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フェイスシッター瞳

(第2話 瞳 vs 敏代)



 県内においてはベスト8の常連だった女子バスケット部が、練習試合とはいえ、格下のチームに敗退した。このところ好調だった恵津子を、不可解な負傷・「鼻骨折」によって欠いたことが多分に影響していたようだ。
 部員に叱咤の声を掛け、本体会での巻き返しを促した主将の美加は、ミーティング後、部員が帰り支度を始めたとき、一言付け加えた。

「恵津子は残りなさい。話があるから…。」

 1週間前、女番長・美加が送り込んだ刺客として、巨大なヒップを持つ1年生・瞳に決闘を挑んだ2年生・恵津子は、完膚無きまでに叩きのめされ、卑劣な手段を試みるも及ばず、最期は顔面騎乗という屈辱的な技の前にギブアップ&失神という大惨敗を喫していた。揚げ句に強烈なヒップドロップを顔面にもろに喰らい、鼻の骨をへし折られていたのである。

* * *



「なるほどね…。あんたにはかなり、荷が重かったようだね…。」

 美加は突き放すような口調で、恵津子を一瞥しながら言った。

「すみませんでした…。」

 醜く曲がった鼻に包帯を巻き付けた、痛々しくも惨めな姿を晒しながら、恵津子は頭を下げた。

「…強すぎました…。特にあの娘のケツの威力、ハンパじゃなかったんですよ…。とにかくデカいし…。」

 恵津子が沈痛な面もちでそこまで言うと、美加は高笑いしながら切り返した。

「そんなことは、言われなくたって、一目見りゃ分かるって(笑)。…この間、体育の授業やってる姿見てたけどさ、ブルマーなんか破けそうなくらいパンパンじゃんか。あれに跨られたんじゃ、あんたの顔も形無しだねえ(笑)…。」

 美加は茶化しながら恵津子に言った。

「それにしても、年下の女にケツの匂いを嗅がされるなんて、たいそうな話だねえ…。その姿を想像するだけでもホンっトに惨めだ…。あたしなら自殺してるよ(笑)。あんたの無神経さを見習わなくちゃね…。」

 美加は死人に鞭打つように恵津子に追い打ちを掛け、恵津子が返す言葉もなくうつむいていたその時、突然ドアが開いた。

「何をお話しているんですか?」

 中に入ってきたのは2年生部員の敏代であった。 

「おや?…どうしたんだい、敏代。…いやね、そこにいる恵津子がさあ、テメエの顔で1年生のケツの穴を掃除してきたって言うことなんでね(笑)、その感想を聞かせてもらっていたんだよ。」

「プッ(笑)…、何ですか、それ?…また変な冗談を…。」

 どうやら先の話が聞こえていなかったらしく、敏代は吹きだした。…何も知らないというのは恐ろしいことだ。

「ところで…何か用かい?」

「あ、そうそう…約束の3万円をお持ちしましたので…。」

「おおっ!、随分早かったねえ…!…役立たずの恵津子とはえらい違いだ(笑)…。よし、シケた話はここまでだ!…さ、帰るよ!」

 敏代から3万円を受け取った美加は機嫌を取り戻し、踊るような足取りで立ち去った。

* * *


「どうしたの?…元気ないよ、もっとたくさん食べなくっちゃ…。」

 学校帰りのパスタ屋で、親友・加奈子の元気の無さが気になった瞳は問いかけた。

「うん…でもね、お金取られちゃったから…。」

「えっ!?…誰に?」

「…敏代先輩。2千円で済んだけどね…ま、次のお小遣い貰えるまでは、節約しないとねえ…。」

 そう言いながら、加奈子は無理に笑った。 
 俗に「カンパ」という。上級生が下級生から小遣いを巻き上げる常套手段である。10人の下級生から千円ずつなら1万円、20人からだと2万円、ちょっと弱みを見せた子からはもっとたくさん…。「千円、カンパして。」とだけ言って手を差し出すと、後輩にはこれが断れないし、親や教員に報告することもできそうでいてなかなかできないのである。心当たりのある人もいるかもしれないが、荒廃した学園にはこんな理にかなわない側面もあるのだ。そして多くの場合、集金した不良生徒が自分でそのお金を使うのではなく、3年生に命令された2年生が1年生から…というような図式なのである。

「駄目だよ、そんなの!…両親が働いて稼いでくれたお金なんだからさ、金額は少しでも、ね?。」

「うん…そうね。」

「それ、明日取り返そうよ!」

「えっ!?」

「よし、決定!。明日、決行!!」

 瞳はそこまで言うと、ふと加奈子に問うた。 

「…ところで、敏代先輩って、…誰?」

「知らないの?…バスケット部の見るからに怖そうな人…。」

「えーっ!?…またバスケ?…あそこって、まるで悪の巣だな…。」

「???…。」 

* * *


 翌日の午後、瞳と加奈子は校門の前で、敏代が出てくるのを待った。しばらくして、同じ2年生の皆子を連れて、敏代が出てきた。

「あの人だね?…」

「…うん。」

 加奈子に目配せしてから、瞳はツカツカと敏代に歩み寄り、唐突に声を掛けた。

「敏代先輩、加奈ちゃんにお金、返してあげてください。」

 話せば通じると思っている。いかにも瞳らしいところだ。逆に敏代の方は、自分としては後輩が近付きがたいような雰囲気を醸し出しているつもりでいただけに、いきなり呼び止められて少々戸惑った様子だったが、すぐに気を取り直して、とぼけた。 

「何だい、あんたは?…さっぱり意味がわからないねえ…。」

 だてに長く不良の看板を出している訳じゃない。敏代とてその辺りは百戦錬磨だ。
 その時、お茶らけたような口調で皆子が割って入った。 

「いきなり先輩を呼び止めるなんて、この娘、どうかしてるんじゃないの?」

 敏代のご機嫌をとるように皆子は言った。

「ねえ、敏代。…この娘にさあ、先輩に対する礼儀ってものを叩き込んであげた方がいいんじゃない?」

 はっきり言って、皆子は大した相手ではない。ただ敏代に張り付いているだけの雑魚である。一人では何も出来ないのだが、数人集まると俄然強気に出るクズは、不良グループと称される面々のなかに、一人や二人は必ずいるものなのだ。ある意味では、リーダー的なワルよりもタチが悪い。…リーダー的なワルは多分に、不思議と社会に出てからはきっちり更生し、元気のいい兄チャン・姉チャンとして振る舞うことになる。時には町内会やら村祭りやらのムードメーカーとして、時には町工場に勤めながら「俺の若い頃は…」などと言いつつ、より若い連中を引っ張りながら。それに引き替え、このタイプの付帯ゴミは煮ても焼いても…おっとっと、脱線…。

「私、失礼なことを言ってるつもりはないんです。ただ、お金を返してくれて、その上でこういうことは二度としないって誓ってくれるだけでいいんです。」

 …らしいところではあるが、本当に瞳の世間知らず振りには恐れ入る。こんな正論を述べたところで何にもならないのに。そればかりか、当然ながらこんな言葉は敏代の神経をかえって逆撫でした。
 敏代の形相がにわかに厳しくなったのだ。

「もう頭にきた!…ちょっとツラ貸せっ!!…」

 敏代は瞳と加奈子に、自分に付いてくるよう、顎で指示した。

「どうするのよ?…瞳…。」

「…こうなった以上、どうもこうもないわね。でも大丈夫。…加奈ちゃん、あなたはここで待っていてね…。」

 瞳は加奈子に囁いた。大変な事になってしまった、と加奈子は思ったが、瞳が妙に落ち着いていることが、少しの気休めになっていた。瞳の言葉に加奈子は黙って頷いた。

「ウダウダやってねえで、早く来い!」

 敏代が苛立ちながら二人を促した。

「敏代さん、加奈ちゃんは関係ないの。…私一人で行きます。」

「そうかい…まあ、いいだろう。」

 敏代は頷き、”ついてこい”と言わんばかりに二人に背を向け、校舎裏へと歩き出した。

* * *


 校舎裏にある広い物置小屋に瞳を連れ込み、一番奥の台の上に敏代は腰掛けた。その手前に皆子が立ち、数メートルの間隔があって瞳が立っている。 

「ほら、あんた、どうするの…敏代が怒ってるよ。謝るなら早いほうがいいよ…。」

 皆子が調子よく切り出した。相手は下級生一人、こちらは二人…しかも敏代が付いている。一人では何もできない皆子だが、このシチュエーションならやりたい放題のことが出来るとでも思ったか、随分浮かれているようだ。日頃、どうにもパッとしない立場に置かれているため、そのウサを晴らす絶好機に、声がうわずっている。

「あんたなんか、私たちに掛かれば、”片手で3分”ってところだろうねえ…。」

 皆子がツカツカと近付き、馴れ馴れしく瞳の襟に手を掛けた。相手は手を出せない、という前提に基づいた行動だが、そんな皆子の態度に、ついに瞳の堪忍袋の緒が切れた。

「…滅多なことを言うものじゃないわ。”片手で3分”ですって?…あなたこそ、私に掛かれば”お尻で1秒”よ…。」

 瞳は皆子の耳元で、そっと囁いた。

「何ぃ?…どういう意味だよ!?…」

「こういう意味よ!…えいっ!!」

 瞳は皆子の手を振り払うと、一瞬ひるんだ皆子の顎に、正面から切り揉み式のトウ・キックを命中させた。

「ふがっ!…ふがっ!…!…」

 皆子はもんどり打ち、顎をさすりながらのたうち回った。セーラー服のままでは動きにくいため、瞳はここでスカートを脱ぎ、ブルマー姿になった。昨日の時点でこの状況は充分に予期できていたので、準備は万端だ。
 皆子は四つん這いになり、敏代の方へ這って逃げようとしたが、その時、皆子の視界に矢のような早さで瞳の靴が映った。

「ふごっ!…」

 瞳は皆子の背後から、顔面めがけて回し蹴りを叩き込んだのである。皆子は這うのをやめ、今度は顔を押さえてうずくまった。

「ふんっ!…ふんっ!…」

 ひれ伏した格好の皆子の後頭部を、瞳はこれでもかとばかりに、2度も力強く踏みつけた。

「ひいっ…!」

 これ以上後頭部を踏みつけられては敵わないと思ったのだろうか、皆子は身体を反転させ、瞳の股間を見上げるような格好で、よせばいいのに仰向けになった。

「あら、これはお誂え向きね…。ならばいくわよ、必殺・むちむちヒップボンバーっ!」

 瞳が軽く背伸びするようにして弾みをつけるやいなや、皆子の視界に巨大なヒップが映った。

「えいっっ!!…」

 瞳は皆子の顔面めがけて豪快なヒップドロップをお見舞いした。…ドスン!!

「(ぐえっ!…)」

 皆子の呻き声は瞳は尻に遮断され、それきり、皆子の身体が動くことはなかった。…秒殺!!…予告通り瞳は、ヒップドロップ一撃で皆子を仕留めた。瞳にとって皆子は、「黒装束のショッカー」の一人でしかなかったのである。

「うふっ…。手加減したつもりなのにだらしがないわ…いくら私のお尻が大きいからって、一発で伸びちゃうなんて…。」

* * *



 皆子の顔に蹲踞(そんきょ)するようにして堂々と顔面騎乗を決めたまま、瞳は敏代を見やった。 

「さあ、次はあなたの番ね…。」

 もちろん、敏代の自信は揺るいではいない。皆子が実は弱いことなど最初から知っているし、自分はスポーツで鍛えているからだ。

「お前…ここまでやって、ただで済むと思うなよっ!…」

 敏代は、ワナワナと声を震わせながら鬼神のような形相で瞳を睨み付けた。 

「うふふっ…こちらこそ、望むところよ…。」

 瞳は、ゆっくりと皆子の顔から腰を上げた。

 少しずつ二人は距離を詰めていく。敏代は身構えながら、ジッと瞳の隙を伺っている。 

「!…」

 敏代は瞳の一瞬の隙を見つけ、仕掛けた。

「むんっ!…」

 瞳もそれに応え、二人は相撲の相四つのような体勢で組み合った。敏代は瞳のブルマーに手を掛け、瞳はスカート越しに敏代のパンティーに手を掛けている。やがて、敏代は力任せに下手投げを打って出るが、瞳の足腰は頑健で、投げを打たせない。その上、瞳は大股を開いて踏ん張りを利かせているから、むしろ投げを打ちに掛かる敏代の方が体力を消耗していく感じだ。

「ふんんーっ!…」

 業を煮やした敏代は気合いを込めて強引な投げを打ちに掛かった。が、そのため、ややバランスを崩した隙に、瞳は逆に上手投げの体勢に入った。敏代は少しずつ背伸びするような格好になりながらもグッとこらえる。緊迫した力比べだが、やや瞳が優位に立ちつつあった。しばらくすると敏代の身体は爪先立ちするように宙に浮き始めた。

「えいーっ!!…」

「あ!、あーっ!!…」 

 凛々しく気合いを入れた瞳が渾身の上手投げを放つと、ついに敏代の身体は弧を描くように宙を舞った。…ドッシーン!

「ぐっ!…」

 したたかに背中を打ち付けた敏代は息を詰まらせ、顔をしかめながら天を仰いだ。

「ふうっ…あなたはさすがね。…少しばかり苦労したわ。…」

 一丁上がり、とばかりに手をパンパンとはたきながら、瞳はゆっくりと敏代の前に立ちはだかった。

* * *


「…ううっ…」

 敏代はブルブルと首を振りながら自分に活を入れ、瞳の方を向き直した。その時、瞳の黒い靴が大きく敏代の視界に入った。

「えいっ!」

 瞳は真正面から踏みつけるようなキックを敏代の顔面にヒットさせた。

「はごっ!…ふがっ!…!…!…」

 敏代はひっくり返り、鼻の頭を押さえながら転げ回った。

「むんっ!」

 瞳はのたうつ敏代の腹を力一杯踏みつけた。

「はうっ!…」

 腹に一撃を喰らい、敏代に力が入らなくなったその隙をついて、瞳は、敏代の両足を正面から自分の両脇にガッチリ抱え込んだ。

「ふんっ!」

 瞳は敏代の身体を反転させんと力を込めた。敏代は瞳の足を抱えることによってこれを阻止しようとしたが、それを察知した瞳が敏代の手をいち早く踏みつけた。

「いいいーっ!!…」

 悲鳴が上がるや、敏代の身体は裏返しになり、逆エビ状に反り返ってしまった。瞳はドッシリとその背中に跨り、じんわりと逆エビ固めの体勢に入った。

「う!…うぐーっ!!…」

「むんっ!」

 しばらくすると瞳はより強烈に尻に体重を乗せ、また、瞳自身が身体をさらに反らせると、もはや敏代の身体は物理的にこれ以上は不可能なほど反り返り、究極の逆エビ固めが決まった。

「うぎゃーーっっ!!…(ふぎゅーっっ!!…!…)」 

「どうだ!まいったか!!」

「(ふぁぐーっ!…!!…ふぁふぃっ…!…ふぁぉっ!!…)」

 敏代の身体はあまりにも反りすぎたため、床に口をふさがれるような格好になり、声が出せないのである。だが、瞳はそれに気づかぬ振りをしながら、「”まいった”と言わない敏代」を、さらにキツく締め上げたのだった。

「これならどうだっ!…まいったかっ!!」

「(…!…!!…!!!…)」

「今度こそどうだっ!…”まいりました”と言いなさい!…”瞳様、お許しください”と乞いなさい!」

「(…!…!!…!!!…!!!!…)」

 返事の出来ない敏代を後目に、瞳の懲らしめのお言葉は間断なく続いた。 

* * *



「う…うーん…」

 瞳のヒップドロップを喰らい、気を失っていた皆子が目を覚ました。

「…あら?、…やっと気が付いたようね…」

 瞳は敏代に逆エビ固めを決めたまま、皆子を一瞥した。

「!…」

 瞳の言葉に顔を上げた皆子は思わず絶句した。何しろ、あの敏代が1年生に跨られているのだから!…いくら愚かな皆子といえども、今の二人の姿を見れば、どちらの方が強いのかは一目でわかる。
 瞳の言葉で、皆子が目を覚ましたことに気が付いた敏代は、背骨が折れそうなほどの苦悶の中で、必死に空いている手で皆子に合図を送った。

(何をしているんだ!、私を助けろ!!…この役立たずが!…)

 だが、自分自身が瞳のヒップドロップで悶絶させられたという事実に加え、あの敏代を、まるでカエルのようにペシャンコに押し潰している瞳の姿を見せつけられては、皆子が後込みするのも無理はなかった。 
 瞳は向いている方向が逆なので最初はその合図に気付かなかったが、皆子が敏代の手の動きを見ながらあまりにも長い時間躊躇していたため、ついにそんな悪巧みもバレてしまった。

「…あら?…何か良くないことを考えているようね…。」

 そう言うと、瞳は逆エビ固めを自ら外し、敏代の背中から腰を上げた。

「ぶはっ!…!…!…」

 やっと逆エビ固めから解放された敏代だが、あまりにもダメージが大きくまるで動くことができない。横たわり、腰と背中をさすりながら蠢(うごめ)いている敏代を後目に、瞳はツカツカと皆子の方へ歩を進めた。

* * *



「さあ、どうするのかな?…敏代さんを助けるつもりなのかな?…」

 ヘナヘナとしゃがみ込んでいる皆子の顎を撫でるようにしながら、瞳は問うた。皆子は怖さのあまり声も出せず、ただブルブルとかぶりを振る。

「…子供じゃないんでしょう?…ちゃんとお口で言わなくちゃね…。」

 瞳は笑みを浮かべながらからかうように言った。…頼みの敏代がこの有様で、自分自身も強烈なヒップドロップを喰らっている以上、皆子がこの状況で瞳に逆らえるわけなどない。皆子は必死の思いで声を発した。

「…さ、最初からわ、わ…、わかってましたよ!…と、と、敏代なんかより、…ひ、…瞳さんの方がずっと強いって!…と…敏代が睨み付けるから…ちょ、調子をあ、合わせていただけですよ…これホント…ホントです!…敏代ごときが瞳さんに喧嘩をふっかけようなんて、…は、あはは…じゅ、10年早いですよね…私は最初から、逆らうつもりなんて、ありませんでしたよ!…」

 何という姑息な女なのか…。瞳は口元を引き締め、皆子を睨み付けた。

「あなたって、本当に呆れた女ね…」

「…い、いや!…ほ、ホントに…あ!、そ、そうだ…ひ、瞳さんの、いや、瞳様の家来にしてもらえませんか?…こ…このとおり…」

 皆子は命じられてもいないのに瞳の靴にチュッ、チュッと2度3度キスをした。強いものを味方につけるためなら、何だってする。たいした気配りだが、手のひらを返したようなこの態度は、強く正しく美しい女王様の前では決して賢明なものではなかったようだ。

「最低だわ…。あなたのような女こそ、強くお仕置きをしてあげる必要があるわね…。」

 瞳は怒りを込めて皆子を引きずり起こすと、見事な一本背追いでこれを投げ飛ばした。

「ぐぇっ!…」

 ぼろ雑巾のように宙を舞った揚げ句、腰を強打した皆子は衝撃で声を詰まらせ、顔をしかめた。そして、目を開けるや、今度は黒く巨大な物体が視界に迫った。言わずもがな、それは瞳の恐怖の尻…!!

「(!…)」

 大地を揺るがすヒップドロップが、皆子の顔面を今度は粉砕した。

「…2度目は手加減しないのよ…。」

 しばしの間、そのまま顔面騎乗を続けた後、尻に妙な違和感を感じ、瞳はゆっくりと立ち上がった。

「…また、やっちゃった…。」

 瞳は自分の尻をのぞき込むようにしながら呟いた。…お尻が大き過ぎるため、ただでさえ張り裂けそうだったブルマーが、ヒップドロップを決めた衝撃で、とうとう破けてしまったのだ。瞳は口を尖らせながら、黙ってそれを脱ぎ捨てた。パンティーと一緒に…。

* * *



「さて…あなたにもトドメを刺してあげないとね…。」

 瞳は瑞々しい下半身を露わにしながら、ツカツカと敏代に歩み寄った。

「う…」

 敏代はいまだに逆エビ固めのダメージが癒えず、自力で立ち上がれない。

「私に逆エビ固めを決められたのに、”まいった”と言わなかったのはあなたが初めてよ。…さすが運動部員ね。見上げた根性だわ…。でも、その抵抗もここまでよ…。」

 完全に足にきている感じで、まるで動くことの出来ない敏代は、仰向けに近い格好で尻餅をついたまま、”話せばわかる”というような仕草で手をかざした。そんな敏代を跨ぐようにして見下ろした瞳は、その素股を敏代に見せつけるかのようにしながら、静かに言った。

「…観念なさい…。必殺・お尻固めよ!」

「あっ…あっ!…」

 瞳は敏代の顔にゆっくりと、その大きなお尻を乗せた。

「うっ…(うぐっ…)」

 敏代の顔は瞳のヒップに覆われた。 

「さあ、ここからが本気。…行くわよ!、いいわねっ!!…えいっ!!」

 瞳は一気に、尻に渾身の力を込めた。

「(ふぎゅーっ!…ふんぎゅーっっ!!…!…!!!…)」

 敏代は必死に身をよじり、さらには瞳の尻に手を掛け、必死に押し上げようとした。

「うふふっ、無駄よ…このお尻固めから逃れた者はいないのよ…。」

「(ぐーっ!…!!…!!!)」

 敏代はそれでも諦めずに抵抗を試みる。無駄だとわかっているのに必死で瞳の尻を持ち上げようとするのは本能的なものなのだろうか。顔に跨られるという屈辱、しかも年下の女の子に、さらには素股で!…味わった者にしかわからないところだろう。

「駄目だって言ってるでしょう?…このお手手がイケないのね…。」

 瞳は敏代の両手をガッチリと掴み、自分の太股の前で固定した。と、ほぼ同時に、呼吸の出来ない敏代に我慢の限界がやってきてしまった。

「(!…!!…!!!…)」

 ”駄目だ、あまりにも瞳は強すぎる…完全に私の負けだ”…そう思いながら、敏代は焦燥した。ここで瞳の太股をさすったり、タップしたりすれば降参の意志が伝わるのだが、両手を捕まれているため、それすら許されないのだ。当然ながら、口は完全に瞳のヒップに塞がれ、声など出せない。”このままでは、このケツの下で本当に窒息死してしまう!!”…なんとかしてギブアップの意志を伝える必要のあった敏代は、火事場の馬鹿力で、どうにか塞がれた口から舌を出し、懸命に瞳の秘部を舐め始めた。何という屈辱…しかし、許してもらう方法は他にないのだ。あとは、これが降参の合図であることに瞳が気付いてくれることを祈るだけだ。

「うふ…これは”まいった”の合図なのかな?…」

 瞳は小悪魔のように敏代に囁いた。 

「(!…!…)」

 勝ち誇ったように問いかける瞳に対して、”そのとおりでございます”の意味で敏代はさらに舐め続けた。

「ああん、…悪を屈服させるのって、本当に気分がいいわ…」

 瞳は敏代の顔面にさらに強く股間を擦り付け、オナニーを始めた。

「(!…!!…)」

 敏代は心身とも、完全に打ちのめされていた。下級生に敗北することだけでも大変な屈辱なのに、自分が悪く、瞳が正しいのだから。そして瞳のルックスである。…自分より正しく、しかも可愛い少女に、強さでも及ばないという現実をどう受け止めればよいのだろう。しかも、その少女の巨大なヒップに敷き潰され、揚げ句に少女は顔の上でオナニーを…屈辱を通り越した大屈辱に、にじみ出る涙が瞳の尻を濡らした。

「あん…あっふん!…快感だわーっ!…ふんっ、こ、これが勝利のオナニーよっ!…ふんんんーーっっ!!…」

瞳はクイッ、クイッとさらに激しく腰を振った。敏代は瞳のオナニーが激しさを増すに連れて、いよいよ意識が薄れてきた。

「あーんっ!!…あっはーんっ!…あっふーーーんっ!!…イケない気分よォォォォーーーーっっっっ!!!!…」

* * *



「…ほら、…起きなさいよ…」

 瞳は敏代の頬に、軽く数発の平手打ちを見舞った。今回の闘いは、悪を懲らすことだけが目的ではない。親友・加奈子のお金を取り返すことが重要だからだ。もっとも、失神しているばかりか、痙攣まで起こしてしまっている敏代が平手打ち程度で起きるはずなどないのだが。

「…起きない。…ちょっとキツく懲らしめすぎちゃったのかなあ…そうか、オナオナしてる間もずっとお尻固め決めてたわけだから、…ってことは10分以上かあ…。”過ぎたるはなお及ばざるがごとし”…私のお尻はあまりにも大きすぎたのね…。」

 それならば、と瞳は敏代の腹に軽いヒッププレスをお見舞いした。

「ぐえっ!…」

 敏代はその衝撃に、1発で目を覚ました。

「うふっ、やっと起きたわね…。」

「う…うんー…。あわっ!…わっ…ひ、ひいっ!…」

 瞳の顔を見るや、敏代は目をひん剥いて、あからさまに怯えた。

「どう?…私の強さ、思い知ったでしょう?…それとも、もう一回お尻固め、行く?…」

「い、いえっ!…もう…ま、まいりましたっ!…」

「今度悪いことしたら、…わかってるわね。…もっと強烈なお尻固めが待ってるんだからね?…」

「は、は、はいっ!…もう、二度と悪さはしませんっ!…」

「それじゃ、加奈ちゃんのお金、返しなさい。」

「…そ、それが…。」

「それが何なの?…」

「…もう…上納しちゃったんです…。」

「上納?…何よ、それ…。」

「…あれ、先輩の命令だったんです…。集めた分のお金、…渡してしまいました…。」

「誰に!?…」

 瞳の顔色が変わり、険しく敏代を睨み付けた。敏代は名前を出していいものかどうか、一瞬だけ躊躇したが、何しろお尻固めを決められた直後だけに、すぐに白状することにした。

「み、…美加さんです…。」

「!…」

 何と言うことなのだろう、またしても悪の根元が美加だったとは…。瞳は一瞬言葉を失った。

「…そう、わかったわ…ならばあなた、美加さんにきっちり伝えなさい。…”瞳様の正義のお尻があなたのお顔を指名手配した”とね…。”それまでに、たっぷりお顔を鍛えていらっしゃい”ともね…。」

「…は!、…はいっ!…」

「ところで…。」

「は、はいっ?…」

「”美加さんに渡しちゃったから、取ったお金は返せません”…っていうのは、まだまだわかっていない証拠よね…。本来なら、”前借りしてでも返します”とか”分割になりますが一生懸命返済の努力をいたします”って言うべきなんじゃなくて?…」

「!…」

 瞳は敏代の目を見つめた。充分に反省している様子ではあるが、完全に更正させるためにはもう一段階上のお仕置きが必要と判断したようだ。

「少し可哀想な気もするけど…正義のためなんだから、悪く思わないでね…。」

 瞳はゆっくりと立ち上がり、敏代の顔を上から見下ろした。

「行くわよ、必殺・むちむちヒップボンバーっ!」

「えっ…そ、そんなっっ!!…あーーっっ!!…」

 瞳は心を鬼にして、敏代の顔面に渾身のヒップドロップをお見舞いした。

「えいっっ!!」

「(げぼっっっ!!!…)」

 例によって”グシャ”というけたたましい音を立てて、敏代の顔面は粉砕された。

「…」

 微動だにしない敏代の顔にドッシリと跨り、しばらくの間余韻に浸った後、瞳はゆっくりと腰を上げた。

「…人を傷つけるのは嫌いだけれど、正義のためだから仕方がないの…。」

 頬骨が醜くへこんでしまった敏代…彼女が悪事を働くことは2度とないだろう。 

* * *



「瞳、本当に大丈夫だったの?…」

 加奈子は驚きを通り越して、呆れたように言った。

「うん。だけど、…お金は取り戻せなくてゴメンね、なの。…それより、正当防衛とはいえ、ちょっとやり過ぎちゃったかも…。」

「えーっ!…どうしたの?…殴っちゃたとか?…」

「それは、…ナ・イ・ショ…。」

 瞳は加奈子に悪戯っぽく微笑んだ。 

「ところで加奈ちゃん、…お尻の大きな女の子はねえ、経済を活性化させるんだよ。」

「え?…何、それ?…」

「まず、ブルマー屋さんが商売繁盛するのね。…で、儲かったブルマー屋さんは、それじゃあ美味しいものでも食べようか、ってことになるでしょう?…で、町のレストランが繁盛するの。そうやって魚屋さんとか、おもちゃ屋さんとか、洋服屋さんとかも、連れてね…。」

「?…」

「あとね…時々、接骨院さんも、かな?」

「!?!?」

 

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