよ!」

そういって笑いながら熊子はナイフとともに通代から離れる。通代はナイフの恐怖から逃れ一瞬、ほっとした。しかしそのときだった。

「あっつ!あああ!」

沢田留美が通代の肩をつかまえながら思い切り体重をかけたのだ。

「さあ、くわえたくらいで、何を叫んでるの。これからピストン運動よ」

膣の周りの皮が裂けそうだとか、膣内が異様にひりひりするというような通代の汗と涙の説明をよそに、ナイフや竹刀での脅しを交えながら、結局ピストンスクワットは何回繰り返されただろうか。

「あっつ、濡れてきたんじゃない」

留美が通代の股間をまさぐっていう。

「笛の合図で、出し入れを続けるのよ」

「そ、そんな」

足腰ももう限界にきているといった感じで、通代は今にも倒れこみそうだ。それでも模型をくわえ込むと、笛を鳴らされ、10回程度出し入れを繰り返させられた。1回出し入れするたびに、相槌のように笛がリズムを打つ。そのリズムが早くなり、通代の動きがついていけなくなると、他の生徒が竹刀でふくらはぎを叩いたりするのだ。数分スクワットだけかと思うと、笛がなり続けたりもする。

「さあ、ここからが耐え時だよ。もしイッたら鞭と蝋燭攻撃20分だ!」

通代は、股間を荒々しく使わせられながらも、自慰行為を覚え始める年代の少女たちの巧みな、尻や胸、そして股間への愛撫もあってもはや果てる寸前だった。

「い、いやよ、いや・・・」



大森信次は車中の特殊カメラのなかの通代を見つめ一度スイッチを切った。なぜか自分の恋人がひどい仕打ちを受けているような錯覚を覚え、たまらず切ったのだ。監視は仕事だと心を整え、スイッチを入れると裸身にこびりついて固まった蝋燭を鞭ではじかれ、体育館にうずくまる通代の姿があった。そして数日前に女闘コンツエルンで聞いた、新興の興行会社が通代の獲得を狙っているという噂に思いをはせた。





12 キャットコーポレーション


 キャットファイト興行界のなかで、女闘コンツエルンは老舗であり、政財界において安定的な位置を得ていた。しかしどの業界においても、“新興”という存在はあるものである。キャットコーポレーションという名の興行会社がそれで、通称キャシーと呼ばれる女性が社長を勤めている。その彼女が赤いレザーの椅子に腰掛け、何かSMの女王様を思わせるような衣服を着用している。そしてどこから入手したのか通代と恵美の試合ビデオを見ている。通代の初勝利を呼んだ変形ジャーマンを何度も繰り返して見る。自慢のロングヘアをかきあげうなずくようにつぶやく。

「やっぱりラブビーナスに間違いないわね。女闘コンツエルンが抱え込もうとしている理由が、やっと分かったわ」

キャットファイト興行界といっても、一般市民が有料で参加や入場できる興行を扱うものではない。政財界の権力者の余興・接待として、巨額な資金が投下され、流動している地下興行である。芸能界やスポーツ界もどっぷりと飲み込まれていて、様々な意味でこのマーケットを制するものは世界を制するといわれている。有望な若手タレントが突如として芸能界から姿を消してしまうのもいくぶんかは、この興行と関係があるらしい。

 キャシーが女闘コンツエルンの会長へ電話をかける。

「会長、お久しぶりですわ」

「おお、これはキャシー殿、お元気ですかな」

「ええ、おかげさまで」

「何か御用かな」

会長はとっさに通代の存在を悟られたくないと思った。ラブビーナスはどのような強敵をも破る強さを秘めているが、責められれば責められるほど、相手や観衆、―いや人々といったほうがいいだろうか―、に美麗さと加虐心を感じさせる。そのことが世界史を混乱させてきた。それを代々語り継がれてきたからである。勅使河原顧問とも相談し、そろそろメセナとしてある権力者を楽しませてやるのを止め、通代をいつか本当に社会のため、興行における試合で勝たねばならないときのために本格的に育てたいと考えていたのだ。一番困るのは、芸能界にでもデビューされ、興行で乱用されることだった。そしてそれを考えそうなのは他ならぬキャットコーポレーションなのである。

「会長。つい先だってのオールスター戦では大変お世話になりましたわ。こういう時代に団体の枠を超えて選手が交流することは、選手のためにも政財界の方のためにも必要なことですわ」

「いやいや、こちらこそお世話になった。あの二人の対決には先生方も驚いておられたよ。次は誰と誰でなんていわれたが、あまりに時代を早くまわしすぎるのもよくないからね」

今をときめく女優同士の対決は女闘コンツエルンとキャットコーポレーションの協力で成し遂げられた。つまり互いのメインエベンターを出し合ったのだ。二人とも水着のキャンペンガール出身であり、政財界の大物たちは彼らの“美麗な奴隷同士を戦わせ興じたい”という願望を大いに満たしたのであった。

「唐突ですが、ジュニアハイスクールの交流戦をお願いしたいのです。若手にも団体間の対抗意識を芽生えさせたり、ライバルを見つけるチャンスを与えたいと思いまして」

老舗の女闘コンツエルン、いやその会長の存在によりキャットファイト興行界には引き抜き合戦が抑えられていた。それを疎ましく思っているのはキャシーだけではなかったが、どの団体の代表も今は動くときではないと念じていたのである。

「いや、それは止めませんか。かえって芽を摘むことにもなりかねません。自然な成長を大切にすべき時期です。スケート、テニス、新体操、どれも引退が早すぎる。」

キャシーはやはりそうきたかと思いながら、試しに次の言葉を発してみた。

「会長のところのプリティー通代選手。かなりの人気ですわね。政治家から企業家、資産家さままで、ああいう選手が私のところでもいないのかって、問い合わせがかなりありまして」

会長は顔をしかめた。

「彼女については、残念ながら事情があって近いうちに引退する予定です。うちとしても惜しいのですが」

「事情とはどのような」

「申し訳ありませんが企業秘密です。申し訳ないが会合に出向かねばならないので失礼。また業界の発展のためお話し合いをいたしましょう」

会長は温和に電話を切った。

「どういたしましょうか」

キャットコーポレーションではキャシーの秘書のような女性が尋ねる。

「女闘コンツエルンもかなり、いろいろなところで手を打って無理をしているはずよ。地域の教育委員会を抑えたり、そのK中とやらのなかを抑えたり。ウラがとれたら密告書を検察に送りましょう。ひつこく動くまで。権力というのはね、いつかはほころびがでるものよ」

「はい、かしこまりました」





13 ハンディキャップマッチ!?


 S小での特訓は、首輪を付けてプールで引き回したり、全裸で難しい受験問題を黒板で解かせたり、自慰行為の実演などメニューは様々であった。プロレススタイルの負け抜きトーナメントでは、結局また最弱になってしまい、対戦した高学年の小学生たちからは、幼稚園か保育園にでも行って試合をしたらどうかと揶揄されたのだ。また通代山なる命名を受け、まわしをつけられ、相撲をさせられたこともあった。設備だけは一流私立とあって流石なのか、体育館内に土俵があり、何度も通代は叩きつけられた。浮き出るあばら骨とグラマーな腰回りが何ともアンバランスで小学生たちの加虐心をそそったようだ。ある日のこと、実習前に熊子が何やら謙虚に話しかける。

「渡辺さん、今まで失礼して申し訳ありませんでした」

態度の豹変に通代は戸惑う。

「もうすぐ、K中にうちの先生が研修報告書を書きます。私はその中身についてヒアリングされる予定です。研修成果があったと書くためには、最後に是非勝っていただきたいのです」

いったいどういう風の吹きまわしだろう。

「このクラスの生徒は、とりわけ高学年の生徒は格闘技経験がかなり豊富です。そこで低学年、具体的には2,3年生ですが、彼女らと戦っていただきたいのです。ただ1対1ではあなたがお勝ちになるのはあたりまえですからハンディキャップマッチとさせていただきます。いいですね。まあ髪切りもなんですから、研修合格と彼女たちの望みを賭けるということで。先輩はフォールまたはギブアップした後にイカされたら負け、彼女たちは誰でも2回、フォールかギブアップしたら負け。つまりあなたさまは誰か弱いのを2回ポンポンとフォールすれば、もう研修合格ってわけです」

にこりと笑みを浮かべると、熊子はとりあえずジャージを着ている通代の前から足早に去った。



「こんばんは、女闘放送の古猫でございます!今日はここS小学校におきましてプリティー通代VS幼女隊の特別ハンディキャップマッチが行われます。ええとまずは幼女隊の皆さんにインタビューしたいと思います」

控え室の前には、白い紙に幼女隊と書いてある。なかには三人の選手がいた。一人は先日ピストンスクワットで散々に通代をいたぶった沢田留美だ。彼女は小学校3年生だったのである。リングネームはクレーン留美。黒とオレンジが混ざったタイツを着用し、顔にも同様のペイントを施している。あとの二人はダンプ大木、ブル小林でいずれも小学校2年生ということだ。3人そろって“工事トリオ”と称しているらしい。リングネームのカタカナ部分は、当世を風靡した女子プロレスラーから冠せられたものであるが、それぞれが憧れていたり、似ているといわれたりしていることから自然に命名されたのだという。2年生の二人は古風な黒いワンピース風の水着を着ているが、その重量感はなかなかのものだし顔のペイントも黒と銀や金色が混じっていて凄まじい。猫が二匹向かい合っている絵のある壁を背に3人揃ってインタビューに答える。

「ええ、今日はプリティー通代選手とのハンディキャップマッチですが、まずクレーン選手いかがですか?」

「ふふ、今日はプリティー選手には悪いけど、研修不合格ということになると思います」

「すごい自信ですね。ダンプ選手、ブル選手はいかがですか?」

大木が両手を腰にあてたまま答える。

「なんていうか、3人がかりOKっていうことで、今までになかった攻撃ができると思います」

「ところで、今日は授業参観も兼ねて、皆さんのご家族も来られるのですね」

「そうなのです!いいところを見せたいです!」

「自信満々の幼女隊でした!」



ところかわって通代の控え室である。

「さあ、プリティー選手、今日は何としても研修合格の証を手にしたいところですね」

「は、はい。相手が3人なのですけれども、まあ2,3年生ということで、今日は絶対勝ちたいと思います」

通代は控えめながらも言い放った。横にはなぜか熊子がいる。美香たちからコスチュームなどについては任すといわれたらしく、セコンドと称してそばにいるのだ。小学生ゆえの残忍さを漂わせるこの快童女の目に通代は言い知れぬ恐怖を覚えるのだ。つい先刻のことである。



「お聞きになってますよね。今日のコスチュームは私がご用意させていただくって」

「う、うん」

相手が丁寧な言葉遣いなので不意に自分は目上の人間なのだという気持ちがあふれ出る。確かに美香からS小では熊子の指示に従うようにいわれたのだ。

熊子はビニールのラップを手に持ち、

「じゃあ、これから通代さんにぴったりのコスチュームを作りますね!」

とはしゃぐようにいう。

「つ、作るって・・・・、今日はあなた方のご家族も来られるのでしょ。変なコスチュームは問題に・・・・」

「あ、な、た、は特別!、だってK中の問題児をS小が更生させるっていう建前だから少々は無理していいの!なにせ、あなたはいじめの加害者なんだから〜」

諦念したのか、

「Tバックスキャンティーでもヒモブルマーでも好きにするといいわ、早く貸して!」

と半ば投げやりに言い放つ。

「まあまあ、そんなに焦らないで」

そういって熊子はラップを伸ばすと、次の瞬間、目つきが鋭くなる。

「さあ、そのジャージもシャツも全部脱いで」

これまでにも美香らにスーパーのビニール袋でビキニを作られたことはあったが、いったいラップなどでどうするのだろう。

熊子は全裸にした通代の胸にラップを巻こうとする。

「やっぱ、胸大きいのね」

「な、なんなの?」

「まだ分からないの?ラップでコスチュームを作ってあげるのよ」

「そんな、こんな透明のもので!」

通代の驚愕をよそに熊子はぐるぐると通代のまわりを回って、最後にビニールテープでラップをとめた。豊満な乳房がやや締め付けられているようだ。

「ちゃんと苦しくないようにしてあるから。じゃあ次は下よ」

ラップを長めに切ると、ぐりぐりとねじって紐のようにする。それを3本作った。そしてまず通代の腰に巻くように、2本のそれを腰に結び目ができるように巻きつけた。

「グッド!グッド! ねえビキニの紐みたいだよね。きれいなリボンみたいにしてあげるからね」

すかさずやや長めの3本目の紐をもちだした。腰に巻きつけられたラップ紐のお腹のあたりに結びつける。一気に股間を通して背後に回りギュット絞り上げると背中のラップ紐にくくりつけた。

陰毛は美香らに剃られていたので、妙に股間に清潔感があった。

「よし!」

「こ、こんな・・・。あんまりよ!」

「何、文句があるの?、何なら小川戦でぬりたくられたっていう“ずいきクリーム”をつけてあげようか?智美さんからちゃんと預かってるんだけど」

「そ、それは・・・・」

レスリングでは勝利していた小川戦の悪夢がよみがえる。通代には心の奥底のささやかな希望が光を放っていた。この苦難を乗り越えてもう一度大野と再会するのだ。その一念が彼女をここまでいたぶられながらも、凛としたもの感じさせていたのである。ギュっと歯を食いしばる。

「可愛らしく、後ろにはイエローのリボンをつけてあげましょうね。それとリングシューズはカッコイイのしてあげるから」

そういって、銀ラメのシューズをだしてきた。なんだかブーツのようだ。



インタビューの途中で足元を見やりながら熊子とのそんなやりとりを思い出す。ガウンも銀ラメのものを着用しているので、ラップは一切見えない。おまけにフードまでついているのだから格好だけは強そうだ。

「相手の三人はかなり意気込んでましたよ」

「そ、そうですね。このまえ他の生徒さんになんですけど。教室まで連れて行かれて、黒板で難しい受験問題を解かせられて・・・。正解だったんですけど。彼女たちも悔しかったのか時間切れだと言いがかりをつけて・・・」

通代は何か思い出したのか涙ぐんだ。

「それで、どうされたのですか」

「服を全部捕られていて、自慰行為の実演をしないと返さないって」

「それで」

古猫が聞きこうとするが、通代は一瞬また涙ぐんだあと、

「こ、今回は私が中学生の意地を見せて、懲らしめてやりたいと思います」

と語った。

「以上控え室の模様でした」





14 選手入場


「さて、今日はプリティー通代VS幼女隊のスペシャルハンディキャップマッチです。勅使河原先生、今日の見所はどういった点にあるでしょうか」

「そうですね。プリティーの意地と低学年生の覇気との衝突といったところでしょうか!」

館内では大泉今日子の「私の14歳」が割れんばかりの音で鳴っていた。控え室を出ると、今まででは経験したことのないような数の観客がいる。その多くがS小の生徒であり、保護者なのだ。

 銀ラメのガウンが、若干不良少女というイメージを持たせるのか、保護者からは、

「あれが、例の問題児ね」

「がらが悪いわ」

「S小の生徒が怪我でもさせられたらどうするのかしら」

といった声が漏れる。

「さあ、続いて幼女隊の入場です」

なにやらヘビーメタル調の音楽が流れ、エレキギターの音が割れんばかりに体育館に響く。彼女らはなんとブルドーザー、ダンプカー、クレーン車でリング脇まで乗り付ける。あんなことまでやらせてもいいのかと保護者からどよめきが起こる。がしかし彼女らの親が咳きをすると、周囲はとっさに静かになる。実は親がこの私立中学の母体の学園に多額の寄付をしているということで、彼女らは入学できているのである。S小の幹部教員もなぜか弱腰で彼女らのいいなりのようだ。レフェリーにはなぜか、K中から飯島がやってきていた。

「せ、先生」

唖然とする通代だが、尚子がリングアナとしてコールする。

「赤コーナー、○×パウン〜ド、プリティー通代!」

ざわついてポンド数がはっきり聞き取れない。その冷ややかなざわめきのなか、通代はガウンを脱げないでいた。

「さ、早く脱ぐのよ。次のコールができないじゃない」

「で、でも」

ためらっていると、背後から熊子がばさっと、銀ラメのガウンをもぎとった。

「ああっつ」

通代はたまらず、右手で胸を、左手で股間を覆った。そして露出しているであろう尻をできるだけ見られないようにするためにコーナーのほうに後ずさりするのだ。しかし会場の保護者にはその肢体があらわになり、ざわめきがおこる。

「露出狂しゃないかいしら」

「いやねえ、子供たちの教育に悪いわ」

幼女隊の3人を尚子がコールすると、ゴングが鳴った。





15 試合開始


 通代はなんともいえない股間の頼りなさと、やや重たいリングシューズに違和感を覚えた。 

「さあ、ゴングが鳴りました。」

今までにはない、1対3という試合形態に通代はどう対処しようか戸惑う。それでもゴングは鳴ってしまったのだ。観客の冷たく、そしてときに嘗め回すような視線も気になった。小学生の保護者のなかにはわずかに男性もいる。彼らは無意識のうちに通代に見とれていたのだ。通代がわずかに歩を踏み出すと、幼女隊の3人はぐっとリング中央に走り寄る。そして三方から通代を囲むようにじりじりと歩みだす。

 通代は三方に気を配りながら、イヤイヤをするように両手を前に出し、目や首を動かしている。正面はクレーン留美。左はブル小林、右はダンプ大木だ。何とかせねば。沢田留美は先日のピストンスクワットで張り手などをくらったりしているので、パワーのあることを知っている。留美につかまるまでに、ブルかダンプをしとめ活路を見出すのだ。

「ええ、関東さん、勅使河原先生、遅れましたが解説よろしくお願いいたします」

「どうぞ、よろしく」

「関東さん、どうでしょうプリティー通代選手。」

「う〜ん、幼女隊の力が未知数なので何ともいえませんが、プリティー選手すれば短期決戦しかないでしょうね」

リング上では、幼女隊の3人が通代にジリジリと迫ってくる。そのニヤリとした目つきがなんとも嫌らしく鋭い。

「ほら、とっととかかってきなよ、中学生さんよおおお!」

ダンプが煽る。すると通代はチラリとダンプを見やった。正面の沢田留美はピストンスクワット時の恐怖感からか目を合わせたくない。とにかく勝ちに行かなきゃ。通代はそう念じて、左側にいるブル小林にぐっと襲いかかろうとする。

 最初はお手並み拝見ということだろうか、ブルは通代にされるがままになる。

「お〜っとプリティー通代、先制攻撃!、ブル小林にパンチや平手を見舞います!!」

しかし石の塊のようなブルの体を、叩いても通代の手は痛みを増すばかりだ。こ、こんな体って・・・。

ブルの肉体の強靭さに呆然とする通代だ。

「ふっつ!なんか虫がちらついているわ」

通代のイヤイヤをするような、肘が脇からあまり離れないパンチをブル小林は、その太い腕でぐっとはらいのける。

「お〜っと!ブル小林、プリティー通代のパンチをもろともせず、ラリアットだあああ!」

弱々しいパンチをはらいのけた手とは別の手で、ブルは通代の胸板から喉元近くにラリアットを浴びせる。するとあまりの勢いに通代の体は宙をかえるぐらいにのけぞり、逆上がりを失敗したような体勢になるとそのままリングに落ちた。

「う、うう」

通代はリングに横たわりながら反射的に両手で喉の辺りをいたわる。リングシューズがやや重たいのかごろんと体を入れ替えるのも一苦労のようだ。

それでも海老が跳ねるように体を横にしてうずくまると、丸見えの尻にラップを丸めたものが食い込んでいて、尻のゆらぎを際立たせ色気を放っている。観客として来場している保護者のなかには

男性もいた。たてまえは夫婦で授業参観ということだったのだが、とくに男性にとってはきてびっくりだ。

 AV女優でも、グラビアアイドルでも、ただ見ているだけでいいと思わせる人がある。それは個人の趣向や相性にも関係するが、つまらないビデオや番組でもただあの人がでているというだけで見てしまうことがある。来場していた数名の男性保護者はいよいよ股間が熱くなってくるのを抑えきれないでいた。通代が入場してきたときから、はっとしていたのだが、動き出すその肢体にいよいよ悩殺されだしたのか。当然同伴しているご婦人方はその変化に気づくのだった。ちょうど子育てに忙殺される妻をうっとうしく思う年代なのか、夫婦間の冷えがご婦人方の通代に対するなんともいえない嫉妬心をかきたてた。ある婦人は同姓でも、これほど本能的に官能美を感じさせるのだ、夫はどんな思いでこれを凝視しているのかと思う。ふとふいに夫の股間に目をやると、品のいい柔らかい生地のスラックスから勃起が明らかにうかがえるのだ。夫は夫で何とかそれの位置をかえることにより勃起が収まらないかとも思うのだが、妻の凝視がそれを阻んでいた。

 うずくまる通代を見下ろすように三人が囲む。

「あら、お嬢様、まだ試合は始まったばかりですのよ」

ダンプ大木はそういうと、通代のへそより下のほうにあるねじったラップでつくられたコスチュームの紐状の交点を握り締めた。そして他の二人の協力も得ながら通代を引きずり起こす。というのも通代一人だとなかなか立ち上がれそうにないからだ。

留美が通代のボディーにパンチを叩きつける。

「う、うう」

苦悶の表情を浮かべ通代はただ腹部を押さえてうずくまる。





16 地獄のトリプル攻撃


 「ゴホッツ、ゴホッツ」

と腹部にその細い手をあてがいながら通代は咳き込む。

「関東さん、プリティー選手なかなか苦しい立ち上がりですね」

「う〜ん、これだとシングルでもこの3人の誰にも勝てないかもしれないな」

古猫の問いに関東が答える。

「さあ、立つのよ」

クレーン留美が通代のさらさらとした髪の毛を掴んで、無理に立たせようとする。しかしダメージが大きいのか通代はなかなか立てない。髪を引っ張られて膝が一応浮くものの、ぐっと直立するには至らないようだ。

 それにもかまわず留美は通代をロープに振る。ラップがあてがわれたあけの尻がたぷたぷと揺れ、なめまかしい。それに尻の大きさからすれば、太ももが細くさらに白い。

「お〜っと!!今度はダンプ大木のラリアットだ!、プリティー通代はなすすべもなく、リングにうずくまります!」

さらにブル小林は自らロープに飛ぶと、ランニングしたまま通代のボディーにヒップをそのままズドンと降ろしつけた。

「あ〜〜〜!、ダンプに負けじとブルもヒップドロップ!、プリティーすでに戦意喪失かああああ!」

数秒ほどして通代は「ゲッッホ、ゲッホッツ」とうめきながら少し寝返りをうとうとした。

レフェリーの飯島が通代のほほをたたき、ファイト!と声をかけているうちに、幼女隊の3人はリング下から変わったペニスバンドをとりだした。どうするのかと思えば、膝に装着している。

「幼女隊が3名とも膝にペニスバンドをつけます、どのような攻撃をするのでしょうか」

ダンプが通代を引きづりおこし、ラップは取るなと熊子から言われていたので、ぐいっとたぐりよせる。バックドロップにもっていくのかと思えば、アトミックドロップか。

「お〜っと、アトミックドロップのような形ですが」

腰をかかえあげられると、通代は半泣きになってイヤイヤをする。これまでの攻撃に痛みとこれからの攻撃の恐怖におののいているのか。

そんなにうまくいくのかと思うほど、かかえあげられた通代は、その股間をダンプ大木の膝の突起物にあてがわれた。

「これはオ○○ンコドロップですね」

勅使河原がいう。

「あ、ああああ!」

次の瞬間突き抜けるような痛みが金切り声をあげさせる。しかしそれだけでは済まなかった。ブル、クレーン、ダンプの3人がかわるがわる、通代をオ○○ンコドロップにとってきる。通代がリングにうづくまる余裕もないほど、十数回繰り返された。ドスンと叩きつけられるときの膣内が受ける衝撃が相当なものなのか、技が決まるだびに通代は朦朧としながらも、顔をゆがめる。

その後も、通代を四つんばいにさせて、バックからかわるがわる股間を突くのだった。そのうち、意思とは無関係に通代の股間は濡れていった。

「ほら、とどめ。いくよ」

クレーンが合図すると、他の2名が通代をリング中央で蛙のような格好をさせて、かかえあげる。

「い、いや、もう許して・・・・」

通代はつぶやくが、声が小さいのかレフェリーの飯島には聞こえない」

「クレーン留美、トップロープ最上段から、どうする!」

コーナーポストからジャンプした留美は、そのままジャンピングニーの格好で通代の股間めがけて激突した。

「あ、ああああああ!!!!」

突起物は通代の股間の奥深くまで突き刺さり、通代は昇天した。





17 決死の逆転


ぐったりした通代の股間をチェックすると、飯島はゴングを鳴らす。

「いやあ、3人ならではの技ですね」

勅使河原がヒールにはヒールなりの売り出し方があると、あまり焦点の定まらない解説を続けた。

「れ、レフェリー!」

「お、お願いです。もうレフェリーストップにしてください」

そう通代は懇願するが、飯島は耳が遠いふりをする。へたな芝居で、誰か自分を呼んだかといったようなそぶりをするのだ。

「あらあら、そんなに急がなくてもいいじゃない。ゆっくり楽しみましょうよ。まだプロレスでの勝負が残ってるわ」

ダンプは、通代の口にSMで使用するようなボールをくわえさせ、首の後方に、バンドできつく縛った。

「う、ううううう、うううう!」

通代は飯島に試合放棄を告げたかったのだが、それもできない」

足腰は立たず、股間もジンジン痛む。もはや戦いどころではない。だが残酷にも唾液がボールと口の隙間からただれ、涙がほとばしる。おもちゃのように、ブレンバスターやバックドロップをかわるがわる見舞われ、リング中央に大の字だ。

「そして、ブル小林、ダンプ大木、なんとクレーン留美もコーナーポストへ駆け上る!」

「プリティーが立ち上がれないと判断してのことでしょうか」

勅使河原がふとつぶやく。甘いな、そう念じていたのだ。まだ幼女隊のキャリアだとラブビーナスの性質を直感的には理解できない。

リング中央で大の字になっている通代めがけて3人は宙を舞う。

「お〜っと、三人揃ってのダイビングヘッドバット、プリティー通代万事休すか!!!!」

とそのときだった。通代の脳裏に大野の幻影がやどる。無残にも体にラップを巻かれ辱められ、いままた低学年の小学生たちに打ちのめされ、リングの中央に大の字になっている。そんな自分に抱きしめるものがあるとすれば、大野への想いだ。そのような感情が大野の幻影を呼び出したのだろう。



「せ、先生、私先生と結婚したい」

いつかそう言ったことがあった。大野は少し間をおいた。安易に相槌を打たないところが通代にはたまらなく愛しく思えた。

「う、ううん。でもまだ先のことだ。でもいえることは、僕は生徒としてではなく一人の女性として君をとても大切に思っている。だから慎重に行動したいんだ。もちろん批判されることもあるだろう。困難もあるだろう。いつか僕のほうから結婚しようと、必ず言う。そのときまで待ってくれ」



頑張らなきゃ。通代の心に灯りがともった。幼女隊がまとまってダイブングヘッドバットをしようとしている。チャンスだ。通代は驚異的な腹筋で体を入れ替え、くるりくるりと移動する。

「お〜っと!!!、プリティー通代脱出。ダンプとブルは運悪く頭部と顔面を痛打!!!!!クレーン留美もブルの肩に頭部をもろにぶつけてしまったああああ!」



ブル小林とダンプ大木は打ち所が悪かったのか、のけぞりかえる。

ふぉ、フォールよ。通代はそう念じて力を振り絞って立ち上がる。クレーン留美とブル小林が場外へ落ちるのを見て、ダンプを引きずってくると、天井を向いて大の字になっているその巨体の上にフォールするため覆いかぶさる。

 レフェリーの飯島も仕方がないといった表情で、早くもなく遅くもなくカウントをとる。すかさずクレーン留美がカットに入ろうとするが、間に合わなかった。

「ワン、ツー、スリー」

飯島のカウントとともに、ゴングが鳴る。

「プリティー通代大逆転!!、ダイビングヘッドバットの自爆を誘い、堂々のフォールです!!」





18 呪いのラップまわし


ダンプとブルはもう戦闘不能だ。彼女らの両親が心配そうにリング下にかけよる。留美はまだダメージが残っているようだった。それを見て熊子は意外そうに、 

「仕方ないわね」

熊子はそうつぶやくと、リモコンをカバンから取り出した。

「あ、あああっつ」

急に、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。感覚ではなく実際に特殊加工された素材が、熊子のリモコンの指示を受け、通代の胸を締め付けているのだ。一気に留美をフォールしたかったのだが、動けない。ただのラップではなかったようである。

熊子は、こんな小細工などせずとも、あの三人ならば通代に楽勝できると思っていた。だがそうではなかった。

「こ、このやろう」

留美はリングの中央で何とか立っている。そして攻め切れそうにないと判断したのか、熊子は股間を覆っているラップのほうも、スイッチを入れた。

「あ、あっつ!」

特殊撮影の映画のように、ラップが勝手になにやら動いていた。よろけるようにリングにうずくまり、股間を押さえ、ラップを取ろうとするがかなわない。肛門のほうまでしめつけられ、もはやどうすることもできない。

 やっと留美はダメージがとれてきたのか、動き出す。そして留美ももうろうとしながら、通代を片エビ固めにとる。

「ワン、ツー、スリー」

飯島は、とてつもない早さでカウントをとる。

「い、いやあ、激しいハンディキャップマッチとなりました。関東さんいかがでしたか」

「プリティー通代選手、おしいところまでいったんですがね」

気がつくと会場には美香がいて、こちらをニヤニヤと見ている。きっと最初からどこかで見ていたのだろう。そして通代はこのようなラップまわしの細工までして自分を負けさせねばらない美香や飯島らに激しい憤りを感じつつも、このようなことがいつまで続くのかと、目を細めてうづくまるばかりだ。

 しかし美香や飯島とて、サクリファイス小川をしとめたスープレックスといい、今回の一瞬の逃げといい、レスラーとしての通代の影の力に脅えざるをえなかった。







 

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