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Club Desire U

 

 

 

Sympathy(前編)

 

 

「Teacher Hiromi!(裕美先生!)」

職員室へ戻る途中、2組の前を通りかかった裕美に、あゆみは声をかけた。

「May I do it to stay next Saturday?

 (今度の土曜日、泊りに行っても良い?)」

「だから、私は英会話が苦手なの!」

裕美は微かに頷きながら、あゆみに言い返した。

「英語の教師なのに、よくそんな事が言えますねえ」

あゆみは、笑いながら言った。

廊下にいる生徒達も笑っている。

「日本の教員は、こんなもんでいいの!」

裕美は、職員室へと歩いていった。

 

そして土曜日の夕方・・・

「It came Hiromi,I have bought the cake.I kept a load in the entrance.

 (裕美、きたよ!はい、ケーキ!それから下で宅配便預かってきたよ!)」

「Thank you!Nearly dinner is produced!

 (サンキュー!もうすぐご飯できるから!)」

あのリングでお互いの蟠りが取れた二人は、いつのまにか教師と生徒の枠を超え

無二の親友になっていた。

そしてあゆみは時々、こうして裕美の家に遊びに来ていた。

 

「Sun of a Bitch!」

FAXの横にふせてあった紙を見ながら、あゆみはつぶやいた。

(私の名前が2番目に書いてある。ひどぉい!)

「Hey Hiromi! Who are Kyouko-Fukami?(ねえ、フカミキョウコって?)」

「She is superior of univ・・(えっ、大学の先輩・・)

 ・・ちょっ、ちょっと、あんた何見てるのよ!」

「Be english!(英語で!)」

「・・・・・・」

そう、英会話が苦手な裕美の為に、二人きりの時は英語で話そうと、あゆみが

提案したのだった。

「Did you fight after that?(ねえ、あれからやってる?)」

「I Twice I fought. And It won both. You?

 (2回やって両方勝ったよ!あゆみは?)」

「Even I am 2 straight victories!(私も2連勝!)」

「From who is a load ?(ところで、荷物誰から?)」

「aa・・、Kana-hattori,It is from Ms. Kana . May I open it ?

 (えーっと、カ・ナ・ハ・ッ・ト・リ、佳奈さんからだ。開けていい?)」

「Please (いいよ)」

 

小包を開けたあゆみが、叫んだ。

「ひろみ、大変!ちょっと来て!」

「なによ!」

「いいから裕美、早く早く!」

「ひろみ、ひろみって、あなた先生に向かって呼び捨てはないんじゃない!」

「いいから早く!」

あゆみが、手にしているビデオテープを見て、裕美も叫んだ。

「なにこれ!やだぁ・・・ 」

黒いビデオケースには『club Desire ひろみ vs あゆみ』と

金文字で書いてあり、二人の名前の下には簡単なプロフィールと、顔写真まで

貼ってあった。

「やだぁ、うそぉ・・信じられない!」

「なんで、なんてことを・・・」

呆然とする二人の足元には、ビデオテープが2本と黒い封筒が入った小包が、

口を開けたまま置いてあった。

 

「裕美、この女性たちと闘ったの?」

気を取り直したあゆみが裕美に訊いても、ショックから覚めやらない裕美は、

黙って頷いただけだった。

「裕美、このビデオ見ようよ!」

「えーーっ・・・」

裕美が答える前に、あゆみはビデオをセットすると、さっさと再生させた。

 

「わぁぁっ、裕美すごーい!」

あゆみは、ビデオを見て昂奮しているが、裕美は黙ったままだった。

 

「裕美、お腹すかない?」

しばらくして、あゆみは無邪気に尋ねた。

「そうね。せっかく作ったんだから食べようか?」

二人は、裕美が作った料理を食べながら、2本目のビデオを見ていた。

「この人がキョウコさん?」

「・・・・・・・」

「どうしたの?」

黙ったままの裕美に、あゆみは心配そうな表情で訊いた。

「あゆみちゃん、明日、あそこに行くわよ」

「行ってどうするの?」

「・・・・・・・」

 

「お酒飲む?」

突然裕美が言った。

「いいの?」

「もう、どうにでもなれ!」

裕美は冷蔵庫の中からビールを取り出すと、あゆみにも手渡した。

 

 

「ひろみ、先生、裕美ったらぁ」

「・・・・・・・・・・・」

「もう、朝だよ!」

「・・・・・・・・・・・」

「お・き・ろぉーーー!」

あゆみが、裕美の胸に、エルボーをくらわせた。

「あっ、あぁぁぁぁん・・・」

ようやく目を開く裕美。

テーブルの上には、ビールの空缶が散乱している。

「先生、9時過ぎたよ!」

「・・・・・・・・・」

「Desireに行くんでしょ!」

「う、うん。行く」

裕美は【Desire】と聞いて、ようやく目が覚めた。

 

 

Desireの建物に着くと、受付のところで佳奈が待っていた。

「来ると思った。落ち着いて静かに話が出来る?」

佳奈の問いかけに、睨み返す裕美。

「無理みたいね。いいわ、いらっしゃい」

裕美とあゆみは、佳奈の後からついて行くと、エレベーターは8階で止まり、

応接室のような部屋に通された。

「どういうことなの?」

裕美の問いかけに黙ったままの佳奈。

 

 カチャッ

すると、真紗美と由美子が入ってきた。

「どういうことなの?これはどういうこと?」

ビデオを手に、再び裕美が聞いた。

「見てのとおりよ!あなたも願望がかなえられたでしょ!」

真紗美が答えた。

「なに言ってるの!こんなビデオを・・・」

真紗美が黙ってパンフレットをテーブル越しに滑らすように投げると、裕美も

黙って手に取り、それを読み始めた。

 

『Club Desire

かの、エルヴィス・プレスリーも・・・・』で、始まるパンフレットを、

裕美が食い入るように読み始めると、あゆみも横から覗き込んだ。

 

「女の子同士の、取っ組み合いの喧嘩を見るのがたまらない。」

とある会員制高級クラブで大学教授が言うと、周りにいた他の会員も興味を

示したので、閉店後に賞金を掛けて、ホステス同士を闘わせてみた。

これに大喜びした会員達は、クラブの女の子だけでは飽き足らず、SMクラブ

からも女の子を借りてきて何度もキャットファイトショーを開催させた。

噂を聞きつけた他の会員達も、このショーを観戦するようになっていた。

「素人の女の子達が、本気で闘うのが見たい。」

店の娘達が次第に嫌がるようになったころ、会員達からも声が上がってきた。

たしかにSM嬢同士の闘いは、流石に本職だけあって、いろんな格闘技の技も

出るが、最後はフェイスシッティングとパターン化されてもきていた。

そこで、いつもSM嬢を借りてくるクラブで、格闘技プレイbPの麗華女王に

声をかけて、club Desireを設立したのだった。

スポンサーも、先の大学教授を始め、政治家、外交官、医師、実業家・・と、

秘密を厳守できる、社会的地位の高い会員達のみと厳選した。

表向きにはエステと女性専用のスポーツクラブの看板をあげて、客の中から

闘う娘たちを探しだすことにしたのだった。

そして、裕美やあゆみが誘われたように、街中でのスカウトも同時に行った。

ただ、女の子たちに声をかけても『はい、そうですか』とついてくる訳は無い

ので、『復讐心につけこむ』という方法をとった。

佳奈たちは、ある程度格闘技をこなすが、実は臨床心理学の専門家なのだった。

 

「あなた達だって、いい思いをしてるんでしょ!」

裕美がパンフレットを読み終わるのを待って、由美子が声をかけた。

「でも・・・」

言いかけたが、言葉が続かない裕美。

「願望は叶うし、クラブだって使いたい放題・・・

 それに、お互いこんなに仲良くなれたじゃない!」

「それとこれとは・・・」

言葉に詰まった裕美を見ながら、黙ったままの佳奈には、ある予感があった。

(いつか、裕美とぶつかることになる。

 本気とか死闘などというものを通り越して、その後の人生にも影響を与える

 ような、下手をすれば命に関わるようなものになる。

 でも、今日はまだそのときではない。)

 

「ところで、招待状は見てもらったかしら?」

佳奈が、ようやく口を開いた。

「えっ、でも・・・」

まだ、思考の整理がつかない裕美に向かって、

「今度の相手の人は・・・・・・」

いつもの口調で話し始めた。

「そしてあゆみちゃん、あなたの・・・」

 

裕美とあゆみは、何か釈然としないものを感じながらも、来週の土曜日に闘う

ことになる相手の事を考えながら建物を出た。

「先生、次の相手ってどんな人なの?」

駅に着いた時、あゆみが尋ねてきた。

「大学時代の恋敵」

しばらくして裕美が答えた。

「ふーん。私の相手は中学以来のライバル。今のところ2勝2敗」

「そんなに喧嘩したの?」

「違うわよ、陸上。中学と高校で、全国大会にそれぞれ1回づつ行っているの」

「ふーん、あゆみって、そんなに凄かったの?」

「今度こそ決着をつけるわ!裕美は?」

「去年の夏休み、テニスの合宿中に盗られちゃった。

 それまでも、結構嫌がらせとかされたけど・・・」

二人とも、お互いに相手の闘志を燃え上がらせてるとは知らずに喋り続けた。

 

 

 

「この前、真紗美さんが言っていた、公開処刑って何の事だろう?」

あゆみが、裕美に聞いた。

「・・・・・・・」

裕美が考え込んでいるところへ、佳奈と由美子が現れた。

「二人とも待った?」

「佳奈さん、この前真紗美さんが言っていた【公開処刑】ってどういう事?」

「今日はリングサイドにお客様がいらっしゃるのよ」

「えーーっ!みんなの目の前でやるのぉ・・・」

佳奈の答えに、裕美とあゆみが同時に言った。

「そんな・・・」

「この前だって、私たちの前でやったでしょ。

 それに、みんなの前で相手の娘を・・・」

またしても、佳奈の話術にはまる裕美とあゆみ。

「そろそろ行きましょうか?」

由美子が促すと、みんな駐車場の方へと歩き出した。

 

「裕美さん、今日はどれにします?」

控室に入るなり、佳奈が聞いてきた。

「・・・・・・」

(あゆみとやった時は、 シャツは破かれるは・・)

「どうします?」

(駄目、ビキニのトップがずりあがって・・・)

「今日は水着にする。ビキニじゃないやつ。」

裕美は、急に顔を赤らめると小さな声で言った。

 

裕美が濃い青色の競泳用水着に着替えると、佳奈は会場へと導いていった。

今日も会場の照明は落とされていたが、人がたくさんいる気配は漂ってきた。

「何人くらいいるの?」

裕美は佳奈に聞いた。

「さぁ、お客様は20人位じゃないかしら」

「ビデオまわってるの?」

「そんな事より相手に集中して!彼氏を寝取られたんでしょ・・・」

佳奈は、裕美を煽り続けながらリングへと上げた。

裕美がコーナーポストに寄りかかりながら待っていると、突然リング全体が、

ライトに照らし出された。

 

《青コーナー 裕美 22歳。赤コーナー理恵、22歳。共に高校教師。

大学時代からの恋敵。 》

 

静かなアナウンスが入った。

赤コーナーでは、黒い競泳用水着を着けた理恵がこちらを睨み付けている。

「裕美さん、覚えた技片っ端からかけて、効きそうなやつがあったら・・・」

佳奈がリング下から声をかけると、裕美はこっくり頷き、理恵を睨み付けながら

ゴングが鳴るのを待った。

 

 

カン

静かにゴングが鳴った。

二人ともゆっくりとリング中央へと向かうと、間合いを取って睨み合った。

「あんたには・・・あんたのことは絶対許さない!」

 

パシン

裕美は理恵の頬を引っ叩いた。

「あんっ、このぉ!」

大きく右に振られた理恵の顔が正面に戻ってくると同時に、今度は理恵が、

裕美の横っ面を思いっきり引っ叩いた。

 

パシン

今度は、裕美の顔が大きく右に振られた。

「あっ、くそぉ!」

裕美は理恵の両肩を掴むと手前に引き寄せて、理恵のお腹に膝蹴りを入れた。

 ドスッ

「あうっ」

そして、お腹を押さえて蹲るように膝をついた理恵の髪を掴むと、顔を上に

向けるように引っ張りあげた。

すると理恵は、裕美の股間めがけてアッパー気味のパンチを入れた。

 ボコッ

「きゃぁ」

今度は裕美が、大事なところを押さえて蹲るように膝をついた。

理恵はお腹を押さえながら立ち上ると、裕美の脇腹を蹴り上げた。

「このやろぉ!」

 ドスッ

「あうっ」

ひっくり返された裕美が仰向けになると、理恵は、裕美のお腹を踏みつける

ように何度も蹴りを入れる。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ・・

「あっ、あうっ、あうっ・・・」

裕美がお腹を抱えて横向きになると、理恵はリング中央に戻って行った。

 

「ほら、いつまで寝てるの?」

理恵の挑発に、お腹を押さえてロープに掴まりながら起き上がる裕美。

リング中央では、理恵が余裕の表情で両手を上げ、裕美が手を合わせてくる

のを待っていた。

苦しそうな表情の裕美は、お腹を押さえながら、よろよろと近づいていった。

そして裕美は、手を合わせるふりをしながら、理恵のお腹に蹴りを入れた。

 ドスッ

「ぐぁっ、この卑怯・・・」

お腹を押さえて膝をついた理恵の横顔にローキックを放つ裕美。

 バシッ

「あうっ」

顔面への蹴りに、横向きに倒れる理恵。

裕美は理恵の脚を掴むと、そのまま四の字固めを極めた。

「きゃぁ、いたぁぁぁっ・・・」

たまらず悲鳴を上げる理恵。

裕美はマットをと叩いて、理恵の脚に振動を与えた。

 バシン、バシン・・・

「あっ、いたっ、いたぁっ・・・」

じたばたともがきながら身体を返そうとしたり、絡まった脚を外そうとして

裕美の脚を掴んだりと、理恵も必死に抵抗する。

「そんなことしたって無駄だよ!そらっ!」

腰を持ち上げたり、マットを叩いたりして、理恵の抵抗を封じる裕美。

「あぁぁぁぁっ・・・」

目に涙を溜めた理恵の悲鳴だけが、リング上に響いている。

(もっと理恵を泣き喚かせてやろう!)

裕美が両手をマットについて腰を持ち上げると同時に、必死に耐え続ける理恵

の左手が、裕美の右足を捻った。

「あっ・・・」

そして裕美がバランスを崩すと、理恵はそのまま体を返した。

「あぁっ、いっ、いやぁぁぁぁっ・・・」

うつ伏せになった状態で、理恵が腰を持ち上げると、今度は、裕美の足が絞め

上げられる番だった。

「あぁぁぁぁぁぁぁっ・・・」

目に涙を浮かべながら苦しそうな表情で、じたばたともがく裕美。

理恵は何度も腰を浮かせては、裕美の足を絞め上げる。

裕美は大きな悲鳴を上げながらも、匍匐前進をするように肘を使ってロープへ

逃げようと試みた。

理恵も引きずられまいと手を突っ張るが、手が汗で滑るのか、二人の身体は、

じりじりとロープへ近づき始めた。

「あっ、あっ、あぁぁっ・・」

「ぐっ、うぐっ・・」

理恵は、裕美の指先がロープに触れたのが判ると自らも横に転がってロープを

掴んだ。

「あっ、このぉ・・・」

「きゃっ、くそぉ・・・」

ロープの下で、お互いに有利な位置を取り合おうともみ合う裕美と理恵。

 

「きゃっ、あぁぁぁぁぁっ・・・」

「あっ、あぁぁぁぁぁっ・・・」

 ドスン

互いの脚を絡ませたままでもみ合う二人は、リングの下に落ちてしまった。

佳奈と仁美は慌てて駆け寄るり、二人を引き離すと、肩を抱えるようにして、

それぞれのコーナーへ連れていった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「裕美さん、大丈夫?」

佳奈が覗き込むようにして尋ねると、荒い息使いの裕美は辛うじて頷いた。

「関節技で一気に決めた方がいいみたいね!でも、さっきの・・・」

裕美が不利と見たのか、佳奈が暗示をかけ始めた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「本当に大丈夫?」

佳奈がもう一度尋ねると、裕美はこっくりと頷き、リングに登り始めた。

 

「理恵さん、大丈夫?」

「はぁ、はぁ・・ ええ、平気・・・」

反対側のコーナーでは、仁美が理恵に尋ねた。

「裕美さんは、打撃に弱いみたいだから・・・」

「はぁ、はぁ・・・」

「・・特にお腹に・・ KOするまで・・・」

仁美も暗示をかけ始めると、理恵は息を整えてからリングに上がった。

 

リングに上がった二人は、ゆっくりと互いの距離を縮めていった。

柔道の様に右手を斜め上に、左手をまっすぐに突き出している裕美に対して、

理恵はボクシングのようなファイティングポーズ。

互いが射程距離に入ったと同時に、理恵のミドルキックが裕美の腰に入った。

 ボコッ

「あうっ」

理恵は、裕美が腰を押さえた隙に横に並ぶと、左腕と髪を掴んで、そのまま

コーナーポストへと走り出した。

 

 

 ドコッ

「きゃぁ・・」

正面から叩き付けられた裕美は、コーナーポストを抱えるように崩れ落ちた。

すると理恵は、裕美の無防備な背中を何度も蹴りつけた。

 ボコッ、ボコッ・・

「あっ、あうっ・・・」

ぐったりした裕美の髪を掴んで引きずり起こした理恵は、裕美の両腕をトップ

ロープに引っかけ、コーナーポストに寄りかからせた。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ・・

「うっ、うぐっ、あうっ・・・」

裕美のお腹に、理恵の拳が何度も叩き込まれた。

ドスッ、ドスッ・・

「あっ、うぐっ、うっ・・・」

目に涙の浮かべ、なかば放心状態の様になってきた裕美は、コーナーポストに

寄りかかったまま、尻餅をつくように崩れ落ちた。

「ほらぁ、そんなとこに座ってんじゃないよ!」

すると理恵は、裕美の髪を掴むと、引きずるように中央へと向かった。

 

(理恵なんかに負けてたまるか!)

裕美は素早く理恵の腰の括れにしがみつくと、バックドロップ気味の裏投げで

理恵をマットに叩きつけた。

 

ズダーン

しかし、理恵の攻撃で受けたダメージが残っている裕美は、大の字に倒れたま

まで立ち上がれない。

理恵は頭を振りながら立ち上がると、裕美の胸を踏みつけた。

「あああん、あぁぁぁっ・・・」

目に涙を溜めた裕美は、嫌々をする様に頭を振りながら理恵の足を掴んだ。

「あんっ、いやっ・・ もうやめてぇ・・・」

裕美の懇願を無視するように、理恵の足はぐりぐりと胸を攻めつづける。

理恵は、勝ち誇ったかのようにあたりを見回した。

と、理恵の視線が何かをとらえた。

 

(あれ?あの顔どっかで・・・)

理恵の視線が観客の一人に集中し、一瞬、裕美に対して油断が生じた。

胸への圧迫感が緩んだその瞬間、裕美は理恵の足を思いっきり捻った。

「あっ、きゃっ・・」

バランスを崩した理恵が仰向けに倒れると、裕美は、捻った脚に自分の両脚を

絡めて、思いっきりのけぞった。

「あぁぁぁっ、いたぁぁぁぁっ・・・」

「はぁ、はぁ・・・」

膝十字が極まり理恵が悲鳴を上げると、裕美はさらに絞め上げた。

「あぁぁっ、いたぁっ、・・放せこのやろう!」

 ドスッ、ドスッ

理恵は裕美の肘を蹴り始めるが、それでも裕美は、絞め上げる力を緩めない。

すると理恵は、今度は、裕美の太股に踵を落とし始めた。

「あっ、あんっ・・・」

裕美はたまらず、理恵の足を放すと、転がりながら離れた。

苦悶の表情を浮かべた理恵は、まだ脚を押さえたままで倒れている。

裕美は右足をさすりながら近づくと、理恵の脇腹に膝を落とした。

 ドコッ

「ぐぁっ」

慌てて脇腹を庇おうと、脚から放した理恵の手首を裕美は掴んだ。

そして理恵の腕に両脚をからめると、お尻から倒れこんだ。

「あぁぁぁぁぁぁっ・・・」

悲鳴を上げながらも、逃げようともがく理恵。

裕美は右足で理恵の首を押さえると、左の踵を胸の上に何度も落とした。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ

「あうっ、あんっ、あんっ・・・」

身を捩って逃げようともがいていた理恵の動きが止まると、裕美は再び理恵の

腕を絞め上げた。

「あぁぁぁぁっ・・・、やめてぇ・・・」

今度は、足でマットをばたばたと叩きながら、必死に耐える理恵。

苦悶の表情の理恵を見て、裕美は満足そうな笑みを浮かべながら絞め続けると、

ついに理恵は耐えきれずに、裕美の脚をタップした。

しかし裕美は、理恵が脚を叩いて抵抗していると勘違いして、更に絞め上げた。

「きゃぁぁぁっ・・・、いやぁぁぁぁ・・・」

理恵は泣き叫びながら背をのけぞらせて、痛みに必死に耐えている。

そして、理恵ののけぞりが最高点に達した時、丁度ブリッジをしたような格好に

なり、裕美は振り落とされてしまった。

 

「どうしたの?もうお終いなの?」

先に立ち上がった裕美は、肩を押さえて膝をついたままの理恵に聞いた。

「土下座して謝れば、許してあげるわよ!」

裕美の言葉に、怒りに燃えた目で睨み返す理恵。

「まだ、判ってないみたいね!」

裕美はゆっくりと理恵に近づくと、髪を掴もうと手を伸ばした。

 ボコッ

「きゃぁぁぁ・・・」

その瞬間、裕美の股間に理恵の拳が突き刺さった。

裕美は、大事なところを押さえて膝をついた。

理恵はゆっくり立ち上がると裕美の髪を掴み、その横顔に膝をめり込ませた。

「あがぁぁぁっ・・・」

顔押さえてリング上をのたうち回る裕美。

肩をさすりながら近づいていった理恵は、裕美の髪を掴むと引っ張り上げ、首を

右腕で抱えると、お腹に膝蹴りを何発も入れた。

「お・か・え・し・だぁ!」

 ドスッ、ドスッ、ドスッ・・

「あぐっ、うっ・・・ あぐっ、うぐっ・・・」

裕美が前かがみの状態で動かなくなると、両手を握り絞めて背中に打ち下ろした。

「あぐっ、うっ、 あぐっ、うぐっ・・・」

背中への衝撃で前に崩れそうになる裕美の腹を、理恵の膝が下から突き上げる。

裕美の脚腰から力が抜けて、これ以上立っていられそうもないとみると、理恵は

最後に髪の毛を掴んで思いっきり膝蹴りを入れて、裕美をひっくり返らせた。

そして、お腹を押さえて倒れている裕美の腕をとると、アームロックを極めた。

「あっ、いたっ、いたたたたっ・・・」

「あんた、さっき本気で折ろうと思ってたでしょ!」

「あぁぁぁっ・・・」

「これだけで済むと思ってないでしょうね!」

理恵は腕を極めたまま、でんぐりがえしの様に前転した。

「きゃぁぁぁっ・・・」

足でばたばたとマットを叩く裕美の悲鳴が、一段と高くなる。

「それっ、もう一丁!」

理恵はもう一回転すると、裕美をはなした。

腕を押さえてうずくまったままの裕美は、目に涙を溜めて悲鳴を上げている。

理恵は、裕美のお腹に蹴りを2発入れると、リング中央に戻った。

 

「いつまで寝てる気、それとももう降参?」

理恵の挑発に、裕美は腕を押さえながら立ち上がると、ゆっくりと理恵の方へ

近づいていった。

 

バシッ

理恵は、裕美の肩にハイキックを放った。

お返しに裕美は、理恵の腰にミドルキックを何発も入れた。

すると今度は、理恵がハイキックを連発。

そして裕美の腕を掴むと、肩を拳で殴った。

「あっ、いたっ・・・」

前屈みになって、肩を押さえようとした裕美のお腹に、理恵の膝がめり込んだ。

「あうっ」

両手でお腹をかばう裕美の腰に、理恵の足が飛んでくる。

裕美は理恵から逃げると、ロープに寄っかかった。

すると、理恵は自分から裕美の方に近づいてきた。

 

「裕美さん、このままじゃあ理恵さんにKOさせられちゃうよ!」

リング下から佳奈が声をかける。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

息を乱した裕美が、ゆっくり頷く。

目の前に来た理恵が髪を掴もうとしたとき、裕美はお腹に爪先蹴りを入れた。

お腹を押さえながら後に下がる理恵に、裕美はミドルキックを何発も入れた。

 バシッ、バシッ、バシッ・・

「あっ、あっ、あっ・・・」

裕美の脚が腰に入るたびに、理恵はうめき声を漏らした。

そして理恵の動きが止まると、腰投げを綺麗にきめた。

 

ズダーン

「あぅっ・・・」

背中を押さえ、苦しそうにのけぞっている理恵を起こすと、今度は一本背負い。

理恵をリングに叩き付けると、左手で掴んだままの腕を両手で抱えて、そのまま

ギロチンドロップのようにお尻から倒れこんだ。

「きゃっ」

小さな悲鳴を上げ、一回ビクンと跳ねた理恵に、裕美は再び腕ひしぎ十字固めを

極めた。

そして今度は、絞め上げるだけでなく、理恵の右腕を右に左にと捻った。

「きゃぁぁぁぁぁっ・・・」

またもや、絶叫しながらもがき苦しむ理恵。

(腕が、腕が折れちゃう。こうなったら・・・)

 

ガブッ

突然理恵は、裕美の脚に噛み付いた。

「きゃぁぁっ」

裕美はあわてて、理恵の腕を放して逃げた。

そして裕美は、噛まれた脚をさすりながら、理恵が立ち上がるのを待った。

しかし、腕を押さえたままの理恵は、いつまで待っても立ち上がってこない。

痺れを切らした裕美は、髪を掴んで立たせると、今度は腋の下に腕を突っ込んで

背負い投げのように理恵をマットに叩きつけた。

そして理恵の後ろに回ると、両脚で腰のくびれを絞めた。

「あぁぁぁぁぁっ・・・」

腰への痛みに、のけぞりながら悲鳴を上げる理恵。

裕美は、右手で髪の毛を引っ張ると左腕を顎に引っ掛けた。

胴絞めスリーパーから逃れようと、もがき暴れる理恵。

しかし裕美は、自分の左手首を右の肘にがっちりと挟みますます絞め上げる。

(そういえば、あゆみちゃんもこれで落としたんだっけ。

 理恵も落ちるかなぁ?)

突然思い出した裕美は、余裕の笑みを浮かべた。

汗と涙で顔を濡らしている理恵は、痛みに耐えながら逃げようともがき続ける。

(こっ、殺される・・・)

首を絞められて息が苦しくなってきた理恵は、裕美の太腿に肘打ちを始めた。

「あっ、いたっ・・・」

「あぁぁぁっ・・・」

「ギブアップしたら?」

裕美の二の腕には、力瘤が浮かんでいる。

理恵は泣き叫びながらも必死に逃れようともがく。

裕美も必死になって絞め上げる。

リングの下からは、佳奈も仁美も何か叫んでいるが、二人には聞こえない。

ただただ絞める事しか考えない裕美。

理恵の絶叫がだんだんと小さくなっていく。

裕美は渾身の力を振り絞って、理恵を絞めつづける。

しばらくすると、理恵の力がすーっと抜けていくのが判った。

裕美は理恵の身体を離すと、ゆっくりと立ちあがった。

どれだけ待っても、理恵は立ちあがってこない。

ようやく勝利を確信した裕美は、リング中央で右手を高々と掲げると、自ら、

勝ち名乗りをあげた。

 

 

 

                           To be continued

 

 

 

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