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Club Desire T

 

 

Desire

 

 

「笠原先生、このごろ登下校の時間に、駅の前でこんなチラシを配っているの

 知っていますか?」

3年2組の山田あゆみが,副担任の笠原裕美のところへチラシを持ってきた。

裕美は3月生まれの22歳。この春、東京の大学を卒業して教員になったばか

りの、ホヤホヤの新米教師。

一方のあゆみは4月生まれで、2年生のとき1年間アメリカに留学していたの

で、既に19歳になっている。

 

『あなたの願望を、かなえてみませんか・・』

あゆみが持ってきたチラシは、こういう文句で始まっていた。

「でも、変なのよねぇ。綺麗な人とか、可愛い子にしか渡してないの」

「どういうこと?」

「これもらったのは、裕子に美恵に真理、みんな可愛い子ばっか・・・

 デブスやガングロなんかは、ぜんぜんいないの」

「山田さん、人を外見で中傷するようなことは、言っちゃだめ!」

「Sorry!でも、本当だよ。聖和の子なんかも可愛い子ばっか・・・」

「わかった、先生が調べてみるから・・・

 そんなところに、電話なんかしちゃ駄目よ!」

「はぁーい。じゃあ、失礼しまぁーす」

裕美は、あゆみを返すと帰り支度を始めた。

 

 

(あっ、あの人ね!本当だ、山田さんの言ってた通り綺麗な人ばかり・・

 聖和の娘にも渡している。

 あれ?今渡した娘、中学生じゃないかしら?結構可愛いわね。・・

 ダメダメ!教師がそういう目で人を見ちゃ!)

裕美は少し様子を窺がってから、チラシを配っている女性に近づいた。

「私、旭ヶ丘高校の教師ですけど、うちの生徒にそのようなものを配るのは、

 やめてもらえませんか」

「私、バイトだからよく判らないけど、いかがわしいチラシではないですよ!

 なんだったら、そこに電話をかけて確かめればいいじゃないですか」

チラシを配っている女性が、言い返してきた。

裕美は、言われるままに携帯を取り出すと、チラシの番号にかけてみた。

『御電話ありがとうございます。ビューティーサロン・デザイヤ・・』

(なーんだ、エステか。でも、うちの生徒に配るのはやめてもらおう)

「わかったわ。変なものではないみたいね。でも、うちの生徒だけじゃなく、

 子供達にチラシを配るのは止めて下さい」

裕美は、そう言い残すと家路についた。

そのとき、女性の目がキラッと光ったのに、裕美は気がつかなかった。

 

翌日の昼休み。

「先生、今日も配ってましたよ」

あゆみが、チラシを手に職員室に入ってきた。

「昨日の帰りに、やめてって言ったんだけどねえ」

裕美は、あゆみの手にしているチラシを見て首を傾げたかとおもうと、おも

むろに携帯電話を鞄から取り出した。

(あれっ、昨日かけた番号と違う。・・なんでだろう?)

「昨日も言ったけど、こんなとこに電話しちゃだめよ!」

裕美は、あゆみからチラシをとりあげると、教室へ帰した。

 

裕美は家に帰ると、あゆみから取上げたチラシの番号に電話をかけてみた。

『あなたの願望をかなえてみませんか?・・FAXの方は0番を・・』

(あれ?昨日と違う!どういうこと?・・でも、これ、なんだろう?)

ボタンを押して待っていると、5分ほどでFAXから紙が3枚出てきた。

 

『あなたが日ごろから・・

 思い知らせてやりたい・・

 あなた自身の手で・・』

2枚目を見ると、入会申込書になっていた。

『・・・入会金、年会費等は一切・・・』

3枚目には、相手・関係・理由を5人分書ける申込書になっていた。

(なんの冗談かしら?でも、試しに書いてみようかな?)

裕美は冗談半分で、5人分を書き上げるとFAXを送り返した。

 

 

3日後、帰宅すると、FAXが届いていた。

『あなたの願望をかなえる準備ができました。つきましては・・・・』

 

 

翌日指定のビルへ行くと、FAXできた写真の女性が受付で待っていた。

「笠原裕美さんですね?笠原さんの担当をさせて頂く、服部佳奈と申します」

裕美と同じくらいの年頃のスーツ姿の女性が、丁寧に声をかけてきた。

『AssistantManager ChiefTrainer』と書いてあるプレートをつけていた。

「どうぞこちらへ」

佳奈に導かれて喫茶室へ入る裕美。

「これってどうゆう事ですか?」

席に着くなり、FAXを手に裕美は聞いた。

佳奈の説明だと、日頃から敵愾心を持っている相手や、過去に恥ずかしい目に

あわされた相手を、自分自身の手で叩きのめす事が出来るらしい。

はじめは、早々に断ろうと思っていた裕美だが、佳奈の催眠術師のような巧み

な話術にのせられて、入会の申し込みをしていた。

(私もやらなきゃ!)

佳奈の話を聞くうちに、何時の間にか、裕美もやる気になっていた。

 

「では、少し確認したいことがありますので、こちらへ御一緒に」

裕美は、佳奈にうながされて喫茶室を出た。

エレベーターで上がる間に、佳奈は説明を始めた。

「ここは、2階と3階がエステティックサロン・・・

 4階から上が女性専用のスポーツジムになっています。

 但し、6階以上は特別会員しか入れません」

 ピンポン

「どうぞこちらへ」

エレベーターが5階で止まると、言われるままについていく裕美。

「あれに、相手の顔写真でも貼って、叩くんですか?」

部屋のすみに、サンドバッグとパンチングボールが設置されているのを見て、

裕美は、冗談まじりに佳奈に聞いてみた。

「あはははは・・それもいいかもしれませんね」

佳奈は可笑しそうに笑いながら、一番奥の扉を開けた。

そして、奥の扉をカードキーで開けると、裕美の先にたって階段を上った。

「さあ、どうぞ」

6階の廊下に出ると、2番目の部屋をカードキーで開け、裕美を部屋に入れた。

そこは、エアロビにも使えるような鏡のついた部屋で、マットが敷いてあった。

「これに着替えて下さい」

裕美は佳奈に着替えを渡されると、奥の個室を指し示された。

Tシャツ・スパッツ姿に着替えると、何時の間にか佳奈も着替えていた。

「先生、取っ組み合いの喧嘩したことあります?」

佳奈はいきなり裕美をマットの上に押し倒した。

 バシン

おもわず、受け身をとる裕美。

佳奈は、少し驚いている風であったが、今度は抱え上げ、投げ飛ばしてみた。

 バシーン

またもや、受け身をとる裕美だが、怒って佳奈につきかかっていった。

「いきなり、なにするの!」

「先生、柔道の経験がおありなんですか?」

ところが、佳奈はさらに驚いた様子で、聞いてきた。

いきなりのことで動転し、柔道二段だと答える裕美。

「なら、少し技の練習をすれば、週末にでもできますね」

 

その後、2時間位プロレス技の練習をすると、地下のバーへ誘われた。

「先生、どうでしたか?」

「久しぶりに体を動かしたらスキッとしたわ。

 たまには、からだ動かさないと・・・

 私も大学のときは、毎日テニスを・・・」

またもや佳奈の巧みな話術にはまって、次から次へとしゃべり続ける裕美。

バーには、オルゴールのようなBGMが微かな音でかかっていた。

 

 

翌日も同じ部屋で、今度は実戦形式の練習をした。

 ズドーン

裕美は、佳奈を首投げで倒して袈裟固めを極めた。

「あっ、いたいっ、いたいっ」

「先生。柔道じゃないんだから、袈裟固めなんかかけたらこうなりますよ」

佳奈は袈裟固めをかけられながらも、裕美の髪の毛を引っ張っていた。

「じゃあ、どうしたら?」

「首投げなんかの場合は、スリーパー、先生だったら裸絞めなんかが・・・

 隙あり!」

 ボコッ

ひっくり返った裕美のお腹に、佳奈の強烈なボディブロー。

「あっ、がはぁっ・・」

おなかを押さえて、くの字になって苦しむ裕美。

 

3時間位練習をした後、また、地下のバーへ誘われ少し飲んだ。

そこでも佳奈の巧みな話術にはまり、次の土曜日に願望をかなえる事になった。

バーには今日も、オルゴールのようなBGMがかかっていた。

 

 

そして土曜日・・・・

午後5時にいつもの喫茶室に行くと、佳奈が待っていた。

そして裕美を車に乗せると、別の場所へと向かった。

「今日の相手の人って、どういう人なんですか?」

緊張気味に訊く裕美に、

「リングに上がるまでは内緒です」

「リングでやるんですか?プロレスみたいに?」

「そうですよ・・・」

佳奈は答えながらも、いつもの話術で裕美の闘志を煽り始めた。

会場となる建物に着くと、誰もいない通路を通って控え室に入った。

「どのようなコスチュームがいいかしら?」

佳奈は訊きながら、奥のウォークインクローゼットの扉を開けた。

中には,水着、セーラー服、SM風・・と、いろいろな衣装があった。

「・・・・・・・・」

言葉もなく考え込む裕美。

「どれでもみんな、先生の体型に合うものを用意してありますから」

「じゃあ、その短パンとタンクトップで・・・」

裕美は,動きやすそうで、なるべくイヤラシク見えないものに決めた。

「では、下着の代わりにこれを着けておいてください」

すると佳奈は、薄い水色のビキニを差し出した。

 

「では行きましょうか?」

佳奈は、裕美が着替え終わると会場へと向かった。

更衣室で着替える間も、会場へ向かう通路でも、佳奈は裕美を煽り続けた。

そして、照明の落とされた部屋へ入った。

目を凝らすと、中央にリングがあった。

相手は既にリング上にいるらしいが、暗くてどのような人かわからない。

裕美は佳奈に導かれてリングに上がると、中央まで進んだ。

リングの上には、またしても、オルゴールのようなBGMが微かに流れていた。

佳奈は,裕美の耳元で、囁くように煽りつづけた。

裕美の闘志が最高潮に達したとき、スポットライトがリングを照らした。

目の前に立っていたのは、なんと自分のクラスの山田あゆみであった。

そのとき、裕美の怒りが頂点に達した。

 

(この娘、日頃から生意気なのよね!

 そりゃあ、英語教師のくせに英会話が苦手だからって・・・

 どうせ私は、駅前留学しかしてないけど・・・・

 だからって何も授業中にみんなの前で、馬鹿にすることないじゃない!)

 

いまにも掴み掛らんばかりの裕美を、コーナーへ連れて行く佳奈。

「裕美さん。ゴングが鳴ったら、思いっきり叩きのめせますよ!」

あゆみを睨みつけながら、無言で頷く裕美。

「でも山田さんを、生徒と思ってはだめ。いつもいつも、みんなの前であなた

 に恥をかかせる女ですよ」

それでも佳奈は、怒り心頭の裕美に煽りつづけた。

 

(3月までは学校中の男子の目は、みんな私に向けられていたのに・・

 でもあの先生が来てから、先生を見るようになった・・・

 いつも制服着ている私と毎日違うお洒落な服を着てくる先生・・

 こんなの不公平だ、2度と学校に来られなくしてやる!)

反対側のコーナーに連れて行かれるあゆみも、怒りが頂点に達していた。

「あゆみちゃん、遠慮しないで、思いっきりやっちゃいな!」

あゆみ担当の、由美子が囁いた。

「とうぜんよ!」

「それから、あの女の人を先生だと思っちゃだめよ!本当ならあなたに集まる

 筈の男子の視線を、奪っていった女よ。わかった?」

こっくりと頷くあゆみ。

 

青いトランクスタイプの短パンに、臍が見えるほど短いタンクトップを着けた

裕美は青コーナーで、ゴングが鳴るのを今や遅しと待っていた。

タンクトップの胸のふくらみの下から、水着のラインが浮かび上がって見える。

一方あゆみも、赤いトランクスに、袖なしの体操着を着けて、赤コーナーから

裕美を睨みつけていた。

あゆみの体操着の下からは,薄いピンクのビキニが透けて見えていた。

 

 カーン

ゴングと同時に二人は飛び出して、リング中央で組み合うと、互いに首の後ろの

髪の毛を掴みながら、相手を倒そうとした。

「このぉ、ちくしょぉ!」

あゆみが、ヘッドバットを放ってきた。

だが、互いに首の後ろを掴んでいるので、額がくっついただけだった。

「あなた生徒のくせに、いつも生意気なのよ!

 2度と生意気な口がきけないように、思い知らせてあげるわ!」

「先生こそ、新米のくせに偉そうにしてんじゃないわよ!

 2度と学校に出て来れないようにしてやる!」

今度は互いに、髪の毛を引っ張りだした。

「いたいなぁー、離しなさいよ!」

「先生こそ離してよ!」

「きゃぁ、やめてよ!いたたたたっ・・」

「先生こそやめてよ、いたぁぁぁぃっ・・」

 

リングの下で、佳奈が由美子に囁いた。

「あなたの方はだいじょうぶ?こっちは、柔道二段だって言ってたわよ」

「留学中に、ボクササイズをやってたみたいよ。大丈夫なんじゃない」

「何分もつかなぁ?」

「そうねぇ・・・」

「ところで由美子、あなた、あの娘になにかけたの?」

「あゆみちゃんの弱点?首と胸。佳奈、あなたは?」

「先生は髪の毛とおなか」

「でも失敗したかな?あの先生、教え子の胸は攻撃しそうもないわね!」

「判らないわよ」

佳奈も由美子も、特定の個所を攻撃されると恐怖心と敵愾心を煽るようにと、

裕美とあゆみに言い続けていたのだった。

 

 ズデーン

裕美が、あゆみに小外刈りをかけた。

が、互いに髪の毛を掴んだままだったので、もつれ合うように倒れる2人。

 ドタン、バタン、ドタン・・

2人とも相手の髪を掴んだまま、リング上をごろごろと転がっているうちに、

あゆみの横顔がロープにかかった。

すると裕美は、1度あゆみの髪を離してロープの外側から手をまわすと、再び

あゆみの髪を再び掴んで、思いっきり引っ張った。

「ぐぇ・・・」

あゆみの首がロープに押し付けられた。

「ぐぇ・・、ぐぁっ・・」

裕美は、呼吸ができず苦しむあゆみの後頭部を、更に強くロープに押し付けた。

(殺っ、殺される・・はっ、離せこのやろぉ・・・)

意識が薄れかけるなかで、あゆみは裕美の頭をエプロンに叩きつけ始めた。

 ドカッ、ドカッ・・

「あっ、あっ、あっ・・・」

頭を何度も叩きつけられた裕美の意識が朦朧としてくると、あゆみの髪を掴む

力もだんだんと弱くなってきた。

あゆみは髪の痛さも構わずに、裕美の手を無理矢理開かせると、転がりながら

リング中央まで逃げた。

裕美はまだ、虚ろな目をしてロープ際に倒れている。

「げほっ、げほっ・・・・」

あゆみは苦しげに喉を押さえながら、裕美の足を掴んで引きずり始めた。

裕美のタンクトップが捲れ上がり、大きな胸を包んでいる水着が露になった。

そしてリング中央まで来ると、あゆみは裕美のお腹にストンピングを入れた。

「あっ、あうっ・・」

捲れ上がったタンクトップが肩のところに引っかかり、お腹を庇おうにも腕を

動かせない裕美は、慌てて、肩口から手を抜いた。

するとあゆみは、裕美の顔を踏みつけながら首に絡まった青いタンクトップを

引っ張った。

「きゃっ・・・ぐっ・・ぐはっ・・・」

裕美はタンクトップを掴んで首のところを緩めようとしたが、あゆみも逃がす

まいと更に引っ張った。

 ビリッ

裕美のタンクトップが、首のところから裂けて破れた。

あゆみがバランスを崩して倒れると、裕美は転がりながらロープ際まで逃げた。

そしてロープに掴まりながら立ち上がると、そのままロープに凭れ掛った。

 

「裕美さん、遠慮しちゃダメ!本気でやらないと、あなたがやられるわ!」

リング下から佳奈がアドバイスをすると、裕美はこっくり頷いて、ゆっくりと

リング中央へ向かった。

 

「せやっ!」

 バシッ

あゆみは、近づいてきた裕美の太股にローキックを叩き込んだ。

 バシッ、バシッ・・

「あっ、あっ・・・」

みるみる裕美の太腿が、赤くなってきた。

が、裕美は怯まずあゆみの右脚をキャッチするとそのまま押倒して、あゆみの

お腹に馬乗りになった。

 パシン、パシン、パシン・・

「うっ、あうっ、うっ・・・」

裕美に引っ叩かれるたびに、あゆみの顔が右に左にと揺れた。

「うっ、うっ・・・」

あゆみの目に涙が浮かんできたのを見ると、裕美は立ち上がった。

そしてあゆみの両脚を掴むと、身体をひっくり返して逆エビを極めた。

「きゃぁぁぁ・・いた、いたぁぁぁぁぁぁぁっ」

激痛に悲鳴をあげるあゆみ。

「教師を馬鹿にすんじゃないわよ!」

裕美は、あゆみの左脚を抱えるようにしっかり掴むと、腰を落とした。

「きゃぁぁっ・・いやぁぁぁっ・・」

悲鳴をあげながらじたばたともがき暴れるあゆみに、裕美は、つい、抱えて

いた脚を離してしまった。

あゆみは横に転がって裕美から逃げると、腰を押さえながら立ち上がった。

あゆみが立ち上がるのを待っていた裕美は、猛然と向かっていくと、太腿に強

烈なタックル。

 ドン、ズデン

「あんっ」

そして,倒れたあゆみのお腹にストンピング連発。

 ボコッ、ボコッ・・

「あうっ、あうっ・・・」

お腹を庇うように押さえながら、横を向いて倒れているあゆみ。

裕美はあゆみの身体をうつ伏せにすると、素早くキャメルクラッチを極めた。

「あぁぁぁぁっ・・・・・」

悲鳴を上げながら、必死に堪えるあゆみ。

裕美は、あゆみの顎に左腕をかけると後ろに引っ張った。

「ほらっ、降参したら?」

「だ、だれが・・・」

目に涙を溜めながらも、裕美の勧告を拒絶するあゆみ。

「泣いてるの?いつもの生意気な娘は、どこに行ったのかなぁ?」

裕美は、あゆみの顔を覗きこみながら訊いた。

するとあゆみは、必死に腕を伸ばして裕美の髪を掴んで引っ張った。

「きゃぁっ、いた、いたいっ・・」

裕美が髪をおさえた隙に、あゆみは転がりながらロープ際まで逃げた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

肩で息をしながら、ロープにつかまりながら立ち上がるあゆみ。

「はぁ、はぁ・・ほらっ、まだ終わってないよ!」

裕美は、膝に手をついて息を整えているあゆみに、手でおいでおいでをしなが

ら挑発した。

ゆっくりとあゆみが近づいてくると、裕美は素早く懐に入り込んで一本背負い。

 ドスン

「う、うっ・・・」

ろくに受身も取れないあゆみは、ぎゅっと目を瞑って苦しそうな顔で、腰を持

ち上げて背中を押さえている。

「ほらぁ、起きろ!」

「あっ、痛っ、痛っ・・・」

裕美はあゆみの髪の毛を掴むと、そのまま引きずり起こした。

「そらっ、もう一丁だ!」

 ドシン

「あうっ・・・」

今度は払い腰で、あゆみをマットに叩きつける裕美。

またもやあゆみは、腰を浮かせて苦しんでいる。

すると裕美は、あゆみの胸めがけて膝を落とした。

 ボコッ

「あんっ、あぁぁぁっ・・・」

あゆみは半泣きの状態で胸を押さえた。

 

「スイッチ・オン」

由美子が呟いた。

「佳奈、あの先生けっこう大胆な事するわね」

「そうね。あそこまでやるとは・・・」

「あゆみちゃんのスイッチ入っちゃったから、これからが見物よ!」

「裕美さんにも、うまくボディーブローでも入れてくれれば・・・」

「そうね!」

リング下で囁き合う二人。

 

裕美は再度あゆみの髪を掴んで引きずり起こすと、首の後ろを掴んだ。

そして今度は、内股を狙って、あゆみに背を向けると、右脚を大きく後ろに

跳ね上げた。

しかしあゆみはそれを躱すと、裕美の股間に膝を突き刺した。

 ドコッ

「きゃっ、あぁぁぁぁぁぁっ・・」

大事なところを押さえて膝をつく裕美の横顔に、ローキックを叩き込むあゆみ。

「あうっ」

 ドサッ

あゆみは、股間を押さえたまま倒れた裕美の足を掴むと、逆えび固めをかけた。

「あっ、いたっ、いたぁぁぁぁぁぃっ・・」

苦痛に顔を歪ませる裕美に、さっきやられたように、高い位置を保つあゆみ。

「はぁ、はぁ、裕美っ!

 ・・さっきはよくもやったわね!

 はぁ、はぁ・・あんな事して・・どうされるか、判ってんでしょうね!」

「あぁぁっ、いやっ、山田さん!はぁ、はぁ、はぁ・・やめて、お願い!」

「このやろぉ、覚悟しろ!」

あゆみは、懇願する裕美を無視するかのように、一気に腰を落とした。

「いやぁぁぁぁっ・・痛ぁぁぁぁぁぁ・・・」

裕美はマットをバンバンと叩きながら、頭を振って大きな悲鳴を上げた。

「はぁ、はぁ・・ギブアップする?」

「あぁぁっ、いやぁぁぁ・・・」

顔を涙で濡らした裕美は、肘を使ってロープの方へ逃げようとした。

それに気がついたあゆみは、裕美の足を放すと、背中にストンピング連発。

「あっ、あっ、あっ・・」

裕美の動きが止まると、今度は弓矢固めをかけた。

「・・・・・・」

悲鳴も出ず、目に涙を浮かべて、必死に振りほどこうとする裕美。

あゆみは身体を揺らしながら、裕美の身体をさらに反らせた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

しばらくすると、あゆみの息も上がり始めた。

裕美は、一瞬の隙を捕えてあゆみの技から逃れると、転がりながらロープ際

まで逃げた。

 

(なんで、山田さんと闘っているんだろう?

 どうして、こんなに苦しい思いをしなければならないの?

 でも・・やらなきゃやられる・・)

 

 

ふらふらと、立ち上がってきた裕美に、あゆみのドロップキック。

 ズダーン

「あっ・・」

ロープまで飛ばされ跳ね返ってきた裕美に、コブラツイストをかけるあゆみ。

「きゃっ、いたぁっ、・・あぁぁぁぁぁぁっ・・」

裕美は、足に手をかけて外そうとするが、汗ですべって外せない。

「ああっ・・いっ、いたっ・・もうっ・・」

顔中を汗と涙で濡らした裕美は、必死になってもがく。

と、あゆみがバランスを崩し、コブラツイストがかかったまま、後ろに倒れた。

「ぎゃぁぁぁぁ・・」

倒れた拍子にグランドコブラが極まり、裕美の悲鳴がいっそう高まった。

 

(痛っ、痛っ・・このままじゃ、身体中の骨がバラバラになっちゃう・・・)

「きゃぁぁっ、あぁぁぁぁっ・・・」

泣き叫びながら、頭を右に左にと、もがく裕美。

「はぁ、はぁ・・あっ、あぐっ、あっ・・」

裕美が暴れるので、何度もあゆみの身体の上にのしかかってくる。

(こんなに暴れて・・相当効いてるのね・・でも、苦しい・・)

あゆみが、これで決まれとばかりに、締め上げたとき、

 ボコッ

「あがっ・・」

裕美の後頭部が、あゆみの顔を直撃した。

思わず力を緩めるあゆみ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・」

裕美は必死の思いであゆみから逃れると、腰を押さえて、リング中央で四つ

這いになった。

 ポタッ、ポタッ

顔を押さえながら立ち上がったあゆみの鼻から、血が滴り落ちた。

 

 

(なんで、こんなことされなきゃいけないの・・

 裕美めぇ、ぶっ殺してやる・・)

 ボコッ

あゆみは、四つ這いのままの裕美の鳩尾に、爪先蹴りを入れた。

「あうっ・・」

おなかを押さえて転げまわる裕美。

 ボコッ、ボコッ

「あっ、あっ、あっ・・」

追い討ちをかけるように、あゆみは執拗に裕美の腹を蹴り続けた。

(こっ、殺されるっ・・)

「いやぁぁぁぁぁっ・・やめてぇぇ・・」

裕美の恐怖からの絶叫も、あゆみの炎をいっそう煽っただけだった。

(殺してやる・・殺して・・)

ボコッ、ボコッ・・

「あうっ、あうっ・・・」

あゆみは裕美をロープ際まで追いつめると、髪を掴んで引きずり起こした。

そして自分は反対側のロープまで行くと、反動をつけて裕美に襲い掛かった。

「ぐっ、がふっ・・」

あゆみの右腕が叩き込まれた喉を押さえて、膝をつく裕美。

するとあゆみは、裕美の髪を掴んで起き上がらせ、顔面にヤクザキック。

 ボコッ

「あぁぁぁぁぁぁっ・・」

裕美の鼻からも、血が滴れてきた。

 

(こっ、殺される・・

 怖い、怖い、怖い・・

 もう、こんな闘いはいやっ・・

 ・・でも、やらなきゃ殺される・・)

 

ふらふらしながら起き上がった裕美の腹に、またもや、あゆみのヤクザキック。

が、その足に、裕美はしがみついた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・」

「はぁ、はぁ・・離せよバカヤロウ・・」

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

裕美は、あゆみのふくらはぎを掴み直すと、一本背負いのように投げた。

「きゃぁぁぁぁぁっ・・」

 ドスーン

頭からマットに叩きつけられたあゆみは、虚ろな表情で大の字になっている。

 ボコッ

「がふっ」

裕美が無防備なお腹に膝を落とすと、あゆみは飛び上がるようにくの字になった。

「てめぇ、覚悟しろよ!」

あゆみにだけしか聞こえないくらいの声で囁くと、裕美は四の字固めをかけた。

「きゃぁぁぁっ・・」

激痛に気を取り戻したあゆみは、悲鳴を上げた。

「はぁ、はぁ・・あゆみっ、はぁ、はぁ、あんたの足、折ってやるから!」

「あっ、いやっ、いやぁぁぁぁっ・・」

あゆみは、悲鳴を上げながら、頭を抱えてのたうちまわる。

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

裕美は荒い息をしながら、腰を浮かせて締め上げた。

「いやぁぁぁぁぁぁっ・・」

あゆみは叫びながら、何度も何度も反動をつけて返そうとする。

 バタン

「きゃぁぁぁぁぁぁっ・・」

とうとう力負けして返されてしまった裕美の口から、悲鳴が上がった。

「はぁ、はぁ・・どうした裕美!まだまだこれからだよ!」

あゆみは、両手を突っ張りながらお尻を持ち上げた。

「やっ・・きゃっ・・いやっ・・あぁぁぁぁぁぁっ・・」

裕美の足と腰に、激痛がはしる。

(このままじゃあ、足が折れちゃう!)

裕美は、肘を使って匍匐前進のようにじりじりとロープに近づいた。

「あっ・・ロ、ロープ!」

やっとの思いでロープを掴むと、裕美はか細い声であゆみに訴えた。

「裕美、あんた馬鹿じゃないの!プロレスじゃないんだよ!」

「あゆみちゃん、やめてぇっ・・」

裕美は、半べそをかきがらも、ロープを使って体勢を入れ替えようとするが、

あゆみはそれに気がつくと、絡まった脚を外して立ちあがり、うつぶせのまま

の裕美の背中に蹴りを入れた。

 ボコッ

「あうっ」

あゆみは、うつぶせので倒れている裕美をリング中央まで引きずって行くと、

背中に馬乗りになった。

そして、立てた膝に裕美の両肩を引っ掛けた。

「いっ、いたぁぁぃっ・・・」

「背骨折れたら、学校これないね!」

苦痛で歪む裕美の顔を覗き込みながら、あゆみが尋ねた。

「えいっ!」

「きゃぁぁぁぁっ・・」

裕美は腰の痛みを必死で堪えると、Vの字にした左手をあゆみの顔めがけて

突き刺した。

 バタバタ・・・

あゆみは、両手で顔を覆って、足でマットを叩きながら苦しんでいる。

裕美は腰をおさえながら立ち上がると、あゆみの髪をつかんで立たせた。

そして、あゆみの頭を腋の下で抱えると、腹に強烈な膝蹴りをくいこませた。

 ボコッ、ボコッ、ボコッ・・・

「がっ、あうっ、あうっ・・」

 

(あゆみ、もうお終いにして!はやく倒れて!

 生徒と取っ組み合いの喧嘩をするために、教師になったんじゃないんだから!

 お願い、あゆみ、早く倒れて!)

 

 ボコッ、ボコッ、ボコッ

裕美の膝蹴りが、あゆみの腹に容赦なく突き刺さる。

「あっ、あうっ、あっ・・・」

目に涙をためて、苦しそうな顔をしたあゆみのうめき声だけが響く。

裕美は、これで決まれとばかりに、渾身の力で膝蹴りを放った。

しかし、あゆみはお腹への衝撃を必死に堪え、裕美の膝をしっかりと抱かえて

捕らえると、反対に、圧し掛かるように押し倒して馬乗りになった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・よくもやりやがったなぁ!」

 ボコッ、ボコッ、ボコッ

あゆみは、マウントポジションから、裕美の顔面を殴りだした。

「がはっ・・がっ・・ぐあっ・・」

裕美の鼻から、一度とまった鼻血が再び出始めた。

「あっ・・あんっ・・がはっ・・」

あゆみは、顔を鼻血で真っ赤に染めた裕美の髪の毛を掴んで引きずり起こすと、

コーナーポストにもたれかかせた。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ

あゆみの拳が、裕美のお腹に突き刺さる。

「・・・・・・・・・・・」

既に裕美は、悲鳴もあげる事が出来なくなっていた。

 ドサッ

ついに裕美が、崩れ落ちた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・」

肩を波打たせるように荒い息遣いのあゆみは、コーナーポストに寄り掛るように

座り込んでる裕美の髪を掴むと、引きずるようにリング中央まで連れて行った。

 

(今度は何をやられるんだろう?

 痛いのは、もういやっ!

 でも、私ももう限界っ!

 一発で決めないと・・!!)

 

裕美はしがみつくようにあゆみの腰の括れに手をまわすと、渾身の力を振り絞り

裏投げであゆみをマットに叩きつけた。

 ズダーン

そして、あゆみの髪を掴んで上半身を起こすと、左腕を細い首に巻きつけた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

裕美の体力も限界に近づいている。

「・・・・・・・・・・・」

(やっ、やめてっ・・

 こ、殺される・・

 いやっ、死にたくない!)

声も出せずもがき苦しむあゆみの腕が、目標も無く宙を舞っている。

裕美はお尻をマットにつけると、もがき苦しむあゆみの腰のくびれに、両脚を

絡ませて絞め上げた。

あゆみは、もがきながらも裕美の髪を掴むと渾身の力を込めて引っ張った。

「きゃぁ、あぁぁぁぁっ・・・」

(あゆみちゃん、もう抵抗しないで!)

裕美も髪の痛みを堪えつつ、腕と足に最後の力を振り絞った。

あゆみの身体がピクピクっと小刻みに震えると、髪の痛みがスーっと緩んだ。

 バタン

あゆみの手がマットに落ちても、裕美は、そのままの姿勢で動かない。

 ドサッ

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

しばらくして、裕美はゆっくりとあゆみの身体を離した。

 

「裕美さん、あなたの願望は果たすことができましたか?」

ふいに、リングの下から問いかけが合った。

驚いて振向く裕美の視線の先には、駅前でチラシを配っていた女性だった。

 パチーン

その女性が指を鳴らすと、BGMがやんだ。

「自己紹介が遅れました。私、マネージャーの楠本真紗美と申します」

我にかえった裕美がリング中央に視線を戻すと、あゆみの横たわった姿が

目に飛び込んできた。

「えっ、あっ、わっ、私なんてことを・・・」

裕美は慌ててあゆみに駆け寄ると、上半身を起こして渇を入れた。

「えいっ!」

「・・・・・・・・・・・・」

「あゆみちゃん、大丈夫?・・ごめん、ごめんね・・・」

「あれ、裕美?・・・私、負けちゃたんだ・・」

そこへ、佳奈と由美子が近寄ってきた。

あゆみは、助け起こそうと手を差し伸べる由美子に、つぶやいた。

「由美子さん・・・負けちゃった・・」

「さあ、あゆみちゃん・・・行きましょう!」

由美子は、あゆみを抱きかかえるようにしてリングから降ろすと、控え室ある

通路の方へと去っていった。

「裕美さん、大丈夫?」

佳奈が尋ねたとき、通路の奥の方から、あゆみの号泣が聞こえてきた。

「わ、わたし、なんてことを・・・」

「裕美さん、今回はあなたの願望が叶ったようですね」

言葉に詰まる裕美に、真紗美が言った。

「・・・でも、でも、教え子にあんなこと・・・」

「裕美さん、あゆみさんもあなたを叩きのめしたいと思っていたのですよ。

 今回は、あゆみさんの願望が叶わなかったようですけど・・」

「でも・・・」

「あゆみさんには残念だったけど、仕方のないことよ!それに・・・」

あまりの出来事に、自己嫌悪に陥る裕美に、佳奈が声をかけてきた。

そして、いつもの口調で裕美を説得し始めた。

リングの上には、いつの間にか、あのBGMが流れていた。

 

 

 

週があけて月曜日。

《キーンコーン・カーンコーン・・》

2時間目の授業終了のチャイムが鳴った。

「Please Standup!」

裕美が生徒に声をかけた。

「Goodby,Everybody!」

「Goodby,Teacher!」

 

「Teacher,Hiromi!」

教材を片付け教室から出ようとする裕美に向かって、あゆみが声をかけてきた。

「BeWhat,MissYamada?」

強張った顔で、あゆみの方を向く裕美。

教室中が、あゆみのいつもの嫌がらせを期待してニヤニヤしている。

(ここで土曜日の仕返しをでも始めようというの?)

 

「裕美先生!今朝もまた配ってましたよ!」

あゆみは、みんなの期待を裏切るかのように、日本語で話し掛けると、チラシを

手に微笑みながら近づいてきた。

受け取ったチラシには、またしても、

『あなたの願望を・・・』

しかし、よく見ると、右下に紫色の蛍光ペンで、

 

『Once again、I will fight!

 But the next is not defeatedand

 I will!!』

(また、やろうね!でも、次は負けないよ!)

 

裕美の顔から緊張がとけた。

そして、にっこり微笑みながら、あゆみに言った。

「あゆみちゃん、この前も言ったけど、こんなとこに電話したら駄目よ!」

  

                           End of Desire

 

 

 

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