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堕落

 

第5話 赤い蜘蛛

 

 

滝川京子はリングに向かいながら己のこれまでの人生を振り返った。
中学生の時イジメにあっていた滝川は、ある日意を決して反撃に出た。
無我夢中に手を振り回した、その結果、相手に全治二ヶ月の重傷を負わせてしまった。
その後、誰も滝川に近寄らなくなった。
暴力にとりつかれた滝川は高校にはロクに行かず暴走族に入り、日々喧嘩に明け暮れていた、血を見なかった日はないくらいだった。
そんな暮らしに終わりを告げたのはある手紙だった。
手紙には差出人は明記されておらず、地図が書いてあるだけであった。
不思議に思いながらも好奇心を刺激された滝川は地図に書いてあるとおりに進んだ。
そして着いたその場所がUGPWだった。
その当時警察にマークされていた滝川はUGPWのスカウトに二つ返事でOKした。
その最大の理由が堂々と暴力が振るえることだった。
万が一相手を殺してしまっても組織が処理してくれる。
UGPWは滝川にとってパラダイスだった。
性と暴力に満ちた世界で滝川は今まで生きてきた。
それはこれからも変わらないであろう。

滝川が会場に姿を現すと観客は大歓声で迎えた。
中には歓喜の涙を流す者もいた。
軽くウェーブのかかった肩までの髪、豹柄の水着をはちきらんばかりの胸、二の腕に彫られた蝶のタトゥー。
すべてが二年前と変わりなかった。

「これが・・・あの滝川・・・?」

部屋に設置されたモニターを見ながら安藤ミドリは思わず呟いた。
スーツの下にこんな肉体が隠されているとは思いもしなかった。
一流のプロレスラーであるミドリが驚く程鍛えられた体を滝川は持っていた。
リングにはすでに相沢茜が上がっていた。
赤い髪に胸元の蜘蛛のタトゥー、鍛えられた体は真紅の水着におさめられていた。
実力的にはミドリやアキ子と同じくらいだが、ラフな攻撃をうまく使いミドリやアキ子をマットに沈めた強敵だ。

「さて、どう闘うか・・・?」

ミドリはモニターを見つめる。

「ご武運を・・・」

セコンドについた秘書の都築由利が滝川に言う。
そして夜11時30分、ゴングが鳴らされた。
                          
ゴングと同時に茜のパンチのラッシュが滝川を襲う。
だが滝川は全て防いだ。
そして今度は滝川のラッシュが始まる。
茜は2、3発くらったもののダウンは免れた。

「衰えてはいないようね・・・」

茜が笑みを交えて言う。

「そっちは弱くなったんじゃない?」

滝川は挑発で返す。

「(ふんっ、そんな事言ってられるのも今のうちよ)」

茜は心の中で呟き金網の向こうにいるセコンドの山内すずにアイコンタクトする。
山内すず・・・ランキング17位、茜の喧嘩屋時代からの子分、茜の夜の相手もしている。
すずはリング内に気づかれないように小さな粒を入れる。
滝川はもちろん、滝川のセコンド都築、さらには観客の誰一人として気づく者はいなかった。
茜の勝利の影にはすずのこうした行為があった。

「ぐぅっ!」

挑発にのったフリをした茜は滝川のキックをわざとくらい倒れる。
そして転がって距離をとりつつ例の粒を拾う。
茜が立ち上がったところに再びラッシュが襲いかかる。
茜はガードをせずパンチを受けながらも滝川の背後に回りこんだ。
そして滝川の首をスリーパーで締める。

「ぐぅっ・・・」

一瞬苦しみの声をあげた滝川の口に粒を入れる茜。
滝川は粒を飲み込んでしまった。

「きっ貴様、一体何を!?」

スリーパーはすぐにはずされ滝川は茜に問う。
茜はゆっくり滝川に近づき腹をめがけてパンチを放つ。
ガードしようとする滝川。
しかし体の自由がきかなくなっていた。

「げほぉっ!!」

パンチは深々と滝川の腹に決まり、滝川は唾液を垂らしながらマットに膝をついた。

「即効性のしびれ薬だよ・・・」

滝川の髪を掴み耳元でやさしく呟く茜。

「そ・・・そんな物使ったら、どう・・・」

言いかけた滝川の顔面に膝蹴りがはいる。

「ぎゃっ・・・」

「知ってるわよ、そんなこと」

UGPWは急所への攻撃は認めているが、凶器またはそれに値する物を使用した者には厳しい制裁が下る。
それは死に値する程厳しいものだった。

「でも私が勝ってトップになれば何の問題もないわ」

茜は滝川の首を掴み立たせると滝川の背中を金網につける。

「き・・・貴様・・・」

「あんたの口から出るのは血と悲鳴だけよ」

そう言って滝川の顔面にパンチを打ち込む。

「がっ!ぐあっ!ぶっ!」

パンチがヒットする度に滝川の後頭部は金網にぶつかり、その部分をへこましていく。
茜が手を離すと滝川は鼻血を流しながら前のめりに倒れた。
すかさず茜はサソリ固めで締めあげる。

「ぐああああああああっ!!」

滝川は首すら動かすことができず顔をマットにつけたまま叫んだ。

「あははははっ!無様なもんだねぇ!滝川さんよぉ!!」

滝川の足がミシミシと音をたてる。

「すぐには楽にさせないよ!たっぷり痛めつけてから倒してあげるよっ!!」

茜の一方的な攻撃に観客がどよめく。
セコンドの都築が心配そうに金網を掴んでいた。
                          
30分以上経った今も茜の攻めは続いていた。
マットに倒れて動けない滝川の体を関節技で締めあげる。
その光景は獲物を捕らえた蜘蛛のようだった。

「お願い・・・やめて、それ以上やったら・・・滝川さんが・・・死んじゃうよぉ・・・」

セコンドの都築はしゃがみこんで泣いていた。

「ぎゃあああああああっ!!」

茜の弓矢固めが滝川を揺さぶる。
滝川の顔は血に染まり、体は汗で光っていた。
そして茜の必殺技、スパイダーネストで力任せに締め上げる。

「うがあああああああああああ!!」

しばらくして技を解き滝川を立たせる茜。
滝川の体は茜に髪を掴まれていないと倒れてしまいそうだった。
その滝川の腹に茜の渾身のパンチがめり込む。

「げぼぉおおおおおおおおおおお!!」

滝川は嘔吐して膝をついた。
滝川の顔面を蹴り仰向けに倒すと、茜はその顔の上に自分の尻を乗せた。

「んぐー!んぐー!」

もがく滝川、しかし手足はピクリとも動かない。

「あーはっはっはっはっ!!」

茜の笑いが会場に響く。
茜の尻は滝川の口と鼻をふさいでいた。
やがて茜の股間部分が濡れてきた。
茜が腰を上げると滝川は泡を吹いて白目を剥いていた。

「いやああああああああ!滝川さあああああああん!!」

シーンと静まりかえった会場に都築の叫びが響きわたる。

「すずっ!アレを出しなさい!」

茜の合図と共にすずが金網の隙間からリングに入れた物、それは極太のバイブだった。
茜は失神している滝川の水着をはぎ取る。

「いい体してるじゃない・・・」

滝川の豊満な胸が晒される。
茜の持ったバイブが滝川の股間を貫く。
そしてスイッチをONにするとブーンという音をだしながらバイブが動き出す。
滝川の体がビクッとケイレンする。

「やめてえええええええええええ!!」

都築が金網をガシャガシャいわせて訴える。
UGPWが麻薬組織であった頃から都築にとって滝川は憧れの存在だった。
格闘技の心得がない都築はその頭の回転の速さから滝川の秘書という重要なポストについた。
滝川の一番近くでその強さを見てきた都築は滝川に憧れ、滝川の為なら自らをも犠牲にする覚悟をしていた。
なのに今目の前で倒れている滝川を助けることができない自分が腹立たしかった。

「うるさいわね!」

叫ぶ都築の顔にすずのパンチが当たる。

「あがっ・・・!!」

倒れる都築にすずは容赦なく攻撃を加える。
                          
リング上では茜のバイブ攻撃が続いていた。
滝川はビクンッビクンッとケイレンしている。

「まだイカないの?しぶといわねぇ」

茜が腰を降ろした瞬間、突然滝川の足が動き茜の頬を爪先で蹴り飛ばす。

「ぎっ・・・」

もんどりうって倒れた茜は何が起こったのか理解できなかった。
おそるおそる滝川の方を見ると滝川は上体を起こしていた。
そして自分の股間につき刺さったバイブに手をかけ引き抜いた。
ズポッという音と共にバイブは抜け、リングに転がった。

「なっ・・・なんで・・・?」

「薬の効果がきれたみたいね、遊んでないで早くしとめてればここはあなたのものになってたのにね・・・」

滝川が立ち上がった。

「ふんっ!だから何だってのよ!もうあんたの力は地に墜ちたのよっ!!」

茜は立ち上がって突進していく。

「それはどうかしら?」

突進してきた茜のパンチをかわしバックにまわる滝川。
そして茜の股間に水着ごと指を突っ込む。

「あひぃっ・・・!!」

小さく叫ぶ茜の股間に刺さった指はそのままにもう片方の手を茜の腰にまわしてジャーマンスープレックスホールドのように投げる。

「あひゃあああああああああああ!!」

打ちつけられた衝撃で滝川の指は茜の真紅の水着を破り、手のひらが半分股間に埋まった。
滝川が手を茜の股間から抜くと、茜の股間は天井を向いたまま血と共に愛液を噴出した。
白目を剥いた茜の顔に愛液と血が降りかかった。
滝川は一気に形成を逆転させてしまった。

「ひっ・・・」

滝川と目が合ったすずは逃げようとするが警備についていたレスラー達によって取りおさえられた。

「リングに上げなさい」

金網が上にいき、すずがリングに上げられ滝川の前に突き出される。

「これで相沢を介抱してやりなさい」

そう言って手渡されたのは先ほどの極太のバイブだった。
すずは滝川の目に気押され言われるままにした。

「あうっ・・・うくくっ・・・」

茜が意識を取り戻してヨガリ始める。

「もっと奥まで入れなさい」

滝川はバイブをすずの手ごと蹴る。

「あぎゃああああああああああああ!!」

茜の股間にこのバイブは大きすぎた。
滝川はすずをどかしバイブをさらに奥まで蹴り入れる。

「ひぎいいいいいいいいいいいいい!!」

バイブがすっぽりと茜の股間に納まった。
そして滝川はスイッチをONにする。

「あひぃっ!ひゃふぅっ!やめてっ!お願いっ!ひゃぐ!死んじゃう!死んじゃう!」

茜は目から涙、口からはヨダレをたらしながら滝川に訴える。
だが滝川は何の反応も示さない。

「ひぃっ!ひぃっ!たっ・・・滝川・・・様・・・あぐっ・・・やめて・・・くださ・・・い・・・」

茜は再び気を失った。
滝川がバイブを抜くと愛液が大量に流れ出してきた。
すずは泣きじゃくっていた。
滝川はすずには目もくれず場外で倒れている都築の元へと行った。

「た・・・滝川さん・・・お怪我は・・・?」

「大丈夫よ・・・」

「よかった、本当によかった・・・」

都築は滝川の胸に顔を埋めて泣き出した。
滝川はやさしく都築の頭を撫でる。
観客達は滝川の勝利を大声で称えた。
                          
「強い・・・」

ミドリは呟いた。
自分だったらあそこまで追い詰められてからの逆転はまずできないだろう。
ましてや一度失神までしているのに。
滝川の強さというものを思い知らされた試合だった。
                        
UGPWの特訓場では茜とすずの二人が手足を縛られ天井から吊るされていた。
二人に下された制裁、それは人間サンドバックだった。
死なない程度に殴られ続け、手当を受ける。
そしてまた同じことの繰り返し。
決して死ぬことはないが、間違いなく正気を失う。
二人が再びリングに上がることはなかった。  
                          
「あぐっ・・・」

シャワーを浴びていた滝川の足に痛みが走る。
茜のサソリ固めで痛めたようだ。
まだ僅かにしびれも残っている。
桜井弓子との闘いまであと一週間。
滝川は弓子を倒してUGPWのレスラーにしたかった。
足の痛みは一週間で消えるとは思えなかった。
ある程度のダメージは予測していたが、しびれ薬を使ってくるとは思っていなかった。

「黒木を使うか・・・」

シャワーの湯が体をうつなかで滝川は呟いた。
弓子をUGPWの最後の刺客である黒木純子が襲ったのはそれから四日後のことだった。
                          

 

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