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美佳の渋谷戦争【後編】

 

 

 

水曜日の昼休み、レディースチーム長浦小町のメンバー3人が、体育館裏で

美佳を取り囲んでいる。

「香織あれからなんか言ってきた?」

思い出したように、恵が美佳に訊いた。

「あの日の夕方、妹と喧嘩してたわよ!」

美佳は殴り合いをするような仕草で恵に答えた。

「妹って、美樹ちゃん?」

美佳と同じ中学だった久美子が訊いた。

「香織って娘、どうやら私と間違えて、美樹に喧嘩売ったみたいなの」

「そりゃぁ、誰だって間違えるよ!私だって区別つかないもん!」

「なんでよ?」

怪訝そうな顔の優子が久美子に訊いた。

「だって美佳ちゃんと美樹ちゃん、双子だもん!」

「へぇー、あんた双子だったんだ」

恵が驚いた顔で言うと、優子が笑いを堪えたような顔で訊いてきた。

「ミキちゃんの下に、ミクちゃんって妹もいるんじゃない?」

「美佳ちゃんの妹は美樹ちゃんだけだよ」

久美子が戸惑った表情で言った。

「じゃあ、あんたのお姉さん、ミオって名前でしょ?」

優子が何を言いたいのか察した恵も、笑いながら訊いた。

「あっ、あははははは・・・」

やっと気がついた久美子が、大声で笑い出した。

「あんたたち・・・」

漸くからかわれているのに気がつくと、美佳は膨れっ面をした。

「それで、その喧嘩、どうなったの?」

恵は急にまじめな顔になると、美佳に訊いた。

「私とアキちゃんで止めたわよ!

 メグ、南台だったよね。アキちゃんのこと知ってんじゃない?」

「アキちゃんって、辻村亜希子?」

 

「こらこら、学校でなに集会やってんの?」

恵が訊き返しているところに、長浦小町総長の真由美がやってきた。

「私まで一緒にしないで!」

美佳は真由美を軽く睨んだ。

「辻村亜希子って、なんか聞いたような気がする。

 香織ってのは、あの久保田香織でしょ!」

「亜希子は香織がパクられたあと、南台で番張ってる娘なんだけど・・・」

「あっ、やっぱり!」

怪訝そうな顔をしていた優子は、恵の説明にやっと納得した様子。

「でもこの前どっかの高校生と喧嘩して負けて、更正したって噂だよ!」

真由美が言うと、美佳の表情が変わった。

「辻村亜希子に勝つなんて、相当なもんね・・・」

「あの娘の喧嘩、ちょっと変わってるのよね!」

「そうそう、いきなり相手を倒してみたり、投飛ばしたりして・・・」

恵たちがわいわい始めると、美佳は意を決したように口を開いた。

「どっかの高校生って、わたしだよ!」

「えっ・・・あっはっはっ、美佳、冗談きついよ!」

一瞬驚いた表情をした恵が、大声で笑い出した。

「じゃあ、なんで香織って娘、不良でもない私に興味持ったの?」

「亜希子と喧嘩して本当に勝ったの?」

美佳がまじめな顔で答えると、恵は驚いた表情で訊き返した。

「美佳、あんた喧嘩なんかすんの?」

真由美も驚いた様子で美佳に訊いた。

「久美子、美佳って本当は裏番だったんじゃないの?」

「美佳ちゃんはそんなこと無かったよ!だけど、黒帯だもんね!」

「くろおび?」

久美子の答えに、他の3人は更に驚いた様子で訊き返した。

「あれっ、みんな知らなかったの?美佳ちゃんは柔道初段だよ、ねっ!」

「こないだ二段になったよ!」

「へぇー・・大人しそうな顔して、結構やるんだね!」

恵が感心したように言った。

「美佳、あんた小町に入らない?メグ降ろして、特隊にしてあげるよ!」

真由美が言うと、恵は真由美の胸倉を掴んだ。

「んだと、この野郎!」

「だぁ、この野郎!」

真由美も笑いながら恵の胸倉を掴み返した。

「馬鹿な事言わないでよ!ほらっ、5時間目始まるよ!」

美佳は、真由美と恵の間を割るように通ると校舎へ向った。

 

 

 

その頃渋谷では・・・

 

「美樹ネエ、おそーい!」

自動改札から出てきた美樹に、亜希子が駆け寄った。

「ごめんごめん、急行が行っちゃって・・・

 ところでアキちゃん、なに買うの?」

「スカートが欲しいんだ!だって私、あっち系のしか持ってないし・・・」

「じゃあ、どこに行こうか・・・」

 

 

「あっ、あれ!美香さん、あれが川村って・・・」

美樹を指差した真依子の言葉が途切れた。

「まいこぉ、川村と一緒にいるの、この前のヤンキーじゃ・・・」

じっと亜希子を見つめる真依子に、貴子が声を掛けた。

「じゃあ川村と一緒にいるのが、まい子が言ってた辻村って娘?」

「なんで一緒に・・・」

美香の問いかけに頷くと、真依子はぼそっとつぶやいた。

「『飛んで火に入る夏の虫』ちょうど良いじゃない!」

美香は、美樹たちの方に歩き出した。

 

 

「久しぶりね!」

真依子が亜希子の前に立ち塞がると同時に、20人近いギャル達が、美樹と

亜希子をグルっと取り囲んだ。

「なに、あんたたち?」

驚きながら美樹が訊くと、突然、亜希子が大声を上げた。

「あーーーっ」

「アキちゃん知ってるの?」

「こいつ、この前ぶちのめしたやつ」

美樹に訊かれて、亜希子は真依子を指差した。

「ブチのめしたって・・卑怯な手を使って!このままじゃ済まないからね!」

「じゃあどうするって言うの?(いくら何でもこんなに大勢じゃ・・・)」

亜希子が身構えた。

 

「あんたが川村美佳。で、そっちが辻村亜希子。そうだよね?」

美樹の前に進み出た美香が言った。

「みかぁ?(また美佳?勘弁してよ)あんた、なんなのよ!」

「この前はウチらの仲間が世話になったらしいじゃない?ウチらもこのまま

 黙って引っ込んででいる訳にはいかなくてね!」

美佳に双子の妹がいる事など知る筈も無く、美樹のことをすっかり美佳だと

思い込んでいる美香が言うと、回りのギャル達は一斉に詰り出した。

「いきなりなに言ってんのよ!あんた達なんか知らないわよ!

(まじぃなぁ・・・こんなに大勢・・・どうしよう)」

美樹も身構えながら、何とかこの場を切り抜けようと考え始めた。

 

「『何人連れて来てもいいのよ』って、あんたが言ってたんだよね?」

「こんなに大勢で・・・あんた限度って知らないの?ほら、みんな見てるよ!」

ニヤリと笑いながら真依子が言うと、亜希子は辺りを見回しながら言い返した。

 

「血の気が多い連中が揃っているから気をつけた方がいいよ!青木ノアを知ら

 ないとは言わせないよ!」

「誰よそれ!(きっと、美佳がやった相手だ!美佳のやつ、帰ったら・・って、

 この場どうにかしなきゃね)」

美樹は美香を睨みつけながら言い返すと、辺りをぐるっと見まわした。

「ほら、アキちゃんの言ったとおり。あんた達みたいなのが、2人を相手に大

 勢で取り囲んでたら、110番されちゃうよ!」

必死に切り抜けようとする美樹。

「わかんね〜オンナだな!

 あたしはEGOISTの芹沢美香よ!

 あんたとそのガキにノアとまい子を痛ぶってもらったお礼に来たってわけ!」

 

 

「ちさとぉ、あれ、川村先輩じゃない?」

美樹たちが囲まれている通りの反対側で、美樹と同じプロレス同好会に所属す

る、1年生の和田奈津子が、同級生の工藤ちさとに声を掛けた。

「どれぇ?あっ、本当だ!」

「でも、なんかやばそうな、雰囲気じゃない?」

「どうしよう・・・」

「キャプテンに知らせる?」

「そうしよう!」

ちさとは携帯電話を取り出すと、キャプテンの滝澤久美に電話をかけた。

「もしもし、滝澤先輩?」

「今、奈津子と一緒に渋谷にいるんですけど・・・」

「川村先輩がコギャルみたいなのに取り囲まれてて・・・」

「20人以上は・・・」

ちさとが電話を切ると、美樹たちを見守っていた奈津子が振りかえった。

「なんだって?」

「キャプテンがみんなに連絡するって・・・」

 

 

「回りのギャル達は一応ギャラリーだけど、あんたがこの前みたいなフザけた

 マネしたら一斉に襲い掛かるよ〜!ついて来な!」

亜希子に顎でしゃくるような仕草をした真依子が、人通りの少ない路地裏の方を

向くと、取り囲んでいたギャル達の輪がそこだけ開けた。

「あんた、この前あんなになったくせに・・・

 仲間に見守ってもらったら、私に勝てるとでも思ってるの?」

真依子が歩き出すと、亜希子もしぶしぶと後に続いた。

「あっ、アキちゃん・・・」

「あんたもだよ!ふふふ・・恐い?ついて来な!」

美香は、真依子と亜希子の後に続いて歩き出した。

「しょうがないわねぇ、まったく・・・」

美樹もしぶしぶと後に続くと、ギャル達の輪も、4人を囲んだまま動き出した。

 

20人近いギャル達が改めて4人の周りを囲むと、真依子は亜希子に言った。

「川村ってのは美香さんが殺るそうだから・・まい子とタイマンだよ!」

「いいの?仲間の前で無様な格好になっても」

「あんたがスタンガンみたいな卑怯な手を使わない限りブザマな格好なんかに

 ならないよ〜だ!ほら足が震えているんじゃないのぉ?」

「それより、どこまで行く気なの?」

「ここなら人目につかないし、徹底的にお前をブチのめす事が出来るじゃん?」

 

真依子と亜希子から少し離れたところでは、美香と美樹が向き合った。

「まい子はどうしてもこの前のリベンジがしたいって言ってるから・・・

 あんたはこの渋谷で金髪の優香と恐れられている芹沢美香様が相手になって

 あげる!」

「ペラペラと、よく動く口だねぇ。あんた誰に喧嘩売ってるか判ってるの?」

「川村美佳でしょ?わかってるって!そんな事!

 今まで雑魚相手に連勝して来たようだけど、とんでもない者に手を出して

 しまった事後悔させてあげる!

 EGOの恐さをタップリと教えてあげるよ〜!」

 

「今日はスプレー、どこに隠してるの?」

「スプレー?・・・ここだよ!」

真依子は、いきなり亜希子の目に痴漢撃退用スプレーを噴射すた。

 シューーーーーーーー

「きゃぁぁぁ・・・」

「アキちゃん!」

亜希子が顔を押さえて苦しがると、美樹は駆寄って亜希子を抱きかかえた。

「かわむらぁ〜!ガキの心配してる場合じゃないんじゃない?」

美香は美樹の髪を掴むと、美樹を亜希子から引き離そうとした。

「テメーの心配しろって!」

そして、美樹の顔面にヤクザキックを叩きこんだ。

 ドカッ

「きゃぁ」

しかし美樹は、顔を蹴られながらも亜希子を庇うように抱きかかえたままで

じっと耐えた。

「美樹ネエごめんね、私のせいで・・これっ」

「えっ?」

亜希子は美樹に、そっとスタンガンを渡した。

「ううん、こっちこそバカ美佳のせいでアキちゃんまで巻き込んじゃって・・

 目、大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

最後に一度目を擦ると、亜希子は立ちあがって真依子を睨みつけた。

美樹も同じように立ちあがると、美香を睨みつけた。

「一人10人だね!」

 

「美香さん殺っちまえ〜!川村美佳、テメ〜ら2度と渋谷来んな!ば〜か!」

「帰れ!」「帰れ!」

美香とまい子が優勢の展開に,取り囲んでいるギャルどもは盛り上がった。

 

「来いよ!ほらっ!睨みあっててもラチあかないじゃん!」

 ペッ

真依子は挑発しながら亜希子に向かって唾を吐きつけた。

「本当に懲りない娘だねぇ、泣かされてから後悔すんじゃないよ!」

亜希子は柔道の構えで、じりじりと真依子に近づいた。

「この前はスタンガンなんて卑怯な手を使っちゃって!あんなので勝ったなんて

 言わせないんだからねっ!」

真依子は身構える亜希子に突進すると、ジャンピングニーパットをブチ込んだ。

 ドコッ

「あうっ」

亜希子はよろけながら後ろに下がるが、すぐに構えなおした。

「卑怯卑怯って、スプレーはなんなのよ!」

そして素早く真依子の懐に入ると、一本背負いで地面に叩きつけながら真依子の

お腹に膝を落とした。

「ぐはっ」

一本背負いで地面に叩きつけられたの衝撃もさる事ながら、続けざまの膝爆弾に

お腹を押さえて転がる真依子。

「はぁ、はぁ、はぁ・・

 スプレーはスタンガンのお返しよっ!

 そもそもそっちが『何ガンつけてんだ!』って喧嘩売って来たんじゃない!」

真依子は懸命に身体を起こすと、低い体勢から亜希子めがけてタックルした。

「きゃぁぁ・・」

真依子が覆い被さるような格好で倒れると、二人は互いに相手の髪を掴んで、

地面の上をごろごろと転がり出した。

 

 

「あんた目が悪いんじゃないの?私は美佳じゃないわよ!

 でもね、あんたは私に喧嘩を売ったのよ!」

「は?美佳じゃない?ウソ言ったって・・・」

美香が言い終わらないうちに、美樹はドロップキックを放った。

 ドコッ

「きゃあ」

いきなりのドロップキックに、美香は胸を打ち抜かれ仰向けにひっくり返った。

 

「なんで?」「美佳じゃないって?」「あのオンナ何者?」

美樹の言葉に、取り囲んでいたギャル達が騒然となった。

 

「いててて・・・」

美香はスカート土埃を掃いながら立ちあがると、ドロップキックの体勢から立ち

上がろうとする美樹の胸倉を掴んで、顔面に拳を叩き込んだ。

「このっ!」

「おっと・・・」

しかし美樹は、殴りかかってきた美香の腕を両手で掴むと、その腕を捻りながら

両脚を絡めて腕ひしぎを極めた。

「ぐぐっ・・」

美樹の腕ひしぎに苦しむ美香は、身体を丸めるように勢いをつけると、腕を締め

つけている美樹の太股に、膝を鋭角的に叩き込もうとした。

「いったいお前は誰?・・・ぐぅ〜はっ、放せ!この馬鹿オンナ!」

「美佳は私の姉貴、私は妹の美樹だよ!」

美樹は答えると、美香の腕を更に捻った。

「痛いでしょう?でもね、地獄はこれから始まるんだよ!」

右に左にと腕を捻りながら美香のバランスを崩そうとする美樹。

 

 

 

突然、美佳の携帯が鳴った。

液晶には『川村美樹』と表示されている。

(あっ、美樹からだ)

美佳がボタンを押すと、液晶に真紀の顔が映った。

「川村っ、いつまでもこそこそと隠れてるから、こんな事になるんだよ」

液晶に映る真紀の顔がニヤリと笑った。

「誰がこそこそ隠れてるんですって!」

美佳が言い返すと、今度はノアの顔が液晶に現れた。

「ノア的に言わせてもらえば、同じ顔して、のこのこ出てくるあんたの妹が

 悪いんだよ」

「どういうこと?」

「早くこないと、可愛い妹がどうなっても知らないよ!」

次の瞬間、20人位のコギャルに袋叩きにあう美樹が液晶に映った

液晶に映る美樹にノアが回し蹴りを入れると、美佳の脇腹にも痛みが走った。

「や、やめろぉ!」

携帯電話に向かって叫ぶ美佳。

「かわむらっ、かわむらっ・・・」

液晶に映る真紀が、呼び続けた。

「あははははっ・・」

真紀の後ろでは、みんなが笑いながら美樹を袋叩きにしている。

「やめろぉ、みきぃ・・・」

美佳は必死に叫んだ。

「かわむらっ、かわむらっ・・・」

真紀の声がだんだん、低く太くなっていく。

「みきぃ・・・」

 

「か・わ・む・らっ!」

 ボコッ

美佳の後頭部に衝撃が走った。

「あっ、えっ・・・?」

美佳が慌てて顔をあげると、出欠簿を持った担任が目の前に現れた。

「川村、おまえ魘されたぞ!悪い夢でも見たか?」

担任の言葉に、教室中が爆笑の渦に包まれた。

「飯食った後で眠たいんだろうけど、周りのみんなに迷惑はかけるなよ!」

そう言い残すと、担任は教壇に戻っていった。

 

「みかぁ、どうしたの?」

羞恥心で顔を真っ赤にする美佳に、恵は心配げに訊いた。

「ちょっと・・・」

(今日は水曜日だっけ。あっ、アキちゃん創立記念日だから休みで・・・

美樹も午後は授業が無いからって、あの二人、渋谷に買い物に・・・)

「いつもはこれで気がつくんだけどねぇ」

恵は、30cm定規で美佳の脇腹を軽く突っついた。

 

 

 

「あっ、美樹ネエ・・・」

真依子の攻撃のパターンを見切った亜希子が余裕で横を向くと、取り囲んで

いた20人近いコギャルが、踏みつけるように美樹を蹴りつけていた。

 

「ひどい!バトルロイヤルだってあそこまでは・・・」

唇をかみ締めたちさとが呟いた。

「うん、だけど・・・」

悔しそうな表情の奈津子も言葉を詰まらせた。

「もう見てらんない!」

「あっ、ちょっと、ちさとぉ・・」

 

「てめぇ!死んでろ!」

 ボコッ

「ぎゃぁっ・・・」

亜希子は真依子の顔をサッカーボールのように蹴り上げた。

 シャキーン

そしてポケットから特殊警棒を取り出すと、美樹を蹴りつけているコギャル

に向かって向かっていった。

 

「このやろぉ!」

ちさとも叫びながら、美樹を蹴りつけているコギャルに向かって、勢い良く

ドロップキックを放った。

 

「きゃぁ」「なに?なんなの・・・」

コギャル達に混乱が起こった。

 

「動くな!」

突然の叫び声に皆が動きを止めると、何人もに足蹴にされぐったりしている

美樹の首筋にカッターナイフを突きつけた美香が、亜希子に向かって言った。

「こいつが川村美佳じゃないってことは判った!」

「美樹ネエ・・・」

「だったら川村美佳を連れて来い!」

「このやろぉ・・・」

「2時間だ!2時間以内に川村美佳を連れて来い!」

「アキちゃん逃げて!」

「てめえは黙ってろ!」

 ドスッ

「あうっ」

「ここはひとまず・・・」

奈津子が亜希子を制した。

 

 

 

「あー、終わった終わった!みかぁ、6時間目は大丈夫だったじゃない」

(アキちゃんからメールが入ってる)

恵の言葉も耳に入らないかのように美佳は携帯電話のボタンを押した。

【ミキネエサラワレタ シブヤニスグキテ!】

携帯を見つめる美佳の顔から、サ−ッと血の気が引いた。

「みかぁ、どうしたの?顔が真っ青だよ」

美佳の顔を見つめる恵が、心配そうに声を掛けた。

「まさか、どうして・・」

恵は美佳の携帯を覗き込むと、怖い顔で久美子に命じた。

「久美子っ、真由美と優子呼んできて、すぐに!」

 

「もしもし、アキちゃん、どうしたの?」

「貸して!」

恵は美佳から携帯をもぎ取った。

「亜希子?あたし、恵、どうしたの?」

 

「メグ、どうしたの?」

優子と一緒に教室に入ってきた真由美が恵に声を掛けたが、それを無視する

かのように、恵は真剣な表情で電話をしている。

「・・・わかった。今、小町連れて行くから」

「なにごと?」

顔色の悪い恵に、真由美が訊いた。

「美佳の妹が、連れ去られた」

「美樹ちゃんが?真由美ちゃん、小町、集合かけるよ!」

真由美が頷くと、久美子は電話をかけ始めた。

「みんな、ちょっと待ってよ!これは・・・」

「美樹ちゃんは、私にとってもダチなの!」

美佳の言葉をさえぎると、久美子は携帯電話に向かって喋り始めた。

「・・美由紀、小町集合!今直ぐ・・・

 違う、単車じゃない、渋谷に行くから・・・東長浦のホームで・・・」

「亜希子も巻き込まれてるんでしょ!亜希子は、あたしの可愛い後輩だよ」

 

 

「あれぇ、先輩たち、駅のホームで集会ですか?」

駅に着いた美佳たちに、香織が近づいてきた。

「これから美佳ちゃんの妹、ほらっ、この前あんたが間違えて喧嘩売った、

 美樹ちゃん、あの娘助けに行くところなの。亜希子ちゃんも一緒みたい」

「えっ、どうしたの?」

「ばかっ!」

恵は久美子を怒鳴りつけると、香織に向かって言った。

「香織、あんたはダメ!保護観中でしょ!」

「なに言ってるの、亜希子は私の・・」

「ダメったらダメ!あんた、先輩の言うことが聞けないの?」

「聞けねえよ!」

恵と香織が、今にも飛び掛らんばかりに睨み合った。

「二人ともやめなっ!香織、あんた今度捕まったら・・・」

「わかってるわよ!」

真由美が恵と香織の間に割って入った。

 

 

美佳たちが電車を降りて山手線のガード下を通り掛ると、突然、20人以上の

女子大生が、美佳と小町の面々を取り囲んだ。

「川村さん、大丈夫?久美から電話があって、心配したのよ」

聖華女子大1年生の黒川理江が美佳の元に駆け寄った。

「なんだ手前ら」「ふざけんじゃねえぞ!」

(EGOIST?)

いきなり囲まれて息巻く小町の面々をよそに、美佳は理江を睨みつけた。

「あんたたち、この娘をどうする気?」

「ざけんじゃねえよ!」「うるせえババア!」

他の女子大生が、美佳と小町達の間に割って入ると、小町のメンバーは口々に

罵った。

(この人達、私のことを心配してるの?EGOISTじゃない?)

「みんな待って!」

美佳は小町の面々を宥めると、理江の方に振り返った。

「あなたたち、いったい誰?」

「美樹ちゃん、判らないの?私よ、黒川!」

美佳の事をすっかり美樹だと思い込んでいる理江が困った顔をした。

「みきぃ?あなたたち、いったい誰なんですか?(だれだろう?)」

美佳の言葉に、女子大生たちがざわついた。

「えっ、違うの?あなた川村美樹さんじゃないの?」

「美樹は私の妹ですけど・・私たち急いでますんで・・・」

「川村さん、あなたの妹さんが大変な事に・・・」

女子大生たちの間をすり抜けようとする美佳の後姿に、理江が声をかけた。

「どうしてそれを・・・」

「私達も美樹さんを助けに来たんだけど・・・・」

「20人以上いるって言うから・・・私たちも一緒に行ってあげるよ」

 

 

 

「あと15分しかないけど、本当に来るのかねえ?」

「来なかったら妹を丸坊主にして、こっちから乗り込むまでよ!」

「でも、仲間を大勢連れてきたらどうすんの?」

「そんな卑怯なマネしたら、その時は目にもの見せてやるよ!」

美樹を連れ込んだ廃工場のかつては事務所だった部屋で、美香や真依子達が

話しているのを尻目に、麻由美はひとり窓の外を眺めていた。

(卑怯?どっちがよ・・・)

 

 

 

「みんなはここで待ってて!」

廃工場から400mほど離れた場所で、周りを取り囲む、50人近くまで膨れ

上がった、小町、女子大生、女子高生に向かって美佳は言った。

「なんでよ?」

「でも、川村、あっ、いやっ、美樹さんがあの中に・・・」

すると周りの人垣からは、不満の声が上がり始めた。

「真由美、これは私の喧嘩だからね!皆に手を出させないでよ!」

「そんなこと言ったって・・・」

「タイマンって、1対1でやるんじゃないの?」

「そりゃぁそうだけど・・・」

「だったら、手を出さないで!」

「わかったよ!でも向こうが汚ねえことしたら・・・」

「本当に、一人で行く気なの?」

プロレス同好会キャプテンの久美が、心配そうな表情で訊いた。

「二人よ!」

すると亜希子が、さっと美佳の横に立った。

「アキちゃん、あなた・・・」

「私が渋谷になんか誘ったから美樹ネエが・・・」

「それは私の・・・」

「それに、私だってトドメを刺しておきたいし・・・」

「亜希子!」

 パシーン

突然香織が亜希子の前に進み出ると、横っ面を引っ叩いた。

「香織さん・・な、なんで・・・」

「気合い入った?」

困惑の表情をした亜希子に、香織は笑顔で訊くと、頭を掴んで額をくっつけた。

「負けんじゃないよ!」

「うん、・・・美佳ネエ、いこう!」

美佳を促すと、亜希子は廃工場へ向かって歩き出した。

 

「ねえ、本当に二人で行かせる気?」

「タイマンなんだから、しょうがねえだろっ!」

「そんなこと言ったって・・・」

 

「あれっ、久美子は?」

真由美が辺りを見回しながら声を上げた。

「あっ、奈津子もいない!」

真由美の声につられて辺りを見回した久美も、同じように声を上げた。

 

 

 

「あと5分ね〜」

「どうやらお前の姉はカワイイ妹を見捨ててしまったみたいね〜」

「恐くて来れないんですよ〜」

まもなく約束の2時間という時、ノア達が美樹に言い始めた。

 

「時間ね!とうとう美佳のヤツこなかったね〜

 悪いけど約束通り丸坊主になってもらうからね〜」

時計を見た美香が、鋏を手に美樹に近づいた。

「待って!来たみたいよっ!」

ノアが工場の方から聞こえて来る物音に気づいて言うと、EGOのメンバーに

緊張感が走った。

 

「大西!出て来い!」

「美樹ネエー!」

美佳と亜希子が工場の真ん中まで来ると、EGOギヤル予備軍が一斉に囲んだ。

 

「雑魚は引っ込んでな!大西、出てこい!」

「美樹ネエを返せっ!」

 

美佳と亜希子がギャル達を怒鳴りつけていると、ノアがゆっくりと姿を現した。

「あらあら〜威勢のいいオネェちゃんね〜」

「残念だけど・・・ご希望の大西真紀ちゃんはここにはいないよ〜!」

ノアの後から、手錠を掛けられぐったりした美樹を連れた美香も姿を見せた。

「美樹・・・こらっ、美樹を離せ!」

「川村ぁ!この前のリベンジさせてもらうからねっ!」

「ふざけるな!美樹を離せっ!」

「ノアと勝負して勝ったらね・・・」

「先に美樹を離せ!私が来たからには美樹に用は無いはずだよ!」

 

(あ〜あっ、やってらんないよ・・)

EGO四天王の一人でありながら、今回のやり方にフェアじゃないと一人反発

していた麻由美は、ノアと美佳のやり取りを横目に、一人廃工場を出て行った。

 

「川村ぁ!どうした?

 EGOが大勢いるんで足がすくんじゃったのかしら?あはははは!!!」

「早く美樹を離せ!」

自分を押しのけて美樹の方へ進み出す美佳の腕を、ノアが掴んだ。

「リーダーはお前とやるって言ってんだ!それまで妹は預からせて貰うよ〜!」

美香は鋏を取り出すと、美佳の髪の毛に近づけた。

 

「離せバカ!」

美佳はノアに掴まれている腕を振り払うと、亜希子に近づきポケットからサバイ

バルナイフを抜き取った。

「あっ、どうしてそれを・・・」

亜希子の驚きをよそに、美佳はノアを捕まえて喉元にナイフを突きつけた。

「お前死ぬか?」

「天下の川村美佳がナイフを出すなんて、相当せっぱつまった証拠ね・・・」

「テメー!ノアを放せっ!

ノアの喉元ににサバイバルナイフを突きつける美佳。

そして美樹を捕らえ背後からハサミを突き立てる美香。

 

 

 

久美子が見つけたフェンスの切れ目から廃工場の敷地に入った真由美たちは、

物陰に隠れながら、工場内の様子を覗っていた。

「誰か出てきたぞ!」

「やっちゃう?」

 

 

建物から出た麻由美が近づいてくる足音の方を見ると、建物の周りには50人

以上の集団が居た。

(ほーら、言わんこっちゃない・・)

麻由美は携帯を取り出すと、電話をかけ始めた。

「もっし〜真紀ちゃん?麻由美だけど・・・実は・・・」

 

「こらっ、どこに電話してんだよ!」

走り寄った恵が、麻由美に怒鳴りつけた。

電話を切った麻由美が、自分を取り囲んでいる、一見、普通の女子高生だが、

目つきと言動が明らかに違う集団を怪訝そうな表情で見た。

「あんた達、これは元々大西真紀と川村美佳の喧嘩だよ!

 それがこんな大事になっちゃって・・何にも知らないあんた達が大騒ぎする

 から、どんどん話が大きくなっちゃうんだよっ!」

日頃は冷静な久美子が、いきなり麻由美の胸倉を掴んだ。

「だったらなんで美樹ちゃんを連れ去ったのよ!」

「・・・・・・・」

(私だってこんなやり方・・)

久美子の言葉に、麻由美は言葉を失った。

 

「ちょっと、たいへーん!あの娘ナイフ持ってる!」

中を覗き込んでいた理江が大声を上げると、工場を取り囲んでいた50人以上が

一斉に入り口に向かった。

 

 

「美佳!やめろー!」「美佳!馬鹿なことはやめな!」

真由美を先頭に、皆が口々に叫びながら工場の中へなだれ込んで来た。

「ほぉ〜団体さんのお着きだぁ〜

 ずいぶん仲間を連れてきたんだね、やっぱり一人じゃ恐いんだ?

 ノアはね、あんたと1対1でタイマンするって言ってんだよ!」

「てめぇ、今頃ぬけぬけと・・・

 てめえが最初に美樹ネエをフクロにしたんだろ!」

美樹を捕らえたままの美香が言うと、すかさず亜希子が怒鳴り返した。

 

「みかぁ、そいつを離せ!」

「美佳、タイマンじゃ無かったのかよ!」

恵と真由美の言葉に、美佳が漸くノアを離すと香織が近づいてきた。

 パシーン

「あんたそんな事して、どうなるか判ってるの?」

美佳を引っ叩いた香織は、自分の身に振りかかった忌まわしい過去を思い

出すかのように美佳を睨みつけた。

 

「関係ない連中は口をはさまないで!」

美佳から離れたノアは香織に怒鳴ると、美佳を睨みつけた。

「いい?

 あんたが真紀を誘い出す為にノアに喧嘩売ったのが事の発端なんだから・・

 一人ずつEGOを潰して真紀をいぶりだすんでしょ?

 でもノアがそんな事させない!今日ここで決着をつけてやる!」

 

 

「美佳、勝っても負けても文句言わないね!」

真由美が訊くと、美佳は黙って頷いた。

 

「あんた覚悟しなよ!

 この前は大西を誘き寄せるためにあんたに犠牲になってもらったけど・・・

 美樹をこんな目にあわせて・・・今日は手加減しないからね!」

美佳はノアに怒鳴りつけると、さっと構えた。

「そっちこそ覚悟するのね!

 この日を心待ちにしてたのよっ!

 川村ぁっ、お前をズタズタにしてやる日をね・・・」

ノアがゆっくり円を描きながら美佳との間合いを詰めていくと、二人の闘いを

固唾を飲んで見守る工場内は、シ〜ンと静まりかえった。

美佳は右手を斜めに上げて、じりじりとノアに近づいて行った。

そしてぶらぶらさせている左手を、素早く前に突き出したかと思うと、ノアの

右腕をがっちり掴んだ。

が、掴まれた右腕を嫌がるかのように払い除けると、爪先で美佳のお腹を蹴り

つけてから、美佳の頬を引っ叩いた。

 パチーン

「あっ」

ノアの蹴りとビンタに、美佳は少し後ろに下がって間合いをとった。

「やっぱりね!」

美佳は不敵な笑みを浮かべると、さっきより強くノアの右腕を掴んだ。

「何がやっぱりなの・か・し・らっ!」

腕を強く掴まれてノアの顔が少し引きつった。

が、素早く美佳の髪を掴んだノアは、いきなり鼻に頭突きを入れすぐに離れた。

 ボコッ

「あうっ」

美佳は堪らず鼻を押さえた。

「フフ・・毎回その手は食わないわよっ!」

美佳の柔道技を警戒して、ノアは打っては離れる作戦にでてきた。

「あっ・・・てめぇ、このやろぉ!」

手についた鼻血を見て逆上した美佳は、勢いをつけるとノアの膝を狙って飛び

蹴りを放った。

 ドコッ

「ぐわっ!飛び蹴りもするのね〜」

膝を打ち抜かれて尻餅をついたノアは、それでも、立ち上がろうとする美佳に

裏拳を叩きこんだ。

「死ね!」

「あうっ」

慌てて腕を立てガードする美佳だが、ノアの裏拳の威力に少しよろけた。

するとノアは、立ちあがりざまに美佳にソバットを叩きこんだ。

 ドカッ

「がっ・・」

「こんなに大勢の仲間の目の前でノアに殺られて這いつくばるのだから・・・

 最高のリベンジね!」

ノアはひっくり返った美佳の顔を踏みつけると、満足そうな顔で言った。

 

「美佳ネエ!」

亜希子が一歩前に出ると、真依子は拳を握り締めて亜希子を睨みつけた。

「まい子・・・今は我慢しなさい!」

千夏が真依子の肩を押さえるように宥めすかした。

「タイマンの最中だろうが!」

真由美も悔しそうな顔をしながら、亜希子の前に手を伸ばして制した。

 

「がはっ、ぐはぁっ・・このやろぉ・・」

「どう?美佳あ!!この前のこと謝りなっ!」

顔を踏みつける足を掴んで持ち上げようとするが、ノアの足は更にグイグイと

美佳の顔を踏みにじった。

 

「んあぁぁぁっ・・・」

持ち上げる事を諦めると、美佳は顔の痛みを我慢しながら、女子高生離れした

物凄い握力でノアの足を掴むと思いっきり捻った。

「きゃあああ!!!」

 ドサッ

 

「あっ」「ああっ」

ノアの倒れ方が尋常でないのを見ると、ギャルたちに動揺が走った。

 

「こんのやろぉ!よくも人の・・・」

切れた唇を手で拭いながら立ち上った美佳は、馬鹿力で捻ったノアの右脚を

持ち上げると、股間に何度も踵を落とした。

 ドスッ ドスッ・・・

「うっ、うわっ、あぁっ・・・」

 

「うわっ、ひでぇ・・」

「あたしらだってあそこまでは・・・」

「真由美、そろそろ止めた方がいいんじゃない?」

美佳のえげつない攻撃に、流石の小町たちの間にも動揺が走る。

 

「うっ・・うわ〜っ!!」

美佳の股間攻撃に転がって逃げようとするノア。

しかし足首を捻られて、立とうとしても立ち上がれない。

「こらぁ、逃げんじゃねえ!」

美佳はノアの顔面を思いっきり蹴り上げた。

 ボコッ

「きゃあああ!!」

ノアが口から血しぶきを上げながら崩れ落ちた。

 

 

「そこまでだよ!」

突然、静まり返った工場内に真紀の声が響き渡った。

真紀は倒れているノアに歩み寄ると、優しく抱きかかえた。

「ノア、何も全部あんたが背負う事ないんだよ・・・」

「このやろぉ!今頃のこのこと・・・

 てめぇ、やり方が汚ねんだよ!早く美樹を返せ!」

すると真紀は、美樹を捕らえている美香の方に向かって歩き出した。

真紀が無言で近づいてくると、美香は美樹の手錠を外した。

「言い訳になっちゃうけど、あたしは何も知らなかった・・・

 お前の妹は返してやるよっ!」

真紀が放り出すと、美佳は美樹の元へ駆寄った。

「美樹、ごめんね、ごめんね・・・大丈夫?」

美佳は目に涙を浮かべて美樹を抱きかかえた。

 パシン

「美佳のバカ、私の為にこんなところまで・・・ありがとう」

美佳を引っ叩いた美樹の目にも涙が浮かんできた。

 

「アキちゃん、美樹を・・・」

真紀の言葉に肩を震わせながら美佳は、美樹を亜希子に託そうとした。

「美佳ネエ、ちょっと待って!あたしは、あいつにとどめを刺すんだから!」

「やんのか!こらっ!」

亜希子が真依子を指差すと、今にも掴みかからんばかりの真依子が応じた。

「私だって、あいつを・・・」

「そんな身体でまだやるつもり?」

美樹が美香を指差すと、美香も挑発してきた。

 

 パシン パシン

突然、真紀が真依子と美香の頬を引っ叩いた。

「まだわかんないの?これは真紀と川村の問題だっていってるんだよっ!

 真紀と川村の喧嘩に口はさんでんじゃないよっ!!」

真紀の言葉に、真依子と美香は黙り込んでしまった。

 

 

「こいつらがやった事は謝る・・・

 でも、ノアをこんなにされてあたしも黙っちゃいね〜よっ!」

「だったらどうするって言うの?」

「なんなら真紀とお前ら全員、1対50でもいいんだよっ!」

美佳の仲間を牽制する真紀。

 

「・・・ふっ、冗談よ・・・

 この下に鍵のかかる地下室がある。そこで二人っきりで誰にも邪魔されず

 徹底的にやろうよ。最も・・・恐くなければの話だけど・・・」

「仲間に見守っててもらわなくて、大丈夫?」

真紀の挑発に美佳は一歩前に出た。

「それはこっちのセリフ・・・

 もう誰も助けに来てくれないよ〜 ついて来な!」

真紀が後ろを振り返り歩き出すと、美佳も黙って後に続いた。

 

 

 

 ギギギ〜〜

真紀が地下室の扉を開けた。

「ここだよ」

「ふーん、ここがあんたの墓場?」

美佳が先に入ると、真紀も地下室に入った。

 ギギギ〜〜 バッターン カチャ

「あるいは、川村・・・あんたの墓場かもね・・・」

真紀は扉を閉めると、美佳に向かって不適に微笑みながら鍵を掛けた。

 

「あんたこの頃、いろんな娘たちからも狙われてるらしいじゃん・・・

 大丈夫、私があんたにとどめを刺してあげるから・・・

 その娘達もあんたのことは相手にしなくなるでしょう・・・

 EGOはあんたがいなきゃ、解散でしょ?」

部屋の中央で真紀の方に向き直ると、美佳はいつものように構えた。

「別に〜誰に狙われようが結果は同じ・・・

 真紀に喧嘩を売って最後にみんな後悔するんだよ〜

 川村ぁ〜よかったね〜念願の真紀にとどめを刺してもらえるんだ!

 神様に感謝しないとね!」

真紀は握り拳をパッっと開くと、5本の指を触覚のようにヒラヒラさせると、

再び硬く握り直した。

 バキバキバキ・・

片手を握り締めるだけで、真紀の指の関節が物凄い音を立てた。

「あんた運動不足なんじゃない?ふつう、そんなに鳴らないよ」

強張った顔をした美佳は、柔道の構えでじりじりと真紀に近づいた。

「今日は私があんたの運動不足を解消してあげるから・・・」

美佳は左腕を素早く伸ばすと、真紀の右腕を掴んだ。

「左手で相手を掴むなんて・・・川村ぁ〜結構喧嘩なれしてるじゃん!」

「あんたもう忘れたの?私が柔道の有段者だって・・・」

「だけど、最初に胸を掴まなかったのが、間違いなんだよっ!」

美佳の言葉を遮ると、真紀は美佳の腕を払いのけ、顔面に肘を叩き込んだ。

 バコッ

「がはっ・・・」

そして、一瞬怯んだ美佳の股間を爪先で蹴り上げた。

 ドスッ

「あうっ」

大事なところを両手で押さえて膝をつく美佳。

「さっきはよくも・・・

 動けなくなっているノアの股間を蹴りまくってくれたよね!」

 ボコッ

「がはっ」

真紀のヤクザキックが顔面に入ると、美佳は顔を押さえて前に屈みかけた。

「死ねっ!こらっ!」

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

「あうっ、あうっ、あうっ・・」

真紀の爪先が何度もお腹に突き刺さと、耐えきれずに美佳は、お腹を押さえて

仰向けにひっくり返った。

「川村ぁ〜どうした?さっきまでの強気なセリフが出てこないじゃん!」

真紀はゆっくり馬乗りになると、美佳のYシャツを掴んで上半身を起こした。

「かかってこいやぁ〜!」

「はぁ、はぁ・・・逃げ出すなら今のうちだよ!」

美佳は真紀の髪を掴むと、自分の額に向けて真紀の顔面を叩きつけた。

 ボコッ

「うわっ」

美佳の頭突きに、今度は真紀が仰向けにひっくり返った。

「はぁ、はぁ、はぁ・・ほらぁ、私が倒れているうちに逃げないから・・・」

荒い息遣いの美佳はゆっくり立ち上がると、顔面を押さえたままで倒れている

真紀のお腹に膝を落した。

 ドスッ

「ぐはっ・・・」

苦しげにお腹を押さえた真紀は、まるで牢獄の様に薄暗い地下室を転げ回った。

「こらっ、逃げるな!」

何かに取り憑かれたかのように目の座った美佳は、執拗に真紀を追いかけると、

踏みつけるように、お腹に何度も踵を落した。

 ドカッ ドカッ・・

「ぐっ、このぉ・・・」

 

 ガスッ

美佳の踵が、転がりながらタイミングを図っていた真紀を捕らえ損ねた。

「この野郎!」

素早く美佳の後ろに回りこんだ真紀は、首に腕を回すとスリーパーを極めた。

「がっ・・・」

「はぁ、はぁ、はぁ・・誰が逃げるか!」

そして真紀は、叫びながら美佳の身体を後ろに引きずり倒すようにしながら、

地下室の床にお尻から倒れこむと、美佳のお腹に脚を絡ませて締め上げた。

「かわむらぁ!ここは防音設備がしっかりしててね・・・

 あんたが泣き叫ぼうが外からは誰も聞こえないんだよ!

 だから安心して喚きちらしなっ!」

お腹と首を絞められた美佳は、真っ赤な顔で首に掛った腕を外そうとした。

(と、とれない・・・じゃあ・・)

「んーんっ!」

美佳は首が絞まるのを覚悟で頭を前に倒すと、思いっきり後ろに叩きつけた。

 ボコッ

「きゃああっ」

美佳の後頭部が顔面を直撃し、真紀は思わず転がりながら美佳から離れた。

「げほっ、げほっ・・・」

真紀のスリーパーが外れたものの、美佳は首を押さえ苦しそうに咳込みながら

横向きに倒れている。

「やるじゃん!でも川村!お前には絶対負けね〜かんなっ!」

「あっ、くそっ!」

真紀が髪を掴んで馬乗りになろうとすると、負けじと美佳も真紀の髪を掴んで

自分の上から振り落とそうとした。

「あっ」

「きゃぁっ」

互いの髪の毛を掴んだ真紀と美佳は、地下室の床の上をごろごろと転げ回った。

 

(このままじゃあ、埒があかない・・)

「はぁ、はぁ・・こ、このっ・・」

美佳は自分の背中が床につくと同時に、自分の両脚を真紀の右脚に巻きつけて

締め上げると、さっきノアの脚にやったように真紀の腕を捻った。

「くっ・・・あぁぁっ・・・」

なんとか美佳を組み伏したと思った瞬間、腕を捻られて悲鳴を上げる真紀。

「先ずは左腕ね!どこまで曲がるかなぁ?そーりゃっ!」

美佳は真紀の左腕を、時計と反対周りに思いっきり捻った。

「ぐわああ〜!!こっ、この馬鹿あ!」

苦しげな表情の真紀の額から脂汗が滲み出る。

「放せって・・言ってんだ・・」

真紀は右肘を鋭角に曲げると、美佳の顔面に何度も打ち込んだ。

しかし美佳は肘打ちに耐えながら、真紀の左腕を捻ったままで放さない。

「テメ〜!」

顔面攻撃にも耐える美佳に業を煮やした真紀は、右手をVの字にすると美佳の

両目に突き刺した。

 ブスッ

「きゃぁ!」

真紀の目潰しに、思わず全身に力が入る美佳。

その途端、異様な音と共に捻っていた真紀の左腕から抵抗が無くなった。

 

「あぁぁっ・・・」

美佳から転がり離れると、額に脂汗を浮かべて痛めた腕を押さえて蹲る真紀。

目潰しを喰らった美佳も素早く起き上がったものの、一時でも早く視力が回復

するようにと、目を揉み解している。

 

「はぁ、はぁ、・・・こんなんで勝ったと思ったら大間違いだよっ!」

真紀は痛みに顔を引き攣らせながらも、傷めた左腕をブラブラ振りながら

まだ目を揉んでいる美佳に近づいていった。

「はぁ、はぁ、・・今度は川村あ!あんたの番だよっ!」

そして、美佳を大外刈りでコンクリートがむきだしの床に叩き付けると、

そのまま三角絞めを極めた。

「んっ、んー・・・」

美佳は必死にもがいて足の間からすり抜けて逃げようとするが、頬のあたりまでしか抜けない。

(あっ、痛っ、痛っ・・顔が絞め付けられる・・)

痛みに耐えながらも、足をばたばたさせて必死になって逃げようとする美佳。

 

「はぁ、はぁ・・川村、今まで色んな娘の腕を折ってきただけ・・・

 今日はその娘達の分まで真紀がタップリと仕返ししてあげるね!」

左腕に100%の力が入らないながらも、その強靭な脚力で首と腕を締め付け、美佳の左腕を破壊しようとする真紀。

美佳は左腕を庇うかのように左に回りながら真紀と向かい合おうとした。

その瞬間、真紀が美佳の左腕を引っ張るように右に捻った。

ゴキッ

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

真紀は絶叫する美佳の左腕を離すと、ゆっくりと立ち上がった。

「フフ・・どうやらあいこの様だね?」

「あぁぁぁっ・・」

美佳は目に涙を浮かべて、左腕を押さえたまま蹲るように座り込んだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

荒い息遣いの真紀も、左腕を押さえて蹲る美佳を黙って見つめた。

 

「うっ、うっ、うっ・・(腕が動かない・・これって・・・)」

左腕を押さえた美佳の全身が、小刻みに震えている。

「うわっ!あぁぁぁぁぁぁぁっ・・」

左腕を押さえたまま、顔を涙と汗でぐっしょりにして絶叫する美佳。

もう、全身ががくがくと振るえている。

 

「・・・・・・・・」

あまりの痛さに気絶でもしたのか絶叫が止まり、美佳の身体が動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

真紀は左腕を押さえたままで、美佳を見下ろすようにしながらも、じりじりと間合いを詰め始めた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

すると、汗と涙で顔を濡らした美佳がゆっくりと立ち上がった。

「あんた器用なことするね!でも、私が柔道二段だって事を忘れた?」

美佳は間合いを取りながら、両手を組んでほぐすように腕を回した。

「さーてと、おあいこじゃ無くなったみたいよ」

そして柔道の構えで、真紀に慎重に近づいた。

「強がりもほどほどにしないとね〜また泣きみるよっ!」

真紀は右腕を伸ばし、指を触覚のようにヒラヒラさせて美佳とフィンガー

ロックの状態になるやいなや、美佳の左腕を下段に下げさせ、腕の付け根

をつま先で思いっきり蹴り上げた。

「この馬鹿があ!!」

「あぎゃぁ・・」

先程外された左肩への激痛に耐えながらも、右手で奥襟気味に真紀の後頭

部の髪を掴むと、体落としで床に叩きつけながらお腹に膝を落とした。

「そーりゃっ!」

「ぐはぁっ!」

体落としで床に叩きつけられた衝撃もさる事ながら、お腹への膝攻撃で、堪らず吐き出しそうになる真紀。

しかし、そのまま下から美佳にむしゃぶりつくと、美佳を引きずり込むように倒して足を絡めて強引に上になり、美佳の両手首を掴んで床に動けないよう押さえつけながら睨みつけた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「はぁ、はぁ・・・」

静かな地下室に、二人の荒い息づかいだけが聞こえる。

 

美佳は右腕を真紀の手から強引に引き抜くと、真紀の左手首を掴んだ。

「きゃっ、重たいなぁ、このデブ!どきなさいよ!」

「だれがデブだって!うっ・・・」

そして真紀が言い返さないうちに、真紀の左腕を力一杯振り動かした。

真紀は苦痛に顔をゆがめながら必死に耐える。

が、埒があかないと見るや、美佳のYシャツに手を掛けて引っ張った。

 ビリビリ

Yシャツのボタンが弾け飛び、引き裂かれた隙間から薄いブルーのブラが

チラチラと見え隠れした。

「きゃぁ!何すんのよ、この変態!」

美佳は羞恥で顔を真っ赤にして怒鳴ると、左手をVの字にして、真紀の目

に突き刺した。

「ぎゃああ・・」

美佳の目潰しに、堪らず真紀は馬乗りの状態から横向きに転がった。

 

「そーりゃっ!」

美佳は右手で掴んだままの真紀の左手首を両手でしっかりと掴み直すと、

身体を丸めて両脚を真紀の左腕に絡ませた。

「今日は遠慮しないよ!」

一言呟くなり腕ひしぎを極めると、真紀の左手首を自分の脇腹の左外側に

持っていき、そのまま手の甲を一気に床まで押し付けた。

 ゴキッ

「うぎゃあああああああ・・・」

「いっちゃったかなぁ?」

美佳は不適な笑みを浮かべると、絶叫している真紀の顔を覗き込んだ。

あまりの痛さに、真紀が脚をバタバタさせてもがき暴れると、それに引き

ずられるように二人の身体は壁際まで動いていった。

そしてもがき暴れる真紀の脚が壁を蹴った。

ドコッ

真紀は壁を蹴った反動で立ち上がると、腕を極められながらも、捲くれあ

がったスカートから剥き出しになったショーツに肩を押し当てて、美佳を

エビのように丸め込んだ。

 

(こいつ、腕を折られても平気なの?)

一度は『勝負ついた』と思った美佳だが、尚も反撃してくる真紀に一抹の

不安をおぼえた。

「あんたまさか、変な薬やってんじゃ・・・」

美佳が言いかけると、真紀は返事とばかりに美佳の脇腹に右の拳を何度も

叩き込んだ。

ドスッ ドスッ ドスッ・・・

「がっ、うっ、あぐっ・・・」

真紀の重たいパンチに、堪らず美佳は腕を放すと脇腹を押さえた。

 

「・・・いっただろ?こんなんじゃ真紀は負けないって!」

左腕がダラーンと垂れた状態の真紀は、慎重に間合いをとった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

美佳は直ぐに気を取り直すと、脇腹を押さえながら立ち上がった。

「あんたこそ、強がりはやめたら?」

そして言葉とは裏腹に、真紀に飛び掛ると左手首を掴んで振り回した。

「うわぁ〜〜っ!」

左腕を掴まれてグルグルと振り回されるたびに絶叫する真紀。

 

「このシャツ高かったんだからね!」

美佳はボタンが飛んだYシャツを見下ろすと、真紀のブラウスの襟を

両手でギュっと掴んだ。

「あんたのも・・・」

 ビリビリビリ・・

そのまま美佳は腕を左右に大きく開くと、襟を一気に肘の少し上まで

引きおろした。

「これで、両手が使えなくなったよ!そろそろ謝る?」

胸から上が剥き出しになった真紀に向かって、またもや言葉とは裏腹

に髪の毛を掴んで押し下げると、右腕で真紀の頭を抱え、胸元に膝蹴

りを何発も入れた。

 ドスッ ドスッ・・

「ぐっ、ぐわっ・・・」

美佳の膝が胸元に入る度に、呻き声を上げながらも耐え続ける真紀。

(ちくしょう!まだ倒れない・・・じゃあ、右腕も・・・)

左腕を折った上に、何発膝蹴りを入れても倒れない真紀に、焦り始め

た美佳は、真紀の髪の毛を掴むと再び押し下げた。

 

「高かったなら、喧嘩の時に着てくんじゃねーよっ!」

真紀は髪の毛が引き千切れるのを覚悟の上で、思いっきり頭を上げて

うつむき気味の美佳の顎に頭突きを食らわすと、間髪入れずに股間を

蹴り上げた。

ボコッ

「きゃぁぁ・・・」

股間を押さえて飛び退くように真紀から離れる美佳。

 

真紀は脱がされかけたシャツを元に戻すと、苦しげな顔で股間を押さえた

ままの美佳の髪を掴んだ。

「きゃっ・・」

「川村ァ〜・・・真紀をここまで追い込んだオンナはお前が初めてだよ!

だけど真紀の本当の恐さを知るのはこれからだかんなっ!」

そして、美佳の膝をヤクザキックで打ちぬいた。

バコッ

「あうっ・・」

真紀の蹴りに、美佳は滑るようにうつ伏せに倒された。が、転がるように

離れると、素早く立ち上がって真紀を睨みつけた。

「ま、まだやる気?」

そして無言で睨み返す真紀に向かって走り出すと、その足元に脚から滑り

込み蟹挟みで床に叩き付けた。

 

ドサッ

「きゃぁ・・・」

しかし真紀は、蟹ばさみで倒されながらもうつ伏せの状態から一回転して

素早く立ち上がると、美佳の髪を掴みながら顔面に蹴りを叩き込みさらに

引き起こして卍固めを極めた。

「あぁぁぁっ・・・」

苦痛に顔を歪める美佳。

「川村ぁ〜体中バラバラにしてやるかんな!」

真紀は渾身の力で美佳を締め上げた。

「ち、ちくしょ・・・」

美佳は自分も受身が取れないことを覚悟して、右受身のように倒れこんで、

真紀の頭を床に叩きつけた。

ドカッ

「きゃぁ・・」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

かなり息遣いの荒くなってきた美佳は、素早く真紀の下から出ると立ち上がり、真紀の左肘をぐりぐりと踏みつけた。

「ぐわぁぁぁぁぁっ・・・」

折れた左腕を踏み潰され再度絶叫する真紀。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・いい加減に降参したら?」

「言ったろ!どっちかが動けなくなるまでって・・・」

言うなり真紀は、右手で美佳の足を払って尻餅をつかせると、左腕を押さえな

がら素早く立ち上った。

そして、苦しい表情を見せながらも立ち上がろうとする美佳の顔面に、熊手打

ちを叩き込んだ。

ボコッ

「あがっ・・」

「はぁ、・・はぁ、・・立って来いやっ!!」

完全に目がイッっている真紀。

それでも立ち上がろうとする美佳に対して何かにとり憑かれたかのような爪

先蹴りを何発も叩き込んだ。

ドスッ ドスッ ドスッ・・・

「あうっ、がふっ、がはっ・・」

苦悶の表情で立ち上がろうとする美佳。

 

「がぁぁっ・・・ど、どうだぁ!」

美佳は、お腹に突き刺ささる真紀の足をやっとの思いで掴まえると、それを

しっかりと掴んだまま立ち上がった。

「覚悟しろよぉ!」

そして真紀の脚を胸元まで引き寄せて、膝に全体重がかかるように飛び上が

りながら倒れこんだ。

ドサッ

「きゃぁぁ・・(な、なんてオンナなの?)」

美佳の底知れないスタミナに驚きながらも、左脚を美佳の細く括れたお腹に

絡ませて締め上げた。

「あっ、あうっ・・」

真紀の胴締めに、美佳が一瞬仰け反った。

すると真紀は、美佳の髪を掴んで強引に後ろに引っ張った。

「あっ、きゃっ・・」

そして右腕を美佳の首に絡めると、そのまま胴締めスリーパーを極めた。

「どうだあ!」

「あがっ、あぐっ・・・」

顔を真っ赤にした美佳は、苦し紛れにまたもや真紀の左腕を掴んだ。

「ぎゃぁぁぁっ・・・」

絶叫と共に苦痛に顔を歪める真紀。

 

 

 

 

「川村、お姉さん大丈夫?そろそろ1時間経つよ」

「私たちだって、なかなか60分は・・・」

 

美樹を取り囲む久美や女子大生たちが心配そうな声をあげ始めると、久美子は、

EGOのメンバーを一人ずつ確かめるように睨みつけた。

真紀が地下室に消えてから長い時間が経ったことに、不安と苛立ちを隠せない

EGO側でも、ひとりだけ冷静そうに美樹達を睨みつけている少女がいた。

 

麻由美と久美子の目が合うと、二人は無言のままで互いの距離を縮めていった。

互いの手が届くくらいに近づくと、久美子がいきなり麻由美の胸倉を掴んだ。

「てめぇ、このやろう!」「ふざけんじゃないぞ!」

EGO側が一斉にやじを飛ばした。

しかし麻由美は、仲間たちを無視するかのように久美子の胸倉を掴み返した。

 

麻由美と久美子。

共にチーム内では一番冷静なこの二人が、無言で睨み合いながら互いの胸倉を

掴みあうと、周りで見守る少女たちが一瞬、水を打ったようにシーンと静まり返った。

 

「あんた、合鍵くらい持ってるんでしょ?」

久美子の問いかけに、麻由美はそれをあっさりと認めた。

真紀と美佳が地下室に消えてから1時間以上が過ぎたことに心配する久美子が、

『タイマンの途中で邪魔をすることになる』と躊躇する麻由美をどうにかこう

にか説得すると、それぞれの代表3人づつが真紀と美佳の様子を見るために、

地下室に行くことに決まった。

そして、『絶対に中立を保つ』と言い張る女子大生を従えた双方の代表らが、

地下室へと降りていった。

 

 

「うがっ、あがっ・・・」

「あぁぁぁぁっ・・・」

馬乗りになった真紀が、美佳のこめかみを右手で締め上げている。

だが美佳も、折れた真紀の左腕を掴んで衝撃を与えている。

 

 

ギギギィ〜〜

 

「ぎゃぁぁぁぁっ・・・」

「ぐぁっ、がっ・・・」

 

麻由美と久美子が先頭に立って入ると、悲鳴と絶叫が充満した地下室では、

顔中を涙と汗でぐしゃぐしゃにした真紀と美佳が、まるでボロ雑巾のような

姿で闘っていた。

 

苦痛に顔をしかめた真紀の右手が、美佳のこめかみから咽喉元へと伸びた。

「がっ、がはっ、ぐっ・・・」

 

「美佳!」

「姉貴が負けそうだから止めるの?」

目に涙を浮かべた美樹が前へ出ようとするのを美香が止めた。

 

息もできず顔を真っ赤に染めた美佳は、真紀の左腕を両手で掴むと、折れた

場所を雑巾のように絞り上げた。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ・・・」

 

「ちょっと待って!あの娘の腕、おかしい・・・」

不自然な格好に曲がる真紀の左腕を見た女子大生が声をあげた。

「あの娘、腕が折れてる・・・ダメ、止めて!」

理江の叫び声と共に、みんなが一斉に飛び掛った。

 

「はなせっ、邪魔するな!」

「とめるなっ、やらせろぉ!」

必死に叫ぶ真紀と美佳。

だが二人の願いもむなしく、真紀と美佳は、10人以上で乱入してきた女達によって、引き離されてしまった。

 

 

4人掛かりで真紀を押さえつけている女子大生たちは、亜希子からサバイバル

ナイフと特殊警棒を取り上げると、テキパキと応急処置を施し始めた。

「・・・・・・・・」

改めて激痛が襲ってきたのか、真紀は目をギュっと瞑り歯を食いしばって、呻

き声一つ上げずに女子大生たちの応急手当に耐えている。

 

美樹、亜希子、久美子の3人に押さえつけられるように扉の近くに座らされる

と、美佳はようやく落ち着きを取り戻した。

美樹は自分の制服に血が着くのも構わずに美佳を抱きかかえると、ボコボコに

腫上がった美佳の顔を、やさしく拭き始めた。

 

 

真紀の応急手当が終わると、女子大生らは美樹たちを促して、地下室から出て

行こうとした。

 

「あの娘の怪我が治って、あんたが完全に決着を・・・」

美樹に抱きかかえられ地下室から出ようとする美佳に、リーダー格の女子大生が

大学のリングを提供しようかと申し出ていた。

 

 

「冗談じゃない!

 あんなバケモノみたいに強い女、2度と係わり合いになりたくないわよ!」

吐き捨てるように言った美佳の言葉が、地下通路を遠ざかっていった。

 

 

(人の腕を平気で折るような女、あたしだって御免だよ!)

麻由美に抱きかかえられている真紀は、心の中で呟くとそっと目を閉じた。

 

 

おわり

 

 

 

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