「いやああああああ」
絹を裂くような悲鳴と共にズドンという音が響く。その音の中心にいるのは、特に体格が優れている訳でもない二人の少女。もっとも、その片方は少女と言っていいのか微妙な年齢ではあるのだが。どちらも小さな水着を着け、全身にびっしりと汗が浮かんでいる。そして、さっきの音は、その片方がもう一人を投げた音だった。投げられた方は身長も低く、細すぎるといった印象で、今にも倒れそうな様子で頭を抱え、起き上がろうとしている。だが、髪の毛を掴まれもう一度リングに這いつくばる結果に終わった。
「これで、終わりよ」
そのまま、止めの電気あんまで失神KO、開始15分、連敗記録をまた一つ更新したのだった。
「はあ、どうして勝てないんだろう」
更衣室で普段着に着替えている途中、何度繰り返したか分からない言葉が漏れる。今日の相手は現役の中学生、それも格闘技の経験も殆ど無い。それなのに、何で負けたのか、どこを見ても負ける要素など見つからない。もっとも、相手には、だが。
「やっぱりウエイトが違いすぎるからかな」
今日の相手も、中学生としては平均位の身長でしかなかったが、それよりも美紗緒の身長は低い。そうなれば当然体重も違うわけで、プロレスというものの性質から、不利なのは当然の事だ。打撃、投げ、どちらも体重は密接に関係してくるわけで、ちょっと強い選手なら、美紗緒の攻撃は防御するまでも無く、少し身構えればいいだけに過ぎないというのだから、その不利さがよく分かる。
「試合、明日もあるのか、次はどんな人だろう」
服を着る前に、自分の細過ぎる身体の線を眺め、溜息を一つ、成長期もとっくに終わった今、劇的な成長は望めない。おまけに、筋肉の付きにくい体には、どんなに練習を積んでも実戦で使える技が殆ど無い。結局、派手な飛び技位しか、強い相手にはダメージを与えれる技が無いのが現状だ。
翌日、相手も知らされぬまま、美紗緒はリングに向かっていた。ある意味開き直りとも言える程潔く、最初から負けが約束されたようなリングに。
「赤コーナー、ホワイトエンジェル、棚橋、みさーおー」
場内が一気に沸く、その中心のリングに向かい、ゆっくりと歩いていく美紗緒、周りからは冷やかしにも聞こえる声援が聞こえるが、いつもの事なので脇目も振らずリングに上がる。
「続きまして、青コーナー、フライングフェアリー、風見、しゅーうー」
更に沸く場内、美紗緒に続いて出てきたのは、身長の低い美紗緒と同じ、いや、もっと低いかもしれない少女だ。
「始めまして、棚橋美紗緒、先輩」
見た目通りの愛くるしい笑顔で、美紗緒の前で挨拶する。が、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
(私より、ちっちゃい、この娘なら勝てるかも)
今まで負けるとばかり思っていたが、相手が新人の、自分より小さい選手だと分かって安心する。
「言っとくけど、手加減はしないからね」
「ええ、分かってます、・・・・・私もしませんから」
「え、何か言った?」
「いいえ、全然」
ボソリと呟いた言葉には気が付かない美紗緒、そのまま気にせずゴングを待つ。
「それでは、これより無制限一本勝負を行います」
お決まりの台詞、そして
カーン
いきなり鳴ったゴングに、気持ちを引き締める二人、美紗緒は、構えを取って修を睨み付け、修は、軽くその場で飛び跳ねている。
突然、弾かれた様に修が後ろに飛び、助走を付けて美紗緒に向かってきた。
「やっ」
とりあえずカウンターのローキックで足を止めようとする美紗緒。
「外れで〜す」
当たる寸前、飛び上がって美紗緒の胸元に強烈な膝蹴り、勢いがついたその一撃に、吹き飛ばされる美紗緒。
「油断、しましたね、私が弱いって、残念ですけど、私は強いですよ〜」
「う、く、そんなの、まだ分からないわ」
起き上がりざま、低い位置からのタックル、グラウンドに持ち込めれば、と思っている。
「はいっ」
跳び箱の要領でその肩に手を置いて飛び越える修、ついでに美紗緒は顔からこける。
「ふふっ、無様ですねぇ、あ、それと最初に言っときますけど、何をしても無駄ですから」
追撃をかけるでもなく、美紗緒の周りを楽しそうに回る修。
「ちょっと、まだ始まったばかりなのに調子に乗らないでよ」
まだ大したダメージは無いので、ゆっくりとだが普通に起き上がる美紗緒。
「ええっ、そんな事言われると、もっと調子に乗りたくなりますよ」
軽くその場で飛び跳ねながら言う修、美紗緒も攻撃を仕掛けようと狙っているが、あの二回の動きから、修のすばしっこさを知って迂闊に手を出せない。
「ん〜、来ないんですかぁ、なら、こっちから行きますねぇ」
美紗緒の右のロープに向かって走り出す修、何をするかは分からないが、とりあえず用心する美紗緒。
「はいっ」
ロープで反動を付けてラリアート。
「そんなの、当たらない」
意地でも当たらないとばかりに、大きな振りで身をかわす。
「あれ」
勢い余ってたたらを踏む修、その隙を逃すはずも無く、美紗緒が後ろに回りこんだ。
「あなたなら、私でも投げられるもん」
勢いをつけてのバックドロップ。
「きゃ」
「やった、成功した、あ、そうだフォール」
慌てて修をフォールする。
「ワン、ツー」
そこで修が肩を浮かせてカウントが止まる。
「どう、先輩を甘く見たらこうなるのよ」
ビシッと修を指差して言う美紗緒。
「う〜ん、思ったより威力無いなぁ、全然効かないや」
「つ、つよがったってだめよ」
「まあ、いいけど」
ヘッドスプリングですぐに立ち上がり、首に手を当てて威力を確認している修。美紗緒は、そんな様子も挑発だと思ったらしい。
「もう、馬鹿にして、許さないんだから」
あの投げで自分が優勢だとばかり思っている美紗緒、実は修にはダメージが殆ど無い事に気付いていない。
「やぁっ」
すぐさまドロップキック。
「はい」
スッと一歩後ろに下がり、美紗緒をかわす修。その目の前では美紗緒が派手にドタンという音を立ててマットに落ちる。
「うう、痛い、ひどいよ、避けるなんて」
「違いますよ、ひどいのは避けた事じゃありません」
「え、どうい、がっ、ごほ、ごほっ」
突然上から落ちてきた修にお腹を踏まれ、苦しむ美紗緒。
「どうです、効きました?」
「うう、効いてなんか無いもん」
「そうですか、それじゃあ、もっと痛い事をしてあげますね」
中央に近い所に倒れている美紗緒から、もっとも近いコーナーポストに上る修、それは分かっているが、身体がゆっくりとしか動かせれない美紗緒は、這って逃げようとするも、未だその射程内に囚われている。
「さあ、いっくよ〜」
片足で思い切り跳んだ修は、狙い通り、美紗緒の背中を踏みつけた。
「あああああああああああ」
声にならない叫びを上げ、力なく転がり、完全に無防備な美紗緒。
「ちょっとやりすぎましたか、でも、効いたでしょ?」
「うう、ひっく、ひどいよぉ」
「だって、一応プロレスでしょう、これ位普通ですよ、普通」
「でもぉ」
「じゃあ、痛いのと苦しいのと、恥ずかしいの、どれがいいですか?」
「えっ」
「だって、お客さんがいるんですから、これで終わりって訳にはいきませんから」
そう言うと、美紗緒の足を取り、ゆっくりとコーナーに向けて引っ張る。
「答えてくれないなら、全部ですよ、ちゃんと考えて下さいね」
「そんな、そんな事言われても」
「・・・・・はい、終了」
「え、ちょっとまっ」
「答えなかった美紗緒さんには罰ゲーム、狂ったらごめんなさい」
さりげなく怖い事を言いつつ、美紗緒の股の間にコーナーポストが来るような位置に移動し、自分はリングの外に移動する。
「それじゃあ、すたーとぉ」
勢い良く引っ張ると、丁度美紗緒の股間にコーナーポストがぶつかり、苦悶の悲鳴を上げる。
「きゃああん!!、あぐ、ああ!!」
「んんっ、いい悲鳴ですね、やられ方が堂に入ってますよ」
そのままコーナーポストを蹴るようにして、水上スキーの様な体勢になる。
「さあ、いつまで耐えれるでしょうね」
「い、いやあ、いた、ひっ、割ける、だめ、ああ!!」
「何が、『割ける』んですかあ、言ってくれないともっと続けますよ」
グイッと足に力を入れると、美紗緒には、痛みが更に強くなった。
「さあ、何ですか?」
「うう、や、ああ、言う、言います、股、股が裂ける、だから、止めて」
「ん〜、実は、私の狙いはそれじゃないんですよね、言ったでしょ、恥ずかしいって」
「ああ、でも、くぅ、そこは・・・・ああ!!」
「そうですか、残念です、でも、これ以上続けても面白くないんで、もう止めますね」
パッと手を離すと、美紗緒はただ、力なく横たわる。
「さあ、次は何をしようかな」
「うう、まだやるつもりなの、早く終わらせてよぉ」
「何言ってるんですか、まだ五分も経ってないですよ」
さっとコーナーポストに上る修。
「だから、あと十分は粘って下さいね」
「ひっ、がふっ!!」
いきなりジャンプして、美紗緒の胸の上にヒップドロップ。
「実はですね、私、今日までずっと私がいれば美紗緒さんはいらないと思ってたんですよ」
「うう、一体、何なのよぉ」
「だって、私の方が強いし、可愛いし、若いし、それに」
そこまで言うと、美紗緒の頭を掴んで背中に乗せるように担ぎ上げ、その股に手を当て、そのまま投げる。
「あうぅ!!」
「私の方が圧倒的に強いじゃないですか」
そのまま、美紗緒の髪を掴んでその身体を起こす。
「でも。今日戦って分かりました、やっぱり、やられ役は必要だ、って」
そこでよろよろと起き上がった美紗緒をロープに振る。
「さあ、ショータイムです、せいぜい派手にやられて下さいね」
自分もロープに向かって走り、よろよろと跳ね返ってきた美紗緒にヒップアタック。
「あうっ」
なす術も無く転倒する。このままフォールすれば、小学生でも押さえ込めるだろうと思える状態の美紗緒、だが、修はフォールしようとしない。
「あれぇ、美紗緒さん、試合前にちゃんとお手洗いに行きましたぁ、シミが出来てますよ」
楽しくて仕方ないとでもいわんばかりの様子で、その美紗緒の下腹部を踏みつける。
「うう・・・だめ・・お願いだから、終わらせて」
レフェリーはいていないようなこの試合、ギブアップは認められないだろうから、修に早く終わらせて欲しいと懇願する。
「だ〜め、まだあと五分は残ってますよ、それまで持つといいですね」
ぐりぐりと、絞り出すように踵に力を込める。
「ああ、ひ、や、あ、何でも、するから、今は、」
「だから、今だからいいんじゃないですか」
少しずつ、修の指摘したシミが広がっていく。
「これ、汗じゃあないですよね、何でしょうか」
「いい、あ、う、うあ、」
身体を丸めて、必死に何かを耐える美紗緒。だが、股間を押さえて苦しむその姿は、ある意味、別の何かを連想させる。
「そんな格好で恥ずかしくないんですか?」
「うう、そう思うなら、その足をどけて、」
「や、です」
「そんな、あ、だめ、ん、ぐ」
「もう少しみたいですね、じゃあ、お手伝いしましょう」
その場でぴょん、と飛び上がった修は、そのまま両足を揃えて美紗緒の下腹部を踏みつけた。
「あああ、だめぇ、あ、ああ」
少しは抵抗しようとしたが、結局堪え切れず、その場に水溜りを作ってしまった。
「あはは、本当に子供みたい、恥ずかしい、私なら一度そうなったら二度とリングに上がれませんね」
「ああ、やだ、うう、ぐすっ、何で、こんな事」
「理由、ですか、それはですね、このリングに上がってるからですよ、だから、何をされても自分のせいです。」
そう言い放つと、身体を丸めて観客から少しでも隠れようとしている美紗緒の足を、強引に足で抉じ開ける。
「だから、私達が客の期待に応えてこんな事をするのも、当たり前なんです」
電気アンマで、更に追撃をかける。
「いやあ、やめ、また、ひっあがああうぅあ」
狂った様に叫ぶ美紗緒を失神寸前まで追い詰めると、またもや技を解いた。
「どうして、止めを、ぅう、」
「だって、デビュー戦の結果が『開始十五分電気アンマで失神KO勝ち』、っていうのも、かっこ悪いじゃないですか、だから」
美紗緒を担ぎ上げる。
「とりあえずちゃんとした技で勝たせて貰いますよ」
肩に担ぎ上げ、そのまま放り投げる。
「ああっ」
「ふぅ、それじゃあ」
とりあえず見栄えからグランドコブラを選び、それで締め上げる。それでも、その手はしっかりと美紗緒の股間を触っていたのはさすが、と言うべきか。そのまま、美紗緒は気を失った。後に残ったのは会場が割れんばかりの声援と、二つの水溜りだけだった。
FIN
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