「ちょっとォ、どういうことなのッ?美子ォ、ハッキリと説明してよッ。」
そんなに広くない女子更衣室の中に、ヒカルの声が響き渡る。
「私は、ちゃんと伝えたじゃないッ。秘書課から来たファックスだって、ちゃんとあったでしょッ。自分のミスを、人のせいにしないでッ。」
鈴村ヒカルと綾崎美子は、某大手建設会社の秘書課に勤務する、二十六歳のOLである。
鈴村ヒカルは身長165センチ、髪の毛は茶髪。大きくてクリッとした目がとても愛らしくて、とても可愛らしい女の子だ。
一方綾崎美子も身長167センチ、ストレ−トの長い黒髪で、目は切れ長の純和風の、大人の女性といった雰囲気を持っている。
二人とも男性社員の間ではとても人気が高く、美人ぞろいの秘書課の中でもひときわ目立っていた。
二人が働く建設会社も他の例にもれず不況の波にもまれ、厳しいまでの再建策を迫られていた。
人員削減もその一環で昨年度末まであった総務部受付課も廃止されて、今年度からは秘書課が兼任することに成っていた。
毎日交代で二人の秘書達が受け付け業務もこなしていたのだが、秘書達の間も決して仲が良いとは言えず、最近ではトラブルの数も増えていた。
特にこの二人、鈴村ヒカルと綾咲美子は同期入社という事もあるのだろうか、とてもライバル意識が強く、入社して以来今迄一度も口をきいたところを見たものは一人もいない。
その二人が今日一緒に受付業務をすると聞いて、彼女達の上司秘書室長は
ヤバイッ。
「絶対、何かが起こるッ。」
と心配していたが、案の定事件は起きた。
事件はヒカルが、昼休憩に入ってる間に起きた。
有力取引先の社長の、突然の来社が決定したのだ。
秘書課はその社長の来社が決定したときに、急いでファックスを受付に送ったのだが、ファックスを受け取った綾咲美子はそれを隠して鈴村ヒカルに渡さなかった。
そしてその社長が来社した時に受付に座っていたヒカルは、
「アポイントの無い方を、通す訳には参りません。」
とやってしまったのだ。
これに腹を立てた取引先の社長は、怒って自分の携帯で建設会社社長を呼び出して
「取引停止も有り得る。」
と怒鳴りつけてしまった。
ヒカルがその社長の顔を、見たことが無かったのも災いした。
ヒカルは
「そんなファックス、見たことないッ。」
と言い張ったのだが、後になってファックスが他の書類の間から出てきた。
ファックスには当然送信時間がのってるので、秘書室長はヒカルと美子の二人を呼びつけ公正に二人を叱り付けた。
だが更衣室に戻った二人は、当然納得していなかった。
そして、
「ちょっとォ、どういうことなのッ?美子ォ、ハッキリと説明してよッ。」
そんなに広くない女子更衣室中に、ヒカルの声が響き渡る。
「私は、ちゃんと伝えたじゃないッ。秘書課から来たファックスだって、ちゃんとあったでしょッ。自分のミスを、人のせいにしないでッ。」
となったのだ。
「そんなの知らないわよッ。私が休憩から帰ってきた時だって、美子は何も言わなかったじゃないッ。」
「ちゃんと、言ったわよッ。人の話、聞いてなかったのッ?」
「何ですってエ?」
「仕事も出来ないクセに、偉そうにィ。アンタなんか、秘書課辞めちゃいなさいよッ。」
「このおッ。」
バシィッ。
美子が最後の言葉を言い終ったとき、
ヒカルが美子の顔を、張り倒した。
「痛いッ、何するのよッ。」
バシィッ。
美子もやり返す。
「何で私が、アンタなんかに張り倒されなきゃなんないのよッ。」
バシィッ。
「アンタが、バカだからよッ。」
バシィッ。
「このおッ。」
「なによォッ。」
二人は互いの髪の毛を掴み合い、激しく引っ張り合った。
「なによ、このヤリマンバカ女ッ。」
「ヤリマンは、アンタよッ。カマトトぶって、ヤッテる事はブタ以下じゃないッ。」
互いにつかみ合う髪の毛を下に引っ張り、床に投げの打ち合いのような形に
なる。
「クウウッ。」
「このおッ。」
だが思うようにはいかない。
業を煮やしたヒカルは掴んでる美子の髪の毛から右手を離して、
バシィッ、バシィッ、バシィッ、
と美子の横顔に張り手を喰らわす。
「アアッ、アアッ、アアッ、このおッ。」
ガシャンッ
美子は掴んでるヒカルの髪の毛を離さず、そのまま後ろのロッカ−へヒカルを
押し付ける。
そして
ガシャンッ、ガシャンッ、ガシャンッ、
と三回、ヒカルの頭をロッカ−へ打ち付けた。
「ウウッ。」
「よくも、やってくれたわねエッ。」
バシィッ、バシィッ、バシィッ、
今度は美子が、ヒカルの髪の毛を離して張り手を食らわせた。
又髪の毛を掴みなおす美子。
両手を激しく左右に振る。
「クアアアアッ。」
苦痛に耐えかねて、悲鳴を上げるヒカル。
左手で、美子の髪の毛を掴みなおす。
「クッ、このおッ。離せエッ!」
「アンタが、先よッ。」
空いていた右手で美子の髪の毛を掴みなおすと、
グウッ
と前に押して反対側のロッカ−に、美子を押し付ける。
ガシャンッ
ドスッ、ドスッ、ドスッ、
美子の太腿へ、膝蹴りを入れるヒカル。
美子の両手が、ヒカルの髪の毛から離れる。
「ウウッ。」
「このおッ。」
ガシャンッ
美子のシャツの襟を掴んで、反対側のロッカ−へ投げつけるヒカル。
勢いに乗って前へ出る。
美子の顔に張り手を食らわそうと腕を振り上げるヒカルに、
ドスッ、
「グワアッ。」
待っていたのは美子の前蹴りだった。
腹を手で押さえ前に倒れかかる、ヒカル。
両手でヒカルの髪の毛を掴んで、顔を引き上げる美子。
「二度と、人前に出られない顔にしてやる。」
右手を髪の毛から離して、振り上げる美子。
バシィッ、バシィッ、バシィッ、
ヒカルの顔に、張り手を喰らわす。
「このおッ。」
美子がヒカルの顔に四発目の張り手を喰らわそうとした時、ヒカルの左腕が
グウッ
と伸びて来て美子の髪の毛を掴んだ。
「アアッ、痛ッたい。」
「さっきから、よくも好き勝手にやってくれたわねエッ。」
右手で美子の顔に思いっきり、
バシィッ、
と張り手を喰らわす。
「もう一発ゥッ。」
右手を再び振り上げたとき、美子がヒカルの髪の毛を両手で掴んだ。
ヒカルも掴み返す。
二人は互いの髪の毛を掴みあったまま、投げの打ち合いになった。
「このおッ。」
「クソォッ。」
ドサァッ。
二人は同時に髪の毛を掴みあったまま、床の上に倒れる。
そして互いに上になろうと、床の上を転げ回った。
「このおッ、離せッ。」
「アンタが、先よッ。」
ドスッ、ドスッ、ドスッ。
床の上を転げまわりながらも、互いの体を蹴りあう二人。
ガシャンッ、ガシャンッ、ガシャンッ、
互いの体を、ロッカ−にぶつけ合う。
「アアアッ。」
「クウッ。」
ヒカルが上になりかけたとき、美子が足でヒカルの体を蹴り離す。
ドスッ。
「ウウッ。」
ガシャンッ。
勢いあまって、ロッカ−に体をぶつけるヒカル。
勢いに乗って、攻勢に出る美子。
ヒカルの髪の毛を、両手で掴みにくる。
体をかがめて、身構えるヒカル。
美子が両手を伸ばした瞬間、
ドスッ
「ウウッ。」
ヒカルのボディブロ−が炸裂した。
美子が腹に手を当てて、前に倒れこむ。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、
「グエエエエッ。」
美子の口から、胃液が逆流する。
ヒカルはそんなこと構いなしに、こぶしを美子の腹に叩き込む。
ドサアッ。
美子の体が、床に倒れこむ。
情け容赦なく、美子の体の上に馬乗りになるヒカル。
ゴキッ、バキッ、ゴキッ。
美子の顔に、拳を固めパンチを叩き込む。
美子の顔が紫色に腫上り、唇は切れ歯も折れる。
ヒカルは、まだ止めようとしない。
ゴキッ、バキッ、ゴキッ。
美子はハナからも出血して、顔中が赤く染まる。
左手で美子の髪の毛を掴み、頭を持ち上げるヒカル。
トドメを刺そうと大きく右腕を振りかぶって、
「死ねエッ。」
美子の鼻にめがけて拳を振り下ろす。
拳が鼻に当たる瞬間、ヒカルは美子の髪の毛を掴んでいる左手を離した。
ゴキィッ。
ヒカルの拳が美子の鼻に当たり、
ゴツウッ。
後頭部が床にぶつかった。
ドピュウッ、
美子の口から、大量の血が流れ出した。
ヒカルは血に染まった右手を下に下ろすと、美子の体から立ち上がり
ゴツウッ、
と美子の頭を蹴り飛ばして、
「フン、ブタがァッ。」
と言い残してその場を去っていった。
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