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第2章 悪夢の体育館〜同級生のいたぶり〜



前編〜リングへの扉〜


1 体育倉庫


6月の終わり、新任数学教師が去った学び舎で、通代の心にも、校門の入り口のアスファルトにも小降りだが、何とも陰鬱な雨が降り注いでいる。

「先生は何故、去ってしまったの…。神様は何故こんなひどいことを…・」

そうひとりごち、クラスメイトから体育館でバレーボールでもしないかという誘いを断って、昼休みに一人、教室の机に座りたたずんでいる通代に、普段はあまり口もきかない生徒が声をかけてきた。

「渡辺さん、ちょっと 」

重量感のある、そして目つきが鋭い智美、それに子分という雰囲気の尚子がそう言って、近づいてきたのが、この日の、通代の苦悶の始まりであった。

「な、何・・」

「放課後にさ、体育倉庫まできてくれない。大事な用があるの」

「何、大事な用って」

普段はコミュニケーションのない尚子や智美のやや威圧的な態度に通代は戸惑った。そして次の瞬間彼女たちから、ちらっと見せられたものは、大野と抱き合っている紛れもない通代の写真であった。

「ふっ、もとはビデオなのよ」

ほくそえむ尚子。

「だから大事な用っていったでしょ」

智美がぽんと通代の肩を一瞬なでるようにたたいて、二人は自分たちの席に戻っていく。
戸惑いを隠せない放心状態の通代に、5時間目始業のベルは聞こえなかった…・。
放課後の体育館の倉庫では通代の転落への儀式が行われていた。やや薄暗い倉庫の壁に通代は追いつめられている。そして湿った空気が、はたけば埃がたくさんでそうなマットや錆びたボール入れの匂いと混ざって独特の臭気を漂わせている。

「これから、私たちに逆らったら、ビデオテープも写真もそこらじゅうにばらまくからね。態度には厳しいわよ、私」

美香はこれから楽しみだとばかりに、にやけながら美少女を睨み付ける。コーラをかけたような茶髪、黒いストッキング、短いスカート、薄化粧に紫の口紅、どれもこの年頃にありがちな不良っぽくしてみたいという意思を感じさせる。

「渡辺さん、困るわよね?内申書に教師と恋人関係あり、なんて書かれたら」

「お仕事で外国を飛び回ってらっしゃるお父様を心配させたくないわよね」

智美や尚子が通代のさらさらの髪の毛やら、頬をなでながら言葉でもいたぶる。倉庫の壁際で通代は愛くるしい顔をぴっくと何回かのけぞらせて、脅えながらもどうにか手だてはないものかと思案した。逃げ出すことはできるかも知れない。しかしビデオや写真は奪えないだろう。コピーを用意しているかもしれないのだ。

「さあ、とりあえず交換条件としてストリップでも見せてもらおうかしら?」

「い、嫌、そんなの」

智美、尚子、美香の三人は返答ぜず、にやにやと獲物を睨み付けるのみだ。10秒ほどピーンと張り詰めた無音の倉庫に、白旗をあげようとする美少女が目に薄っすらと涙を浮かべ、つぶやきだした。

「ほ、本当にそれで、黙っていてくれるの」

「ええ、私たちだってばかじゃないわ、恐喝しただろうって学校に調べられたくないもの。ちょっとあんたが辛い目に会ってくれれば気が済むんだから」

ちょっと服を脱ぐくらい、どうってことないわ、自分の将来のために、お父様のために、そして復帰する確率が万分の一ではない大野のために。そう言い聞かせて通代は、うつむいてゆっくりとカッターシャツのボタンに手をかけてゆくのだった。唇をきゅっと噛み締めて。

「とろとろしていると、態度の評価に響くわよ、何事もスピードの時代なんだから」

尚子の揶揄が部屋に立ち込め、社会人でもないのにそんなことを言う尚子を智美がふっと笑う。
さて美香たちをそっと後からつけてきて外から覗いている男がいる。体育倉庫の窓のさんには埃がたまり、窓は8割がた閉まっているが、その隙間からある男子生徒が覗いている。木の箱を踏み台にしているようだ。浩二だ。体育館へ向かう彼女らを見て、これは何かあると感じたのだ。彼は毎晩のように想像していた通代の下着姿の一部を目の当たりにして興奮の絶頂をきわめ果ててしまった。と同時にぐらつく。ガサッツと木の箱がコンクリートに擦れる音がする。だが浩二には隙間が小さすぎて、どんな下着だったかは確認できなかった。ただ白という以外には。

「誰?」

秘密裏に事を運ぶつもりの美香は誰にもこの事態を察知されたくはなかった。浩二はしまったとばかりにすばやく走り去る。尚子が急いで体育館の外にでたときはもう誰もいない。そして尚子は気づかなかったのだが、浩二の果てた証がコンクリートにぽつりと残っていた。校舎の中のトイレに駆け込むと浩二は、はあはあと息を切らしながらも、これからの展開を想像してはまた、ものが暴れ出すのを押さえ切れないでいた。そして小学校での、美香の、足の爪先の、力の入れ様が彼の脳裏をよぎるのであった。




2 Tバックブルマー


翌々日の2時間目の終わりにトイレで通代が智美から渡された紙袋の中には命令書と書かれたメモとブルマーが入っていた。丸文字なのだが、そんなものに行動を制約されねばならないという通代の無念さを煽るのには十分だ。その日の朝、登校時のことを通代は思い起こした。

「渡辺さん、お〜はよ〜う!」

と通代に尚子が声をかけてきて、肩に手を回してくる。他の生徒は何も気にしないが、通代には一昨日の悪夢が続いているようだ。

「ねえ、ブルマー貸して。1時間目にね、必要な友達がいるのよ」

やや大き目の声で尚子がはしゃぐように言う。

「………・」

「早く出しなさい。わかってるんでしょう、立場は」

今度は小声でささやく。
しかたなく、歩きながら、大きな鞄から体操服とシューズの、いわゆる体育セットの布の袋を開け、ブルマーを他の生徒に気づかれないように、ためらいながら尚子に渡そうとする。尚子はそれをきつく奪うように鞄に入れて走り去っていったのだった。
メモには以下のように記されていた。

<命令書>だよ〜ん!
今日の体育でこのブルマーを着用のこと。パンティ着用は認めぬ。従わない場合ばどういうことになるか、わかっているだろうな。 BY美香

体育は5時間目だ。今は2時間目の終わり。そそくさと智美がトイレから出ていった後、ブルマーを取り出してみると、後ろの生地が切り取られ、ほとんどないのに気づいた。前面はややハイレグっぽく、そして後面は見事なまでのTバックに仕上げられていた。いくばくかの布地を残した後面でなく紐状のそれである。もっともナイロン地が細く、細く紐状に切り取られたといったほうが適確であろうか。後ろの腰周りはゴムの部分を中心にかろうじて残されている。乱暴にというわけではないが、切り刻んだという表現がぴったりの感じだ。こんなのを履けなんて……。教室へ戻り智美に近づいて、通代は小声で

「土井さん、お、お願い。堪忍して」

と懇願する。土井智美は、とぼけたふりをして言う。

「そう、昨日のあのテレビ、良かったね」

通代がなんとかとりあって欲しいと他のクラスメイトに気づかれぬよう再度声をかけようとしたとき、教師がやってきた。通代は知らん顔をしている智美に何かまだ言いたげに立っていたが、

「早く席につきなさいよ」

という美香の後ろからの声で着席せざるを得なかった。
5時間目、美香たちからの命令に従い、通代は下半身にはTバックに切り刻まれたものを履き、泣く泣く体育館へ向かう。昼休みにトイレであらかじめTバックブルマーを履き、更衣室ではスカートを脱ぐだけでいいようにしておいたのだ。恥ずかしい姿に気づかれぬようTシャツを手で下に思いっきり引っ張り体育館へ。そう泣く泣く。美香たちは何も知らないふりをして、いかにも小憎らしい。通代は他の生徒に見られる時間を少しでも少なくしようと、授業開始時刻より少し遅れて体育館へ入っていった。
通代ウオッチャーの浩二は遠くから校舎と体育館を結ぶ廊下を、何だか不自然なしぐさで駆けて行く彼女を、遠くからだが見逃さなかった。

(変だな、・・)

いつもチャイムが鳴って数分後に飯島が体育教官室から出てくるのに、この日に限って、通代が入ったときにはもう生徒を整列させていた。

「渡辺さん、何してるの、時間を守るというのは生きていくうえで、大事なことなのよ」

「お、遅れてすいません」

「ほらほら、みんなブルマーの中にシャツを入れなさい。ここじゃ男子もいないんだから」

なぜこんな日に限って先生はそんなことを…。通代の心中は焦りで飽和しかけ、体育館ではすでに2クラス分の女生徒達の視線が不自然なしぐさの通代に集中しだしている。彼女は羞恥心と美香たちのへの恐怖、そして心の別のところで燃えている怒りで心臓が破けそうだ。
Tシャツの裾をブルマーに入れないでいた生徒たちが、とりあえず仕方なくといった感じで裾を直しはじめる。通代は何もこんな時に、とうつむいてためらっている。

「渡辺さん、早くなさい」

そういわれてもうつむいて、指先をTシャツに添えてもじもじしている。そして次の瞬間、女体育教師飯島弥生は通代の前までやってきて、Tシャツを捲り上げたのだ。

「あっつ…」

通代が手で防御する間もなく、2クラス分の女子生徒たちの前にTバックブルマーが露(あらわ)になってしまう。白いお尻に“寒いぼ”ができているようだ。何ともフワフワ、プルプルしていて、なめまかしいお尻だ。尚子は、こりゃあ大野もよく我慢したわ、“心中お察しいたします”と心の中でつぶやく。

「何、あの格好…」

生徒たちがどよめく。通代の数少ない友人の大中春江はとても心配そうだ。

「渡辺さん!、どういうつもりなの。授業を何だと思ってるの!」

と飯島は怒鳴る。頼りのはずの教師は何とも冷酷な反応だ。普通は自分がいじめられている可能性があるのではないか、と気遣ってくれて、犯人を探してくれてもいいはずではないか。教師ならば。しかしこのとき、美香たちと飯島との間で、最初から自分を責め尽くし、辱め抜いてやろうと話ができていることに通代は気づくはずもない。

「何故こんな格好をしてきたの、先生におっしゃい」

「………・・」

「どうして何も言えないの!」

「………・」

美香たちは薄笑いを浮かべて楽しそうだ。

「いいわ、答えられないほど大事な理由があるんなら。渡辺さん、これからずっとその格好でいらっしゃい、いいわね」

「せ、先生、すいません、次からはちゃんと普通の格好で来ます。今日は、その」

「その、何なの、ちゃんと理由を聞かせてくれるのかしら」 

「つ、次からは普通の格好で来させて下さい。お願いします。」

「そう、まあ好きになさい・・・・」

「どうしたの、何があったの」

春江のやさしい口調にすがりつきたい通代だ。だがよりによって授業はマット運動だ。恥ずかしそうな美少女にとりあえずの満足感をいだいている美香の何とも陰険な視線が通代を突き刺していた。いい気味だわ。まだ始まったばかりだけど。
 まわりの2クラス分の女子生徒たちは、ただ茫然と大人しいそしてつつましやかで、それでいて美形の優等生の大胆な格好を見ていた。このときはまだ通代は幸せなののかもしれない。周囲の目があるとはいえ切り刻まれたブルマーを履いてさえいればよかったのだから。
 
でもなぜ?、なぜ私がこんなにも惨めな目にあわされなければならないの?それほど小学校6年のあの出来事が大森さんにとって大きな屈辱になったとは思えないわ。だって、確かに「人と話をしているときによそ見なんてしないで下さい」って言ったのは私だけど、でもあれはクラスの女子のほとんどの意見だったじゃない。なぜ私だけが・・・・・。そして大野への美香の想いを甘くみていたのだろうかとも思案し、とても長く感じられる体育の授業中通代は何度も心でひとりごちるのであった。



 
3 浩二が工事を見た!?


その夜、Tシャツを下に引っ張って駆けていった通代の不自然な仕草に、浩二はあれこれと妄想を膨らまし、興奮して眠れないでいた。それで深夜1時だというのに散歩することにしたのだ。だがそれでも興奮が収まらないので、ジョギングに変更になってしまい、気がついたらK中学の前まで来ていた。
おや?、体育館のそばにトラックが止まっている。微かに見える文字は…・、“女闘建設”だ。
なんだそりゃと、不思議に思い、大きな校門の隙間から、目を細めて注視する。軍隊の特殊部隊並みの機敏な動きで、何人もの作業員が動いている。だが何を運んでいるのかわからない。うん、あれは鉄柱だろうか?、でも何のための。
その頃、大森家では、尚子と智美、美香の3人が、キャットファイトのビデオを見ながら明後日の体育のことなどを話し合っていた。

「渡辺のやつ、いい気味だったね。」

「美香もTバックブルマーなんて、なかなか考えるよね」

「でも、キャトファイトのビデオって本当に色々あるのね?。丁寧に番号や記号を付けて整理して、せいがでるわね」

智美の問いに、美香はダンボールの群れを叩いて答える。

「兄貴のね、“はずしちゃったモノ”なのよ、これでもほんの一部よ」

「え、これで一部?」

美香の兄、大森信次は大のキャットファイトマニアなのだ。

「それでさ、リングはいつできるの?」

智美が尋ねる。

「それがね、飯島ちゃんによると、急に予定変更で据え付けじゃなくなるらしいの、詳しくは教えてくれないのよ」

「あさってはTバック&Tフロントブルマーだね」

「もちよ!、飯島との打ち合わせもバッチリ」

ドアごしに彼女たちの会話を聞いていた美香の兄、大学生の大森信次は、まずは予定どうりか、とつぶやいた。そして数日前に突如出会った初老の紳士のことを思い起こしていた。女闘コンツエルンか…。すげえもんだ。




4 キャトファイトに市民権を


大森信次、23歳、。彼の唯一熱中できることは孤独なキャットファイト普及活動。AVだろうが、女子プロレスだろうが、ボクシングだろうが、アマチュアレスリングだろうが、室内ものだろうが、ストリップ劇場のショーだろうが、相撲だろうが、ありとあらゆるキャットファイト関係のビデオや雑誌などの資料を収集し、情報を整理しては、様々な観点からの鑑賞に見合ったガイドブックを消費者の視点で作成し、無料でどことにではなく配布している。格闘美を求める人、SM的なものを求める人、そのなかでも微妙に感性が分化したり、統合しているのに売り手は鈍感すぎる、というのが信次の主張であった。しかしその活動のために資金が必要で、バイトでは間に合わず、とうとうサラ金にまで手を出してしまっていた。何せ1本1万円もするビデオを週に何本も購入するのだから。それを数年続け、その上結構まともな紙質のガイドブックを作成するのだ。数日前、ついに取りたて屋に捕まり、二進も三進もいかなくなった。

「なあ、兄ちゃん、キャットファイトかドッグファイトか知らんけどな、人様からお借りした金はあんじょう、返やさなあかんがな。逃げてばっかりはあかんで」

「す、すいません、この国にキャットファイトの市民権が感じられるようになるまで、がんばらせてください。広いグラウンドで女の子がいつも闘っている、そういうスポーツ文化として…、そしてもっと気の利いたAVが増えるようなそんな国に…・」

「何いうとんにや、たわけたことを。マグロ漁船にでも乗ってもらうしかないで、この額やったら」

5、6人ほどの集団が懇願する信次を何発も殴り無理に連行しようとするそのときだった。

「おい、離したれ」

「お、大御所さま!?」

取りたて屋の上位組織の長らしき男だった。目隠しをされて、信次は車に乗せられた。30分ほどして目隠しを外されてみると、もう先刻“大御所様”と呼ばれていた男は存在せず、目の前には大きなイスに腰掛けている初老の紳士とその秘書らしき男、そして見覚えのある元大学教授がいた。

「せ、先生?」

さて女闘コンツエルン、そしてこの初老の紳士や元大学教授については、後にみるとして我々は物語を先へ急ごう。




5 バージョンアップ?


次の体育の授業。例によって登校前に美香たちは通代に声をかけ、またしてもブルマーを取り上げ2時間目のあと“作品”を渡した。通代はブルマーを平均的であるが、2つしか持っていない。これですべて奪われたことになる。今度はTバックの上に、ブルマーの前方がTフロントに切られている。
何でまた…・、ひどい。このとき通代ははじめて、美香の自分への復讐心が半端ではないことを感じだした。そして布地をこのように切り刻むのはやはり精神的に何かあるのだと察知し、その刃が自分に向けられていることに本格的な恐怖を感ずるのだった。先日、恥辱を体育館で味わされた際、これで美香の気がはれるならと思っていた。それ以来何の対策も実は心になかったのだ。とっさに通代は考えた。ここで抵抗しても力ではかないそうにない、弱みも握られている。そうだ小学校のときのことを謝ってしまおう。理不尽だがこれ以上被害を受けたくはない。

「お、大森さん、小学校のときのことは、謝るわ。だからお願い、もう堪忍して」

なぜ私が謝るのだろう、なぜ。そう思いながらも人の気配のないトイレで哀願する通代だ。
 大森美香は一瞬満足しきったような気分になった。それはとりあえずこの2年ほどの彼女の、ほとんど一番の願望の一部が達成されたからだ。
いい気味だわ。ちょっと上品でかわいいからって・・・。あの小学校6年のクラスで大半の男子からチヤホヤされて、おまけに女子からも信頼とやらがおありになって。先生からもいい子に見られて。何が「人と話をするときはよそ見しないで下さい」よ。あなたたちの話なんて聞きたくもなかったのに、結果的にちょっとクラスの中心だっただけじゃない。
いつかあの娘をぼろぼろにしてやる。
 美香はそんなふうに思った当時の自分を思い出した。そうするとその時の悔しさや嫉みがふつふつとよみがえっていっそう苛虐心をかきたてるのだ。

「ふーん、悪かったと思ってるの?」

「は、はい、だ、だからもう普通の格好で授業にださせて」

「私はそんな、昔のことは気にしないけど。でも悪かったと思ってるんだったら、反省を示す態度がなってないわ」

何をつまなないやりとりをしているのかといったふうに智美がせかす。

「早くいかないと授業に遅刻、遅刻!、超カワイイな渡辺さんのセクシ−なTフロントブルマー姿が今日は見れるのよ。あ〜楽しみ。あ、Tフロント&Tバックだね正確には」

「そうね、行きましょう。はいこれ」

美香は通代の胸に先刻ちらつかせたブルマー、−もはや細いナイロン地といったほうがいいだろうか− を押しつけた。鋭く冷たい、それでいて状況を愉しむような視線だ。通代は降ろしていた手をゆっくりあげてそれを諦念して受け取るしかなかった。
浩二はまた不自然にTシャツを引き下げ体育館へ駆けていく彼のマドンナを遠くから目で追う。いったいどういうことだ?。深夜に見た女闘建設のトラックと迅速な作業集団のことが何故か気になった。




6 無情の安全ピン


4時間目、体育の授業時間が始まり、準備体操が既に行なわれている。

「1.2.3.4、5.6.7.8」

前屈や屈伸、お決まりの準備体操。そこへ美少女は深刻な面持ちで入きて、列に加わろうとする。ど、どうしょう。どう言い訳すれば。は、恥ずかしい。消えてなくりたい。ひどい。ひどすぎる。だが無情にも飯島はまた通代のTシャツを捲り上げるのだ。

「渡辺さん、何その格好は。それがあなたの普通の格好なの?」

準備体操がさっと止まった。

「す、すいません、遅れてしまって・・」

何とかごまかせないものかとTシャツを下に引っ張ったのだが完全には隠すことはできなかった。通代の一番の友達でるある大中春江がまた心配そうに見ている。

「渡辺さん、あなたこの間の授業で私になんって言ったの?」

飯島がこのときとばかりに問いただす。

「・・・・・・」

ど、どうしよう。大森さんに無理やりこんな格好をさせられてるって言えたらいいけど、大野先生とのことをバラされたら・・・、やっぱりまずいわ、いちゃいちゃ話してキスして抱き合ってるビデオをばらまかれたら・・・・、お父さんに知られたくないし心配かけたくない!。それに内申書だって・・・、高校にちゃんと行きたい・・・・。 少し我慢してれば、そのうちこんな嫌がらせは止むわ。あの人たちだって受験があるんだから。でも恥ずかしい。
そんな通代の苦悶は、最初から美香と組んでいる飯島にはただただ愉快なばかりだ。かろうじて股間をあてがうかのような頼りないナイロン地が通代の下半身を包むすべてであった。興味本位で股間の形状や“生え際”を観察する女生徒もいる。もはや露出を愉しんでいると取られてもしかたない。

「だから、この間なんて言ったのか聞いてるのよ!」

「先生、渡辺さんにはこれが普通の格好なんです、きっと」

生徒の一部から嘲笑が少し起きる。だが飯島の一喝で館内は静まりかえった。

「なんとかおっしゃい、渡辺さん!」

びっくっと通代は方をすくめた。誰か、誰か助けて!っと心で叫ぶ。大野の笑顔が脳裏をよぎる。だがとりあえず助け船らしきものを出したのは美香だった。

「先生、体育委員の私と土井さんが、学校指定の服装で授業に参加するように話しますから、今日のところは勘弁してあげて下さい」

「そう、体育委員のあなたそう言うのなら、いいわ任せます。生徒の自主性を重んじるのも重要なことです。さあ、準備体操の続きよ。でも大森さん、渡辺さんのTシャツの裾をこの安全ピンでブルマーのゴムの上までたくし上げて止めてあげてちょうだい。みんな裾はブルマーに入れてるんだから」

なにもそこまで…。通代はなぜ安全ピンなんて持っているのか不可思議に思いながらも、美香にTシャツをたくし上げられ、前後T字型ブルマーのいたいけな体操服姿を同級生に晒すしかなかった。その日の体育の時間は淡々と流れていった。授業の合間にそっと近付き、通代の友達の春江は抱擁するように言う。

「いったいどうしたの、何か絶対変よ、みっちゃんこんなこと自分からしないよ」

と心配そうに寄り添った。

「うん、心配かけてごめん・・」

何ともしおらしく相づちをうつ通代は、仲のいい春江に泣いてすがりつきたかった。
だが先程の美香の発言でほっとしたのも事実だった。消えてなくなりたいと何度も思いつつ、授業は進む。バレーボールの試合で、狙い撃ちされ、チームメイトから白い目で見られる。授業が終わった。やっと終わったと思った。もう許してくれるのだ、そう思った。気を損ねないよう美香に礼を言おう。通代はその時間が終わり皆が更衣室に引き上げようとするとき、美香に言った。

「あ、ありがとう大森さん、許してくれて」

「私たちもそろそろ受験のことなんか考えないといけないし、ストレスだとかなんとか言い訳しても始まらないわ、ふふ」

美香の薄笑いが不気味だった。そして美香は体育館の床を眺めながら昨日飯島から言われたことを想起した。

「実はね、地下に移動式のリングを作ってるのよ、学校には時期尚早だって予算申請は取り下げたわ」

「え、だったらどこからそんなお金がでるんですか」

「今はそんなこと考えなくていいのよ、あなたは」

 週が明けた。持っていた2つのブルマーを美香たちに奪われてしまったので、通代は誰にも内緒で新しいそれを買い求めた。去年の春に学校へ販売に来た業者の場所がわかるプリントをまだ持っていたのだ。もう美香の嫌がらせは終わったのだ、そう自分に言聞かせ、電車からの風景を眺めていた。やさしい家政婦が

「体操着はお洗濯しなくてもいいのですか」

と聞いてくれたが、

「ええ、そんなに汗もかいていないし、汚れてもいないから」

と答えておくしかなかった。
さてさて彼女が家を出てから帰宅するまで、極小ビデオカメラで撮影していた男がいる。大森信次、そう23歳。ジャケットの胸元にある2匹の猫が闘っている絵の小さなバッジを眺めては、初老の紳士の横に寄り添っていた秘書の言葉を思い起こす。

「何か困った事態になって、そのとき相当の権力者が目の前にいたら、このバッジを示し下さい」

すげえもんだぜ、でも本当かよ。




7 総帥直属特殊工作員
   日本支部 ****地区 番号******* 拝命


信次は自分が通っている大学につい1年前までいた教授が、目隠しを外されたとき目の前に立っていたときの唖然さを思い出した。

「せ、先生?」

「大森君久しぶりだね。」

「先生、どうしてこんなところに」

勅使河原夢次郎…。彼は信次の通う大学(籍があるだけなのかもしれないが)で歴史学を教えていた。しかしある論文を発表しようとする直前姿を消してしまったのだ。公式には病気療養ということになっていたが、信次にはとても信じられなかった。なんていったかな、あの論文は。信次は教授に発表予定のものだといって渡されたことがあった。興味か湧いた題名だったのだが、記号が山ほどでてくるので読む気にならず学校のロッカーに置いたままだ。
その論文の題名は、

「世界史の変節点と美女の不仲についてのニューラルネットワークを用いたモデル分析」

だった。

「お名前を確認します。大森信次さんですね」

秘書らしき男がいう。

「は、はい」

「まずは我々の組織、女闘コンツエルンについてご説明させていただきます。教授の論文はお読みになりましたか?」

「い、いえ、数学はとてもだめで。」

教授の論文は、世界史の大きな変節点には、かなり高い確率で当代きっての美女の不仲がおこり歴史が大きく変動しているというものだった。古代ローマから世界中のデータを収集し、ニューラルネットワークという手法で分析していた。美女の不仲に関する定性的なデータを数量化し、そのモデルに入力すると、世界史における変節点ばかりが出力されるというのだ。教授は、“女闘変動仮説”を打ち立てようとしていた。だが学界では全く相手にされず、気が狂ったといわれ除名処分さえ提案されてしまったのだ。

「ローマ皇帝や雄略天皇が女闘を大変好んでいたことはあなたならご存知ですね。」

「ええ、雑誌でちらっと読んだことはありますが」

「ローマ皇帝の頃はまだ、行事として概ね公に女闘が行われていたのです。しかしそのうち女闘は政争の道具として用いられるようになりました。しだいに“地下”で行われるようになり女闘という商品のブラックマーケットが形成されていったのです。時の権力者を説得するには理屈抜きに時の美女の女闘が必要でした。金のかかる余興といえばそれまでなのですが、女闘を演出する集団ができはじめ世界中で暗躍したのです。」

秘書は淡々と話していった。

「男性は皆基本的に女闘好きです」

「それは僕もそう思います」

信次が相づちをうつ。

「あなたもお気づきのように女闘には様々な鑑賞の観点がありますがエロチズムとスポーツを融合させた格闘美を求める人々と、か弱い美女がうちのめされるSM的なものを好む人々との間には、根底的には埋め尽くしがたい距離があります。時の権力者も生い立ちは様々ですが、幼少の頃、紛争に巻き込まれ各国をたらい回しにされたり、王家に生まれたもののひ弱だった人間はたいていSM的なものを好みます。格闘派はたいていからっとしたいわば体育会系です。もちろん断言はできません。SM的なものを求める人々は蓄積されたストレスに対して、“崇めている美女が打ちのめされるのを見て精神的安定をはかりバランスを保っている”という面があるのです。もちろんこれも一概にはいえませんしこれら2つの要素が混合された趣向も多々存在します。」

「女闘の演出って」

「ええ、信じられないでしょうが中世ヨーロッパでは非対当的な和睦の条件として“女闘の宴”での納得が重要視されていました。商品としての女闘には概ね感情天然物と純粋試合系、やらせ系の3種類があります。もちろん実際は混合されますが。」

「天然、ですか?」

「ええ、両方もしくは片方に憎しみが確固として存在する場合です。権力者はこれを好みます。でも当代の美女に憎しみあいが存在するとは限りません。それで女闘プロモーター達は故意に憎しみあうように影で仕向けるのです。純粋試合系はある程度スポーツとして行います。高価な演出になると性的なイカしあいが行われます。」

「やっぱり」

「SM系の方は縛られてもいないのに、抵抗できず打ちのめされるか弱い美女を見て、崇める女性を自分よりどこまでも貶め低い位置において精神的安定をはかります。例えばあなたの大好きな女生徒にいじめれれる新任女教師です。しかし実際はそういう女性を見つけにくいのです。か弱そうに見えて強い女性の多いこと。それで世のそういう趣味の男性は心の中で妄想にふけるのですが、歴史的な権力者はこれを探せという」

「いやあ、そこまで僕のことを調べられてるとは。そうですね、僕の学生時代もかわいい子はそういじめられてはいませんでした。むしろいじめる側で」

「とにもかくにも教授に女闘変動仮説を検証されますと、我々のブラックマーケットの実態が暴かれかねないわけです。あなたも知ってのとおり女性の大部分は女闘を好みません。特にSM系はそうです。極端な例ですが、プロレスでアルク・ホーガンが林村健吾をいじめているところを想像して自慰する女性を世の大半の男性が好むでしょうか?」

「す、すいません、そういう例は想像しただけで吐き気が。とても近づきたくありません」

「そうでしょう、その“近づきたくない”です。歴史的には、女性にそう思われているというコンプレックスを持った権力者が、一大政権を樹立していることが案外多いのです。それで」

そこで初老の紳士がはじめて口をきいた。

「君、説明が長い。大森君にお願いすることをまとめないかね」

「は、はい」

秘書はさっと下がった。紳士がゆっくりとした口調で話す。

「我々女闘コンツエルンは、主として非営利で紛争解決や企業の合併、提携に取り組んできた。中には営利をむさぼるために美女を抱え込んで女闘価格を釣り上げ、果ては国家間の戦争や民族紛争、大企業の倒産を勃発させても知らん顔の興行師が歴史的に絶えなかった。我々の組織もつぶされかけた。そんなときに助けてくれた権力者もいてね。名前は明かせないが、彼は大のSM派なのに一度も女闘の注文などせずに他人の要求を調整してきた。そんな彼も90歳になってね。健康ではあるのだが最後に準天然ものの美少女SM女闘ものが見たいといってね。冗談めかしてはいたが。私としてはメセナとして彼の望む天然ものの美少女SM女闘ものを映画にでもして見させてやりたいと思ってね。」

「はああ」

「君は、借金地獄へ落ちるか、私の直属の工作員となるかどちらがいいかね」

急に初老の紳士は真顔になった。

「はあ、それは、」

信次は自宅へ入っていく通代を見て、かわいそうに、と思った。しかし研究を公にしない代わりに女闘コンツエルンの顧問となった勅使河原(元)教授から性格の最高にいい美少女がこれから現実にキャットファイトを中心にでいじめられそうな“物件”を探して欲しいと乞われたとき、自分の妹と渡辺通代のことを思い出して紹介したのは彼自身なのだ。たまに盗み見た美香の妄想ノートには、彼女の願望が記されていたのを信次は見逃してはいなかったのである。




8 友情破壊 〜ランジェリーランニング〜


 週が明けたある日の5限が体育だったが、尚子が通代を放送室に呼び出した。

「な、何」

尚子が冷たく言う。

「音楽の授業に遅れていいからさ、春江のブルマー盗んでおいで」

「そんな、いくらなんでも、私だけならともかく春江を巻き込むなんて」

「口答えするの?、いいわ、じゃあこれを〜。全校放送で流してあ、げ、る・・・」

美香が部屋に備え付けの小さなラジカセにテープを入れ再生ボタンを押した。それはあの逢引きの隠し撮りビデオから音声だけをカセットテープにとったものだった。通代のはずんだ声と大野の浮かれた相づちが生々しい。そして衝撃の場面も。

「渡辺はピアノがうまいんだって、?」

「ちょっと習っているだけ。」

「いつかきかせて欲しいな」

「うん、いつでも・・・・」

美香が早送りする。

「あ、先生・・・・、わ、私先生のことを、もう、・・お願い、抱いて。もう勉強も何もかも手が付かない!」

「やめて!」

通代は両手で耳をふさぐ。

「だったら命令どおりにするのね!」

「ううう・・は、春江・・・」

通代は数少ない友達を巻き込んでしまうことに、とても悔しくて哀しい気持ちになった。
命令どおり3時間目の音楽の時間に、通代は授業へ遅れて春江の机の横にかけてある布の袋からブルマーを盗んだ。それにはイニシャルのH.Oという文字がメーカーの印字のある布片にマジックで書かれてあった。そのことを美香はとうにチェック済みである。
5限目の体育のため更衣室は2クラス分の40人ほどでいっぱいだ。春江が着替えようと体操着の布の袋を開けると、ブルマーがない。
先刻放送室に呼び出された時の通代の記憶がよみがえる。

「ブルマーはどうしたの。今日もTフロントがいい?」

尚子がいかにも楽しそうに聞く。

「……」

「黙ってないで答えなさい。もし普通のやつを買って履いてきたら…、あのことバラすからね」

そう言われては仕方が無い。

「か、買って履いてきたわ」

「ふーん。ご苦労さんなことね。でもそれは今ここで没収よ。パンティもついでにチェンジしてもらうわ。ブルマーは替わりに、今日は春江のやつを履くのよ。いいわね」

「……………」

「何してるの!、早く脱げよ!、おら!」

尚子の恫喝に震えてブルマーとパンティを渡す通代だった。しかも渡されたのは紫の小さなTバックのスキャンティだった。蝶をイメージした刺繍のある、まるで娼婦のような…・・。美香が母親の名前でわざわざ通信販売で購入したらしい。まったく手の込んだことだ。
体育の授業が始まろうとしたとき、飯島が何か言い出す。

「実は大中さんのブルマーが盗まれました。イニシャルが入っているそうです。まさかとは思いますが隣のひとのを皆確認してちょうだい。」

ざわざわと皆確認しあう。ある女生徒が甲高い声をだした。

「あー、これ」

通代の履いているブルマーを指差した。
飯島が問いただす。

「どういうことなの渡辺さん」

「す、すいません。何か、いつか何かの拍子に大中さんのを私が持ってきてしまったんだと思います。今日は私見学します。着替えてきます。更衣室の鍵を貸し手下さい。春江ごめんね今すぐ返すから」

待ちなさい!とばかりに尚子が通代の手をつかむ。

「先生、私今日音楽の時間に渡辺さんが大中さんのブルマーを盗むのを見ました。」

美香のグループでもない生徒がいう。そして時間まで明確にするのだ。

「どうなの、渡辺さん」

飯島がきつく聞く。

「……………・」

「私も見ました。」

追い討ちをかけるように別のクラスの生徒がいう。
通代はきっと美香たちの陰謀なのだろうが事実は認めざるを得ないと哀しく観念した。

「す、すいません…・。」

「どういうこと、みっちゃん!」

春江が興奮して問い詰める。しかし次に飯島から出た言葉は意外だった。

「ブルマーは大中さんに返して、あなたは罰としてパンティのままで、体育をしなさい」

「え、そ、それは…」

「そうよ、そうよ早く脱げよ!」

「下にTバックブルマーはいてるんじゃないの」

陰湿なざわめきがおこる。

「お、お願い、ゆ、許して下さい・・」

通代は手に汗を握る。しばらくこうして辛そうにしていればみんな満足するのだ。そう言い聞かせて。

「早くなさい。授業がはじめられないでしょ」

何と残酷な教師なのかこの女は。心でそう思う通代だ。だが美香の目は本気だった。ゆっくりと泣く泣くブルマーを脱いで春江に返す。先刻履かされたスキャンティが皆に晒され、白いお尻と陰毛の生え際が見えそうな股間があらわになる。クラスメイトは清楚なイメージのはずだった彼女の紫の下着姿に唖然とするばかりだ。

「何なの、あのパンティ、ああいう趣味があったのかしらあの娘」

生徒たちはまたざわめく。通代は恥ずかしさと悔しさで頬を硬直させる。だが飯島は容赦しない。

「どろぼうには、しっかりお仕置きしないとね。体育館を3周走りなさい。とろとろ走ったら何周でもやってもらうわよ」

「…………・」

「どうしたの、早くなさい。授業がはじめられないでしょ」

ためらってもじもじしている通代にそっと近づいてきた美香がつぶやく。

「さっさとしないとテープみんなにくばっちゃうかも」

はっとした通代は哀しく諦念して白いお尻をぶるぶるさせながら、そして鋭い角度で大切な部分を覆っている布片をともなって通代は走り出した。走り方がまた何とも上品で、しかも同性の美香から見ても一瞬うっとりさせる色気をはなっている。腕の振り方がいかにも女の子らしく愛らしい。

「ほらほら、全速力よ」

何人かが嘲る。
ドッジボールの“女投げ”というのがあるが、これは“女走り”とでもいえばよいのだろうか。スキャンティの後ろの交差の部分に同じ布地のリボンがついていてわずかに揺れている。キュッツ、キュっとシューズが床に擦れる音が体育館に響く。Tシャツは体にぴっちりはりつくような、おへそが見えるものを着せられている。

「やっぱり似合うよ、あの下着」

「そうね、後ろのリボンちゃんが最高ね」

体育館の床がきしむ音をたてながら走る、今にも泣き出しそうな通代の表情を智美たちは楽しんでいる。
(まだ始まったばかりよ……)美香は胸の奥でつぶやく。一瞬一瞬が通代には永遠のように感じられた。同級生の嘲笑が辛かったが、何よりも春江との関係が崩れることが恐かったのだ。実は春江も大野に淡い恋情を抱いていて4月は彼の話で盛り上がったものだった。、抜け駆けしたみたいで気がひけるので通代は大野とのことを春江にも話さずにいたのだ。美香たちのことをもっと早く、そして何もかも春江に話して相談に乗ってもらうべきだったと通代は後悔した。走り終わって通代はうずくまって泣き出した。

「先生、渡辺さんも反省してると思いますから、もう許してあげで下さい」

美香が通代の肩を抱いて白々しくいう。

「あなたも体育委員だったらもっとしっかり監視してくれないと困るわ、いいわね」

「はい」

授業の方はバレーボールのまた試合だったのだが、格好が格好だけに通代は力が入らず、たださえ、運動神経が悪いほうなのでほとんどチームにとっては足手まといだ。やがて相手のサーブのねらい目にされてしまい、いつもんことだが味方チームからも冷たい雰囲気が感じられるようになってしまう。
授業が終わり皆が更衣室へ向かおうとすると、もはやTシャツを下に引っ張って更衣室へ戻ることもできす、どうしたものかとためらっている通代のところへ尚子が、やってくる。

「余ってるブルマーがあるから、更衣室まで行くのに貸してあげるわ」

先刻彼女から奪ったブルマーを、靴をいれる布の袋から取り出し、ほおり投げるように床に落とす。通代はあまりの屈辱に、抗議した。

「なぜこんなひどいことをするの!」

尚子はちょっとやりすぎたかなという気もあったのでややたじろいだ表情をした。だが皆がそろそろと出ていった体育館で美香がいう。

「言ったはずよ。あんたの態度によっては考えがあるって」

といかにも落ち着いて話す。まるでこういう展開を想像していてせりふを楽しんでいるようだ。すかさず智美が床に落ちたブルマーを摘み上げていう。

「せっかく私たちが温情を見せてあげているのに。いいわ。その格好で更衣室まで行きなさい。後で学校中や教育委員会にビデオをばらまいてあげるわ。」

通代の手をつかみ体育館の外へ出そうとする。

「い、嫌、やめて。す、すいませんでした」

あわてて通代は謙虚になって足に力を入れて踏ん張る。美香にはもともと外へ引きずりだすつもりなどない。そんなことをして事が公になればこれからの楽しみがパーだ。手をはなすと、

「何がすいませんよ! 生意気な口をたたいて申し訳ありませんでしたって土下座しなさい!」

といってむき出しの白いお尻をピシャリと平手で叩く。

「あっ、!」

よほど痛かったらしく通代はその場にうづくまってお尻を押さえる。そんな痛みは知ったことかと先ほどたじろいだ尚子が仕返しとばかりに「早くしてよ、ブルマーいるのいらないの?」
と通代の顔をこづく。
通代は尻を押さえながら

「す、すいませんでした。生意気なことを言って…・・、」

とうづくまったままどうして自分がこのようなめにあわねばならないかと理不尽に思いながら頭を下げる。まださきは長いのだとばかにに智美たちはブルマーを体育館の中央に放り投げて、先に体育館をでるのだった。赤く手形のついたお尻を押さえながら、ブルマーを取りに行く通代を体育館に据え付けた超小型特殊カメラはしっかりととらえている。
車の中でモニターを見ながら信次は何も言わずにたばこを吸った。




9 法廷と化した教室


通代がクラスメイトから‘裁判’にかけられたのは体育館でのランニングから1週間後のことだった。

「あなた大野先生と放課後抱き合って、キスしてたって本当?」

「そんな、変なうわさあるの。そんなことないわ。誰が言ってるの?」

「誰からとなく噂があるのよ」

平岡真美子や山本香織は、はぐらかしつつも通代の席の前に立ちはだかり質問を続ける。家庭科の自習だが、メンバーは体育の時間と同じだ。男子は「技術」をしている。自習そっちのけで何人かの生徒がざわつきながらも会話に聞き入る。この生徒たちはとくに美香たちと親しいというわけでもない。

「でっちあげに決まってるじゃない」

「じゃあ、本当だったら、私たちのいうこと何でも聞く?」

「なんでそんな約束しなきゃいけないの」

「噂が嘘なら、何を約束したって平気なはずよ」

「でれでれハンカチ貸してたのは皆知ってるんだから」

通代は何か二者択一に追い込まれていくようで嫌な予感がした。しかし美香たちが、他の生徒に通代の弱みを暴露するとは、思っていなかった。暴露しないかわりに責めを堪え忍んでいるのだ。現にこの家庭科の自習で美香たちは知らん顔している。それがまた不気味には感じたのだが。本当だと言ってしまえば美香たちほどではないにしても、また何を強要されるかわからない。かといってもしビデオが真美子らの手中にわたっているとすれば、それはそれで大変だ。でも強気でいこう。通代はそう念じた。弱みに脅えて弱腰になってはいけない。それこそすきを見せることになる。ただでさえ今教室で孤立しているのだから。

「嘘です。そんなこと。本当だったらいうことなら何でも聞くわ。その変わり嘘だったら二度こんな話でからかわないって約束して!」

真美子はニヤリとした。

「ふ〜ん、じゃあこれは何。香織スイッチオン」

家庭科教室のビデオから例の映像が流れだした。通代は一瞬声を失う。そしてとぼけたふりをしている美香を見つめる。体育の授業のメンバー40名ほどがビデオを視聴してしまっている。教壇の手前のほうでの、やりとりだったが、香織が呆然としている通代を教壇の上に連れてくる。そして慌ててビデオを消そうとする通代を制する。

「さあ、約束どおりなんでもいうことを聞いてもらうわよ」

教室はまるで、人民裁判のようになってきた。

「…………・・」

通代は悔しさのあまり声がでない。そして美香の方をにらんだ。後ろで白々しい顔をしてすましている美香のところへ詰め寄ろうとする。しかし真美子が通代の腕をつかみはなさない。

「さあ、何からしてもらおうかしら」

「お、お願い謝るから許して」

通代は香織たちが勢いづくまえに何とかことを収めたかった。しかし体育の授業の雰囲気、つまり清楚な美少女の転落を楽しむ感覚が教室を支配しようとしていた。

「まずは、大野先生とどういうふうにして親しくなったか説明してもらいましょうよ」

「そうよそうよ」

通代は級友たちの質問攻めにあって、大野政志との出来事を話していった。できるだけ事実を話そうとするのだが、真由美や香織は通代が誘惑したという話にしようとする。

「だ、だから誘惑なんてとんでもないの。ただ自然に親しくなって」

「そういうのも誘惑に入るんだよ!」

1対39ほどでは口でも勝ち目がない。瞬く間に裁判は進行した。人気のある男性教師を誘惑し手玉にとった罪は重い。さらにそれを隠そうとした隠匿の罪が加算される。これはもうクラスの女子全員から3月まで無視されるくらいでは済まない。毎日全学的におしおきしてもいいくらいだというのだ。通代は言いがかりにため息をつくばかりだ。そして結論は7組と8組の女子は道代が大野を誘惑してものにしたことを口外しないかわりに、通代はこの2クラス分の女子の奴隷となって罪を償うのだという。ただし態度が悪い場合には口外もやむを得ない、などという条項まで入っている。

「そ、そんな奴隷だなんて…・」

「何か言い分でもあるの?」

「お、お願いもう許して…」

みんな正気になってと言わんばかりにまじめに哀願する通代だ。
彼女がうつむいて唇をかみ締め、どうしたものかと悩んでいると、尚子が前のほうへ出てきた。

「私が渡辺さんの弁護を勤めます。」

「ええ、〜!」

「どうして?」

ざわめきがおこる。

「ええ、渡辺さんの罪は確かに重いのは事実です。しかしみなさん、渡辺さんにもチャンスをあげてください」

「チャンスって?」

またざわめきがおこる。

「実はこれから体育の授業はしばらくレスリングをすることになってるの。それにもうリングは地下にできているのよ。男子は当面の間体育館は使いません。雨の日は格技場です。」

通代はなぜそんなことを尚子が話しているのかさっぱり分からない。

「渡辺さんに奴隷になるかみんなの口封じができるかを賭けて試合をさせてあげて欲しいの。渡辺さんは小学校から運動が得意ではありません。そんな彼女が闘うというのです。暖かく見守ってあげましょう」

「相手は体育委員の私がつとめるわ」

智美が席に座ったまま話す。

「渡辺さんが勝ったらみんな秘密を守る。負けたら7組と8組の女子の奴隷になる。っていうのはどうでしょう。弁護人としてはこの案を提出いたします」

香織と真美子はよしわかったとばかりに、明日の体育の時間に試合を挙行することを決めてしまった。飯島先生には智美が話すというのである。

「そ、そんな、待って…」

「何なの」

美香の威圧的な一言が通代の選択を制限していた。




10 キャットファイター「プリティー通代」誕生!
    (大変長らくお待たせしました)


露出体操着を着せられて数回体育をしても、女体育教師の飯島が体育教師の間でさえ、問題に
しないのが通代には不思議で心配にはなっていた。きっとどこからか噂が漏れて、美香たちが問い詰められるときが来る。そう通代は信じていた。それも近いうちに。自分も痛手を負うだろう。しかし美香たちとて裁きを受けるのだ。だがとうとうプロレスまがいのことを体育館でさせられようとは。

「みんな、体育館の端によってちょうだい」

飯島がそう言って何かリモコンを押した。
ギ〜ンギ〜ン、ゴウオ〜ゴゴゴ、グオ〜〜〜〜 生徒達は驚愕の息をもらす。体育館の中央の床が制御された機械音を立てて開き、リングがゆっくりとあがってくる。そして天井からはリングアナ用のマイクが降りてくる。
飯島は生徒達に今日の授業の運営は任せたとばかりにそそくさと別室に引き上げてしまう。尚子が愉快そうに取り仕切る。選手2人がリングへあがる。今のところ入場音楽はなしのようだ。

「ええ、それでは渡辺通代奴隷転落救済マッチ45分一本勝負を行います。3カウントがギブアップを奪いなおかつ相手をイカせた方が勝ち。」

「な、何それ」

通代はたまらず質問するが尚子たちはとりあわない。

「青コーナー、165ポンドデビル智美〜。赤コーナー120ポンド渡辺通代〜」

リングアナは山本香織だ。

「イエーイ」

と智美は拳をあげる。
通代は何も反応しない。リングにたたずんでいる通代に美香がいう。

「これからコスチュームは私たちの言う通りにしてもらうわ、わかった?」

逆らえない通代は、うなづくこともせず、下を向いている。

「さあ、早く腰に巻いているものをとってあんたのコスチュームをみんなに見せなさいよ」

リングにたたずんでいる通代に、尚子がさも嬉しそうに促す。
通代はうつむいて黙っている。いや、いやよこんな小さい水着でプロレスなんて。なぜこんなこんな目にあわされねばならないのか。通代は美香を憎んだ。だが命令に従わねば大野とのことが公にされるばかりか、裸の写真までばらまかれる。そして勝たねばクラスの奴隷に。美香たちとていつかそれなりに罪に問われ罰を受けるだろうが、私の被害はもっと大きい。ああ、もういやっつ。
 唇を噛みしめる通代に、美香がきつく言う。

「そんな反抗的な態度いつまでとるつもり、こっちにも考えがあるわよ」

通代は悲しく諦念し、柔らかな布地の腰巻きの紐をほどく。白い小さなビキニだ。腰はもちろん紐だ。通代のお尻はかなり大きい。サイズの大きいブルマーのため今までわからなかったが、思いっきり尻肉がはみ出ている。何度も通代は人差し指をお尻と水着の間に入れて、できるだけ尻肉のはみだしをなくそうとするのだが、水着が小さすぎてどうにもならない。水着はおへそのかなり下にあり、横に生地が思い切り引っ張られている。少しずらされたらお尻のすじが見えてしまいそうだ。美香の趣味だが、リングシューズも白。バストはFカップで、しかもパンと張った下品なそれでなく、どこまでも柔らかそうだ。いつも体育の時間に揺れる同性の胸を皆チェックしていたのだが、やっぱりといった雰囲気だ。例によって小さな水着は今にもバストをこぼしてしまいそうだ。
まさに試合がはじまろうとしているとき、

「ねえ、この娘にリングネームってやつをつけてあげない?」

美香が薄笑いを浮かべて提案する。

「リングネームって?」

ある生徒が聞く。

「レスラーとかボクサーにつけるでしょ、あれよ」

美香がいかにも愉快気に通代に尋ねる。

「渡辺さん、何て名前がいい?、希望はあ〜る?」

通代は黙って落胆のため息をつくだけだ。

「Tバック渡辺ってのはどうかしら?」

「この娘かわいいからエンジェル通代とかは?」

「Tフロント通代!」

ついこの間までそこそこは親しくしていた同級生達の言葉でのいたぶりに通代は悲しくなるばかりだ。

「おい、渡辺!、みんながこんなにあらたのことを考えてあげてるのに何、その態度は!」

智美が威圧的に言う。美香はこれから通代を戦わせ続けるにあたって愉快なネーミングはないかと考えた。リングネームをつけて戦わせること自体、通代にとって悲哀だろうが、清純なイメージを与えて、それを汚せればより自分は満足だと感じた。きれいで、かわいい…・そうプリティー、

「プリティー通代!、これでどう!」

美香は皆に提案した。美香に逆らうものは誰もいなかった。




後編 〜哀淫のデビュー〜




11 デビュー戦から実況中継!?


おや?、スタジオのようなところでモニターを見ている面々がいる。一人は勅使河原顧問だ。

「さて、全国9千万の女闘ファンの皆様、こんばんは。女闘放送のアナウンサー私、古猫伊知郎 です。古猫といっても30歳です。解説はJWPAのダイナマイト関東選手、そして日本青少年キャットファイト創造協会理事の勅使河原夢次郎氏です。お二人方どうぞよろしくお願いします。」

「こちらこそどうぞよろしく」

「いやや、関東さん、ついに中学までキャットファイトあるいはレスリングが広がってきたわけですが」

「そうですね、裾野が広がるというのはいいことですね。第二第三の関東がこういう動きの中からでてくることを期待します」

丸顔でふっくらとはしているが、怒れば目つきは鋭そうな今をときめく女子プロレスラーの関東である。

「勅使河原先生は青少年のキャットファイト普及運動にこれからご尽力されると御聞きしておりますが」

「ええ、日本も女性の時代などどいうのなら、もっと女相撲や女子プロレスで男性の脳をいろんな意味で刺激してですね、社会をリードすべきでしょう。そうしないと男性支配社会は崩れないと思いますね」

この老人は細顔で温厚そうだが、いざキャットファイトのこととなると熱くなってしまうようだ。

「先生、大丈夫ですか?そんなこと言って、女性学のあの先生が来たらどうするんですか?」

関東が冷やかしていう。

「すぐ逃げるから、ちゃんと教えてね」

「何ですか、先生もう、お願いしますよ」

二人は漫才コンビとしてもやっていけそうだ。

「ええ、放送席では、解説陣の漫才が始まっておりますが、本日はK中学体育館特設カメラを経由してここ女闘放送のFスタジオより皆様に試合をお届けいたします。試合のほうは、リングネームが決まったばかりのプリティー通代選手 対 デビル智美選手の対決です。なおこの試合はプリティー通代選手の奴隷転落救済マッチとしても行われます。先生こういうケースは歴史的によくあるんですか?」

「そうですな、古代は奴隷同士を戦わせることはよくありましたけどね、」

「さてそれでは、試合前の両選手のインタビューをご覧ください」

大きなオレンジ色の壁に黒と白の2匹の猫が闘っている絵が描かれていて、何故かリングの管理人と称して体育館に入りこんだ古猫アナが立っている。そこへ智美がやってきた。黒と紫を基調したコスチュームだ。足までコスチュームに包まれている。リングシューズも大きくてごつごつしている。これで蹴られたら痛そうだ。

「さて、デビル智美選手、今日はプリティー通代選手との対戦ですが」

古猫がマイクを向けると仕方がないといったふうに、智美は答える。

「二度とリングにあがれないようにズタボロにしてやるって言いたいところですけど、それだと私たちのもくろみがパーになっちゃうんで、今日はまあ、適当に」

「そのもくろみというのは?」

「うるせえんだよ!」

古猫アナの胸ぐらを智美が掴む……。ここで画面切り変えだ。

「余裕の表情を見せるデビル智美選手でした。さてこちらは奴隷転落回避がかかっているプリティー通代選手です。」

無理矢理壁の前に立つように美香に促され、うつむいて通代は黙っている。

「ええ、どうですか?、今日の勝算は?」

「……・」

「黙ってないで何か答えなさいよ。もう子供じゃないんだから」

美香が通代の肩のあたりをゆっくりなであげ、そしてこづく。

通代は唇を噛んで今にも泣き出してしまいそうだ。既に美香に指定されたコスチュームに着替えさせられている。柔らかな布の腰巻きが頼りなく通代を包む。これでは露出狂っぽいミニスカートと間違われてしまうかも知れない。さて、彼女はやっとの思いで答えるのだった。

「が、頑張りたいです…」




12 ゴング


レフェリーの飯島による反則道具などのチェックが行われている。彼女は何だかそれらしくしま模様のシャツを着ている。下は黒のスラックス。

「反則は5カウントまで、リングアウトによる決着はなし。イカせて、なおかつフォールかギブアップを奪ったものが勝ち。試合開始から3分は普通のプロレスルール、その後は性的攻撃解禁。いいわね」

通代はうつむいたまま心の中でつぶやく。

「(何なのその変なルールは。人と争うなんて私の一番嫌いなことだわ…。)」

そのいたいけな少女の全身を智美は下からゆっくりと見つめ上げる。
その視線は股間で一回、胸の谷間で一回止まった。二人の選手がコーナーに戻る。
カン!。ついに試合開始のゴングが体育館に鳴り響いた。乾いた金属音が何ともいえない。美香、尚子、そしてリングにいる智美、レフェリーになると言い出した飯島、通代、彼女たちにとってこのゴングは何を意味するのであろうか。

「さて、試合開始のゴングが、この青春の息吹かぐわしいK中学体育館鳴り響きました。」

通代はどうしたらいいのかわからない。呆然として、普段とは違う高さから体育館を見て首を左右に少し振る。まともなファイティングポーズもとれず、二,三歩前に歩を進めたかと思うと、肘を腰の上部に固定したままの感じで、なよなよと手を前に出す。歩くたびにビキニに収まりきらない、軟らかな尻肉や胸が、ぷるんと揺れる。恐くて智美を正面から見れなかったのだが、今はじめてその凶暴な目つきを目の当たりにしてしまい震え慄くのだった。
智美はコーナーの上段ロープに両方の手をだらんと乗せ、通代の白いビキニの股間をもう一度にらめつけた。視線を3回転ほどさせて、なめまわし、ニヤリと笑みをもらす。

「い、た、だ、き、…。」

その際、智美の右手の人差し指と中指は、揃えられて何か不気味に下から上に突き上げるように動いていた…。
一気に、黒くやや重たそうな皮製のシューズでリングを踏みしめ、その中央に乗り出していく。




13 ヘアーホイップ


智美は瞬時に通代の目の前に現れ、次の瞬間、彼女の耳の上あたりの髪の毛を両手で鷲づかみにする。通代の手は、何とか防御しようとするのであるが、スピードもパワーもとても追いつかない。

「さあ、デビル智美、プリティー通代の髪の毛をつかんで・・、ヘアーホイップ!」

通代はリングの端の方で髪の毛、腰を手で押さえてうづくまる。

「あっつ、い、嫌!」

智美は間髪入れず、また通代の髪の毛を同じようにつかむ。

「ヘアーホイップ2回目です。関東さん、デビル智美はラフファイターのようですね」

「そうですね。体格もいいし、重圧感がありますよね。スカウトしちゃおうかな」

「さあ、そして今度はプリティー通代をうつむきにさせたまま、デビル智美が馬乗りになって、ああっとまた髪の毛を引っ張ります」

通代はたまらす鳴咽をあげる。

「い、痛〜〜〜い。せ、先生、ヘアー、ヘアー」

首をかろうじて横に向け、レフェリーの飯島に反則ではないかと問う。

「先生じゃあ、ないでしょ。レフェリーって呼びなさい!」

「れ、レフェリー、ヘアー、ヘアー」

すると本当にゆ〜っくり、カウントを数える。一昔前の女子プロレスで、悪役とレフェリーが“ぐる”の場合よく見た光景だ。

「ああ、ああ〜ん、い、痛い、レフェリー!、ヘアー」

「ワ〜〜〜ン、ツ〜〜〜、」

これでは智美が手を放すほうが早い。

「お〜っと、デビル智美、首投げからスリーパーホールド。ぐいぐいとプリティー通代の首を締め上げます。ああああっと、顔面かきむしりだ!」

通代はバタバタと白いシングシューズでリングを叩き、痛みの声を放つ。2,3回顔面をかきむしられた後、やっと解放される。そして通代ははあはあと、息をついて四つんばいになり、立ち上がろうとする。

「ええ、今スタッフのほうから連絡がありまして、プリティー通代選手の体重は95ポンドほどだそうです。おっとボディスラム!。プリティー通代腰を押さえて立てません!」

D関東がいきなり発言する。

「これくらいで、立てないようじゃあ困りますね」

勅使河原も続く。

「まだ1分半と少々ですからね。それにしてもプリティー通代はかわいいですね。」

関東がにらむと彼はゴホンと咳をした。リングでは通代がロープに振られて、大きな胸やお尻をたぷたぷさせている。




14 回転エビ固め


「さあ、デビル智美、プリティー通代をロープに振って、ボディシダースドロップか」

智美が通代を宙に浮かそうと、体を丸める。一瞬のスキをつき通代は回転エビ固めにでた。

「プリティー通代、回転エビ固め!…に入ろうとするが、入ろうとするが…」

しかし智美の体を回転エビ固めにとることはできない。ちょうど軽々とこらえた智美の顔の真下に通代の顔がくる。

「なめんじゃねえ!」

智美は通代の顔面に張り手をとばす。

「関東さん、プリティー通代の回転エビ固め惜しかったですね」

「そうですね、もう一押し欲しいですね。ベビーフェースタイプはこういう技を決めるのが一つの売り出しのポイントですから」

「勅使河原先生、このルールでは3分以内にフォールまたはギブアップを奪ってはいけないんですか?」

「さすが古猫さん、いいところに気が付きましたね。実はそうなんです」

「リング上ではプリティー通代の可憐な肢体をデビル智美が、もう一度、ボディスラム!かと思ったら膝を立てた!」

通代は智美の膝の上でブリッジをさせられているように、弓なりになる。白いリングシューズがリングから少し離れ、ぷらぷらしている。通代は何とか逃れようと両方の手をかなり動かしているのだが。さらに智美が皮手袋のようなものをした手で通代の輪郭の上品なあごをゆさゆさと握る。

「おらおら、ちょっとくらい反撃してみろよ。大野のことでも思い出してさ」

智美の嘲りに通代は苦悶を続けるばかりだ。

「い、嫌、うう…」

その言葉もはっきり聞こえない。膝からぐったりとした通代をどろんと落とすと、うつむせになった彼女の尻肉を抓り上げる。これは女子プロではほとんどない。

「あっとデビル智美、プリティー通代のお尻を抓ったまま…、強引に立たせます。そしてロープに振った!」

もはや放心状態でロープから帰ってきた通代を待っていたのは…・・。




15 デビルラリアット


智美はクラスメイトたちに向かい、余裕の表情で左手を高々と上げる。

「でたあああ〜あ!、デビルラリアット!プリティー通代万事休す!放送席(実はスタジオ)までにぶい音が聞こえてくる〜!。関東さん!どうですか」

「いやあ凄い、こりゃあうちの新人選手でもかないませんよ。たぶん。」

“3分経過、3分経過”というタイムキーパーの声が体育館にわずかに響く。

「プリティー通代、リングの端の方に大の字だ!」

半失神状態の通代ののどと胸板の間あたりを智美の大きな足が押さえつける。

「ワン、ツー、」

飯島がカウントを数えるが、カウント2.56くらい?で智美が通代の髪をつかんで引っ張り上げ、そのまま意識のもうろうとしている彼女の顔めがけてつぶやくのだった。

「フォールなんていつでもとれるのよ。さ〜てこれからが本番よ。プリティーちゃん。」

次の瞬間、通代を体育座りのような格好にさせて智美は、背後に片方の膝をついた。

「おーっと、デビルが、プリティーの飽満な胸を水着の上から揉み出しました!」

水着といっても、たわわな胸を何とか覆いかぶしているといった感じなので、智美には生胸を揉み出す感触だ。

「な、何で、こんなこと・・」

通代は両腕を使ったり上半身を揺らしたりして、智美の攻撃をかわそうとするのだが、からみついた蛇はいっこうに離してはくれない。今度は背中や腹部、うなじをねちっこく撫で回す。通代は嫌悪感でいっぱいなのだが、感じてくるのもまた隠しようのない事実として受け止めざるを得なかった。乳首を抓られると、きゃっつと小さな鳴咽をあげ、両腕で防御しようとする。

「さあ、こっちのほうも欲しくなってきたでしょ」

智美はノーガードとなった白いビキニに包まれた愛らしい股間の大切な部分に、背後から手をあてがうと、人差し指でかなりきつく、じりじりと押さえだす。そのためやや膨らみを帯びた彼女の“女”がくぼんだり、少し盛り上がったりするのだ。

「ああっつ、止めて…」

「おーっと、カメラはプリティー通代の股間をアップでとらえています。デビル智美の指が容赦なく白いビキニの上を駆け回る!」

カメラの中から急に白いビキニが消えた。カメラが揺れる。選手を探しているのだ。

「あーっつ!、デビル智美、駄目押しのデビルラリアット!、今度はフォールか!ワン、ツー、スリー!入った!関東さん、決まりましたね」

「体重のかけ方がすばらしいですね」

「先生、いかがですか?」

「これからですよ…・」




16 プレゼントセット?


リング中央で大の字になって、首をわずかに左右に振っている通代の上半身を智美がおこす。
背後にまわり、首の後ろでつつましやかに結ばれているブラの紐を外しにかかる。蝶々結びなので簡単なものだ。
反射的に両胸を手を平手にして、防御しようとする通代であったが、次の瞬間、するっとむしりとられてしまう。智美は奪い取ったブラをすかさず、リング外の美香にふわっと投げる。
美香はそれを両手でつまみ上げる。

「本当に大きなおっぱいね・・視聴者にプレゼントなんて企画を立てたら何人応募が来るかしら」

リング上では再び通代の悲鳴が上がっていた。

「あっ〜と、デビル智美、またまたプリティーの乳首を抓りあげています」

「今度は抓めを立ててますよ」

そういうところにはよく気がつく勅使河原顧問。
同性だとはいえ、クラスメイトの前に胸を露にされた恥ずかしさで通代は顔面を赤々とさせる。

「さ〜て、下の方もだいぶ感じてきたかしら」

智美は、通代の手が胸の防御に必死になっているスキをついて、一気に白いビキニの中に手をこじ入れ、秘所にあいさつする。弱々しくイヤイヤする通代をよそに彼女の中に探検隊が侵入していく。
探検隊は最初、構造を調査する感じだったが、やがて円を描くように回り出した。すると徐々に探検隊が動きやすいようにねっちとした水分が糸をひきだすのだ。

「も、もう、せ、先生、早退させてください」

通代は半泣きで訴える。

「試合放棄は認めないわ」

と聞き流す飯島レフェリー。
飯島とやりとりしている間に智美の手がビキニにかかる。仰向けの通代の前面から太股あたりに腰を下ろしたかと思うとビキニの左側の紐をつかんでずり降ろそうとする。通代もそれだけは、という感じでずり降ろされそうな紐をつかもうとするのだが。
数秒の攻防の後、白いリングシューズからビキニが引き伸ばされながら抜き出された。先ほどと同様、智美が美香にほおり投げる。

「はい、これでセットができたわ」




17 驚喜の凶器?


交換とばかりに美香が何かをリング上に投げ入れた。ちょっと休憩とばかりに智美はインターバルをおく。通代は羞恥心と放心で頭が整理できない。

「プリティーが、(ピー)と胸を押さえながら、よろめきつつ立ち上がります。もはや彼女に残されたのは純白のリングシューズのみだ!」

「古猫さん、禁使用語には気を付けてくださいよ」

関東が諭す。

「いっやあ、このシチュエーションはぐっとくるものがありますね!ソックスだけの女子高生もたまりませんが、シューズだけのレスラーっていうのはもう…・」

「先生、私のもどうですか」

関東が冷やかす。黙り込む顧問。
再び智美が襲い掛かり、DDTにとった後、4の字固めだ。足の動きを封じる作戦か。胸や股間を気にしつつ通代はなんとかロープにたどり着こうと半回転して一瞬4の字返しに持ち込む。しかしまた返されてしまう。ニヤリとして智美は通代をはなす。
今度は仰向けの通代の片足を持ち上げ、智美は先刻美香から受け取ったものをコスチュームから取り出した。男性の象徴の形をしたグロテスクなショッキングピンクのバイブだ。

「な、何、そんな、恐い!」

もだえる通代の中にそれをぐっとこじ入れる。
飯島は一応レフェリーなので、

「デビル、だめよ、反則よ!、」

などと言って、例のごとくカウントを数える。しかし今度はリズミカルだ。

「ワン、ツー、スリー、フォー、」

智美は、4カウントごとにバイブから通代を解放してやるのだった。しかもどのカウントの際の動きも特徴があり、例えば3カウントのときは、奥まで突き破るようにそれを侵入させるのだった。

「あっつ、ああつ、あああ〜〜っつ、ああん」

通代の喘ぎ声もそのパターンに引きずり込まれる。

「ひ、ひどい、先生、・・」

5回もそれを繰り返され、通代自身はもはや愛液の洪水を抑える堤防が決壊しそうになっていた。
そして彼女はやっと解放され仰向けから、ごろんとうつむせになり、横たわって股間をかばっている。




18 ロープウェイ


ふふ、そろそろ見せ場といくか、そう心でつぶやくと智美は通代をかかえてロープ際にやってきた。

「関東さん、何でしょう?」

「まさか」

ちょっと嬉しそうな顧問。

「お〜っとデビル智美、プリティー通代を上段ロープにまたがせた!、いったいどうするつもりでしょう!?」

通代は何をされるのか気づかない。

「プリティー、向こうのコーナーまで行きたいだろう?」

智美がニヤリと尋ねる。

「な、何、もうひどいことはしないで」

「まあ、とりあえず味わいな!」

智美は通代の腰をかかえたまま、通代自身をロープにあてがいながら、一気にコーナーめがけて走りだした。アソコをロープに食い込ませながら、強い摩擦を感じたうえで、智美は力づくで通代の肢体を運搬するのだ。

「ッギヤ〜、ああ、放して〜!あっつ、だめえ〜」

ロープのゴム面に愛液がついていく。智美は容赦せず、また抱え上げて、四つ角を曲がる。

「プリティー通代!、首を大きく振って何か訴えている!」

「も、もうト奴隷になりますから、堪忍して!せ、先生、ギブアップ!」

「ギブアップはもうできないのよ、イクまであなたは負けないの」

3つ目のコーナーポストを曲がった時には、ほとんどの愛液は前の3つのロープのゴム面にべっとりとつき、彼女の大切な部分を、太いヘビのようなロープとの摩擦から守ってくれるものはなかった。
アソコが本当に“すりむけ”てしまう…。通代はとっさに感知した。智美ならやりかねない。

「ど、土井さん、お、お願い、もう堪忍してください。ま、負けを認めますから…」

「ふ〜ん、認めるの?」

「は、はい」

ロープにまたがったまま、息絶え絶えに言う。

「でもね、ルールだから。イッテくれないと試合は終われないわ」

「…・・」

「仕方がない。許してあげるわ」




19 直立自慰行為


ドタンと智美が通代をリングへ降ろす。通代は四つんばいになって、美香のもとへ水着を取りに行こうとする。

「そこのメス犬さん!、勘違いするんじゃないわよ」

智美が冷ややかに言う。通代は細い肩をビクっとさせて振り向く。

「ルールは守らないといけないでしょう」

「る、ルールって…」

「イッテくれないとあなたをここから帰すわけにはいかないわ。ねえ先生」

「そうね」

「ど、どうすれば…」

股間と胸を隠すスタイルで通代は直立する。
美香が場外から口をだす。

「オナニーして、奴隷宣言させてくださいってみんなにお願いなさい」

「そ、そんな…、もう帰して」

そこへ智美が押しの一手。

「そんなら、もう一回、“ロープウエイでいくリング四つ角巡礼の旅”にでも出ようか、いっしょに!」

と通代の体を抱えようとする。

「い、嫌、、わ、わかりました」

「何がわかったのかしら」

美香が白々しく聴く。

「オ、…します」

「聞こえないわ」

「…・」

「もうグズねえ」

通代は股間に手をあてがい、なよなよと彼女自身を撫でるのだった。

「指を中まで突っ込みなさい!」

「手があまってるんだから胸も揉めよ!」

クラスメイトたちの叱咤に涙が溢れてくる。

「ほら、3本指に挑戦してみろよ!」

やっとの思いで通代は果てることができ、飯島のチェックを受けた。飯島は通代の股間をまさぐり愛液でいっぱいなのを確認してゴングの合図を出す。

○デビル智美(16分14秒、体固め&自発的自慰)プリティー通代●




20 隷従宣言


カンカン!

「いやあっつ、関東さん。あっけない幕切れですね」

「ううん、プリティー通代もうちょっと頑張って欲しかったですね」

「さあ、リングではマイクを持った村下尚子がプリティー通代に宣言書を持たせます」

「これを読み上げるのよ」

尚子に紙を渡され左手で持ち、右手で股間を隠している。

「両手で持つの。お行儀の悪いことはしないの!」

哀しく観念して文面を読み上げようとするのだが、一瞬流し読みしただけで唖然とする。しかし尚子に促されおずおずと読み出すのだった。

「わ、わたくし、プリティー通代こと渡辺通代は、本来なら大森美香さん、もしくは飯島弥生先生と親密に交際すべき大野先生を、学生の本分を忘れ、淫乱な下心に基づいて誘惑し、視聴覚室で何度もキスをしました。このことは大森さんや飯島先生を侮辱した行為です。また反省することもなく体育のクラスの皆様にも、この事実を隠蔽しようとしました。これらのことは、とうてい償いようのないことであり、誠意として自発的にこの体育のクラスの皆様の奴隷とならせていただきます。お許しいただけるとは思っていませんが、以下のように精一杯努力いたします。
一、 皆様から指定された興行には必ず参加いたします。
二、 コスチュームはお任せいたします。
三、 学内での制服・下着も指示に従います。
四、 態度に問題がある場合には、他の生徒などに大野先生とのことを伝達されても異議はありません。
五、 皆様とのお約束を守らなかった場合、地域の高校などに逢い引きのビデオを送付されてもかまいません。
六、 必要に応じて皆様には敬語で接します。
七、 …・
八、 ・・。」

気が遠くなるような宣言書を読んだ通代は唖然としてリングにうづくまるばかりだ。美香の兄、大森信次は繭を細めて、車の中で小型カメラからの映像を眺めている。そのとき授業をぼ〜っと受けていた鈴木浩二は何故か胸騒ぎを隠せなかった。体育館では試合後のインタビューといって智美が通代から剥ぎ取った白いビキニを摘み上げて、カメラの前でゆらゆらとさせながら、上機嫌で何やらわめきちらしていた。

 

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