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第4章 最弱女〜陰謀のリーグ戦〜





1 綱渡り〜下級生の教室〜


9月上旬に谷山くみと対戦させられて以来、通代は学内興業に駆り出されたりして、学校生活の色々な場面で散々な目にあっていた。まるで夏休みの平穏が嘘のようだ。6人タッグマッチでいかにも体力のなさそうなクラスメイトと組まされ、智美、美香、尚子の3人にいたぶられたり、教室ではパンティの中で、生理用品の代わりだといわれ、アソコにポケベルをあてがわれ、通代が教科書を読み上げる時に鳴らされたりした。美香はある深夜番組で、それをブルブル鳴らすとすごく感じることを知っていたのである。もちろん家庭科という女子のみの授業ではあるが。また谷山くみのクラスが、家庭科で自習だというので、呼び出されたこともあった…・。
上履きと靴下以外に通代がまとうことを許されたものはない。ていねいに指先をそろえた右手で股間を、いくぶんかゆったりとさせた左手で胸を覆い隠している。前後左右から取り巻く下級生たちの羨望と嫉妬のまなざしが彼女を突き刺していた。
こんなことなら1学期に何か手を打っておくべきだった…・・。瞳を閉じて見通しの甘さを今更ながら後悔する彼女だが、今は被害を少しでも小さくしようと、ややうつむいて、がくがくと体を震わせ、瞳をうっすらと濡らし、くみに哀願する。息が十分でなくかすれがちではあるが、必死の思いで声を発する。

「た、谷山様、お、…、お、お許しください」

下級生に“様”という語を添えて呼びかけねばならない彼女だが、その語調からは、まだ悔しさが残っているのか、隠しようのない上級生としてのプライドを感じさせる。中学生といえばまだ学年意識がある年頃だ。それに慎ましやかな通代はそれなりに上級生に敬意を払ってきたつもりであった。古風にも“目上の人は敬うもの”という感覚が彼女には染み付いている。そんな通代の心を見通しておきながら、くみは彼女から奪った白いブラジャーをゆらゆらと回し、それで通代の白い太股の内側をすーっと下から上へ撫でつつ嫌みったらしく言う。

「ふーん、とりあえずそういう口のきき方はできるようになったのね」

彼女は、経緯は別として通代を手中に入れた快感を享受していた。本心はどうあれ、あの見向きもしなかった通代が、今は自分に哀願しているという事実がうれしくて仕方ないらしい。
くみは豊満な尻肉を撫で回されて、きゅっと目をつむって耐えている通代の表情を、ニヤニヤと睨めつける。やがてそのおぞましい指が菊門から通代自身に及びそうになると、さすがに哀願の言葉がでてくる。

「お、お願いもういじめないで。私が弱いことは認めるわ。あなたに冷たくしたことも謝る。だ、だから・・」

バシ〜ン!。

容赦ない平手打ちが通代の頬に大きな乾いた音をたてる。

「言葉遣いがなってないのよ!」

通代はぐらつきながら、右手で股間を覆い直し、左手で頬をかばう。一瞬見えた、無防備な乳房がつんと上品に斜め上を向いているような気がする。よく見ると乳首まで慄いているようだ。黒く下品なそれでなく、本当に小さな乳首を備えた乳房を再び左手でかばいつつ言う。

「す、すいません、でした…」

またぶたれるのは嫌だと、“でした”を仕方なく語尾につける。肩から少し下まで伸びた髪の毛が振り乱れると、何ともいえない色気を放っている。先日のくみとの対戦の直後、レズレイプとでもいうべき目に合わされた時のことが脳裏をよぎり、余計に通代は身を硬直させるのであった。ああいうのを“骨の髄までしゃぶりまわす”というのであろうか。

「すいませんはもういいから、早く綱渡りしてみせろよ。お前のためにわざわざ体育倉庫から体育祭用の縄跳びのロープもって来たんだから」

下級生達が携えているのは、体育祭でクラスの女子全員がするような太い縄跳びのロープであった。一方の端でそのロープを持っている生徒が、まだかとばかりに罵声をあびせる。

「さっさとしろよ!、プリティー!」

いつのまにか下級生の間でも通代はプリティーと呼ばれるようになっていた。くみに目配せをされた別の生徒が通代の細い腕を後ろ手に縛る。

「い、いや」

繊毛と乳首が露になり、恥ずかしさからか、腰をかがめて太股を摺り寄せ、股間をよじる。下級生達の好奇の視線がジロジロと局部を突き刺す。

「さあ、準備完了だ。早くまたげよ、おらおら」

「智美先輩のロープウエイ対策を仕込んであげるのよ、ありがたく思って欲しいわ」

くみがナイフで通代のおなかの肌をなでる。哀しく諦念した通代はよろめきながらも愛らしく、犬が放尿するように足を上げ、ロープをまたぐしかない。

「出発進行!」

「いえーい」

ある生徒が通代の白いお尻を平手でバシリとテニスのフォアハンドのように叩き上げる。すると面白がって4、5人の下級生達が次々に同様の仕打ちをする。そのどれもが自分の手の後を残す場所を心得たかのように通代の尻を叩きまくる。

「あっつ、嫌、ううっつ」

目を細め、唇を噛み締め、体をぐらつかせても通代に同情するものなどこの部屋にはいない。お尻には秋らしい紅葉が何枚もじわりじわりと浮かんでくる。

「マッハ6くらいは出しなさいよ」

「ロープの先には大野がいるかもよ。早く会いたいでしょう」

ギャラリーから冷やかしの声がとび、くみのナイフに小突かれるようにして前方へ進む。ロープの荒い目が股間をすり込んで痛い。

「あっつ・・」

進行方向でロープを持っている生徒がここぞとばかりにロープをやや上の方へ引っ張り上げる。通代にとってはエスカレーターの手すりを跨いで進まねばならないような格好になる。ロープのゴツゴツした表面から逃れようと通代は何とか足を浮かせたりして、痛みの最小化を試みようとする。だがロープを持っている下級生は、そんな通代の動きにあわすかのように、股間の奥までめりこませようとするのだ。一方で後ろから、くみのナイフが執拗にお尻や背中をなでてくる。ときに白い裸体を切り裂いてしまいそうなくらい肌と垂直になったり、ときにナイフの背を肌にこすりつけているだけであったり、通代にとっては息つく暇もない。





2 転倒


「い、いやああ」

ついに通代は悲鳴を上げながらよろめいて後ろ手のままで床に転げてしまった。くみのナイフから少しでも逃れようとしてバランスを崩したのだ。

「だめねえ、最初からやり直し!ちゃんと終点まで行かないとパンティ一枚だって返してあ〜げない」

「まあ、先輩ったらかわいそう。こんなスケスケスキャンティーさえ返してもらえないなんて」

ある下級生が通代の履かされていた小さな水色のほぼ透明の下着の、後面のやけに大きなリボンの部分をつまんで、それを別の生徒にひょいと投げ、言い放つ。
すると受け取った生徒は、ひとさし指にひっかけて、それをくるくる回した後、防火用の何日も水をかえていないような赤いバケツに、白々しく落としてしまう。

「あ、ごめんなさ〜い。先輩の大事なパンティー落としちゃったわ」

まだ油拭きの臭みが残る床に横たわりって、彼女達の容赦ない言葉に悲哀感を全身で受け止めるしかない通代だ。

「ずっ〜と先輩と遊んであげたいけど、そろそろ自習の時間も終わりだから、縄をほどいてあ、げ、る」

そうくみが言うと、目配せを受けた下級生が通代を後ろ手に縛っていた縄をほどく。唇を噛み締めて通代は立ち上がり、腐りかけた水が異臭を放ちだしているバケツに顔を向け、落とされた下着を取ろうとする。するとくみが素早く、先にそれをバケツから摘み上げ、水分を含んだ下着からは水がぽとぽと床に滴り落ちる。

「あ〜ら、先輩。大森先輩ご指定の下着なんていらないんじゃなくて?」

「そうそう。こないだなんかさ、こんな下着いらないわ!って啖呵きちゃってさあ」

先刻縄をほどいた下級生が付け足す。
4日前、同じようにくみのクラスの下級生に、美香から指定された下着を油拭きの香りが生々しい床に落とされ、踏みにじられたため、通代はさすがに憤激しそんなものいらないとノーパンのままで自分の教室へ帰っていったのである。すると、くみたちから連絡を受けた尚子がここぞとばかりにあげ足を取りにかかった。定期検査だといってトイレに連れ込みスカートを捲り上げ、ノーパンを確認して言う。

「どうして指定した下着を履いてないのよ」

「た、谷山さんたちに、踏みつけられたものですから…」

「ていうことは、踏みつけられたものは、私たちが指定しても履けないっていうわけ?」

続けて智美が言う。通代は内心怒りで激昂しそうになったが、そうした行為がすべて裏目にでるのはこれまでの経験で身にしみている。うつむいて黙っているしかない。しかし通代の大切な部分を弄びながら言う美香の言葉で通代の態度は豹変する。

「今度こういう態度をとったら、蘭子のところへ遠征させるわよ。おまえのココ、たっぷり可愛がってくれるように頼んであげようか…」

“ココ”という音を発する際、美香は通代自身を力の限りつねりあげる。

「い、痛い!」

通代は身体の痛みを訴えつつも“蘭子”…というその名前を聞いただけで、全身を硬直させてすぐさま哀願を開始するのであった。

「お、お願いです、それだけは堪忍して下さい。パ、パンティーは今すぐ返してもらいに行きます、で、ですから…」

「何よあわてちゃって。そ〜う、じゃあ口より行動で示して欲しいわね!」

激しくなる語尾の語調とともに、ギュッと最後のひとひねりを加えた美香にそう言われ、仕方なく、休み時間にくみの教室へ下着を返してもらいに行った4日前だった。
そんな4日前を思いだしながら、何としても村山蘭子の活動圏内には入りたくない…、そう念じて、くみが床に落とした後、踏みにじって茶色くなった娼婦っぽい下着を、キュっと絞って履き直す通代だ。ヨレヨレになって大切な部分を満足にケアできない生地が悲哀感をかきたて、くみたちはそれをケラケラと嘲笑する。

「横から毛が見えるわよ」

「毛が見えないように、もっと引っ張り上げなきゃだめよ」

そういってある下級生がパンティーの両端のゴムを握り締め強引に引っ張り上げた。通代の形のよい秘唇のすじが布地の表面にあらわれたかと思うと、力の入れ様が度を過ぎたのかにぶい音をたてゴムが伸び切ってしまい、あまりの悔しさに涙が通代の頬を伝う。
恥らいのかけらもないようなグラビアのセミヌードや開き直りすぎの企画モノのランジェリーAVなどとはと違い、“どこまでも嫌なのに履かされている”という感覚、それに下品でがさつな下級生達にはどうやっても太刀打ちできぬ天性の清楚さが、どこまでも彼女達の加虐心をかきたてるのであった。





3 女帝


さて村山蘭子は受験で多忙な3年生を除くとK中学の女帝的存在である。もちろん、よくあるようにK中学には女帝が数人いる。だが蘭子はいかにも女帝らしかった。髪も化粧も、何もかもギンギンのワル仕立てだ。十年ほどたてば、蘭子とてなぜ昔このような格好をしていたのだろうと恥ずかしくなるのであろうが、人にはそれぞれ、何らかの“時代”があるものだ。
ところで美香や智美のグループとはとくに仲良くもなく、いがみ合ってもいなかった。蘭子らのグループは小川恵美という色黒でやせている生徒を標的にしていたが、蘭子自身、ただのストレス解消でしかなく、とくに楽しいということもないようだ。表面的だとはいうものの学校側のいじめ対策でアンケートだ聴き取りだと、やたら行動しにくくなってきているのも事実である。
そんな折り、蘭子は通代のことを耳にし始め、何とか自分達も楽しめないものかと思うようになっていた。だが蘭子の楽しみ方はいわゆる土手焼きとか蝋燭、浣腸、強制放尿といった類のもので、女子の性的ないじめという大分類でいくと前述の“綱渡り”と同種になるが、明らかに美香とは路線が違っていた。美香は通代が恥ずかしい思いをしたり、“負ける”、“劣る”ことに何故か言いようのない満足感を得るのだ。おそらく小学校時代以来、優等生で通っている通代が陥落することで精神的安定をはかっているのであろう。であるからして美香にとって通代が蘭子の手にかかることは、それを通代に想像させることで恐怖感を煽る以外に、あまり好ましいものではなかった。
蘭子には、通代や美香とは小学校が違い、大野にもそう興味がなかったので嫉妬もない。あるのはただ暇つぶしにしては面白そうというくらいのものであろう。
さてある日ついに美香のもとに蘭子がやってきた。それもたった一人で。教室にいた智美や尚子もハッとする。

「ずいぶん、楽しそうにやってるみたいじゃない、美香」

「ああ、まだ序の口だけどね」

「私たちにも楽しませてよ」

「………・」

一瞬、緊張した空気が場を支配する。ここで美香が突っぱねれば紛争勃発ということにもなりかねない。美香は考えた。蘭子と争うのは懸命ではない。だがここですんなり通代を蘭子たちに弄ばせてしまえば、いよいよ警察沙汰になりかねない。通代のキャットファイターとしての寿命は長くなくては困る。蘭子の所へは、通代の態度によっては、お灸を据える意味で一度くらいは行かせてみたいと思っていたが、その際もことが表沙汰にならぬように注意せねばならないと言い聞かせてきたのだ。何とかここは時間を稼いでおかねば。美香はとっさにあるアイディアを思い出した。妄想ノートに以前書きなぐったものを…・。

「いいけど。でもその前にちょっと協力して欲しいイベントがあるんだけどさ…」

美香は蘭子にその案を、昼休みの教室でヒソヒソと伝えた。聴き終わると蘭子はややあきれたように、しかしこれから愉しみといえば愉しみだ、という口調でつぶやいた。

「美香、あんたもサドね」

「お互い様でしょう、蘭子」

美香が切り返す。





4 最弱女決定リーグ戦


通代へのいたぶりは、美香の周到な計画により、連日というわけではなかった。しかし通代もそれが、学校側へ自分が申告することを警戒しての策略であることに、とうに気づいてはいたのである。一分一秒が通代にとって考えあぐねる時の流れであった。そしてどうしても申告を思い止まらせるのは、自らの進学と将来のことであった。進学、進路、人生、父親、忍耐…、そういう単語が何度も脳裏を過ぎる。通代はそななりに成績が良かった。
これまで全回出席・態度抜群・協調性抜群でも体育は5段階評価で、2だ。運動神経や体力のなさを感じさせるが、それ以外はほとんど5か4である。その体育も担当がずっと飯島弥生だったからという面もある。おそらく他の体育教師なら何とか3か4をつけていたのではないか。飯島は体力や運動神経そのものを重視する“実力主義”ならしい。何はともあれ、通代は近隣の大学まである女子のみの有名私立高校への進学を希望していたし、十分可能だと思っていたのである。それで時間が経ち事無きを得れば幸いなのだ。というのも美香らに撮影された映像は、ある意味では無意味な性行為のシーンより激烈で精神的結合を感じさせる長時間の抱擁であり、通代の志望するその女子校はかなりそういった諸問題に口うるさい学校なのだ。それに調子に乗って飯島他何人もの教師や生徒に批判めいたコメントをしていることもきっちり記録されてしまっている。
だがもう一方で美香や智美、くみをはじめとする下級生や同級生の信じ難い仕打ちが恐怖を増大させていたのも事実であった。美香や尚子は自分と同じく来年受験勉強だ。そうなればいじめどころではなくなるはずだ。くみとて美香たちが動かなくなれば、ひどいことはしてこないのではないか。そんな見通しが甘いと思いつつも、ありえないシナリオではないとも思う。

「いつまで我慢すれば…」

自宅のベッドに膝をかかえてもたれ、うなだれる通代。何度海外を飛び回る父親にすべてを打ち明けようとしたことか。

「お嬢様、お食事の支度ができましたよ…」

やさしい家政婦の声が下の階から聞こえる。通代は母のことを詳しくは知らない。生まれてから一度も会ったことがない。実直な父親の大きな愛情が通代をぐれもさせず、思いやりのある少女に育て上げたのであろう。だがそんな彼女にまた一つ大きな試練が待ち構えていた。
美香は英語の授業で、“エレンは学校で最も背の高い生徒のうちの一人です。”などという文章を聞くと、しっくりこない。

「最も高いのは一人だけよ。最も強いのも、そして…」

そのうち妄想ノートにあるイベントの構想をしたためていったのである。

「最近、学校側もいじめ対策でうるさいでしょう。それで女子のさ、ストレス解消のための対象を一本化しようっていうのよ」

ある日の昼休み、トイレに呼び出されそう美香から言われたとき、通代には何のことか理解できなかった。

「普段いじめちゃってる子たちを集めてリーグ戦をしてもらってね、得点の少ない2人に最弱女決定戦をやってもらうの」

尚子がこんな素晴らしい企画はないといったふうに説明する。通代は心の中で(何て汚れた気持ちの人たちなの!)とつぶやく。だが逆らえるわけでもない。

「というわけで、うちらのブロックからは当然プリティー通代選手に出場してもらうからね」

「そ、そんな…、お願いだからもうプロレスみたいなことはさせないで…」

「何言ってるのよ。これって私たちの温情なの。だってあんただったら最弱にはならないわ。あの小川がでるのよ。いくらなんでもあいつには勝てるでしょう。一本化っていうことはこのリーグ戦が終わればあんたは救われるのよ」

智美のその言葉に、通代はやせた色黒の、そして動作の緩慢な小川恵美を想起し、確かに勝てるかもしれないと思った。一瞬、美香や智美のいない高校で華やぐ自分を想像した。物事には自然消滅というのがつきものだ。美香の妬みもそろそろ終局を迎えているのだ。通代はそう自分に言い聞かせるのであった。





5 謎


女闘コンツエルン総帥室では、出来上がったばかりのくみと通代の一戦のビデオを信次、勅使河原氏、総帥とその秘書の4名が見ていた。

「いやあ、このスーパーサディスト谷山 VS プリティー通代 のビデオ、抜群だよ。このぶんだと地下マーケットでの売れ行きも凄いもんだぞ。もうこの次の作品の先行予約する政治家が後を絶たないよ。まったく彼らはキャットファイト党でも結成すれば保守とかリベラルとか、なくなってしまうんじゃないかな。ローマ皇帝コンプレックスの持ち主ばかりだからな」

「総帥、それでは本格的な女性党ができてしまいますぞ」

総帥と勅使河原氏が歓談している。総帥の上機嫌そうな口調とは裏腹に大森信次の心はすっきりしなかった。彼は確かに多様なビデオやショーが存在すべきと考えてはいたが、妹の性格の歪みとその犠牲になる美少女を、心情的には見るに耐えなかったのである。高額のギャラを払っても有名AV女優やアイドルにそれなりのファイトをしてもらうこと、価格破壊と購買する人間の絶対数の拡大を、彼は望んでいたのであるが、どうもそれは表の世界では故意に厳禁にされているようなのだ。表の世界と裏の世界での質が違うほど、“裏”の価格が高騰するという仕組みらしい。AV女優志願の女性がビデオ制作会社の事務所を訪問して最初に書かされるアンケート用紙に、レズはOKか?、SMは?、3Pは?という欄がある。信次は女子プロレスやキャットファイト等を付加すべきと考えているのだが。
(まったく、なんてこった…・高いビデオを、パッケージだけを頼りに悩み悩んで買ってる人がいるというのに)彼はそう思いつつ、キャットファイトビデオ店で語り合うこともなくすれ違う何人もの同胞が、パッケージを見てビデオを棚に置いたり取ったり、そんな動作を繰り返す様を想起した。あっつ、この人は今パッケージの写真からビデオの内容を想像し、彼の好みと照らし合わせ、買うべきか否か考えている…・。そしてビデオを手にレジへ向う彼に対して、“それは多分ハズレ!”と心中で叫んだものだった。そんな叫びが自作ガイドブックの作成へと信次を駆り立てたのであった。とにもかくにも信次は本当のリアルな学園モノには反対だったのだ。そう思ってよそ見している信次に総帥が次の指示を下した。

「大森君、実はね渡辺通代の母親のことを調べてもらいたいんだ」

「はあ、確か幼いときから彼女は父親と2人暮らしですが・・」

何も言わなかった秘書が口を開く。

「実は気がかりな情報がありまして。“キャットコーポレーション”という荒手の興業会社が彼女に目をつけているらしいのです」

「それと彼女の母親とどういう関係があるんです?」

「ま、よろしく頼む。調査費に糸目はつけぬから」

総帥がそういうと、信次以外の3名は、部屋から姿を消し、大きなスクリーンはくみのSSDをアップで映し出していた。





6 開幕


自習時間や放課後を利用して、最弱女決定リーグ戦が開幕されようとしている。出場する生徒は2年生4名、1年生1名になった。渡辺通代、小川恵美、武地圭子、海老原みちる、ただ1名の1年生は倉垣深雪だ。
小川恵美は前述の蘭子に、通代を除く後の3人はそれぞれ、小規模のグループから手痛い目にあわされていた。通代以外の生徒はとくに美少女というわけではない。また小川恵美はサクリファイス小川というリングネームをつけられていたが、通代以外の後の3名はそのままの名前でリングに登場するらしい。得点は、勝ちが5点、引き分けが2点、リングアウト勝ちが4点で、もちろん総当たりである。ついでにもうひとつ、“もちろん”ルールはお馴染みの、3分はプロレス、その後性的攻撃ありで、フォールまたはギブアップ、リングアウトで勝利し、なおかつイカせなければならない、というものである。1年生の倉垣深雪はかなり大柄で、小学校のころは、かなりいじめの加害者だったのだが、今では谷山くみのリベンジにあっているらしい。

「こんな行事が、教育の現場で行われていいのでしょうか?全国1億1千万のキャットファイト&女子プロレスファンの皆様こんばんは、女闘放送の古猫伊知郎でございます。解説はいつものように勅使河原夢次郎氏、JWPAのダイナマイト関東さんのお二人です。お二方どうぞよろしくお願いいたします。」

「こちらこそどうぞよろしく」

「いやあ、それにしても先生、今回の企画をどうご覧になりますか?」

「う〜ん、そうですね。つまり生徒のストレスを学校だけで解決しようとすることの限界を示しているともいえますね」

「と、いいますと」

「もともと人間というのは、自分より劣っているものを探知して精神的安定をはかる傾向を持っています。今回の行事は最弱を決めるということですが、もう生徒の倫理感に期待するどころか、最弱を決めねばならないほど生徒たちの精神的バランスは深刻なわけです。昔はかなり対等的な喧嘩、抗争のたぐいがあったかと思いますが、現在の学校では、一部、階層的ないじめが流布しているようです。今回、逆ピラミッドの頂点を決めようということで、決定してしまった生徒はたまったものではないですよ」

「しかし、先生、解決方法はあるんでしょうか?」

「もっとゆっくり時間の流れる社会にならないといけません。親も子供も忙しすぎます。やっと時間ができたと思ったらもう高齢者として人に迷惑をかけないようになどと気遣わなくてはいけない。これでは、夢も希望もありません。効率的な社会を探求してきたのですが、結果として効率的ではないわけです。やはりどこか表面的にはムダに見えるけれども、社会的に機能していたものを見直さないといけないわけです。それにですね……」

「さて、リングではまもなく選手入場です」

演説が始まりかけたので古猫が制するかのように、リングに注目する。

「それでは選手入場!」

何故か正装をしている感じの尚子がはしゃいで言う。

「会場では、あの男子プロレスを沸かせたNNWA世界王者のテーマが館内に流れています。」

「この曲を聴くとエリック・フレアーを思い出しますよ、あの足4の字!、リングパフォーマンス。敵地でもたじろがないあの風格!」

関東が往年のフレアーを懐かしむ。だが懐かしさにひたる関東とは裏腹に、会場には何ともいえない空気が漂う。





7 選手入場


「さて、一番先頭は、サクリファイス小川選手です。四つんばいで村山蘭子に鎖をつながれての登場です。一応全選手この形態での入場だそうです。スクール水着に身をつつんだサクリファイス小川、この最弱女決定戦を乗り切ることができるのでありましょうか?本当に肉付きが悪いと申しましょうか?見ているだけで心配です。続いてやや大柄の倉垣深雪です。首輪の向こうにはあのスーパーサディスト谷山がしっかしと手綱をさばくように歩きます。こちらも同じくスクール水着での登場。」

武地圭子、海老原みちるも同様にしてリングへ入場していく。

「人類が苦労して築き上げた平等を標榜する社会は本当に維持されていくのでありましょうか。鎖の擦れる音が館内に異様な情感を浮きたたせます。さて残り1選手ですが…、ええ皆様お待ちかねの」

「お〜っと!、プリティー通代、スクール水着ではなく、何と股間と胸に貝殻をつけているだけ!鎖を引っ張るのはデビル智美です」

首の鎖がユサユサと擦れ合う音をやけに嫌に感じて体育館の床を四つんばいになり、リングへ向う通代の脳裏に先刻の美香の言葉がよみがえる。膝が床と擦れる際、それなりに体重がかかっているので膝が痛い。が、より痛いのは辱めを受けねばならないのは、心のほうだ。 腕を組みながらニタニタと笑う生徒の中に美香がいた。こちらを何とも異様な目つきで睨んでいる。
控え室も兼ねる体育倉庫でそれぞれの選手が出陣の準備をさせられていた。そんな中、通代はいつものように哀願していたのだ。

「な、何で私だけこんな…・スクール水着を着させて」

通代はいつになく憤りを感じて言う。

「何を喜んで興奮してるの。文句があるならこっちにも考えがあるわ」

美香が余裕の表情で答える。

「そうそう、何ならプリティー通代はリーグ戦全てを試合放棄っていうことにしてあげましょうか?」

「それじゃあ、最弱女はリーグ戦をするまでもなくプリティー通代に決定っていうこと?」

「……」

智美や尚子が意地悪く通代に言う。

「どうするの?。あっつ、そ〜いえば蘭子が一度あんたと遊びたいって言ってたわよ。大根みたいなバイブで壊されちゃうかもね…」

美香の目つきが真剣になった。通代は何も言わず美香から、紐で適当につながれた貝殻を受け取るしかなかった。





8 セレモニー


「さあ、最後の入場者プリティー通代が今、たわわな白いお尻を揺らして、ロープをまたぎました。四つんばいのままリング中央へ引かれていきます。これで全選手勢揃い!」

リングでは5名の選手が横一列に四つんばいになって並んでいる。彼女たちはみな無言で隣の生徒どうしで口をきくといったことは一切ない。うつむいて黙っているだけだ。生徒によってはいつも教壇の上にあげられて、やれあれをしろ、これをしろといわれてきたので、高い場所というだけで辛く感じるのだろう。そんな彼女たちの心の痛みなどみじんも感じないのか、尚子がマイクを持って話し出した。

「みなさん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。」

放課後特別に集まった女子たちが拍手をする。その拍手が鳴り止みそうになると、また話し出した。

「ええ、今日いじめ問題は大変深刻であります。我がK中学でも女子の陰湿ないじめが職員会議で懸念されているそ〜で〜す。」

語尾を伸ばす尚子の口調が、いかにも問題を楽しんでいるようで憎らしい。四つんばいの小川恵美や武地圭子に向って通代はそっと声をかける。

「ねえ、みんなで協力しない?面白くないようにすれば、あの人達もきっと飽きるわ」

だが、日ごろから学校に告げ口したらどうなるかと、様々な脅迫と現実的な仕打ちを思い知らされている彼女らは通代の言うことに耳を貸そうとしない。四つんばいになってリングを見つめているだけだ。だがそんな中でも聴いているのがわかるのが、一瞬首を左右に振った小川恵美だった。

「みんな同じ点数になるようにすれば、あの人達もだんだん邪魔くさくなってくると思うの、ね、それで」

通代がそこまで言ったところで小声に気がついた尚子がくぎをさす。

「渡辺さん、ペナルティーが欲しいの?、いいのよ、いきなりマイナス50点にでもしてあげましょうか?」

通代ははっと口をつぐんでただまま、リングの金属板の匂いを息苦しく思うのであった。
いじめの対象を一人にすることによって、人数で測った犠牲を最小にし、良好な教育環境の維持に貢献するという、とんでもない理屈をイベントの趣旨としてしゃべりまくった尚子の演説が終わり、その日の試合が行われた。この日、通代は試合がなく、闘うしかなかった武地圭子と倉垣深雪のファイトを呆然と見ていた。
例によって学校の近くにとめてある車から、試合を映すモニターに見入った大森信次は、そっと心でつぶやいてひたいに手を当てる。

「これがビデオになったら思いっきりハズレだなあ。“けいこVSみゆき スクール水着バトル”10000円ってか!?」





9 前哨戦


セレモニーから2週間が過ぎた。放課後や自習時間を利用して精力的にリーグ戦は消化されていった。大方の予想どうり、通代と小川恵美はここまで2戦して連敗を喫していた。参加選手が5名であるから試合は一人4つである。二人にとって4位か5位にならないよう、互いに直接対決は重要な一戦である。毎年春に行われるスポーツテストの得点でも1000点満点で、倉垣深雪が812点、武地圭子が734点、海老原みちるが722点、小川恵美が365点、渡辺通代が401点と、通代と恵美は決定戦進出の候補者であった。
通代の何か疲れた表情をよく見る鈴木浩二は、ある日たまらず廊下で声をかけてみた。一応小学校で同じクラスだったという関係がかろうじて二人には形成されている。

「あ、あの渡辺さん、最近元気なさそうだけど、何かあったの」

「ううん、べつに」

何ともそっけない答えだが、言葉を放つというただそれだけで生み出す何かが浩二をたまらなく興奮させた。通代はうすうすとは、浩二の自分に対する好意に気づいていたし、どこからとなくいつも見ているのも何となくは察知していた。だが直接何をされるでもなく、また小学校で同じクラスでありそれなりに知っているので極度に気味が悪いこともなかった。
浩二は女子全体とういうものには関心がないふりをしていたが、実はとても敏感に彼女たちの行動を五感で追っていた。そして美香や智美、蘭子そして、その他の女子のそぶりがやけに“作られている”気がしたのだ。女子の権力者たちが織り成すネットワークも浩二には察知されたしまったというわけだ。美香もついに尚子と次のような会話をする。

「ねえ、あの鈴木がさあ、」

「鈴木って?」

「あのプリティーマニアよ」

「ああ、あの」

浩二は彼女らの間で、大の通代ファンだということで“プリティーマニア”と呼ばれていた。

「何か気づいてるかもしんない。私たちのイベントのこと」

「そろそろ口封じを考えておいたほうがいいかもね…・」

さてさて、いよいよリーグ戦中盤の山場、プリティー通代対サクリファイス小川が実施される日がやってきた。





10 温情コスチューム?


通代はその日の試合でどんなコスチュームを着せられるのか不安だった。相手はスクール水着でかなり脱がせにくいのに、自分だけ蝶々結びのヒモをちょっと引っ張れば、あれよというまに引き剥がされてしまう薄いビキニを前の2試合で着用させられたのだ。これまで赤色、青色ときたので次ぎは黄色だろうか。体育倉庫で美香が自然にいう。

「はい、今日のコスチュームよ」

袋を開けてみると、そこにはある有名スポーツメーカーの水着が入っていた。赤と白のストライプだ。

「今日はあなたに勝って欲しいのよ。こういうイベントでもしないと引っ込みがつかないでしょ。私さ、受験勉強始めてるの」

意外な美香の言葉に通代は戸惑いを隠せない。どうせまた陰謀がしくまれているのではと、懐疑的になる。だがその水着にはどこになんの仕掛けがるわけでなく、股間のカットも緩かった。

「アジア10億人のキャットファイト&女子プロレス&女子キックボクシングファン、ええとそれから…・とにかく皆さんこんばんは!女闘放送の古猫です。最弱女決定リーグ戦も中盤戦の山場を迎えております。得点のほうは倉垣深雪がトップでリングアウト勝ちを含む2戦全勝9点、続いて武地圭子と海老原みちるが5点で並んでおります。そして本日対戦の両者プリティー通代とサクリファイス小川はまだ勝ち星がありません。勅使河原先生、これまでの経過をどうご覧になりますか?」

「そうですね、ほぼスポーツテスト通りの順番ということですが、今日対戦の両者と他の3人では体力に差がかなりありますね。そういう意味では最弱女決定戦の前哨戦ともいえる試合でしょう、今日の試合は」

「関東さんはどうご覧になりますか?」

「ううん、勅使河原先生のおっしゃる通り今日は前哨戦ですね。武地圭子と小川の一戦では武地の執拗な股間攻撃に小川は歯が立ちませんでしたし、プリティー通代は下級生の倉垣深雪にですね、最後は赤ビキニを口に噛まされて…」

「関東さんはこの二人どちらに軍配が上がると思いますか?」

「難しい質問ですね。ただ一方的なドミネートはないでしょう。その意味で白熱した展開を期待します」





11 握手


通代はまだ、5人で協力してリーグ戦を美香たちにとって面白くないものにするという考えを捨て切れないでいたので、恵美と目を合わそうとする。しかし恵美のほうは常時意気消沈といった感じで下ばかり見ている。紺のスクール水着と体の間に“空気”があるのが感じられるほど細身の小川恵美が、レフェリーの飯島弥生による凶器チェックで黒色のリングシューズの片方を上げた際、ちらっと通代と視線があう。通代は思慮深く恵美の瞳に語りかける。そこで互いの視線は語り合うのであった。

通代;もうこんな無益な闘いはやめましょう。わざと引き分けに…。

恵美;そんなことしたら真剣さが足りないって、またひどい仕打ちを受ける…。

「さ、お互い握手するのよ。二人とも私の女子中学生体力増強プログラムの成果をことごとく低下させてくれているわよね。こういうせっぱつまったときこそ、努力をアピールして欲しいわ」

例によって白と黒のストライプの衣服に身を包んだ飯島弥生がそうつぶやく。
何か世を捨てたような表情の恵美が先に差し出した右手を、通代は両手で包み込むようにする。右膝をやや折り曲げると前髪が端正な顔に降りかかり、握手が終わったあと、長い髪を耳にひっかけるようにする。コーナーに戻ると2,3回軽くジャンプだ。今回の水着はギリギリ尻肉も胸もうまく包んでくれている。なぜか通代は“血”が自分の意志とは関係なく騒ぎ出していのを感じた。リングに立っているのが一番、相応しいのだという、今まで感じたことのない感覚を血が訴えているようなのだ。そして運命を告げるかのようなゴングが会場にこだました。





12 条件


お互い、いつも最初から攻撃を受ける立場であったので、何とも変な感じだ。二人がリング中央にやってきたのはいいが、手四つに組むまでに時間がかかる。肘を脇に近づけてなよなよと両手を前へ出してはみるが、いつもの相手だと、この段階で髪を鷲づかみにされて引きずりまわされるので、何とも対応の仕方に苦慮しているようだ。腰も入っておらず、本当に闘うのだろうかといった疑念の空気が館内に漂う。
リングからかなり離れた椅子では、美香と蘭子が膝を組んで何やら話している。
「今日はとりあえず素の力でやらしてみるってことだけど・・、試合になるのかしら。ねえシナリオライターの美香先生?」
蘭子がややリング上の二人が気に入らないといったふうにつぶやく。
「そうですなあ、ちょっとカツを入れますか、調教師蘭子殿」
そういって美香は立ち上がり、リングのほうへ歩いていく。リング上ではやっと手を4つに組もうかといった感じだ。リングの下にいる尚子に美香が何やら耳打ちしている。何度かうなずいた後、尚子は飯島の近くまで行き、また耳打ちする。すると飯島が手四つに組み、これから力比べをしようとする二人を止めた。

「ちょっとタイムよ、尚子リングアナ兼大会事務局長(いつの間に?!)からこの試合に関するコメントがあるらしいわ」

すばしっこく尚子がマイクを持ってリングに上がり、話し出す。

「ええ、皆さん、二人にもっと真剣に戦ってもらうために提案があります。この試合に勝った方が、試合後1時間だけ負けたほうを奴隷にできることにしたいと思います。皆さんどうでしょう!」

「賛成!」

「2時間にしたらどう!」

女生徒たちは口々に賛成を唱えた。通代は、考えていた協力戦略とは逆の方向へ状況が展開していくのを感じ、落胆のため息をつく。

「ま、そういうことだから、頑張ってちょ!」

通代と恵美の肩をポンとたたくと、尚子は何とも軽快にリングを降りていく。ややリングから離れていた蘭子が他の観衆と同じような感じで恵美にゲキをとばす。

「恵美ちゃん!、もっと真剣にやらないと。わかってるわね」

その声を背中で聞いた恵美の心にはいかなる光景が想起されたのであろうか。





13 ファイト!


「さあ、試合再開よ」

飯島がそう言うやいなや、小川恵美は何かにとりつかれたかのように通代を押し倒しにかかった。4つの手が交じり合いやがて、通代は腰を落として、覆いかぶさろうとする恵美の下になる。非力ながらも恵美は通代の胸を水着の上から揉もうとする。

「ああっつ!」

通代は奇声を上げてその手をはねのけようとする。そのときだった。通代は恵美の手を軽くはねのけ、今までにない制御可能性を感じたのである。と同時に何かこのリングという場が自分にとって宿命的なものだという直観が全身から沸いてくるのを押さえ切れない。だが、通代には恵美を圧倒するだけの力はまだない。

「さあ、両者もつれあった後、再び手四つに組もうとします。お互いの息遣いが何ともいえない臨場感を醸し出している!お〜っと今、サクリファイス小川がプリティー通代を抱えて、ボディースラム!。そのままフォールだが、ワン、ツー、ツーカウントでプリティーが返します。関東さんいかがですか?」

「うーん、新人同志の試合を見ているようですね。最後はフォール合戦になったりして。」

「いわゆる猫の引っかきあいのようなかたちになるのもいいですなあ!」

勅使河原氏がつぶやく。絡み合いはどちらかといえば、恵美が優勢であった。日頃から蘭子のグループに美香らのすることとは別の意味で手ひどい仕打ちを受けていた恵美は、何かに取り付かれたかのように通代の胸のあたりに手を伸ばす。

「い、嫌っつ!…」

たとえ水着の上からとはいえ、胸を鷲づかみにされ、通代は反射的に恵美の手をどけようとする。
必死さが感じられるのは恵美のほうだった。通代はといえば、恵美の必死さに、自分のことも忘れて、ここまで追いつめられるほど日頃、悲惨な目にあっているのかと同情的にもなる。

「グラウンドの攻防から、お〜っと!サクリファイス小川がプリティーの股間をまさぐる!、プリティーはその手の動きを止めようと自らの手を援軍に送る!」

リングに取り付けられた特殊マイクから、信次は二人の息遣いを大きな音で聴き取ることができた。
なかでも通代のなんともいえない、“あっつ”とか“嫌っつ”という声や息にはたまらないものがあり、信次はどこかこの少女に引き込まれていく自分を押さえ切れないでいた。





14 ○〜マンスープレックスホールド


試合は10分が経過しそれなりに白熱していた。お互いスタミナがなくなりかけ、恵美がジャーマンスープレックスホールドの体制に入ったその時だった。どこからか誰かが助けているのではないかと思うほどのスピードで、通代はエルボーを恵美の横腹に見舞うと、間髪入れず相手の背後に回った。館内、いや地球上でこの瞬間だけが何か神聖な“気”に支配されているようだ。見ている美香や蘭子、いや館内のすべての生徒たちが一瞬はっとしてこれまでにない通代の振る舞いに立ち上がってリングを見つめる。美香と蘭子は通代の瞳の力が、普段のそれと全く違うことを見逃してはいなかった。

「プリティー通代、サクリファイス小川の背後に回って、腰をかがめ、何と!」

足腰の動きがまるで別人のような通代は、腰をかがめると、恵美の右尻とスクール水着の間から右手をもぐりこませ、あっという間に大切な部分を指でしっかりと握りしめた。そして左手で、恵美のお腹を抱え込むようにすると、恵美の体を後方に抱えあげた。綺麗に爪先がリングの表面とふれあっている。
気がつくと次の瞬間にはもう恵美の体はジャーマンスープレックスホールドのようにリングに叩きつけられていた。しかも通代の右手はしっかりと恵美の大切な部分を“ホールド”している。
館内は通代の一瞬の変貌に呆然とするばかりであった。ただ目を細め、何を考えているのか分からない蘭子、動揺する美香。
シーンと静まる館内で、驚愕から目覚めざるを得なかったのは、レフェリーの飯島であった。もはや20カウントでもとれそうなくらい、恵美の背中はリングにへばりついている。飯島は膝をついて、驚きから脱しきれないながらもその右手でリングの金属板を3つ叩いた。
飯島の手がリングを3つ叩く音をうつらうつら聞きながら、しばらくの間、通代はブリッジの体勢のままだった。やがて我に返り、彼女に課せられたルールを思い出し、通代はまだ大技のショックから立ちあがれないでいる恵美の局部に手を伸ばした。
やっと我にかえった放送席の面々が口を開き出す。古猫はこの技を何と呼べばいいのか分からず、
『男子女子総合プロレス技名鑑』なる分厚い書物をめくるのだが、いっこうに出てこない。昔12種類のスープレックスで鳴らした後田明の項においても、この技はない。

「ええ、皆さん、今のプリティー通代選手の技は、ええ、私にも、関東さんご存知ですか?」

「いやあ、はじめて見ましたよ、こんな技」

関東も本当に知らないようだ。

「ええ、その…。」

技の記憶や解説には自信があった古猫も気が動転しているようだ。そこへ驚愕からやや時間がたって落ち着いた様子の勅使河原氏がすっと言葉を発し出した。

「○―マンスープレックスホールドという技です。実はこの技には神話があるのですが、ここではそれをお話することができません。ただ誰にでもできる技ではないことは確かです。」





15 初勝利


「おーっと、リング上ではプリティー通代がグロッキーなサクリファイス小川のスクール水着に手をこじ入れて、必死に股間をまさぐっております。」

そして2分ほどたったとき、通代はついに恵美を果てさせたのである。それを確認した飯島がゴングを要求した。
美香はしばらくあまりの意外な技に唇をかんでいた。通代にそんな力が備わっているとは信じたくなかったのである。そのややひきつった横顔を蘭子がじっと見つめている。歯ぎしりがやっとやんだかと思うと、美香は席を立ってリングの近くへ歩き始めた。通代はといえば飯島から手を掴んであげられても本当に自分が勝ったのか信じられない。

「関東さん、プリティー通代初勝利ですよ。」

「う〜ん、どこにこんな力があったんでしょう」

関東も腕を組んで不思議がるばかりだ。
こうなったら仕方が無い…、通代が勝った場合の予定を実行するのみだ…。美香は自分の心にそう言い聞かせた。リングの下まで行くと通代に語り掛ける。

「さあ、あんた勝ったんだから、恵美を好きにしていいのよ」

「で、でも…。」

戸惑いを隠しきれない通代だ。どこにおいてあったのか革の鞭を手にとって美香が通代にほうり投げる。

「私の命令権はまだ続いてるのよ。さあそれで恵美をぶちなさい。さあ二人とも早くリングから降りて!」

しばらくすると通代は美香のいうままに恵美のスクール水着を脱がせた。そして四つんばいの恵美の背中を通代は鞭で叩き始めた。その姿を特殊カメラは、二人だけしか映らないように精巧に捉えていた。





16 スパンキング


「もし、あの娘が勝ったら、いざというときのためのネタを得る機会にするのよ。いかにもありふれた感覚にして。いいわね。」

数日前、飯島からそう言われていたのを美香は思い出し、とっさに恵美と通代に言い放つ。

「あなたたち、体操服に着替えてきて」

「で、でも…。」

人をぶつなど、とてもできないといった顔をしてつぶやく通代に美香は激昂したように言いきる。

「は、早くなさい!」

がその表情には通代の思わぬ技を見てしまった何かに対する畏怖による震えが、隠しようもなく現れていた。恵美といえば、もう落ちるところまで落ちてしまったという落胆に暮れどこまでも無表情だ。とりみだしぎみの美香と恵美の表情を蘭子はただ無言で落ち着いて眺めている。
どこからともなく誰かが持ってきた体操服には、何と用意周到なことか、彼女らの名前がしっかりと布にマジックで書かれ、シャツに張り付けられている。布のサイズも学校が指定した通りのものだ。そして二人はおずおずとシャツとブルマーを着る。いかにもありふれた通常のサイズだが、安堵の気持ちよりも拘束感のほうが勝り、通代は複雑な心境を受け止めることができないでいた。

「さあ、渡辺さん、ちゃんとしかり鞭打つのよ。力を抜いたら承知しないから。そうそう、もう少し遠くで…。」

一群の女子の集団からやや離れた体育館の端に恵美と通代は移動する。通代はやや腰をかがめて、恵美ささやく。

「できるだけ力を抜くから」

「何をぶつぶつ言ってるの!」と美香の徹底した監視ぶりが際立つ。
恵美は通代と一瞬眼をあわせたが、その瞳はもはや人に対する信頼を失っていた。通代の眼の光が放つ慈しみには気づいていたがそむけるしかなかった。それから数分、通代の恵美に対するスパンキングが続いた。
もちろん通代のことだから鞭を振り降ろすというよりは恵美の背中を撫でてまた緩く振り上げるといった様子だ。
モニターで見ている信次は目を細めて、「何とまあ上品なスパンキングなこった…」
とつぶやく。
 さて体育館では案の定、美香の目配せが飛ぶ。何故か声でなく、画用紙に描かれた指示には、「お尻」とか、「腰」とか、「もっと強く」と記されていた。恵美の体に鞭の音がひびく際、通代は目をキュッと細めて、人をぶつ苦しみを味わった。そんな動作に少しずつ慣れると自分をつき動かしたあの不思議な力のことを思った。
 なぜあんな技ができたのだろう。何度も同じ事をやらされているうちに通代の表情はわずかに鬼面のようになり鞭の音もかなりのものになっていった。何台かの特殊カメラはその様子をしっかりと捕らえていることなど彼女には知る由もなかったが。





17 ラブ・ビーナス


通代の初勝利から数日後、例のごとく女闘コンツエルン総帥らが、試合のビデオを見ている。

「こ、これは、まさか…。」

美しく強いブリッジに支えられた通代のスープレックスの映像を見て、総帥が思わず声を発していた。

「総帥、そのまさかの可能性が大ですな。」

そういって勅使河原顧問がフィニッシュの瞬間でビデオを静止にした。通代の母親のことを少し調べ始めていた信次であったが、“まさか”の意味はまだ分らない。

「まさかって、何がまさかなんですか?」

誰にとは無しに信次は尋ねる。

「この○〜マンスープレックスホールドという技は誰にでも使えるというものではなく、ある血統のレスラーにしか使えない技なのです。この指の使い方であのブリッジをしようと思えば瞬間的にとてつもない力が必要なのです。それに相手の後頭部や肩がリングに着く状態によっては危険な技ですから相手への配慮がないとできません。有情必殺技とでもいうべきものです」

秘書が神妙そうに答える。

「大森君、彼女の母親の調査はどうかね」

総帥が会話をつなぐ。

「はあ、芸能界からプロレス入りした女性が候補にあがっていますがまだ何とも。…それで」

信次が話しを続けようとすると、何か悟ったような雰囲気で勅使河原顧問が遮った。

「ラブビーナスといってね、ローマ皇帝時代から続く血統で、今はもう東洋と西洋の血が混在して、どこに本流が流れたのか不明になっているのだが」

「直訳すると愛の女神…。そのラブビーナスっていうのはいったい何なのですか」

信次がまた誰にとは無しに問いただした。その声にはもはや通代に対する関心を隠しきれないといった気持ちが読み取れる。そしてややムキになっている信次を制するかのように総帥が場をおさめる。

「ま、おいおい話していくことにしよう」

そういって総帥は車椅子で別の部屋に消えていった。いったいこの建物の中はどうなっているのだろう。信次は疑問に思った。例えば地下は…。





18 作戦会議


その頃、大森邸では、通代の初勝利にとまどう女達が作戦会議をおこなっていた。まずはおしゃべりの尚子が明るくまくしたてている。

「プリティーったらさあ、どこであんな技練習したんだろう。あのブリッジはただじゃあできねえよ」

「でも試合後はまたもとのびくびくした感じに戻ってたみたいだけど」

戸惑いを隠せない美香が自分を納得させるようにつぶやく。

「ねえ、どうする美香、やっぱりこのままじゃあ、決勝でプリティーが小川に勝っちゃうよ。最初はさあ、適当にリーグ戦の行方を見守ろうって話しだったけどさ」

リーグ戦は淡々と進められ大方の予想通り5位にサクリファイス小川、4位にプリティー通代となった。色気がある分、妬まれていたのか、通代のほうが他の3選手にかなりひつこくいたぶられたようだ。恵美はとえいば、サンドバッグのようにやられてフィニッシュにもっていかれるというパターンだったらしい。何はともあれ、明日いよいよ4位の通代と5位の恵美がK中学最弱を賭けて戦うのだ。学内の下馬評では先日の試合から通代有利の声が優勢であった。だが他の選手との通代の闘い方を見る限り、どこまでも優勢とは言い難いという見方もあった。
 陰湿な女子同志のいじめにおける逆ピラミッドの頂点に、通代を望む声もあったのだが、公正さも大切だという見解もまた存在していたのだ。恵美になってしまえばそれはそれで仕方がないと多くの女子が思っているらしい。
口数の多い尚子の甲高い声が部屋にひびいた後、そこへため息をついていた智美が話しに入る。

「あれから後の試合じゃあ、結局前といっしょだったもんね。プリティー」

そこへ、美香の部屋においてある電話が鳴った。

「ああ、蘭子かい」

その後、数分蘭子の話しが長く続き、美香はひたすら聴き手であった。そして話しはあっけなく落ち着いたようだ。

「ああ、そうだね。そこまでやってプリティーが勝っちゃたら“仕方がない”ってことね」

美香が悟りきったような口調で答える。

「蘭子、前も言ったけどさ。あんたも…・。まあいいわ、じゃあそういうことで」

そういって美香は電話を切った。





19 “勝負下着”ならぬ“勝負水着”?


何か気持ちを入れ替えたのであろうか美香は部屋の隅から近所のスーパーマーケットの買い物袋を持ってきた。

「さ〜て。本日の作業とまいろうか皆の衆」

くしゃくしゃになっているものを美香が数個に分ける。色は白だが、経費節減のためか一枚の薄さはよく見るとかなりのものだ。

「いったいそんなのもの、どうするのよ」

お菓子をほおばりながら尚子が問いただす。

「友達のために心のこもった手作りのコスチュームを作ってあげようっていうのよ」

美香はそういって、ハサミやビニールテープ、ナイロンの紐といった文具を取り出し、スーパーマーケットの袋を切り始めた。

「そういうのは先にデザインをかんがえなくっちゃ」

智美が腕を組んで考え込む。

「ケツはさあ、もろTバックっていうよりはハミ尻だよねやっぱ。う〜んケツの面積は微妙だなあ。もろ食い込みっていうよりはナチュラルな食い込みって感じがいいんだわなって、これが!ねえ聞いてる?」

「聞いてるよ〜」

そう言いながら美香が部屋の隅から分厚い通信販売のカタログを持ってきた。表紙には金髪美人が笑顔で立っている写真があり、“NASSEN”と書いてある。重たそうなカタログをペラペラめくって美香はあるページに書いてある宣伝文句を楽しげに読み上げだした。

「ドカーン、ついに登場。超うわさの見せたくなる勝負パンツ!ええっと、なになに。清楚な純白レースにサテンのおしゃれなリボンがキュート。ふんふん。ふわふわのお花のモチーフがたまらなくプリティー…ここ一番はこれしかない」

尚子がどれどれといったふうにカタログを覗き込む。

「プリティーにとっても明日は“ここ一番”の勝負なわけだから。私たちは“勝負水着”でも作ってやんないとね。腰はやっぱ紐だなあ。」

 通代のコスチュームに関する彼女らの議論が深夜遅くまで続いた。それは彼女らにとって適度な“悲哀感”をいかに具現化するかという課題についてであった。いつしか有名な深夜の討論番組のようになり、美香は尚子に対して「人の話は最後まで聞きなさい!、CM行きます!」などと冗談めかして言っていた。





20 ハンディーキャップ


最近やせてきたように見える通代を鈴木浩二は心配していた。増していく色気とあせていく心の瑞々しさを同時に浩二は感じとっていた。事実体重も落ちているようだが、胸やお尻のボリュームはほぼ残っていたので、男子にとっては余計に気になるようだ。女子の周到な振る舞いによって通代が美香らを中心に責めつづけられていることは、男子や教員にほぼ気づかれなかった。所謂無視などということはしないし、文具や教材を盗むわけでもない。音楽や美術といった別の教室への移動においても、通代が孤立することはなかった。むしろ通代のまわりに女子が和やかに集まるという演出さえあったのだ。
 秋晴れの空を眺めながらその通代は、ぼんやり雲の流れを追いかけた。今日の決定戦に勝ち、この陵辱地獄から解放される。通代は何故か妙な安心感に浸りながらひとりごちた。確かに通代は体力にも負けん気にも自信はない。しかし小川恵美には勝てる。事実この間も勝ったではないか。チャイムを聞きながら、そう自分自身に言い聞かせていた。そんな自信ありげな彼女をニタニタと美香は楽しげに睨んでいる。このまま終わらせるわけがないじゃないの…・。私の大野先生を奪っておいて。許せないのは心を奪ったことよ。そう心…。
4時間目の終わり、通代を尚子が呼び止める。決戦は5時間目の体育の時間に行われる。

「渡辺さん、ちょっと」

「えっつ、何…・」

嫌な予感がする。

「まあ、いいからさあ…・」

尚子は通代を強引に近くのトイレまで連れて行く。そこには既に美香と智美が待っていた。

「あんまり勝負が見えすぎてると面白くないからさ。今日はハンディーキャップマッチにするわ」

美香が言い終える前に、智美は通代のスカートをまくりあげる。

「い、嫌何をするの!」

腰を揺さぶって通代は抵抗しようとするが智美の怪力にはかなわない。

「最近おしおきしてないから、つけあがってんじゃないの、この女」

尚子が通代の両手を抱きかかえるように押さえる。さてここで余っているのは美香の手だが、鞄から何やら取り出してきた。

「ふふ、相変わらず可愛いお尻ちゃんだわ」

何度か平手で白いパンティーの上から通代の尻をなで上げると、美香は一気にそれを引きずり降ろした。

「ああっつ!」

プルプルしたお尻を上下左右に振ってただその場を逃れようとする通代だ。だが今度は尚子がカッターナイフを愛くるしい通代の頬にさらさらと触れさせて言う。

「大人しくしてよ。試合前にさ、体力をうしなっちゃあだめでしょ、ねえ」

「あ、ああ・・」

通代の頬に冷や汗がつたう。と同時に美香が鞄から出したイチジク浣腸を通代の菊門に注入する。

「ううっつ」

何とも言えない違和感に戸惑うばかりの通代だ。だがハンデイキャップはイチジク浣腸6個だけではなかった。彼女たちはずいきクリームを通代の秘唇に塗りたくる。それも奥のほうまですりこむように。

「や、やめて、ああっつ…」

美香に指を挿入されている恐怖とクリームに対する恐怖に通代はたまらず嗚咽する。
さて別の女子トイレには何ともいえない臭気がただよい、それは恵美の被虐感をいつものようにかきたてていた。

「ほら、今日は頑張るんだぞ! もうお前と遊ぶのは飽きたんだから」

蘭子はそう言って恵美の股間に何やら特殊なクリームを塗りたくっている。

「いいか、プリティーのアソコにちゃんと指を突っ込むんだぞ…。それとお腹なんか特に攻撃すればいいわ」

いつもと違う蘭子の態度に恵美はとまどうばかりだ。

「今の言葉は何なの…?」





21 試合前


「さあ、いよいよ最弱女決定リーグ戦もいよいよ決定戦となしました。皆さんこんばんは、女闘放送の古猫でございます」

グリーンのスーツにラメの入った赤のネクタイ、そして黒ぶちのめがねをしている古猫だ。

「いやあ、関東さんついに決定戦の日を迎えましたね」

銀色と薄緑色のジャージ姿で片手間に駆け付けたという感じの関東。太い腕、太股。筋肉なのか胸のふくらみなのか分からない胸元。

「う〜ん。予想通りこの二人の一騎打ちになりましたね。ねえ先生」

何日も洗濯していないような異臭を若干放つ紺色のジャケットに身を包んだ白髪まじりの勅使河原顧問にもやっと発言のタイミングがきた。肩の当たりの白い粒はやはりふけであろうか。

「プリティー通代選手の先だってのあの技。あれがでるかでないか。ポイントはそこにあります」

リング上にたたずむ通代は、透けたガウンを脱ぎたくはなかった。下に着ているものを周囲に見られたくはなかったからだ。しかしその一方で早く試合を始めたかった。試合前の美香らの振る舞いがまざまざと蘇る。

「あの人たちはなぜここまでして、私を責めつづけねばならないの」

開幕セレモニーで貝殻を付けさせられたが、あれはあくまでセレモニーであった。しかし今日は試合だ。

「はい、これが今日のあんたのコスチュームよ。随分手間をかけたんだから。試合頑張るのよ」

そんな美香の言葉を思い起こしている通代をモニターは下から舐める。

「さて試合に先立ちまして、両選手のインタビューをご覧下さい」

「先日は豪快な技を決めて見事サクリファイス小川から勝利を収めているプリティー通代選手です」

青いカーテンを背景に古猫が通代にマイクを向ける。

「さあ、先日は勝ったサクリファイス小川選手と今日は最弱女決定戦ということですが、どうですか自信のほどは?」

おそらく浣腸もずいきクリームもなければ通代には勝つ自信があっただろう。しかし今は一秒でも早く試合を開始して、短期決戦に挑みたかった。

「え、ええ、この間勝ってますから…。」

フリルが山のようについたガウンの下のコスチュームを古猫はまだ知らない。
さて恵美のスクール水着はいつもより堅い素材のような感じがする。ひょっとしてサメ肌というものであろうか。恵美本人は股間に塗りたくられたものがどのような結末を自分にもたらすのか分からず不安を隠しきれないでいる様子だ。

「さあ、サクリファイス小川選手、残念ながらリーグ戦全敗で今日の決勝を迎えてしまいましたが」

恵美はうつむいて唇をかみしめている。

「え、ええ。今日くらいは意地を見せたいと思います。」

「ここで、村山蘭子からメッセージビデオが届いていますので、小川さん見てください」

そう言って古猫はモニターのスイッチを入れた。

「最弱女になった方には、あたしの連れのいる女子中やませた小学生のいる近所の小学校にたっぷり遠征してもらうわ。もちろん学内でもいろいろ行事に参加してもらうから・・。今の小学生は中学生より残酷なことをするらしいわよ…。ふふ」

言葉少ない蘭子の一言一言が恵美を驚愕させた。これまで蘭子にされてきたことを思うと身の毛がよだつばかりだ。何とかして最弱を逃れたいという思いと、先日通代に敗れたという自信喪失感とが心の中でうずまき、今にも逃げ出したくなる。





22 短い紐


リング上では尚子が蝶ネクタイをして何やらまくしたてている。

「ええ、皆様長らくお待たせいたしました。これよりK中学最弱女決定戦を行います」

そして二人がコールされた。通代のポンド数はやはり前より落ちていた。ガウンに手を当ててモジモジしている。コールされてもお互い高々と手を上げることもない。

「早くガウンを脱いでよ」

尚子が意地悪く催促する。
通代は透けたフリルのいっぱいついたガウンをゆっくり脱ぐ。その瞬間観衆からひそやかな嘲笑いが起こった。

「何、あのコスチューム」

「あのビニールって、○○スーパーの袋じゃあないの!」

近隣の誰もがよく行くスーパーマーケットの袋を女生徒達はすぐに想起した。半透明とでもいうか白というかといった感じのビニールと、これまたどこにでもあるようなナイロンの白い紐で作られたコスチュームは通代の肢体を何ともいえない感覚で覆っていた。プロが水着として作成したものではないのであるから当たり前だ。つまるところビニールに、透明のビニールテープでナイロンの紐がつけられているだけのものだ。そして通代が悲嘆に暮れたのは紐の長さであった。試合前のやりとりをまた思い出す。
 通代は美香からシワシワと音をたてるコスチュームを渡され、広げてみた。これまでも“きつめ”の水着を何度も着せられ、そのたびにはじけそうな胸やはみ出した尻肉について揶揄されたものだった。だが今回のはあまりも笑い者にしようとしているではないか。

「こ、こんなの着れないわ!馬鹿にするのもいい加減にして」

通代は本能的に抗議する。

「あらあら、この間宣言したでしょ。コスチュームは私たちの指定に従うって」

智美が愉快そうに答える。

「覚悟が決まるまで試合開始を延長してもいいのよ。ただし5時間目っていう時間の制約は忘れないでね。試合放棄してもいいのよ。蘭子のところで小川の代役を務めないといけないんだろうけど。女子中なんかにも遠征させられるのよ。A女子中だとグランドがだいぶ人里離れたところにあるから、素っ裸でランニングさせられるかもね。あの学校の奴らのことだからアソコに糸をまきつけられてビール瓶なんか吊るされて走らされるのよ。ふふ」

尚子が調子に乗って「鉄アレーかも知れないよ」などという。
美香が合わせたように通代の肩を両手で抱きかかえ、

「そんな意地悪なこと言うのはやめてあげなさいよ。ねえ」

といって笑った後、通代をギュッと睨み付ける。
そんな話を聞かされて身を振るわせ、唇をかみ締め、通代は泣く泣くコスチュームを身に着けようとする。胸はゆったり目であったが、縁取りがないため何とも変な感覚だ。乳頭のくぼみは薄いビニールがら色が感じ取れるほど見えていた。目を赤くして首の後ろと背中で紐をくくる通代だ。下のほうを履こうとするが、紐が短かい。

「あ、あの。大森様、紐を足させてください。これでは結べません」

ほくそえんで美香が答える。

「何よ、また急に様なんてつけちゃって。さっきの勢いはどうしたのかしら」

「お、お願いします。は、早く試合をはじめたいのです」

「限りある資源はね、大切にしなきゃあいけないでしょ。優等生のあなたはその紐の長さでいいのよ」

「そ、そんな…」

「まずは頑張って結ぼうとしてみなさいよ。努力もしてみないで甘ったれてるんじゃないわよ。何事もまずやってみなきゃ」

と尚子。
左右ともかなり紐は短く、通代はやっとの思いで右の腰の紐を結んだ。蝶々結びなどできない。二重結びで何とかナイロン地を引っ張りだせた程度だ。透明のビニールテープは、ただ何気なく紐をくっつけてあるだけなので、とれてしまわないか心配だ。やっとの思いで左の腰の紐も結んだ。少しでも歩こうとするとバリバリ音がして、さらにごわつくので変な感じだ。 
 あまりきつく紐を結んだところで胸も下半身も、紐がビニールからはがれるか、ビニール自体が伸びてしまう。お尻のビニールはやはり十分な面積がなく、食い込んでいる。しかしこちらも縁取りがないのでプワプワした感じだ。前面の股間はといえば、これまた面積が小さく、やせてきたとはいえ、お腹の肉がビニールを伸ばす圧力をかけているようだ。
これは尚子の趣味なのであろうか、お尻のビニールの上部中央には両面テープで蝶々結びのリボンがつけられている。このピンク色のリボンが大き目で全体のデザインとしては違和感を覚えさせる。この違和感も尚子の趣味なのであろう。
通代が「このピンクのリボンを切って腰に足させてください」と懇願したときも、尚子が「私たちのデザインを無視する気!」ときつく却下したのだ。通代はどこまでこの女たちの性根は腐っているのだろうと激怒しそうになったが、そうした行為がすべて裏目にでるのは分かっていたので何も言い返せなかった。





23 決戦のゴング


「さあ、決戦のゴングが今鳴り響きました!」

早く勝って決着を付けねば。通代の脳裏には短期決戦という言葉がすぐさま浮かんだ。というのも徐々に股間に刷込まれたクリームと菊門に施された浣腸が徐々に効果を発揮してきたからだ。バリバリと音をたてるスーパーのビニール袋を切り取って作成された“スーパー水着”の上からかもしくは直接に手を差し伸べて、通代は自分の局部をいじりたくてしょうがなくなってきた。これまで大野のことを想って自慰行為を数回したことがある。しかし今の生理的とでもいうべきかゆみの高揚は、通代が太股をもじもじ擦り合わすのに十分すぎるくらいだ。
 早くフォールしてイカせなくっちゃ…。何だかウルトラマンみたいだわ。

「さあ、まずは両者手四つに組もうとします。」

二人はリング中央で手を組む位置を探り合っている。一瞬目を光らせ通代は恵美の腕をとり、すぐさま首投げだ。そしてスリーパー。

「関東さん、プリティーは調子がいいんじゃないですか?」

「そうですね。力でねじ伏せようという気迫が感じられますね」

スリーパーを10秒ほどして解くと、恵美をロープへ振る。次は鮮やかなドロップキック。
通代のブラ部分は着地のさいの振動でずれ、乳頭が覗く。しかしなぜか今の通代に官能的な感覚は漂っていない。目の輝きがスポ根ものを思わせる。

「勅使河原先生、プリティーのドロップキックですが、ジャンプの高さがアップしたんじゃないですか?」

「ええ、足の伸びもいいですね」

美香は仕掛けをしておいたにもかかわらず不機嫌そうだ。通代の動きがスポーツという言葉にふさわしく感じるため、コスチュームの悲哀感が目立たないのである。歯軋りをしていらだっている美香を見て蘭子がつぶやく。

「“善戦むなしく”っていう言葉があるじゃない。そのほうが一方的な試合よりショーとして見ごたえがあるでしょう」

蘭子は美香がたとえわずかでも通代のいいところを見たくないという心情を知っていながら言ってみる。

「も、もちろんよ」

美香は何の不満もないといったそぶりで言い返す。





24 電光石火〜スモールパッケージホールド〜


 通代の2発目のドロップキックを恵美はロープをつかんで踏ん張り、かわした。
「このやろう…・」というどこかの女子プロレス団体伝統の叫び声を交え恵美は立ち上がろうとする通代めがけて胸板にパンチだ。
 とりあえず受けてたつといった感じで通代は受身を取りつつ後ろに倒れる。そして立ちあがった通代に再びパンチを見舞おうとする恵美。

 「お〜っと!、プリティー通代腰をかがめ、パンチをかわして、サクリファイス小川の後ろに回りこんだ。ジャーマンスプレックスホールドだ!!!!!」

ジャーマン自体は決まっていたが、エビのように丸くなった恵美の足がロープにかかっている。
「プリティー、ロープ、ロープ!」と飯島はカウントを数えないで叫ぶ。
 早く勝負をつけなくっちゃ…。通代はわざともう一度ジャーマンにいく体勢をとり一呼吸置いた。恵美は必死で通代の手を振り解き、背後に回る。恵美もジャーマンをしようという勢いだ。しかしその瞬間を狙ったように通代は後ろを向いて恵美と真正面に向かい合う。通代は自分の右足を恵美の体にからめ、右手で恵美の首を捉えた。まさに電光石火という感じだ。
 恵美が体をバタつかせるも、カウントが入っていく。

「お〜っと!プリティー通代、スモールパッケージホールド!、カウントが1,2,3!入った!!!!。プリティー通代まずはレスリングで勝利を収めました!!!。ゴングが鳴り響く!。関東さんいかがですか!?」

「あっぱれ!。技巧派のアイドルレスラーとして将来が期待できるかもしれない。」

それどころか・・。勅使河原顧問は心中でそうつぶやいた。それどころか彼女にラブビーナスの血が本当に流れているとしたら。しかしキャットコーポレーションに所属権を奪われ通代を悪用されれば大変なことになる。そんなことを考えながら顧問はリング上の通代を見つめた。
 美香や尚子は少し不満げだ。

「何だかすごく強くなったみたいね。プリティーのやつ」

智美がつぶやく。

「相手が相手だから気にしなくてもいいわよ、あれくらい」

そういう美香もジャーマンのブリッジの美しさに一瞬見とれた自分を認めざるをえなかかあった。
 通代は勝とうとすることに集中し、便意や股間のかゆみを忘れようと懸命だ。





25 濡れない股間


通代は勢いづいて恵美のコスチュームを剥ぎにかかる。恵美の抵抗により時間はかかったものの、厚い生地の水着を通代は何とか脱がせた。

「プリティー通代、サクリファイス小川のコスチュームを剥ぎ取りました。いよいよ最後の仕上げにかかるのか!」

古猫はまるで通代が勝利への道を確実に歩んでいるかのような実況ぶりだ。
通代はぐったりした恵美の秘唇に指先をあてがい、いきなり挿入して必死に弄ぶ。お腹に力を入れられないのがこんなに辛いこととは思わなかった。乳首をこねくり回したり、胸を揉んでいる暇などないと判断してのことだ。
 しかし何分たってもいっこうに恵美の股間は濡れてこない。狂ったように何度も指の出し入れを試みるのだがまったくだめだ。恵美の秘唇の表面を通代の指との摩擦で疲弊させることはできるが、すでにレスリングルールで勝利を収めている通代にとっては意味がない。先日勝利を収めた際、恵美が感じやすい部分を知ったつもりであったのに。お、おかしい。こんなはずは…・。
通代は焦った。そして迫り来る便意と股間のかゆみが彼女の焦りをいっそう強くさせる。

「な、なぜ、なぜ濡れてこないの…」

腕がしだいにだるくなる。角度を変えたり、スピードを変えてみたり、指を2本、3本にしたり、恵美の感じる部分を必死に探しながら通代は挿入を繰り返す。乳首やうなじを舐めてみたりもするのだが、肝心の部分がその兆候を見せてくれない。

「関東さん、サクリファイス小川なかなかイきませんね。」

「え?、その解説は私の守備範囲からは…・。まあしかしプリティーは全力をあげて追い込んでいるので時間の問題かと…」

 恵美もこれだけ挿入を繰り返されて感じない自分を変だと思った。もしかしてあの特殊クリームは一時的に感覚を麻痺させるものなのか。ひょっとしたら蘭子はもう自分をいたぶるのに飽きて、容姿端麗、色白美人の通代をいたぶってみたいと思ったのではないか。美香らのテリトリーにいる通代をなんとか共有しようとして、それで…。そう論理的な解釈を繋げていくと恵美は一抹の光を自分の将来に見た。そして恵美の心に闘志といったものが生まれて始めて沸いてきたのだった。よし勝ってやる。そんな気持ちになったのも始めてだ。小学校の頃から汚いなどと男子や女子から言われ続け、生きる力を失い、心を殺して生きてこざるを得なかったこの少女がはじめて闘志というものと出会ったのだ。何人もの教師が自分に対して心の中で、あまり関心を示してくれていないことに辛さを感じ、この世での存在理由を見つけられないでいた少女が、今何かに出会ったのだ。





26 一瞬の死角


一向に濡れてこない恵美のそれと向き合いながら、通代はついに自分の体勢を変えざるを得ないと判断する。これまでは自分の股間を恵美の足の先の横くらいを中心に注意深くおいていた。
 が、通代は必死に恵美の股間に指を挿入するあまり、大事なことを忘れてしまった。そう自分の秘唇を恵美の手のできるだけ届かない範囲におくことである。必死に挿入を繰り返す通代がついに体を入れ替えた。うつろげに恵美は心の中でつぶやく。

「か、勝ちたい。最弱なんていや」

そのとき恵美の心には始めて制御可能な獲物を感じ取った喜びが芽生えた。自分の秘唇はいくら弄ばれてもイカないのだ。何とかすれば勝てる。そう強く念じた。恵美は通代という女について考えてみた。思えば何と憎らしい女だろう。自分だって“可愛いすぎる”という理由で嫉妬されたいものだ。痩せていて色黒の自分と、華奢ではあるのだが色白で尻肉が何故か豊満な通代。制服の上からだと一見貧乳に見える通代。しかしウエストから胸までがかなり細いため水着姿になると柔らかな胸が上品につんと上を向いている女。自分を鞭打つときでさえ慈母の意図を感じさせた女。ムカツクわ…。そんな思いが恵美の脳裏を錯綜した。
とそのとき、恵美の手の届く範囲に通代の体がやってきた。通代が体勢を変える途中だった。恵美の顔と向かい合わせになるように通代の体が置かれたのだ。すぐさま恵美はスーパー水着のビニールをぎーっと伸ばすようにして秘唇に指をこじ入れようとする。恵美の手が通代の股間に触れる。そしてほんの一瞬の出来事だった。恵美の指が通代の秘唇に一回入って出たのだ。すでに“飽和状態”の通代自身が“イって”しまうにはそれで十分。通代が“しまった”と思ったときにはもう手遅れだ。

「あっつ、だ、だめ…」

レフェリーの飯島にも認識できるほど愛液がどっと吹き出しそれはビニールのなかに一瞬充満したかと思うと、どろどろとこぼれ、通代の太股をつたった。買い物袋のなかで豆腐のパックがはがれてしまったかのようだ。それはリングにもポタポタと注ぎ出し、汗とは明らかに違うのが誰の目にもわかった。
「ふふ、やっとイっちゃたわね…」美香がリング下でほくそえむ。
自分でもイッテしまったのがわかる通代はけなげにも股間を閉じ、飯島に気づかれまいとする。

「プリティー!、チェックよ!」

そういって通代の両足を体育教師の怪力で開かせると、人差し指で秘唇の粘液に触れた。素早く鼻でクンクンと匂いを判別し、リング下の尚子にゴングを要請だ。

カンカンカン!

「お〜っと!、優勢に試合を運んできたプリティーでしたが、関東さんイっちゃいましたよ」

古猫はあっけにとられた様子だ。

「うーん、ちょっと触られただけに見えたけどなあ」

関東も不思議がっている。勅使河原顧問は黙ってリングの通代を見ている。そう、そうやってラブビーナスは人間の嫉妬や憎しみ、陰謀、哀しみを心身に吸い込んでいくのだ。そしてそんな世の汚濁を、長い時間をかけ、優しさや強さや慈しみに変えて愛情として他人に与えていける女性。伝説の血統。世界史の変節点に地下で平和のために戦う愛の女神。そんなことを思いながら。





27 通代哀願


 しまったという後悔の気持ちが通代を支配していた。だが恵美の勢いは通代に気持ちの建て直しをさせる暇を与えない。
 恵美は力を振り絞って通代のお腹を叩く。そして今度はお腹を手でギュっと掴んで、グリグリとねじまわすのだ。

「あ、あっつ・・や、やめて・・」

ただでさえ便意と闘っている腹部をねじあげられ通代は苦悶の声をあげる。

「せ、先生・・、お願いです。お手洗いに行かせてください。試合は後でちゃんとしますから…」

通代は思わずレフェリーの飯島弥生に懇願する。

「先生じゃやないでしょ。何度言ったらわかるの。レフェリーといいなさい!」

突き放すように飯島はいう。

「レフェリー、し、試合の一時中断を…」

「だめよ。中断は認められないわ」

「そ、そんな・・」

リング上で排便の姿を晒すか、最弱女となるか。負けてしまえば最弱女として様々な学内のグループ、特に村山蘭子達ともかかわらねばならない。自分は恵美をイカせさえすれば勝てるのだ。そんなことが通代の脳裏をよぎる。たとえリング上で排便してしまっても、何としてもここは踏ん張らねば。
 しかししだいに増してくる便意と恵美の猛攻が通代の戦意を喪失させていく。恵美の手が通代の腹部をグリグリと押さえつける。通代も恵美の股間を擦ったり、胸を揉もうとする。しかし乳首を触ろうとする通代の手を恵美が上乗りになってはねつける。

「もう、大人しくしてなさいよ!」

これまでの恵美なら全くでなかったであろう言葉が発せられる。恵美は自分の腹部ばかりを狙ってくる。通代はやや遠くにいる美香を、唇をかみ締めて睨んだ。自分を最弱女にするためにこんな策略を講じるなんて…。なんてひどいことを…。負けたくない・・。負けたくないわ・・。しかしそんな通代の闘志を、便意やかゆみが蝕む。その苦悶の表情を美香は愉快そうに見つめていた。





28 鬼面のフットスタンプ


 小川恵美はとくにこれといった技を持っていない。恵美自身それはわかっている。そうすると武器は自分の体重だ。たとえやせてはいても全体重をかければ武器になる。恵美は通代からいったん離れると、腹部めがけてジャンプだ。そして両足で着地。

「ぐっつ!」

通代が苦悶の嗚咽をもらす。恵美は通代の腹部で「うりゃ〜」と気でも狂ったかのように何回もジャンプと着地を繰り返した。

「関東さん、この攻撃はいかがですか」

「う〜ん、平凡だけど、何と言うか…、うちの新人テストなら不合格だけど…」

しかしそんな関東のコメントとは裏腹に恵美のフットスタンプは通代を確実に追い詰めていった。

「さあ、サクリファイス小川、今度はトップロープ最上段からリング中央のプリティー通代めがけて…・、フットスタンプだ!」

「ううっつ」

通代はお腹をかかえ、苦悶するのみだ。もはやゴロンとうつぶせになるのが精一杯といったところか。
 恵美は非力なため、ボディスラムもできなかったのだが、通代のウエイトが落ちたためか、ここではやってのけた。

「サクリファイス小川、プリティー通代を起き上がらせ、ボディスラムにとってた!そして再び、トップロープ最上段からリング中央のプリティー通代めがけて…・、お〜っと!!!!もう一回フットスタンプかああああ!」

しかし通代は力を振り絞って体を入れ替え、逃れる。恵美はそのまま着地だ。ここで一呼吸おくところだが恵美はそのままの勢いで対角線のロープ最上段まで上り、かなり距離のある通代の腹部めがけてもう一度フットスタンプだ。リングシューズだけの恵美が恥じらいもなく、勝つことだけに集中している。

「お〜っと!、何というスピーディーな空中ダイブだ!」

ギリギリで通代の腹部側面に恵美のリングシューズが突き刺さる。

「決まったかな」関東がぽつりと言う。

「ううっつ」

もはや通代は失神寸前で身動きできない。

「サクリファイス小川、立ったままプリティー通代の胸を片足で押さえつける!。カウントが1,2,3!入った!!!!」

 通代はぐたりうなだれゆっくりと体を反転させながらリング上をごろんと大の字になってお腹を押さえている。汗や愛液にまみれたビニールが体をうまく包み込まず、何とも言えない悲哀感をかもし出している。
 勝った恵美が裸体で、敗れた通代のほうが、素材はともあれ上下ともコスチュームに包まれているというのは何とも皮肉だ。

K中学最弱女決定戦(K中学体育館 観衆40人)
○ サクリファイス小川(21分23秒 愛液溢出、32分45秒 足置き固め)プリティー通代×
プリティー通代がK中学最弱女に決定。





29  最弱の称号〜首輪授与〜


「はい、通代ちゃ〜ん。これが宣言書よ。苦労して作ったんだからちゃんと一字一句間違えないように読み上げるのよ」

そう言って尚子が5分ほどしてやっと起きあがった通代に白い厚紙を渡す。

「ああ、お、お願い早くトイレに行かせて・・」

敗れてしまった悲嘆にくれるよりも、通代にはまず便意からの解放のほうが重要であった。

「だめよ。読み上げたら行かせてあげるから」

尚子が冷たくあしらう。活字で結構長い文章が並んでいた。一瞬目に入ってくる文字のそれぞれを見て驚愕するのであった。
しかし一刻も早くトイレに行きたい通代は足をガクガクさせながら、観念してマイクに向って読み上げだす。

「わ、わたくし、プリティー通代こと渡辺通代は、このたび開催されましたK中学最弱女決定リーグ戦で4位となりました。そして決定戦で敗れたため、K中学最弱女として学内外で活動することを誓います。@まずK中学では1年から3年までの女子の、皆様の言うことを素直にお聞きいたします。AK中学女子の積極外交の一環として他の中学校に遠征します。BK中学最弱女として自習時間を利用し小学校の体育の授業に参加し、肉体を鍛練し直す所存です。……ああ、お、お願いもう…」

通代の便意はもはや意志の力で肛門の筋肉を締め付けておくレベルを超えようとしていた。しかし用意周到な美香らのことである。今回使用された液体は便意を感じさせるはするが、排便の瞬間(とき)は本人が感じるよりもずっと先になる仕様なのである。

「普通ならトロフィー授与だけど、今回は首輪よ」

そう言って尚子が鎖のついた黒い首輪を通代に取り付ける。





30 おしおきの放出


何とか宣言書を読み上げ、通代は美香の陰謀に激昂する間もなく、とりあえず体育館に
あるトイレに行こうとする。だがリングを降りようとした瞬間、尚子から首輪のつながった鎖を渡された蘭子から声がかかる。

「四つんばいにおなり!」

通代はおびえきった様子でいわれた体勢をとってリングを降りようとする。

「ど、どこへ行くの?」

「ト、トイレに・・」

「最弱女にトイレなんか十年早いわ、リングの下におまるがあるから、それでなさい」

2,3人の生徒が通代を羽交い締めにしてリングから降ろしてくれない。

「お、お願いです、早くトイレに行かせて・・」

スーパー水着に覆われた柔らかな肢体をなよなよと動かしながら通代は懇願する。

「何を気取ってるのよ、私たちのいうことがきけないのかしら」

そう言った恵美の口調は明らかに変化していた。その豹変に通代が愕然とする。スパンキングで手を抜こうとしたことを理解してくれてると思ったのに…。

「い、いくらなんでも、あんまりよ!おまるなんか嫌!」

そういって通代は恵美に叫びまくる。一度は勝った相手でである。通代が対等意識をぬぐいきれないのは仕方がないことだ。懇願すると同時に通代は汗をかきながら必死に肛門の筋肉をしめつけて圧力と戦う。それにこれまでもいじめに合ってきた、ある意味では被害者として同じ立場にあった仲ではないか。

「お、お願い。小川さん、もう許して。あなただったらこの苦しみを分かってくれるでしょ!」

「そ、だったら仕方ないわ。聞き分けのない子にはおしおきをしないと」

蘭子が美香に相づちを打つ。美香に目配せを受けた何人かが通代を体育館の外に出そうとする。たまたまその時間の体育で男子は学外を走るマラソンをしていて、校庭には誰もいなかった。それに通代が放り出されようとしたのは校庭とは反対側のほうであった。美香らはそれなれに様々なリスクを計算しているのだ。この場所ならしばらくは誰も来ない。しかし男子がマラソンから帰ってくる道路からは、学校と小さな川を隔てるための壁の隙間を通して見えるという場所だ。

「い、嫌、何…・」

抵抗を試みるが多勢に無勢でかなわないし、足で突っ張ることさえできない。通代はあっという間に体育館の裏へ放り出されてしまう。そして首輪のつながった鎖は体育館の窓の鉄格子に鍵をつけて装着されてまったのだ。

「さあ、逃げられないわよ。どうするの大野先生の彼女の通代ちゃん」

勝ち誇った美香がからかうようにいう。





31 懇願作法


「通代はおまるが好きだから、おまるでさせて下さいってお願いなさい!」

小川恵美はわずかに開けられた窓越しに冷酷な表情で言う。いつも蘭子らのグループからそういったことを言わされてきたのであろう。

「お、お願いもう堪忍して…」

お腹を押さえて通代はついに泣き出した。足を交互に少しづつ浮かせ哀願する。

「そ、お願いの言葉も言えないのね。じゃあ仕方ないわ」

恵美がそういって体育館の窓を閉めそうになる瞬間、通代は諦念して声を発する。しかし早口だ。しかも語尾が上がって最後のほうは不正確になる。

「み、通代はおまるが好きだから、おまるでさせて下さい…」

そこへ、あごを少しあげて美香がまた意地悪なことを言い出した。

「心がこもってないんじゃないの。あなた国語の時間なんかいつも誉められてるでしょう。詩の朗読にすごく心がこもってるって」

美少女アイドルや美人女優の深夜放送、―そうたった30分ほどの ―が独特の重宝のされ方をするように、通代の声を聴きたい男子生徒や教師はたくさんいた。国語の教師以外は表立って口に出すことはなかったのだが、そういった男性の期待、気配を女子たちはことごとく嫉妬していた。例えば通代の番まで読む順番が回ってこなかったときの男どもの落胆の気配は、名簿順であれ席順であれ前後の女生徒達の嫉妬心をかきたて続けたのだ。
通代が反論と哀願をおこなう前に美香がいう。

「今の言い方はなってないわ。そんな早口で何がお願いよ。私達の作ったコスチュームを返却しなさい!」

「そ、そんな・・、あなたたち人間じゃあないわ!」

こんな被虐感を煽るコスチュームでさえも、奪おうというのか。それも青空に裸体をさらすために。

「その格好で校舎まで走っていく?首輪をはずしてあげてもいいのよ。たぶん女子トイレはみんなふさがってるかもしれないなあ…」

と尚子。
何という卑劣な女達だろうか。しかし陰湿で周到なこの女子達のことだ。校舎中の女子トイレをふさげるようにしていることは想像に難くなかった。もう学校に何もかも言おう。そう決心しても、それとは別に羞恥心が彼女には残っていたのだ。

「男子トイレも教員用トイレも締まってたりして…!」

尚子がさも愉快そうにいう。彼女らのことである。そういう準備が楽しくてしかたなかったのであろう。校舎とトイレを図に書き、誰がどこを担当するかについて彼女らは決めているのだ。教員が来たときはどうするかとか、そういうこともいろいろと手を打ったのだろう。
 通代は考える。この便意からすれば校舎までもつかどうか分からない。たとえたどり着けたとしても周到な見張り役が先にトイレに入って閉めてしまうかもしれない。それにこの格好で校舎まで行きたくはない。怒りを覚えつつも、例えば体育館の裏で排便してしまうことをも考える。が、いつ近隣住民が通り過ぎるか分からない。男子もマラソンからいつかは帰ってくることだろう。

「この娘、もう体育館には入りたくないみたいね」

美香が窓を閉めてしまう。
“やっぱり体育館に入るしかないのね…”そう自問する彼女だ。窓を閉めきられてしまうと、世の中に自分一人がぽつんとただ存在しているという空虚さに見舞われる。

「お、お願いします。体育館に入れてください。コスチュームをお渡ししますから窓を開けてください」





32 ストリーキング&トレーニング


 ゴンゴンとドアを叩いて懇願する。学校の敷地と道路は5,6メートル幅の川を挟んでコンクリートの壁によって敷きられている。しかしいくつかの鉄格子があってその隙間からは、今通代のいる体育館の裏が見える。また気がつけば通代からは店の中にいる文房具屋の女主人が見える。おばさんこっちを見ないで…。心の中で叫ぶ彼女だ。
 胸のほうは紐を何とか解くことができたが、腰が解けない。ゴツゴツとしたリングシューズの存在が、一秒でも早くコスチュームを脱ぐために腰の紐を解かせようとする。二重結びをした短い紐だ。それにこの便意では解くことに集中できない。思わず通代は紐を解かずにビニールテープごとスーパーの袋を引き千切ってしまう。

「美香さん、小川さん!、コスチュームを脱ぎました!、は、早く中に入れて」

リングシューズ以外に何もまとわない少女が体育館の脇に冷や汗をかいて立っている。
通代はくしゃくしゃにしてコスチュームを握ぎりしめている。美香は窓を開けてシワシワと音を立てるコスチュームを受け取った。

「それにしてもよくこれだけ濡らしたものね」

美香がビニールを広げ、股間部分の液体を指でなぞって笑いながら言う。ぶるぶるとビニールを振り回すと愛液が床に落ちる。それを見て女子たちは

「ほんとに濡れまくったのね」

「外に出されてまた濡れちゃったんじゃないの。露出好きだったりしてこの娘」

と笑い転げて嘲る。
男子がマラソンから帰ってこないかどうか心配な通代は哀願を重ねる。

「い、言うとうりしました。早く中に入れてください。だ、男子がマラソンから帰ってきます。それにいつ誰が通るか…」

ニヤリとして智美が言う。

「ああ〜。何よあなた。紐を解かないでコスチュームを引き千切るなんてどういうつもりなの」

「ほ、解けなかったものですから…・」

怒りをこらえて通代は弁明する。

「再使用してもらうつもりだったのに、何を考えてるのよ!リユースよ、リユース!」

「最初から使い捨てればいいって考えてたんでしょう!。まったく地球にやさしくない女ね。この娘は」

何人かの女子が調子に乗って言う。そういえば通代は小学校の頃、鉛筆をかなり短くなるまで使ったり、男子が荒っぽく使って壊れかけたシャーペンを治して教師に誉められていたと美香は回想した。美香はとえいば、次々に文具を買い替え粗末に扱い、教師から物を大切にするように通代を見習えなどと言われたこともあった。そんな記憶がまた加虐心をかきたてる。

「体育館には入れてあげるけど、あっちのドアからにするわ」

美香はそういうと、鎖の鍵をはずした。体育館の縦長の部分には、ドアが2つある。その間の距離は何メートルくらいであろうか。

「お、お願い。もう意地悪しないで。恵美さん助けて!みんなもう許して」

通代はまた泣きじゃくってお腹に手をあて便意がかなりきていることを伝えようとした。

「泣き脅しになんか乗るもんですか。早くあっちのドアまで走りなさいよ」

美香が冷酷に言う。通代は諦念して別のドアまで歩き出す。股間と胸を手で覆いながら。首輪につながれた鎖がジャラジャラと音を立てる。ぎこちないはや歩きが何ともなめまかしい。やせてくびれた腰とまだたわわなお尻がぷるんとぷるんと揺れている。

「何をとろとろしてるのよ。手を振ってダッシュするのよ!。いい機会だからトレーニングしてあげるわ。私が手を叩いたら方向転換するのよ」

美香の残酷な言葉に通代はいっそう涙をうかべる。鎖を手で持とうとするが、却下されてしまう。女達はうまく走れないところを見たいのだろう。結構長い鎖のために足に絡んでなかなかうまく走ることができない。それでも通代は苦痛をこらえ、ぎこちない足取りで隣のドアの近くまで行った。

「ほら、はい!」

美香の手拍子が鳴った。もうすぐ指定されたドアにやっとたどり着こうかとというところだったのに。通代はまた向きを変えて前のドアを目指さねばならない。女子たちは窓を開けて通代のトレーニングを笑い転げて観賞している。

「ほらほら、ちゃんと全力疾走しなさいよ。皆も手拍子をしてあげて〜。ほら誰の手拍子にも従うのよ!」

女子たちは代わる代わる手拍子を鳴らすのであった。鎖に足が絡んでこけてしまう。
「あっつ、い、痛い…」膝をかばう通代。
だが女達は容赦しない。

「誰が休憩していいって言ったの!」

そんな彼女らの手拍子が十数回続き、通代はついに泣きくづれて顔を手で覆いコンクリートの床に座り込んでしまう。

「み、美香さん、小学校の時のことは謝ります。み、皆さん。可愛いふりをして皆さんの気を損ねたことも謝ります。男子の気を引こうとしたかもしれません。だ、だから、お願い、もう許してください・・」

心にもないことだが、胸を引き裂くような思いで声を発する。





33 2つの開門


 蘭子がそっと寄り添って美香に耳打つ。

「美香、見張りから連絡があったわ。男子のマラソンの先頭がもう帰って来るって」

そして自転車で付き添っていた男性体育教師がタイムを計るために猛スピードで戻ってこようとしていることも。
 泣きじゃくり両足をばたつかせる通代を見て、女達は、“そろそろ本当に限界って感じね”、と目でコミュニケーションをとる。浣腸液の説明書の時間もこんなものだっただろうか。

「もうどうしようもないわね。これくらいのトレーニングでねをあげるなんて。まあ今日はこれくらいにしておいてあげるわ。さあ、入りなさい、おまるはあそこよ」

美香がまた鎖を鉄格子にはめつけるながら、指差していう。体育館の扉が開いたのはいいのだが、おまるはそのドアからかなり遠く端のほうにある。通代は涙目でお腹をおさえて、とりあえず排便できるという安堵感をもっておまるのあるほうへ走った。“もう学校に何もかも言おう”そう思いながら…。
 通代は生活指導教員の顔を思いうかべた。肛門の筋肉に頑張ってもらうのも限界にきている。しかし鎖の長さのため、おまるまで行けない。

「うまくおまるにしないと、掃除してもらうわよ」

何と憎らしい美香であろうか。

「もういい加減に許してあげましょうよ」

そういって智美がおまるを通代の来れる範囲まで持ってきた。やっと通代がおまるにたどりつく。通代はそれが真下にあるのを確認してまたぐ。もう恥ずかしいとかそういうことより、排便できることで頭がいっぱいだった。もう我慢しなくて済む。陶酔の表情を浮かべて通代が、黄金のしぶきを暴発させる直前、正面に立ちはだかった小川恵美がおまるを蹴って3メートルほど移動させてしまった。美香と蘭子は、小川恵美の最後のケリについては予定になかったようで、びっくりして目を合わせた。


 

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