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Club Desire\

 

 

Diversion

 

 

「あっ、先生おはようございます」

電車に乗り込んだあゆみは、裕美と担任の大竹の姿を見つけると近づいて行った。

 

「あゆみちゃん、おはよう」

裕美は微笑みながら声を掛けた。

「おはよう・・・」

大竹は微笑みながら挨拶を返すと、少し拗ねたような顔付きになった。

「教師としての自覚が無くて悪かったね!」

「えっ?」

戸惑うあゆみに向かって、裕美がペロっと舌を出した。

「あーー・・す、すいません・・・」

あゆみは裕美を睨みつけると、慌てて担任に謝った。

「いいんだよ・・・

 もう時効だと思ってたけど、あんたがまだ居たんだねえ・・・」

担任が新婚時代を懐かしむような顔つきになると、電車が急に速度を落した。

「大竹先生、荷物をお持ちしましょうか?」

電車が止まりかけると、心配そうな顔つきであゆみが訊いた。

「もう遅い!」

担任が笑いながら答えている最中に、電車の扉が開いた。

 

「こんな身体だから・・・先に行って良いわよ!」

改札口を抜けると、担任が2人に言った。

「じゃあお先に・・」

裕美とあゆみは、学校に向けて足早に歩き出した。

 

「ひろみぃ、昨日、FAX送ったよ」

「私も佳奈さんの名前書いたの送ったよ」

「じゃあ近いうちに何か言ってくるね」

「あゆみちゃん、本当に美穂子ちゃんとやるつもり?」

「やらないよ!良いこと思いついたんだ・・」

「良いことって?」

「それは明日教えてあげる」

 

 

 

放課後・・・

校門を出た裕美は道路の反対側に見覚えのある赤いスポーツカーが止まって居るのに気が付いた。

(あれは確か・・・)

裕美が横断歩道を渡ると、その車は静かに近づいてきて止まった。

 

「乗って!」

助手席の窓が開くと、車の中から佳奈が声を掛けた。

言われるままに裕美が乗り込むと、車は静かに動き出した。

 

「何処に行くの?」

沈黙に耐え兼ねた裕美が訊いた。

「誰にも邪魔されずに話し合える所・・」

佳奈はそれだけ言うと、再び黙って車を走らせた。

 

 

20分後・・・

佳奈の運転する真っ赤なスポーツカーは、海岸沿いにある県立公園の駐車場に滑り込むと、入り口から最も遠い区画に止まった。

辺りには不法投棄された車が何台もあったが、人の姿は全く見当たらなかった。

 

「これはどういう事?」

佳奈は鞄から裕美が送ったFAXを取り出すと静かに聞いた。

「そこに書いてある通りよ」

裕美も静かに言い返した。

 

「私に勝てるとでも思ってるの?」

「あなたには悪いけど、負けないつもりよ」

再び佳奈が静かに訊くと、裕美も静かに言い返した。

 

「そんな事が出来るとでも思ってるの?」

突然佳奈は、胸元が大きく開いた裕美のブラウスの襟元から手を入れると、その豊満な胸を鷲掴みにした。

「きゃっ、ちょっと何するの・・・」

いきなりの事に、裕美が身を捩って逃げようとすると、佳奈は裕美に覆い被さるようにしながらシートを倒した。

 

「いやっ、やめて・・・」

気持ちだけは必死に逃げようとするが、まるで金縛りにでもあったかのように、裕美の身体は動かす事が出来なかった。

 

「これだけで抵抗すら出来ない貴方が、どうやって私に勝とうって言うの?」

驚愕と怯えで目を見開く裕美のスカートの中に、佳奈の手が滑るように入ってきた。

「やっ、いやっ・・・」

佳奈の指先が、下着越しに裕美の女性自身を優しく擦り始めた。

「いやぁぁぁ、やめてぇ・・・」

佳奈は裕美の悲鳴を無視するかのように、胸の先端の突起を摘んで捏ねくり回した。

「嫌っ、嫌っ、嫌っ・・・だめぇ・・・・」

裕美は自分が感じ始めているのが判ると、か細い悲鳴を上げた。

「良い気持ちになってきたんでしょ?」

「いやぁ、おねがい・・やめてえ・・・」

裕美がどんなに哀願しても、佳奈は裕美の身体を弄び続けた。

 

 

突然、佳奈は裕美から離れた。

「うっ、うっ、うっ・・・」

身体をブルブルと震わせて嗚咽を漏らす裕美。

「続きはリングの上でやってあげる・・」

「うっ、うっ、うっ・・・」

「あなたは私から逃げる事は出来ないのよ!」

睨みつけるように言うと、佳奈は車を発進させた。

「うっ、うっ・・・」

助手席に座る裕美は、何時までも嗚咽を漏らし続けた。

 

 

 

「笠原せんせー!」

翌朝、あゆみは裕美の姿を見つけると、大声を出しながら走り寄った。

「昨日、佳奈さんの車に乗って何処へいったの?」

あゆみが辺りを覗うように小声で訊いた途端、裕美の目に涙が浮かんだ。

「あっ、ねえ、ちょっと裕美・・・」

いきなり裕美が泣き出して慌てているところに、クラスメイトが通り掛った。

 

「山田さん、いい加減にしなさいよ!」

「そうよ、笠原先生を虐めて何が面白いのよ!」

「・・・・」

通り掛ったクラスメイトに非難されて、あゆみは訳も判らず言葉が出てこない。

 

「違うの・・山田さんの所為じゃないの・・・」

裕美は涙を拭いながら言うと、足早に職員室の方へ行ってしまった。

 

 

 

その夜、裕美のマンションにあゆみたち3人が集まった。

あゆみは手馴れた様子でオートロックを開けると、美穂子たちを従えてエレベーターに乗り、3階で降りて裕美の部屋のインターホンを押した。

裕美の異変を聞いていた理恵と美穂子も、心配そうに扉が開くのを見守っている。

 

「あっ、いらっしゃい・・・」

裕美はあゆみ達が拍子抜けするほど明るい声で3人を出迎えた。

リビングに通される間も、裕美がキッチンで紅茶を入れてる間も、あゆみ達3人は押し黙ったままでいた。

 

「昨日、佳奈さんと何があったの?」

裕美が紅茶を配り終えると、沈黙に耐えかねたあゆみが切り出した。

その途端、裕美の顔が大きく歪んで涙がじわっと浮かんできた。

 

「うっ、うっ、うっ・・・」

「ねえ裕美ったら・・・」

「裕美」

「裕美さん」

裕美が泣き出すと、3人は困り果てた顔で次々と声を掛けた。

 

「裕美、何があったの?」

「うっ、うっ・・」

「裕美,泣いてるだけじゃ判らないでしょ!」

「うっ、うっ、うっ・・・」

あゆみは裕美の肩を両手で掴むと、ぐらぐらと揺さぶりながら続けた。

「怖いの・・・また、あんな事されたら・・・」

 

 パシーン

「裕美!しっかりして!」

「あゆみ!」

「あゆみちゃん!」

あゆみが裕美を引っ叩くと、美穂子と理恵はすかさず非難の声を上げた。

 

「佳奈さんに何をやられたか知らないけど、裕美は誑かされてるのよ!

 あの人は裕美に催眠術を掛けて、やりたい放題にやってるのよ!」

 

裕美がさっと顔を上げると、あゆみは裕美の肩を離してパソコンをいじり始めた。

思いもかけない言葉に、美穂子も理恵も呆然とした表情であゆみの動作を見守っている。

裕美も涙をぬぐいながら、あゆみの動きを静かに見守った。

 

「これ見て!」

あゆみに声を掛けられて、3人はパソコンの画面を覗き込んだ。

 

「ラグビー部の猛者20人が集団パラパラ!?」

「ミスコン入賞者によるビンタ合戦!?」

「シェークスピア研究会の美女同士が殴り合い!?」

あゆみが画面を変えるたびに、裕美たちは素っ頓狂な声を上げた。

 

「なにこれ?」

美穂子が訊くとあゆみは画面を変えた。

「これは、ある大学のホームページなんだけど、そこの心理学研究会が

 4〜5年前に学園祭でやった催し物の紹介なの・・・」

あゆみは言いながら、画面を最初のパラパラのページに戻した。

「ほら、ここの真中にいる女の人・・」

あゆみがマウスのポインターをその女性に合わせると、【2回生・服部佳奈】という文字が浮び上がった。

「ほら、これも・・・ほら、ここにも・・・」

あゆみが画面を変えながら目標の女性を指すたびに、【3回生・服部・・】【4回生・・】と佳奈の名前が浮び上がってきた。

 

「あの人、心理学まで応用しているから、催眠術も得意だったみたいよ・・

 ほら、はじめはパラパラだけど、女の子同士でビンタとか殴り合いとかって

 だんだんエスカレートさせてるじゃない・・・

 だから催眠術さえ掛けられなければ、あの人の思い通りにはならないよ」

あゆみが言うと、裕美の顔に生気が戻ってきた。

 

「わたし達はどうすんの?」

美穂子があゆみに訊いた。

「良いこと考え付いたんだ!」

あゆみが説明すると、美穂子も安心したような表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

12月24日。

2学期の終業式が終わると、あゆみは一目散に裕美のマンションへ向かった。

合鍵を使って裕美の部屋に入ったあゆみは、制服を脱ぎ、準備してきた普段着に着替えて裕美が帰ってくるのを待った。

そして裕美が帰宅すると、二人揃って『Desire』があるビルに向かった。

 

 

 

ちょうどその頃、街中がクリスマス一色に飾られている中、美穂子は駅前ロータリーでゆう子が迎えに来るのを待っていた。

程なくすると、思い詰めたような表情で待つ美穂子の前で、ゆう子の車が静かに止まった。

美穂子が黙って乗りこむと、ゆう子が静かに車を発進させた。

ゆう子の車が会場となる建物に着くと、二人は誰もいない通路を通って控室に入っていった。

 

 

「徹底的にやっちゃっても構わないの?」

「殺さない程度にね」

着替え終えた美穂子が訊くと、ゆう子は笑いながら答えた。

「冗談じゃなくて・・本当に大怪我させちゃっても良いの?」

「あゆみちゃんを再起不能にするくらいやらないと、気が済まないんでしょ?」

ゆう子は優しく言いながら、美穂子にはそれとは判らないように煽り始めた。

美穂子の目にだんだんと闘志が沸いてくるのがわかると、ゆう子の煽りもだんだんとエスカレートしていった。

 

 

 

「由美子さん、始める前にマイクパフォーマンスやるから準備しといて」

下着姿のあゆみは、由美子に向かって鏡越しに言った。

「マイクパフォーマンスって、何を言うつもり?」

あゆみが着替えるのを見守っていた由美子は、興味ありげな顔で訊き返した。

「美穂子がギブアップしようが泣き出そうが私は攻め続けるって・・・

 泣き声を上げられないくらい徹底的に美穂子を潰すって・・」

「そんなこと言ったら、逆に美穂子ちゃんの闘志を煽るだけじゃないの?」

「そんな事はないよ・・

 アイツ、あれで結構雰囲気に飲まれやすいタイプだから・・」

「それより、そんな格好で本当に大丈夫なの?

 いつもみたいにビキニを着けなくても良いの?」

淡いブルーの下着の上にジーンズのミニスカートと真っ白なTシャツを着け終わったあゆみに、由美子は少し心配そうな口調で訊いた。

「そういう格好して構えると、なんか試合って感じがしちゃうじゃない・・

 今日は勝ち負けじゃなくてアイツを潰すまで徹底的にやるから・・

 『Dead or Alive』ってとこかな・・」

「生死を賭けた女の闘い?」

由美子は満足げな表情を顔に出さないように努力しながら、あゆみに言った。

あゆみが頷くと、由美子は慎重にあゆみを煽り始めた。

「この前の美穂子ちゃん・・

 誰に習ったのか知らないけど結構プロレス技を極めてたわよ・・」

「プロレスって言っても、所詮はShowBusinessでしょ・・・」

「でも、まともに食らったら・・」

由美子の煽りに乗ってきたあゆみの目が、だんだん険しくなってきた。

 

「そろそろ行こうか?」

我を忘れ理性を失い、只々憎悪の光しか浮かんでないあゆみの目を見た由美子は、あゆみにデニムのシャツを放り投げると、控室の扉を開けて促した。

 

 

 

「美穂子のヤツ、絶対にブッ殺す・・」

誰も居ない通路を由美子に付き添われて歩くあゆみは、厳しい表情でブツブツと呟いている。

背中越しにあゆみの呟きを聞いて、由美子は満足そうな表情で立ち止まると、会場の扉を開けた。

いつものように照明の落された会場は、中央にぼんやりと浮び上がるリングのシルエット以外は何も見えなかった。

由美子に軽く肩を叩かれたあゆみは、薄暗い会場の花道をゆっくりとリングに向かって歩き出した。

リングを取り囲むソファーセットからは、これから始まるあゆみと美穂子の闘いを前に、息を押し殺して固唾を飲むような雰囲気がひしひしと伝わってきた。

あゆみが目を凝らしてリング上を見ると、既に反対側のコーナーには美穂子らしき人影が浮び上がっていた。

 

あゆみがリングに上り、コーナーポストを背にして立つと、スポットライトがリング上を真昼のように明るく照らした。

由美子の話術にまんまと嵌ったあゆみは、憎悪の光に満ちた目で美穂子を睨みつけている。

一方の美穂子も、同じようにゆう子の話術に嵌り、憎しみのこもった目であゆみを睨みつけていた。

 

「あゆみちゃん、はいこれ・・マイクパフォーマンスやるんでしょ?」

由美子からマイクを渡されたあゆみは、無意識のうちにスウィッチを親指で探した。

 

 ハッ

(危ない危ない・・・)

 

あゆみは正気に戻ると、誰からも悟られないように美穂子に合図を送ってみた。

ところが美穂子はこれに応える事無く、相変わらずあゆみを睨みつけている。

 

(マズイなあ、美穂子のヤツ・・・)

あゆみは美穂子を睨みつけながら、ゆっくりとした足取りでリング中央へ向かった。

すると青コーナーから、美穂子も憎悪に燃えた顔であゆみを睨みながら前に出てきた。

 

みほこー!

リング中央で対峙すると、あゆみは思いっきり美穂子を怒鳴りつけた。

その瞬間、美穂子の表情が一瞬緩やいだ。

 

(美穂子、大丈夫?)

(あゆみゴメン・・もう大丈夫・・)

あゆみと美穂子は素早く目で語り合うと、リング中央で今にも掴みかからんばかりに睨み合った。

あゆみの右手が再びゆっくりと上がり、手にしたマイクが口元に近づいた。

 

 

「みなさーん!」

あゆみは美穂子と頷き合うと、突然リングサイドに向かって声を掛けた。

「みなさんは女同士の闘いを見るのが好きなんですよねー?」

会場が僅かに賛意を示しているのが判るとあゆみは続けた。

「なかでも私や美穂子のように可愛い娘や、美人美女の闘いが良いんですよねー?」

会場のいたる所で苦笑いが起こる気配が感じられる。

由美子とゆう子にはあゆみの意図か判らず、互いに顔を見合わせている。

 

「ところで皆さんは、いつもわたし達に付き添っている美女が闘うのを

 見たことがありますかー?

 そこのコーナーにいる美女の闘う姿を、見たくありませんかー?」

あゆみと美穂子はそれぞれ由美子とゆう子を指差しながら言った。

 

「ちょっとあんた達・・」

「何をバカな事言ってるの・・」

思いもよらなかった展開に慌てた由美子とゆう子は、怒鳴りながらロープをくぐってリングの中に入ってきた。

 

「ほらっ、怒った顔も素敵でしょー?

 こんな美人が闘うところ、見たいですよねー?」

 

あゆみは、由美子たちが怒った顔で近寄ってくるのを無視して、会場に向かって語り続けた。

 

ふざけんじゃないわよ!

 

突然、会場中に真粧美の声が響き渡った。

「あんた達、なに好き勝手なことを言ってるのよ!」

鬼のような形相で近づいて来た真粧美は、リングを見上げるようにあゆみを怒鳴りつけた。

「お客様たちは、あんたと美穂子の闘いを見にいらっしゃってるのよ!」

 

「まあ待て真粧美・・・」

すると、一人の老人が真粧美に声を掛けた。

「確かにその娘たちが闘うのは見たことがないなあ・・

 良いじゃないか・・面白そうじゃないか・・」

老人が言うと、会場の至る所から賛意を示す雰囲気が伝わってきた。

 

「でも由美子とゆう子はスタッフですから・・」

「その娘たちだって、技の一つや二つは知っているのだろう?」

真粧美と老人がやり取りしていると、あゆみはマイクを口元に近づけていった。

 

「みなさーん、提案でーす!

 由美子さんとゆう子さん同士で闘わせると手加減するかもしれないから、

 私と美穂子組対由美子さんとゆう子さん組の闘いってのはどうですかー?」

 

あゆみが真粧美たちのやり取りを無視して語り掛けると、会場中が賛意を示している気配が感じられた。

 

「良いだろう・・その娘たちとこの娘たちを闘わせてみなさい」

「でも、私たちこんな格好じゃあ・・」

老人が言うと、諦めきれない由美子は老人に見せつけるようにスーツのスカートを指差した。

「わたし達だって普通の格好ですよ・・由美子さん」

あゆみは由美子に向かって、悪戯っぽい目をして言った。

 

 

『そういう格好して構えると、なんか試合って感じが・・』

由美子の頭の中に、更衣室でのやりとりが蘇った。

 

「あんた、始めからそのつもりで・・・」

まんまと嵌められた怒りで、由美子も鬼のような形相であゆみを睨みつけた。

 

 

「由美子!ゆう子!」

鬼のような形相であゆみたちを睨みつけている真粧美がコーナーポストの下から声を掛けると、呼ばれた二人はコーナーで屈みこんだ。

 

「あの二人に何をやっても構わない!

 わたし達に歯向かった事を後悔させてやりな!」

憎しみの篭った目で真粧美が言うと、由美子とゆう子も怒りに燃えた目で頷いた。

 

 

「やるよ!準備は良い?」

「OK!絶好調!」

あゆみと美穂子もコーナーで頷き合うと、あゆみは美穂子をコーナーに残して一歩前に出た。

 

 

 

《 では、改めて紹介致します

  赤コーナー、あゆみ、女子高生・・美穂子、女子大生・・・

  青コーナー、由美子、ゆう子・・Desireスタッフ・・・ 》

 

静かにアナウンスが流れると、赤コーナーでは美穂子が、青コーナーではゆう子が、それぞれロープの外側に出た。

再び会場中が水をうったように静まりかえり、固唾を飲むような雰囲気に包まれた。

 

 

カン

 

いつものように静かにゴングが鳴ると、あゆみは慎重に間合いを詰め始めた。

青コーナーからは、鬼のような形相であゆみを睨みつけている由美子が、同じようにゆっくりと前に出てきた。

あゆみはボクシングのように構えると、ステップを踏むように軽い足取りで由美子の周りを回り始めた。

由美子はあゆみのフットワークを警戒しながらも、何度かあゆみを捕まえようと腕を伸ばした。

するとあゆみは、由美子に向かってジャブを連発。

が、由美子はこれをかわしながら、慎重にあゆみの隙を窺っていた。

 

「コノヤロー!」

突然、由美子は叫びながらあゆみに飛び掛ると、あゆみの髪を掴んで滅茶苦茶に振りまわした。

「あっ、痛っ、痛っ・・・」

不意をつかれて、あゆみが悲鳴をあげた。

そして、慌てて由美子の腕を掴もうとするが、由美子は狂ったようにあゆみの髪を掴んだまま、リング上を右へ左へと動き回った。

 

「テメー!コノヤロー!ふざけやがって!」

「きゃぁぁ、痛っ、痛っ・・・」

大きな悲鳴をあげるあゆみと、あゆみの髪を掴んで滅茶苦茶に振り回す由美子は、徐々に青コーナーへ近づいていった。

 

「由美子!」

青コーナーからゆう子が叫ぶと、由美子はあゆみをコーナーポストに押しつけた。

するとゆう子が、すかさずあゆみを羽交い絞めにした。

 

 

 パシン パシン パシン・・

「あっ、きゃっ、あんっ・・・」

由美子の平手が頬に叩き込まれる度に、あゆみの顔が右に左にと大きく揺れた。

あゆみの動きが止まると、ゆう子はあゆみを抱えなおして、再びあゆみの背中をコーナーポストにぴったりと押しつけた。

あゆみのお腹が剥き出しになると、由美子は一歩下がってあゆみのお腹に力強い蹴りを入れた。

 

「あゆみー!」

美穂子は叫ぶなりロープをくぐってリングの中に踊りこんだ。

 

 

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

「うっ、あうっ、あぐっ・・・」

コーナーポストに磔状態のあゆみのお腹を、由美子の脚が何度も襲う。

 

「このやろー!」

「きゃぁ・・」

あゆみを蹴ることに夢中で後ろを顧みない由美子は、美穂子が後ろから髪の毛を鷲掴みにすると、大きな悲鳴を上げながら慌てて頭を押さえた。

しかし美穂子も容赦はしない。

由美子を引き摺り倒すと、すぐさまストンピングを入れ始めた。

 

 

「てめえ、いい加減にしろよ!」

羽交い絞めにされているあゆみは、ゆう子の髪を肩越しに掴むと同時に、軽く飛び上がりながらストーンと一挙にしゃがみ込んだ。

 

「ぐあっ・・」

ロープ越しのDDTが炸裂すると、喉元からもろにロープに叩きつけられた反動で、ゆう子の身体は弾むようにリング下へと消えていった。

 

「くっそー!」

あゆみはお腹を押さえながら立ち上がると、美穂子が由美子にストンピングを連発しているリング中央へ向かった。

そして美穂子の反対側に立つと、一緒になって由美子にストンピングを入れ始めた。

 

 ドスッ ドスッ ドスッ

 ドスッ ドスッ ドスッ

「がっ、ぐあっ、あぐっ・・」

あゆみと美穂子、二人掛りのストンピングに、由美子は苦しげな呻き声を上げながらのた打ち回る。

 

 ドスッ ドスッ ドスッ

 ドスッ ドスッ ドスッ

「があっ・・・・・」

芋虫のようにのた打ち回っていた由美子は、ひときわ大きな呻き声を上げると、そのままぐったりと動かなくなった。

するとあゆみは、脇腹のあたりを蹴り上げるように由美子の身体を仰向けにした。

腕を変な格好で左右に広げた由美子のスカートが半ば捲れ上がって、艶かしげな太腿が露になると、あゆみは由美子の胸を踏みつけてから美穂子に向かって頷いた。

 

「そーれっ!」

 ドスッ

「ぐあっ・・」

美穂子がお腹に勢いよく膝を落とした。

あゆみに胸を踏まれて上半身をマットに押さえつけられている由美子は、絞り出すような呻き声を上げながら、一瞬、カッと目を見開くと、脚を持ち上げてくの字になった。

すると美穂子は素早く由美子の脚を掴んで、自分の両脚を絡めるようにお尻から倒れこんだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ・・」

右脚に走る激痛に、由美子の口から大きな悲鳴が上がった。

そして激痛が走る源を咄嗟に押さえようとしたが、あゆみに胸を踏みつけられたままなので、由美子の腕はむなしく宙を舞うだけだった。

 

(痛い、痛い・・ ゆう子は?)

由美子はあまりの痛さに自然と湧き出た涙で霞む目を懸命に開くと、必死になってゆう子の姿を探し始めた。

 

「あぁぁぁぁっ・・」

だが、ゆう子の姿が見当たらないと、途端に激痛の世界に呼び戻された由美子は、再び大きな悲鳴を上げた。

 

(効いてないの?

 あの娘たちに掛けたヤツ、効いてないの?)

右脚を襲い続ける激痛に、逆に意識がはっきりと戻ってきた由美子は、あゆみに掛けた筈の催眠術が効いてないことに狼狽えた。

 

(リングに上がるまでは効いていた筈なんだけど・・

 あっ、マイクを握ったとき・・

 マズイ、佳奈に教えてあげなきゃ・・)

「きゃぁぁぁっ・・あぁぁぁぁっ・・」

由美子は両手で抱えた頭を左右に振りながら、大きな悲鳴を上げて脚の痛みに耐え続けた。

 

 

「あゆみ!後ろっ!」

ゆう子がリング内に入ってきたのを目にすると、美穂子は佳奈の胸を踏みつけているあゆみに警告の怒鳴り声を上げた。

あゆみが慌てて振り返ると、ゆう子がふらふらと近づいて来るのが目に入った。

 

「このやろー!」

あゆみはゆう子に掴みかかると、荒々しく髪を鷲掴みにした。

 

「きゃっ、くっそー!」

ゆう子もあゆみの髪を鷲掴みにすると、同じように荒々しく振り回した。

 

「くっ、くそー!」

「あんっ、このぉ!」

あゆみとゆう子は互いの髪を鷲掴みにして荒々しく揺さぶりながら、揉みあっている。

 

 

「あゆみ!負けるな!」

あゆみとゆう子の取っ組み合いが膠着状態になると、美穂子は由美子のアキレス腱を極めたままで、あゆみに声援を送った。

 

 

(佳奈に教えてあげなきゃ!)

胸を踏みつける重圧から解放された由美子は、右脚の痛みを必死に堪えながら、美穂子の脚を掴んだ。

「あっ、このぉ!」

「くっそー!」

由美子は脚の痛みに耐えながら、ぐるっとうつ伏せにひっくり返ると、今度は逆に美穂子の脚を締め上げた。

 

「きゃぁぁっ・・・」

美穂子は懸命に脚をバタつかせると、ロープに向かって這うように逃げ出した。

すると由美子は素早く立ち上がり、脚を引き摺りながら美穂子に駆け寄ると、背中にストンピングを何発も入れ始めた。

 

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

「あっ、あっ、あっ・・・」

美穂子は懸命に起き上がろうとするが、その度に背中に叩き込まれる由美子のストンピングに、とうとう転がるようにリング下に蹴り落とされてしまった。

 

 

 バシッ バシッ バシッ・・

「あぐっ、あうっ、あうっ・・」

由美子が振り返ると、あゆみはゆう子の両肩を掴んで、脇腹に膝蹴りを何発も叩き込んでいた。

 

 バシッ バシッ バシッ・・

「うっ、うぐっ・・」

一方的に攻められているゆう子の動きが、だんだんと緩慢になっていた。

 

 

「くっそー!このやろー!」

由美子は脚を引き摺りながらも二人の元へ懸命に駆け寄ると、あゆみを後ろから羽交い絞めにして叫んだ。

「ゆう子!」

するとそれに応えるかのように、苦しげな表情で息を喘がせていたゆう子が、再び憎しみの篭った目であゆみを睨みつけた。

 

「てめー!このやろー!」

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

ゆう子は叫びながら、何度も何度もあゆみのお腹を蹴りつけた。

 

「うっ、うぐっ、うっ・・・」

ゆう子の蹴りが入る度に、身体をくの字に折り曲げるかのように、羽交い締めにされているあゆみの膝がお腹のあたりまで持ち上げられた。

 

「由美子!」

ゆう子が目で合図しながら声を掛けると、由美子はあゆみを一段と強く羽交い締めにした。

するとゆう子は再びあゆみのお腹に蹴りを入れて、くの字に折れ曲がるかのように持ち上げられたあゆみの脚を掴んだ。

 

「そーれっ!」

掛声と共にゆう子が力を入れると、あゆみの身体が宙に浮いた。

由美子とゆう子は、お互いの目を見て頷き合うと、あゆみの身体を左右に振り始めた。

 

「あっ、きゃっ・・・」

頭の方を由美子に、脚をゆう子にそれぞれ掴まれて、不安定な格好で抱え上げられたあゆみは、身体が左右に振られると小さな悲鳴を上げながら、二人から逃げようともがき暴れた。

ところが、

 

「せーのっ!」

由美子とゆう子は掛声を掛けると、そのままあゆみの身体をマットの上に放り投げてしまった。

 

「あうっ・・・」

突然の事に受け身もとれず、マットに背中を強か打ちつけたあゆみは、ぎゅっと目を瞑って、仰け反るように腰を浮かせて苦しんでいる。

 

(あっ、あゆみ・・・)

 

あゆみが放り投げられた丁度その時、リング下から這い上がってきた美穂子は、素早く立ち上がると由美子の背中めがけて突進していった。

 

 

「あっ、由美子・・」

美穂子の動きに気が付いたゆう子が警告を発した時、振り向きかけた由美子の背中に飛び膝蹴りが叩き込まれた。

 

「このやろー!」

 

 ボコッ

 

「あうっ・・」

「あんっ・・」

 

背中からの衝撃に吹っ飛ばされた由美子の身体がゆう子に叩き付けられると、二人はそのまま抱き合うように倒れた。

 

 

「あゆみっ、あゆみっ・・・」

美穂子はあゆみの元へ駆け寄ると、抱きかかえるようにあゆみの身体を起した。

 

「あゆみ、大丈夫?」

「うん、平気・・・くっそー!」

 

あゆみが自力で起き上がろうとすると、美穂子は、ゆう子の上に折り重なるように倒れている由美子の脇腹を、思いっきり蹴り上げた。

 

「あうっ・・」

美穂子の力強い蹴りに、由美子は呻き声を上げながらロープの方へ転がっていった。

 

「あゆみっ!」

美穂子は振り返ってあゆみに声を掛けると、すぐさまゆう子にストンピングを入れ始めた。

 

ドスッ ドスッ ドスッ・・

「がっ、ぐっ、ぐはっ・・」

 

するとあゆみも素早く駆寄って来て、美穂子の反対側に立って、同じようにストンピングを入れ始めた。

 

ドスッ ドスッ ドスッ・・

ドスッ ドスッ ドスッ・・

「がはっ、ぐあっ・・」

 

ストンピングが入る度、苦しげに呻き声を上げるゆう子の身体がピクピクと跳ねた。

 

 

「あゆみっ!」

美穂子は目で合図してあゆみにストンピングを止めさせると、ぐったりとしているゆう子の身体を抱え上げた。

 

「そりゃっ!」

 ドスーン

 

美穂子がパワーボムでゆう子の身体をマットに叩き付けると、あゆみは待ってましたとばかりにフットスタンプを極めた。

 

「ぐあっ・・」

お腹を押さえたゆう子の上半身が、くの字に起き上がった。

 

 

脇腹を押さえて蹲っていた由美子は、ゆう子の苦しげな呻き声でパっと目を開けた。

すると、お腹を押さえて倒れ込んでいるゆう子の身体に、美穂子のフットスタンプが炸裂するのが目に入った。

 

 

「がはっ・・」

苦しげな呻き声を上げたゆう子の身体が再びくの字になると、力尽きたかのようにゆっくりとマットに倒れていった。

 

 

(ゆ、ゆう子・・)

 

由美子は脇腹を押さえながらも、力が許す限り素早く立ち上がって、自分に背中を向けているあゆみに突進していった。

 

 

「あゆみっ!」

 

美穂子の警告は間に合った。

あゆみは素早く振り返ると、突進してくる由美子の身体を押し止めるかのように両腕を突き出した。

そのまま二人が掴み合いになると、美穂子は素早く由美子の後ろに回って、髪の毛を鷲掴みにして引っ張った。

 

「きゃっ・・」

由美子は思わず自分の頭を押さえてしまった。

すると美穂子は、空いている手で由美子の腕を捩じ上げると、あゆみを躱すように避けながらロープに向かって突進して行った。

 

「あうっ」

 

 バターン

 

身体の正面からロープに叩き付けられた由美子は、ロープの反動で吹っ飛ぶように後ろ向きに倒れた。

すると美穂子は、屈み込んで由美子の髪を鷲掴みにすると、力いっぱい引き摺り上げた。

 

「美穂子!」

あゆみは素早くコーナーに行くと、コーナーポストを背に、開いた両手でトップロープを掴みながら怒鳴った。

 

「行くよっ!」

美穂子も怒鳴り返すと、あゆみに向けて対角線いっぱいに由美子の身体を飛ばした。

由美子の身体がリング中央を通過すると、あゆみはトップロープをぎゅっと掴んで、カンガルーキックのように下半身を思いっきり持ち上げて、そろえた両脚を勢い良く前に突き出した。

 

 ボコッ

「ぐあっ・・」

 

あゆみの両脚が顔面を直撃すると、由美子の身体は滑るように仰向けに倒れた。

あゆみは素早くリングから降りると、サードロープの下から由美子の足首を掴んだ。

 

「あゆみ?」

あゆみが何をやろうとしてるのか判らない美穂子は、首を傾げながら声を掛けた。

するとあゆみは、美穂子に向かってニヤっと笑いながら、由美子の脚と脚の間に鉄柱がくるようにして、反対側の足首も掴んだ。

そして、倒れた拍子に頭を打って脳震盪でも起したのか、ピクリとも動かない由美子の

足首を思いっきり引っ張った。

 

 

「きゃっ・・」

リング上で事の成り行きを見守っていた美穂子は、あゆみの意図した事が判ると、慌てて両手で顔を覆って小さな悲鳴を上げた。

美穂子には小さな悲鳴で済む事も、由美子にはそういう訳にはいかない。

 

 ゴン

 

「ぎゃぉぉっ・・」

 

女にとって一番大事なところを、事もあろうか鉄柱に叩き付けられた由美子は、カっと目を見開き、飛び上がるように上半身を起して、断末魔のような悲鳴を上げて絶叫した。

あゆみは満足そうな顔で素早くリングに上がると、美穂子の肩をポンと叩いた。

 

 

「あうっ、あうっ、あうっ・・」

由美子はコーナーポストの下で股間を押さえながら悶絶している。

 

 

あゆみと美穂子は、リング中央で向き合った。

美穂子の斜め後ろでは、ゆう子がピクリとも動かないで倒れている。

コーナーポストの下では、由美子が股間を押さえて泣き叫びながら悶絶している。

 

あゆみと美穂子は頷き合うと、横に並んで手を繋いだ。

そして会場中を見渡すかのように、高々と両手を上に挙げた。

会場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれていた。

 

 

 

To be continued



 

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