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「ねえ、これ見て!県知事の娘だって・・・バカな女・・・」

あゆみは、次の対戦相手を探すために遊びに来ている美穂子に声をかけた。

「なにがバカなの?結構いい大学行ってるじゃない」

「だって、ホームページに本名やら生年月日やら・・・顔写真まで出てるよ」

「それって、普通じゃないの?」

「誰に見られるかわからないのよ!現に私たちだって・・・」

「あっ・・・わたし、この女性に決めた!」

美穂子が突然言った。

「急にどうしたの?知ってる女性?」

「この隣に写ってる人・・・高校の時の先輩なの。コクられたことあるんだ」

「付き合ってたの?」

「ううんっ、断った。

 でも、この前あゆみが言ってた『寝取る』っていうの・・・」

美穂子がニヤっと笑った。

「そうだっ、その前に・・・美穂子、9月の連休空いてる?」

壁のカレンダーをチラッと見たあゆみが、突然訊いてきた。

「たぶん大丈夫だけど・・・なあに?」

「裕美が、大事な用があるって・・・理恵さんにも声をかけてるみたい・・・」

「それより、いつも裕美、裕美って、先生を呼び捨てにしていいの?」

「裕美は特別なの。学校ではちゃんと笠原先生って呼んでるよ!」

「あたりまえよ!」

 

 

「由美子とゆう子、ちょっと来て!」

真粧美は二人に声をかけると、応接セットのソファーに腰をおろした。

「あゆみちゃんと美穂子ちゃんの闘いをもう一度見たいって要望が、いくつか

 来てるんだけど・・・」

前置き無しに、いきなり用件を切り出す真粧美。

「でもあの娘たち、あの後とても仲良くなったんで、またやるとは・・・」

由美子が躊躇いながら答えた。

「そうよねぇ、何か良い方法ないかしら・・・」

「そうねぇ・・・」

3人が考え込んでいると、佳奈が近寄ってきた。

「どうしたの?」

「佳奈、あゆみちゃんと美穂子ちゃんを闘わせる方法は無いかと・・・」

真粧美は、佳奈にも要望があったことを伝えた。

 

「なんとかなるかも・・・」

しばらく考えていた佳奈が、可能性の有りそうな方法を説明した。

「じゃあ、それでやってみようか。仁美にも説明しとかなきゃ・・・」

 

 

「ここにも、サンドバッグを置こうか?」

特別室で、理恵と関節技の練習をしていた仁美が言った。

「なんで?」

「下であゆみちゃんが、熱心にやってたから・・・」

「えっ、あゆみちゃんも来てるの?」

「あゆみちゃんって言えば、面白い娘ね」

「どうして?」

「だって、裕美さんってあゆみちゃんの先生なんでしょ。

 なのに裕美、裕美って呼び捨てじゃない。それとも、今時の娘はそうなの?」

「そういえば・・・」

「理恵さんも、生徒さんから『理恵、理恵』って呼ばれてるの?」

「そんなことは無いわよ!」

「一度、ちゃんと注意しておいた方がいいかもね!さあ、練習練習!」

 

「あゆみちゃん、張りきってるわね!」

真剣にサンドバッグを叩いているあゆみに、佳奈は後ろから声をかけた。

「あっ、佳奈さん」

サンドバッグを叩くのをやめると、あゆみは振り返った。

「由美子さんは?」

「今日は一寸・・・それより、関節技とか練習した方がいいんじゃない?」

「なんで?」

「だって、あなたは体重が軽いから、あんまりダメージを与えられないわよ!」

「そうかなぁ?」

「その場では効いたような感じがするけど、相手はすぐに回復しちゃうわよ!」

「だって、パンチスピードが速くなれば・・・」

あゆみの言葉を遮る佳奈。

「年上の人の言うことは、聞いておくものよ!さっ、上に行きましょう!」

佳奈は、憮然とした表情のあゆみを促がして、特別室へ向かった。

 

 カチャ 

「・・・それとも、この前のが効いたかな?」

「この前のって?」

佳奈とあゆみが、喋りながら特別室に入ってきた。

理恵と仁美は二人を見とめると、関節技の練習を中断した。

「あれっ、裕美さんに3か月分のファイトマネー渡した筈よ」

「ファイトマネー?」

「聞いてないの?あゆみちゃんにも渡しておいてって頼んだのに・・・」

「ひどーい・・・裕美のヤツ、そんなこと・・・」

理恵は、あゆみの喋り方に怒りがわいてきた。

そして仁美から離れると、あゆみの前に立ちふさがった。

「あっ、理恵さんこんばんわ」

「あゆみちゃん!」

 パシーン 

挨拶するあゆみの頬を、理恵はいきなり引っ叩いた。

「あっ、痛っ」

「あなたねえ・・・」

「いきなりなにを・・・」

「少しは目上の人を、敬いなさい!裕美裕美って、あんたの担任でしょ!」

「だからなんなのよ!あんたには関係ないことでしょ!」

(なんなのよ!年上だ目上だって・・ちょっと早く生まれただけじゃない!)

 パシーン 

理恵が、再びあゆみを引っ叩いた。

あゆみも叩き返そうと、右手を大きく横に上げた。

「ちょっと、二人とも・・・」

佳奈と仁美が、二人の間に割って入った。

「二人ともどうしちゃったの?」

「どうもこうも、生意気な小娘に礼儀を・・・」

「何が礼儀よ、あんたこそ・・・」

今にも掴み掛かりそうになる、あゆみと理恵。

「二人ともやめて!」

仁美が叫んだ。

「でも、このままじゃ治まりが・・・二人とも、リングで決着つける?」

仁美と目が合うと、佳奈が言いだした。

「いいわよ!このバカ娘に礼儀というものを、きっちりと教えてあげるわ!」

「上等だよ!やれるもんならやってみな!」

「じゃあ仁美、理恵さんをよろしく。あゆみちゃん、行きましょう!」

佳奈はあゆみを促すと、理恵と仁美を残して部屋から出て行った。

 

《 お客様に、お知らせいたします・・・ 》

スポンサーが連れてきた娘同士の闘いが始まる直前に、アナウンスが流れた。

《 この試合の後、特別にもう一試合行われる事になりました・・・ 》

 

「あゆみちゃんって、陸上でインターハイに出たんでしょ?」

佳奈が運転しながらあゆみに訊いた。

「うん、800mの決勝で3位になったよ!」

「すごいじゃない!何分くらいで走るの?」

「あのときは2分10秒台だった。急にどうしたの?」

「ちょっと耳にはさんだから・・・

 それよりあゆみちゃん、今日はお客様がいらしてるんだけど・・・」

「公開処刑ってやつ?いいわよ、みんなの目の前で理恵のヤツを・・・」

「さっきも言ったけど、あんまりパンチに頼らない方がいいかもね!」

無言で頷くあゆみ。

 

「理恵さん、さっき見たんだけど、あゆみちゃんのパンチ・・・」

理恵を乗せた仁美も、運転しながら声をかけた。

「結構早いんだけど・・・あの娘、スマートでしょ?」

「だから?」

「当たった時の衝撃は有るんだけど、意外とダメージは残らないみたい」

「当たったときの衝撃さえ我慢すればいいってこと?」

 

 

薄暗い照明のなか、あゆみはリングに上がった。

反対側のコーナーには、理恵のシルエットがうっすらと浮かんでいた。

《 青コーナー理恵、23歳、高校教師

  赤コーナーあゆみ 19歳、女子高生 》

リング上がスポットライトで照らされると、静かなアナウンスが入った。

あゆみは、トップロープに手をかけて理恵を睨みつけた。

理恵も腕組みをしながら、あゆみを睨みつけている。

 カン 

静かにゴングが鳴った。

あゆみも理恵も、ゆっくりとリング中央へと向かった。

 バシッ

あゆみのローキックが、理恵の太股にヒットした。

お返しとばかりに、理恵のローキックがあゆみの太股を襲った。

「このやろぉ!」

あゆみは叫び声を上げると、理恵に跳びかかった。

そして理恵を押し倒すと、髪の毛を掴んでマットに頭を叩きつけた。

しかし、理恵は脚を大きく広げると、あゆみのお腹に絡めて絞め上げた。

「あうっ、あぁぁぁっ・・・」

あゆみの身体が、大きくのけぞった。

「調子に乗ってんじゃないよ!この小娘が!」

理恵の絞めつけが、一段と強くなった。

「あぁぁぁぁっ・・・・こ、このぉ・・・」

悲鳴をあげながらも、あゆみは理恵のお腹めがけて何度も拳を叩きこんだ。

「うっ、うっ、うっ・・・」

あゆみのボディブローで、理恵の絞めつけが緩んだ。

逃げるように理恵から離れたあゆみは、ロープ際で理恵が立上るのを待った。

すると理恵は、苦しげな表情でお腹を押さえながら立ち上がっってきた。

「このやろぉ!」

 ドコッ

やっと立上った理恵を、あゆみの跳び蹴りが襲った。

 ズダーン

「あぁっ・・・」

理恵が勢い良く吹っ飛んだ。

あゆみは、仰向けにひっくり返った理恵の髪を掴むと、引きずり起した。

そして、両手で理恵の肩を掴むと、お腹めがけて膝蹴りを連発した。

「うっ、あうっ、あうっ・・・」

膝をがくがくさせ、苦しげなうめき声を上げる理恵。

「目上だろうが年上だろうが、負けるときは一緒なんだよ!」

あゆみの言葉に、かっと目を見開いた理恵は、突然あゆみに抱きついた。

「は、はなせ・・・」

「はぁ、はぁ・・負けるのはあんたなんだよ!」

 ボコッ

「あぁぁぁぁっ・・・」

理恵の頭突き一発で、あゆみはあっさりとひっくり返った。

そして、両手で顔を押さえ、足でマットをばたばたと叩きながら苦しんでいる。

「てめぇ・・・」

理恵は、あゆみのお腹に何発もストンピングを入れた。

「あうっ、あうっ・・・」

理恵の足がお腹に突き刺さるたびに、あゆみの身体はくの字に跳ね上がった。

あゆみの動きが鈍くなると、理恵はあゆみの脚をがっちりと掴んだ。

そして、リング中央まで引きずると、そこで足四の字をかけた。

「あぁ、あぁぁぁぁぁっ・・・」

あゆみの口から悲鳴が上がった。

「ほらぁ、ギブアップは?」

「あぁぁっ、だ、だれが・・・」

あゆみが言い返さないうちに、理恵はマットをバンバンと叩いた。

「きゃっ、あぁぁぁぁっ・・・」

悲鳴をあげながらも、必死に耐えるあゆみ。

「判らない娘ねぇ、あんたは私には勝てないのよ!」

「ふ、ふざけ・・・あぁぁぁぁっ・・・」

あゆみが言い返そうとすると、理恵は腰を浮かして絞めあげた。

両手で抱えた頭を激しく動かしながら、あゆみは耐え続けている。

「んーっ、んーーっ・・・」

「ほらぁ、声も出なくなっちゃったの?ギブアップする?」

理恵は、両手に寄掛かるように上半身を起こすと、あゆみに訊いた。

あゆみは反動をつけながら、必死に身体を返そうとした。

「今のうちにギブアップしとかないと、もっと苦しくなるわよ!」

理恵は受身を取るように、後ろに倒れながら大きくマットを叩いた。

「あぁぁぁっ・・・」

一瞬、あまりの痛さに上半身を起こしたあゆみの悲鳴が、リング上に響いた。

「そーりゃっ!」

理恵はマットに手をつけると、再び腰を浮かそうとした。

 

「うあぁぁぁぁっ・・・」

叫び声を上げながらあゆみがもがくと、二人の身体は入替わりそうになった。

理恵は慌てて四の字を外すと、転がりながら横に逃げた。

 

「はぁ、はぁ・・・」

理恵は立ち上ると、膝に手をついて息を整えている。

あゆみも、脚を押さえながらよろよろと立ち上った。

あゆみと理恵は互いに向き合うと、相手を睨みながら間合いを取った。

 

「ちくしょう!このやろぉ!」

突然あゆみは、理恵に飛びかかった。

しかし、それを見越していた理恵は、膝を立てながら身体を横にそらした。

「あうっ・・・」

理恵の膝蹴りがもろに入ったあゆみは、お腹を押さえて膝をついてしまった。

 バシッ

理恵の回し蹴りが、あゆみの背中に綺麗に決まった。

「あうっ・・・」

あゆみは、小さなうめき声と共に、マットに俯せに倒れた。

「このガキィ、覚悟しろ!」

理恵は叫びながらあゆみの脚を掴むと、背中に跨るように逆エビを極めた。

「あぁぁぁぁっ・・・」

腰を押さえながら悲鳴を上げるあゆみ。

「ギブアップは?」

「あぁぁっ・・・ノ、ノォだこの、あぁぁぁぁっ・・・」

あゆみがギブアップを拒否すると、理恵はさらに腰を落とした。

目に涙を浮かべながら、あゆみは必死に耐え続ける。

突然、理恵があゆみの脚を離した。

 ドスッ、ドスッ・・

一瞬、苦悶の表情が緩んだあゆみの背中に、理恵がストンピング連発。

「あうっ、あうっ・・・」

あゆみの顔が再び歪んだ。

すると理恵は、今度は頭の方を向いてあゆみに跨りキャメルクラッチ。

「あぁぁぁぁぁっ・・・・」

またもやあゆみの悲鳴が上がった。

「ほらぁ、早くギブアップしないと腰がいかれちゃうよ!」

(「ほら、早く降参しないと、二度と走れない身体になっちゃうよ!」)

あゆみの脳裏に、美穂子と闘ったときの記憶が蘇った。

「いやぁぁぁ、やめてぇ・・・・」

「まだ判ってないの?『やめてぇ』じゃないでしょ!」

理恵は、あゆみの髪を引っ張りながら言った。

「あぁぁぁぁっ・・・」

あゆみの悲鳴が一段と高くなった。

「しぶといな・・」

理恵は、ぼそっと呟くと立ち上がり、あゆみの髪を掴んで引きずり起こした。

「あぁぁっ、痛っ、痛っ・・・」

しかし、悲鳴を上げながら立ち上がったあゆみの目が、きらっと光った。

「このやろぉ!」

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

そして、理恵のお腹めがけてボディブローを連発。

「あっ、うぐっ、あうっ・・・」

あゆみの拳がお腹に突き刺さるたびに、理恵が少しずつ後ろに下がって行く。

「このぉ、このぉ・・・」

「あうっ、うぐっ、あぐっ・・・」

あゆみの拳は、お腹をかばう理恵の手を巧みに避けながらも確実にヒットする。

後ろに下がる理恵の背中が、ついにコーナーポストが触れた。

理恵が、後ろに下がれなくなると、あゆみのパンチのスピードが上がった。

 ドス ドス ドス ドス・・・

「ぐっ、がっ、あっ、がっ、ぐっ・・・」

サンドバッグのように叩かれ続ける理恵。

「このぉ、このぉ・・・」

 ドスッ ドスッ・・

殴り疲れたのか、あゆみのパンチスピードが少しずつ遅くなってきた。

しかし理恵も、膝をがくがくと震わせ立っているのがやっとの状態。

「はぁ、はぁ・・・死ねぇ!」

あゆみの渾身のパンチが、理恵の鳩尾にきれいにきまった。

「あうっ、がはっ・・・」

ついに理恵が、膝をついて崩れた。

するとあゆみは、理恵に頭を脇に抱えて引きずり起こした。

無理矢理引きずり起こされた理恵は、両腕をだらんと垂らしている。

あゆみは、ためらうこと無く理恵のお腹に膝をめり込ませた。

「ぐあっ」

立っていることがやっとで、今にも崩れ落ちそうな理恵。

「このやろぉ!さんざん偉そうなこと言いやがって・・・」

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

執拗に膝蹴りを繰り返すあゆみ。

 

「あうっ、あうっ・・・」

(「当たった時の衝撃・・」どこで聞いたんだっけ?)

あゆみの膝がお腹にめり込むたびに、理恵は必死に思い出そうとした。

 ドスッ ドスッ ドスッ・・

「あうっ、あうっ・・・」

(当たったときの衝撃さえ我慢すればいいってこと?)

車の中で仁美に言われたことを、ようやく思い出した理恵。

(よーし、いちかばちか・・)

理恵は腹筋にありったけの力を込めると、あゆみの膝蹴りを待った。

 ドスッ

 ガシッ

理恵の両腕が、あゆみの右足を掴んだ。

「はぁ、はぁ、ほーらっ、捕まえたぞ」

「あっ、は、離せこのぉ・・・」

あゆみは右足を上下させて、理恵の手を振りほどこうとした。

しかし理恵の手は、がっちりとあゆみの足を掴んで離さない。

「はぁ、はぁ・・あんたのパンチは、全然ダメージにならないんだよ!」

荒い息で理恵が言い放った。

そして、もたれ掛かるように体重をかけると、あゆみの左足に小内がけ。

「きゃぁ」

あゆみが仰向けにひっくり返ると、すかさず理恵は馬乗りになった。

「このやろぉ、お返しだぁ!」

理恵は叫ぶと、あゆみの左頬に強烈なビンタを叩き込んだ。

 バシッ

「あうっ」

大きく右を向いたあゆみの顔が正面に戻ってくると、今度は右頬にビンタ。

「あうっ」

 バシッ バシッ バシッ バシッ・・

そのまま理恵は、あゆみに往復ビンタを始めた。

あゆみの目に涙が浮かんでくると、今度は髪の毛を掴んで頭をマットに何度も

何度も叩きつけた。

「あうっ、あっ、あっ・・・」

何度も頭を叩きつけられて、うつろな表情のあゆみ。

すると理恵は立ち上がり、あゆみに足四の字をかけた。

「きゃぁ、あぁぁぁっ・・・」

脚への激痛に、両手で頭を抱えて悲鳴を上げるあゆみ。

「これでどうだ!せいっ!」

理恵は気合いを入れると、腰を浮かせてあゆみの脚を絞め上げた。

「あぁぁっ、いたーい」

あゆみは、両手で顔を覆って悲鳴を上げた。

 バシン

理恵は上半身を支える腕をマットから放し、後ろ受身の様にマットを叩いた。

「あぁぁぁっ・・ちくしょぉぉ!」

あゆみは、激痛に耐えながらも、理恵の脚に爪を立てた。

「きゃっ、痛っ、痛っ・・・」

理恵は四の字を外すと、あゆみから逃げるように立ち上がって構えた。

脚を押さえて倒れたままのあゆみ。

すかさず理恵は、あゆみの脚にストンピングを何発も入れた。

「あぁっ、痛っ、痛っ、あぁぁぁっ・・・」

理恵のストンピングに、悲鳴を上げる事しかできないあゆみ。

「もう一丁だ、こらぁ!」

理恵は叫ぶなりあゆみの脚を掴んで、またもや四の字固めを極めた。

「あぁぁぁぁぁっ・・・」

(「ほら、早く降参しないと、二度と走れない身体になっちゃうよ!」)

あゆみの頭の中で、美穂子の言葉が繰り返される。

理恵は、マットを叩いたり腰を浮かせたりして、あゆみを攻め続ける。

「うぅっ、あぁぁぁっ・・・」

悲鳴を上げながら必死に耐えるあゆみ。

「ほらぁ、ギブアップは?」

腰を浮かせたままで、理恵が訊いた。

(ギブアップ?嫌っ、理恵さんには負けたくない!)

「のぉぉぉっ・・・」

絞りだすような声で、あゆみが拒絶した。

(もう脚の感覚麻痺しちゃったのかな?じゃあ、逆エビでも・・)

「そう、ならいいわ!」

理恵は四の字をとくと、素早く立ち上がってあゆみの両脚を掴んだ。

「あっ、いやっ、こ、このぉ・・」

あゆみが必死に脚をばたつかせると、理恵が思わず左手を離した。

するとあゆみは、右の踵を理恵の太股に叩き込んだ。

「あっ、つぅ・・・」

理恵が両手で蹴られたところを押さえると、あゆみは転がってロープに逃げた。

直ぐに気を取り直した理恵は、あゆみを追うと髪を掴んで引きずり起こした。

 ボコッ

「あうっ」

あゆみは、起こされながらも、理恵の鳩尾にストレートを叩き込んだ。

「このやろぉ!覚悟しろぉ!」

あゆみのパンチが、吸い込まれるように理恵のお腹に何度も入った。

「うっ、うっ、がっ、あうっ・・・」

小さなうめき声を上げながら、理恵は少しずつ後に下がり始めた。

「このやろぉ、このやろぉ・・・」

あゆみのパンチは止まらない。

またしても、コーナーポストに背中を押しつけられる格好になる理恵。

 ボコッ ボコッ ボコッ ボコ ボコ・・

「あっ、あうっ、あうっ、がっ、あっ・・・」

あゆみの攻撃に、理恵は前に倒れることもできず、コーナーに凭れ掛っている。

膝をがくがくさせている理恵の表情が、うつろになってきた。

(そろそろ限界かなぁ・・よーしっ・・)

あゆみは、理恵の両腕をトップロープに引っかけると、リング中央まで行った。

「りえー、このやろぉ!」

あゆみは叫ぶなり、理恵に向かって跳膝蹴り。

 ボコッ

「あうっ」

グロッキー状態に見えた理恵が、間一髪でかわした。

膝をコーナーポストに直撃させたあゆみは、そのまま膝を抱えて蹲った。

「あんたのパンチは、全然効かないんだよ!」

理恵はあゆみの髪を掴むと、リング中央へ引きずっていった。

(「・・あなたは体重が軽いから、あんまりダメージを・・・」)

佳奈の言葉が、あゆみの頭の中を駆けめぐる。

「覚悟すんのはあんただよ!そらっ!」

理恵はあゆみの脚を掴むと、一気に逆エビを極めた。

「あぁぁぁぁっ・・・」

「ほらっ、ギブアップする気になった?」

「いやぁぁっ、あぁぁぁぁぁっ・・・」

理恵が腰を落とすと、あゆみの悲鳴がリング上に響き渡った。

「そらっ、ほらっ」

「あぁぁっ、うぅぅぅっ・・・」

理恵の攻撃に必死に耐えるあゆみ。

「そーらっ!」

理恵は一旦脚を離すと、うつぶせのあゆみに膝十字を極めた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・」

会場中にあゆみの絶叫が響いた。

「ほらっ、まだ頑張るの?膝がいかれちゃうよ!」

「あぁぁっ、ギブッ、ギブッ・・・もうやめてぇ・・・」

「あんた、まだ判ってないの?『やめてぇ』じゃないでしょ!」

「あぁぁぁっ、や、やめ、あぁぁぁっ・・・」

「ほらっ、目上の女性にはどうすればいいの?」

理恵は腕の力を少し緩めた。

「あぁっ・・ご、ごめんなさい。やめて下さい。お願いします」

 カン、カン、カン、カン・・

「理恵さん、ストップ、ストップ・・・」

ゴングが鳴ると、仁美と由美子がリングに上がってきた。

「うっ、うっ、うっ・・・」

あゆみは、脚を押さえてうつぶせで倒れたまま、嗚咽を漏らしている。

「この、小娘が!」

理恵は吐き捨てるように言うと、あゆみの背中を踏みつけた。

「理恵さん・・・」

仁美に促されて、理恵はあゆみの背中から脚をどけると、控室に消えていった。

 

 

「仁美さん、あゆみちゃんのパンチって、本当に効かないの?」

理恵は着替えながら仁美に訊いた。

「うんっ、あの娘体重軽いから・・・」

「でもほらっ・・」

理恵はTシャツを少しまくって、赤黒く腫れ上がったお腹を仁美に見せた。

「痛いの?」

「うんっ、ちょっとズキズキする・・・」

「直ぐに・・・そうねえ、2・3時間で直るわよ!」

「でも、ちょっとやりすぎたかなぁ・・・」

理恵はぽつりと呟いた。

 

 

「由美子さん」

控室に戻ると、あゆみは弱々しく由美子に声をかけた。

「なあに、あゆみちゃん」

かける言葉もないといった表情で、答える由美子。

「今日のことは、裕美に言わないでね」

由美子は黙って頷いた。

あゆみは、安心したような表情になると、黙って着替え始めた。

 

 

 

 

                           To be continued

 

 

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