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堕落

 

第一話 過去

 

 

「あの二人すごく飲み込みが早いわね」

桜井弓子が隣の池上奈美に話す。
奈美は黙ってうなずく。
目の前では村松友恵と青田藍が関節技の応酬を繰り広げていた。

「あの娘達もあなたと一緒にプロレスラーになるつもりかしら?」

「そうかもしれませんね・・・ふふふ・・・」

二人は笑い出す。
                          
桜井弓子・・・27歳、元レスリング日本代表であったがオリンピック直前に大怪我をしてしまいそのままレスリングを引退。プロレス界から多くのスカウトが来たが全て断わり、母校であるここ九州女子体育大学でレスリング部のコーチをしている。
スラリとした体、はちきれんばかりの胸、艶やかな髪、そしてお嬢様のようなきれいな顔立ち。
そんな弓子がレスリングをやっていたとは誰も思えなかった。
奈美は一度だけ弓子と闘ったことがあるが手も足も出なかったという。
その弓子の指導で友恵と藍は着実に力をつけていった。
                          
「有り難うございました〜。おやすみなさ〜い。」

弓子に礼を言い三人は大学に隣接する寮に帰っていった。
時刻は11時30分を回っていた。

「さてと・・・私も帰るか・・・」

弓子はレスリングのコスチュームの上にジャージを羽織り車へとむかった。
その途中、屋内プールに明かりがついているのが見えた。

「(まだ誰か残っているのかしら?)」

弓子はそう思い、プール場へと入っていった。
中では女学生が一人優雅に泳いでいた。

「もう遅いわよ!帰りましょう!」

弓子がそう言うと女はプールから出て弓子に近づいてくるといきなり弓子の頭めがけてキックしてきた。

「なっ・・・」

弓子はとっさにガードするが突然のことでバランスを崩してしまいプールサイドに倒れる。

「なっ・・・何をするのっ!?」

「水泳部二年、林雪江・・・桜井弓子、私と勝負よ」

雪江は水泳帽をとると弓子の顔に投げつけ、足で胸を踏みつける。

「うああああ・・・」

呻く弓子の股間をもう片方の足で踏みつけ、弓子の体に乗りかかる。

「こっ・・・この闘い方は・・・」

苦しむ弓子の脳裏に一つの忘れられない事件がよぎった。
                          

あれは弓子がオリンピックに旅立つ一週間前、弓子は何者かによって誘拐され、地下プロレスのリングに立たされた。
そして自分と同年代の女と闘った。
相手の女は終始弓子の股間や胸を狙ってきた。
闘いは凄惨を極め、弓子は相手の腹に傷を負わせたが、両手を叩き折られてしまった。
そしてとうとう股間に指を入れられ大観衆の前で辱めを受け失神してしまった。
その時の闘いで相手の女も今の雪江と同じことをした。
その後弓子は解放されたがオリンピックには出られない、警察にそのことを話しても信じてもらえない、そして何よりリングに上がるとあの闘いでの恐怖が蘇る為、夢であったプロレス界をあきらめざるをえないという結果につながった。


「ほらぁっ!どうしたの!」

雪江は弓子の体から降りて挑発する。
弓子はゆっくり立ち上がるとジャージを脱ぎ、雪江になげつける。

「わっ・・・なにっ?」

視界を遮られた雪江に弓子のローキックが決まる。

「ぎゃっ!」

足に激痛が走り雪江はたまらず倒れる。
弓子は素早く雪江の背後にまわるとスリーパーで首を締める。

「がっ・・・ぐうううう・・・」

ジタバタして逃れようとする雪江だが30秒後には動きが止まった。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

弓子が技を解き立ち上がった瞬間、雪江の手が弓子の股間を鷲掴みにする。

「はぁうっ!なっ・・・なんで・・・?」

「私は息つぎしないで100メートル泳げるのよ、ちょっとやそっとじゃ落ちないわよ・・・」

弓子の股間を揉みはじめる雪江。
弓子はたまらず膝をつく。

「はぁっ・・・ううう・・・やっやめなさい・・・」

弓子はあの闘いを思い出していた。
観客が自分を見て笑い、自分の夢が崩れていくのを・・・

「(いやだ、もうあんな思いはしたくない・・・やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ)」

弓子の頭の中はこの思いで破裂しそうだった。

「ほら・・・感じてきたでしょ?」

弓子のコスチュームの股間の部分が濡れてきた。
雪江は手の動きを激しくしていく。

「いやああああああああ!!」

弓子は突如暴れだし雪江から逃れたもののプールに落ちてしまう。

「なっ何なの一体?」

雪江は驚きながらも飛び込み台へと上がった。
そして弓子が水面に顔を出した瞬間、勢いよく飛んでいき弓子にダイビングヘッドバットをくらわせる。

「ぐああっ!!」

弓子はこれをモロにくらったが、さっきまでのいやな思いは引っ込み再び闘いの場に心を戻すことができた。
もちろんダメージは大きいのだが。それは雪江も同じことだった。
雪江にとっての誤算はこの攻撃がとどめにならなかったばかりか弓子を正気に戻してしまったことだった。

「さっき、100メートルって言ったわよね?じゃあ今度は500メートルに挑戦しなさい!!」

弓子は雪江を力で水の中に押し込む。
雪江の手がバシャバシャと水面を叩く。
3分後・・・雪江の手の動きが完全に止まり、体が水面に浮いてくる。
動かない雪江をプールサイドに上げる弓子。

「この娘には聞かなきゃならないことがあるわね・・・」

なぜ弓子に襲いかかってきたのか?
それが雪江の個人的な恨みならまだいい、しかしあの事件が関係しているなら弓子にとってつらい事になる。
と、その時プールに誰か入ってきた。

「あっ・・・あなたは・・・」

弓子にとって忘れられない女がそこにいた。

「久しぶりね・・・五年ぶりかしら・・・」

弓子の両腕を折り、夢を奪った張本人、滝川京子がそこにいた。

「うっ・・・うわあああああああああああああああ!!」

弓子は泣きながら滝川に襲いかかった。
勝負は一瞬でついた。

                          
続く

 

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