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堕落

 

 

第四章 ゲーム

 

 

「・・・・・・」

滝川京子は終始無言で桜井弓子VS花村薫のビデオを観ていた。
無表情で薫を攻撃する弓子。
フィニッシュはチョークスリーパーだった。
意識を失った薫を裸にして股間に手を添えたところで我に返る弓子。
そこでビデオは終わっていた。

「都築・・・現在のランキング一位は誰?」

滝川が秘書の都築由利に尋ねる。
ランキングとはUGPWが選手の試合数、勝率を計算して決めている。
このランキングは表には出ず、マッチメークの参考の為に使用されている。

「相沢茜です」

相沢茜・・・25歳、通称レッド、切れ長の目、赤い髪、そして胸元の蜘蛛のタトゥがトレードマークの元喧嘩屋。
滝川を倒しUGPWを乗っ取ることを考えている野心家。
そのラフなファイトで何人ものレスラーを血まつりにしてきた。
安藤ミドリと井沢アキ子もかって茜に敗れたことがある。

「今夜、私と相沢の試合をセッティングしなさい・・・それと黒木を呼びなさい・・・」

滝川の部屋に黒木純子が呼ばれる。

村松友恵がここに監禁されてから三週間が経とうとしていた。
16畳程の部屋でシャワー、トイレ付き、食事もちゃんと与えられている。
だが友恵は一時も安心できなかった。
監禁されているというのは当然だが、ここが地下プロレスの会場であること、毎晩のように聴こえる歓声、叫び声、そして何より自分がレスラーの格好をしているからだ。
いつ自分がリングに上げられるのかを考えただけで震えてくる。
桜井弓子にレスリングを習い体操よりも格闘技の方が楽しくなり、プロレスラーを目指す奈美と一緒にプロテストを受けようかと思うようになっていた。
だがそれは表の世界の話だ、こんな裏の世界ではない。
何度も逃げようとしたがドアには鍵がかけられていた。

「(せめて藍がいてくれたら・・・)」

恋人の藍の笑顔を思い出すだけで友恵の目から涙が出る。
                          
「薫・・・」

黒木純子はUGPWの医務室で安静にしている花村薫の所にいた。
眠っている薫の手を握る純子はイラついていた。
薫が弓子に倒されたのに何もできないということ。
そして元女子プロレス世界チャンピオンの安藤ミドリを倒したのにまるで勝った気がしないということ。
立ち上がってきたミドリの目が脳裏に焼き付いて離れず、二週間経った今でも眠れない夜がある。
そこに滝川からの呼びだしがかかる。
滝川の話を聞いた純子は笑みを浮かべる。

「(ストレス発散と同時に桜井弓子を苦しめることができるなんて・・・)」
                          
時刻が夜の10時をまわったころ、UGPWの観客席は満席になっていた。
観客の目当ては2年振りに行われる滝川の試合だった。
2年前、滝川は最強という称号を土産に組織の幹部に迎えられ以後リングに立つことはなかった。
その滝川が今夜リングに上がる、しかも相手があの相沢茜とあっては観客の興奮は止まらない。
まさに観るドラッグだった。
さらに今夜は特別な催し物があるという。
                          
「いやっ!やめて!離してっ!!」

友恵は突然部屋に入ってきた三人のレスラーに捕まった。

「連れていきなさい」

都築がそう言うと友恵は会場へと連れていかれた。
友恵がリングに放りこまれると金網が下ろされゴングが鳴らされた。

「お願い!出して!」

金網に捕まり助けを求める友恵はゴングに気づいていなかった。

「どこ向いてんのよ」

髪を後ろから掴まれ前を向かされた友恵の顔にヘッドバットが決まる。

「ぎっ・・・」

尻餅をつくように倒れる友恵は相手の顔を見た。

「あ・・・あなたは・・・」

目の前には黒木純子がいた。
純子と直接面識はないが、その大学内でも目立つ長身から友恵は純子を知っていた。

「あんたも運が悪いねぇ〜」

純子はそう言い友恵を立たせると金網に振る。
正面からぶつかる友恵の後頭部にドロップキックをする。
再び倒れる友恵をストンピングの嵐が襲う。

「ぎゃっ!がっ!ひぃっ!ぐぇっ!」

純子は今までの鬱憤を晴らすかのように友恵を痛めつけた対する友恵は完全にパニックに陥っていた。
開始から5分、友恵は早くも大流血に見舞われていた。

「(藍・・・奈美・・・コーチ・・・助けて・・・)」

天井のライトを見つめながら三人の顔を思い浮かべていた。

「(楽しかったなぁ、三人でレスリングしたりして・・・コーチに色々な技やプロレスのビデオ見せてもらったり、本当に楽しかったなぁ・・・)」

友恵の回想は純子に髪を掴まれたことで終わった。
純子に立たされた友恵は力の限り前転して純子の首に飛びつき丸め込む。
ウラカンラナは見事に決まった。
普通ならカウントが入るが、ここでは失神以外の勝利は認められない。

「ヘヘヘ・・・窮鼠、猫を噛むってやつ・・・でも・・・もうダメ・・・」

血で汚れた顔で純子に笑いかける友恵。
だがもう限界だった、友恵は前のめりに倒れる。

「・・・クソッタレ!!」

純子は吐き捨てるように呟いた。
肉体的なダメージはないが精神的なダメージは大きかったようだ。
すぐさま友恵の足をとり膝十字固めをかけ、さらにひねりも加えた。

「うわああああああああ!!」

友恵はマットに顔をつけたまま悲鳴をあげた。

「飛べないようにしてあげるよっ!!」

純子は一気に捻りあげた。

バキッ!!

「・・・あぎゃひゃあああああ!!」

一瞬の静寂の後、友恵は狂ったように泣き叫んだ。
足は折れていた。
あまりの激痛に友恵の意識は急速に薄れていった。
純子は技を解くと友恵の水着の股の部分をずらして股間に指を三本突っ込む。

「ひぃやああああ!!」

友恵の体がビクンッと跳ね上がるが足の痛みのせいで体を動かすことができない。
股間の指は出たり入ったりしている。

「はぁうっ!くひぃっ!あっ!あっ!あっ!」

しだいに恍惚の表情になっていく友恵の髪を掴んで上体を引き寄せる。
水着の肩ヒモがずれ友恵の胸がこぼれ出る。

「ほらっ!ほらっ!ほらっ!ほらぁっ!!」

純子の指の動きは激しくなり、友恵は体を反らせたまま気を失った。
上を向いた顔は血と汗と涙で汚れ、顎を伝ってマットに垂れていた。
股間からは快感だったことを表すかのように汁が流れ出てきた。





「友恵・・・?」

青田藍は友恵らしき悲鳴を聞き、ドアに走り寄る。
ドアノブに手をかけようとした瞬間、鍵がはずされ都築が入ってくる。

「どいて!友恵に会わせて!」

「心配しなくてもすぐに会えますよ。まぁ無事とは言いがたいですけどね・・・」

「じゃあ・・・今の悲鳴は!!」

「ええ、友恵さんですよ」

ニヤけながら言う都築に殴りかかる藍。
しかし護衛についていたレスラー達によって取り押さえられてしまう。

「次は藍さん、あなたに闘ってもらいます。あなたが全力を出して闘えば友恵さんは無事に返ってきますよ、でも、もし私が本気で闘っていないと判断した時は保証できませんけどね」

「そんな・・・」

藍は改めて犯罪組織の、いやUGPWの恐ろしさを感じた覚悟を決めた藍は黙って頷くしかなかった。
そして目隠しをされリングへと連れていかれた。





リングに上がり目隠しを取った藍は相手選手を見た。

「な・・・奈美・・・」

相手は藍の親友である池上奈美だった。
奈美も藍と同じ事を都築に言われリングに上がったのだが相手が藍だとは聞いていなかった。
金網が下ろされゴングが鳴る。
とまどい辺りをキョロキョロする藍。

「そんな奈美と闘えるわけないじゃない・・・」

藍の腹に奈美のボディブローがはいる。

「うごぇ・・・な・・・奈美・・・?」

「何やってんのよ!立ちなさい、立ってかかってきなさいよ!」

藍を怒鳴る奈美の目から涙が流れてくる。
藍は奈美に突っ込んでいく。

「それっ!」

突っ込んできた藍の頭を脇で挟み、DDTでマットに打ちつける奈美。
そして首四の字固めへと移る。

「あうう・・・うう・・・」

藍は奈美の膝を殴り脱出する。
事前に三人の関係を説明された観客達はそのシチュエーションに酔い、涙を流しながら互いを傷つけ合う二人の姿を見て興奮を抑えることができなかった。
奈美はレスリングの技術を、藍は体操で培ったスピードをフルに駆使して闘った。
全ては友恵を助ける為に。
藍がスリーパーをかければ奈美はドラゴンスリーパーを、奈美がドロップキックなら藍は金網を使いフライングボディプレスをという風に二人は持てる力を全て出した。

「やあああっ!」

藍がハイキックを放つが奈美はかかんでかわし藍のバックをとる。

「しまっ・・・」

そう言いかけて藍はジャーマンスープレックスでマットに叩きつけられた。

「あがっ・・・!!」

受け身をとりそこね頭をしたたかに打った藍は動けなくなった。
奈美は藍を起こして顔を見た。

「(き・・・きれい・・・)」

藍の顔や胸元は汗で光り異様な魅力を発していた。

「フィニッシュですよ」

リングサイドの都築が奈美に言う。
その時奈美の中に眠っていた気持ちが目を覚ました。
奈美は思わず藍にキスをしてしまう。

「ん・・・」

藍の柔らかい唇が奈美を迎え入れ、二人の舌が絡みつく。
奈美の手は藍の胸を揉んでいた。

「ああ・・・藍・・・好きよ・・・」

いつだったか奈美が藍の部屋を突然訪れた時、藍と友恵がベットの上で裸で重なり合っていたのを見た。
二人は奈美が隣の部屋まで来ているのにも気づかず愛し合っていた。
薄暗い明かりに照らされた藍と友恵の汗にまみれた体を見て奈美は思わず自慰をしてしまったことがあった。
我に返ると奈美は藍を金網に押し付けてその胸や股間を揉んでいた。

「はっ!はっ!はっ!はっ!なっ・・・奈美!」

藍は奈美の首に手をまわしてされるがままになっていた。

「私も・・・あっ!好き・・・よ、はうっ!全てが・・・んっ!終わった・・・あんっ!ら友・・・恵と・・・うっ!・・・三人で・・・飽きる・・・まで・・・愛・・・」

奈美の首から藍の手が離れる。
藍は奈美に抱えられたまま気を失った。

「あ・・・藍?ねぇ・・・起きてよ・・・起きてってばぁ!!」

奈美は叫んだ。

「私・・・私・・・なんてこと・・・わあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

奈美は大声で泣き叫んだ。
その叫びはリングに上がってきた純子のキックで止まった

「連れていきなさい」

都築の言葉で失神した奈美と藍の二人は医務室へと連れていかれた。
友恵はすでに医務室で治療を受けていた。
後日このふたつの試合を収めたビデオテープは弓子の元へ送られた。





「ゲームが終わったようね、さあ・・・行くわよ」

滝川がリングに向かう。

「くくく・・・滝川、かわいがってあげるわ・・・」

相沢茜は笑いながらリングへ向かった。
もうすぐ死闘のゴングが鳴らされる。                   

 

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