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AFTER5 U

 

 

「あなたたち3人とも、ちょっとそこに座って!」

詩織、麻耶、菜摘の3人が更衣室に入ってくるなり、順子が床を指差して言った。

更衣室の中には、電算室の先輩OLが全員揃っていた。

一番先輩の優子だけがソファーに座り、あとは詩織たちを取り囲んで立っている。

「ここって、床に座るんですか?」

戸惑いながら詩織が訊いた。

「そうよ!そこに正座して!ほらっ、早く!」

小柄な由美子が促すと、3人ともしぶしぶ床に正座した。

詩織たち3人は入社同期。

2年間の支店勤務の後、春の移動で本社電算室に配置になったばかりであった。

「あなたたち、何時までも学生気分じゃ困るのよね!」

「支店では、たんなるお飾りだったか知らないけど・・・

 ここでは、きちんと仕事をしてもらわないと・・・」

「まったく、休憩時間になると、すぐ3人でどっか行っちゃうんだから!」

順子と由美子が、詩織たちに向かって、交互に批難を始めた。

優子と他の先輩OLたちは、黙ってそれを眺めていた。

 

(クスッ!なんか、体育会系みたい・・・)

詩織が、真面目そうな表情を保ったまま、心の中で笑った。

麻耶は、今にも泣き出しそうな表情で、順子たちの説教に、じっと耐えていた。

「休憩時間も、ここに居なくちゃいけないんですか?」

黙って説教に耐えていた菜摘が、とうとう我慢できずに順子にくってかかった。

「なに、生意気なこと言ってるの!」

「今日も貴方達だけ主任の指示を聞いてないから、皆が迷惑したんでしょ!」

順子たちの攻撃は、菜摘ひとりに集中し始めた。

「主任は由美子先輩に『私たちにも伝えるように』って、言ってた筈ですよね!」

「なによ!」

「悪いのは先輩たちでしょ!変な言いがかりつけないで!」

菜摘は【こんなのにつきあってられない】といった表情で、立ち上がろうとした。

「誰が立っていいって言ったのよ!」

すると順子が、菜摘を怒鳴りつけた。

 

(この人達、どうしたいんだろう?私たちを泣かしたいのかな?)

詩織は心の中で自問した。

順子たちと菜摘は、まだ、言い争っている。

(それにしても、優子先輩のやつ・・・黙って見てるだけなんて・・・)

詩織の瞳が、一瞬、キラっと光った。

「あんた、その目は何よ!」

順子はそれを見逃さず、今度は詩織を怒鳴りつけた。

麻耶は目に涙を浮かべて、事の成り行きを見守っている。

「これって、ただの新人いびりじゃない!ばっかみたい!」

菜摘が膝立ちになりながら言うと、詩織が手を伸ばして菜摘を制した。

「ナツ、待ちな!」

そして立ち上がると、順子を押しのけてソファーに座っている優子の前に立った。

優子は、黙って詩織を睨みつけている。

「さっきからなにも言わずに見てるけど、あんた、何様のつもり!」

詩織は吐き捨てるように言うと、優子の胸倉を掴んだ。

「なにするの!離しなさいよ!」

優子は、詩織の手を振り払うと、立ち上がって肩を突いた。

「あんた、先輩になにするの!」

順子は慌ててソファー近づくと、詩織の髪の毛を引っ張った。

「きゃっ、痛っ、やめてよ!」

頭を押さえて悲鳴を上げる詩織。

「なに先輩に楯突いてるの!あんた、生意気なんだよ!」

順子は、そのまま髪を引っ張って、詩織を引きずり倒した。

「あっ、いたーい!」

仰向けにひっくり返されて、悲鳴を上げる詩織。

「あっ、詩織ちゃん!あんた、なにすんのよ!」

菜摘は我慢しきれずに立ち上がると、順子の髪を引っ張った。

「あっ、きゃっ、痛っ、離してよ!」

今度は順子が、頭を押さえて悲鳴を上げた。

「てめぇ、先輩になにすんだよ!」

すると、由美子が怒鳴りながら、菜摘に飛び掛ってきた。

 ドッターン

由美子と菜摘は、そのまま床の上で取っ組み合いを始めた。

「ねえ、やめてよ!」

「二人ともやめなさいよ!」

先輩OL達が、由美子と菜摘を遠巻きにしながら、口々に言った。

「てめぇ、新人の癖に生意気なんだよ!」

「あんたこそ、たいして仕事できる訳じゃないのに・・・」

由美子と菜摘は、お互いに髪の毛を掴み、床の上をごろごろと転がっている。

 

「きゃあ!」

由美子と菜摘の闘いを、黙ってみていた順子が、突然悲鳴をあげた。

みんなが、声のほうを振り向くと、詩織が順子の髪の毛を鷲掴みにしていた。

「先輩だからって、何をしてもいいとでも思ってるの?」

「あっ、痛っ,痛っ、やめてよ!」

順子は、頭を抑えながらも、詩織から逃げようと、必死にもがいている。

すると詩織は、順子の顔をこちらに向かせ、思いっきり引っ叩いた。

「あんっ」

目に涙を浮かべて、頬を押さえる順子。

詩織は、スカートが捲くれ上がるのも気にせずに、順子のお腹に蹴りを入れた。

「あうっ」

お腹を押さえて、屈むようにして後ろに下がる順子。

「あんた、自分が何様だと思ってるの!」

 バシッ、バシッ・・

詩織のローキックが、順子の太股を何度も襲った。

「あっ、痛っ、いやっ、やめて・・・」

順子は悲鳴を上げて、詩織から逃げようとする。

詩織は、執拗に順子の太股に蹴りを入れた。

蹴られたところを両手で押さえる順子のお腹ががら空きになった。

 ボコッ

詩織の爪先蹴りが、順子の鳩尾にめり込んだ。

「あうっ・・・」

苦悶の表情で、目の焦点が合わなくなる順子。

順子は、お腹を押さえてその場でうずくまってしまった。

 

「あぁっ、きゃっ、あぁっ・・」

菜摘の悲鳴に、詩織はさっと振り返った。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 ドコッ、ドコッ、ドコッ・・

「あぁっ、きゃっ、あぁっ、きゃっ・・・」

菜摘に馬乗りになった由美子は、無我夢中で髪を掴んで頭を床に叩きつけていた。

「あ、ナツ・・このやろぉ!」

 ボコッ

詩織は、由美子の脇腹を蹴り上げた。

「がはっ」

うめき声をあげて、由美子が菜摘の上から転げ落ちた。

詩織は、脇腹を押さえて苦しんでいる由美子のお腹に何度も踵を落とした。

「がはっ、がふっ、がはっ・・・」

由美子は目に涙を溜めて、お腹を押さえながらうめき声をあげている。

「おまえもだぁ!」

詩織は、由美子の頭をサッカーボールのように思いっきり蹴った。

「ぐあっ」

由美子がぐったりと動かなくなった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

菜摘は、目からポロポロと涙をこぼしながら、荒い息で倒れたままだった。

「ナツ・・・」

菜摘に声をかけようと屈み込んだ詩織が、背後に迫る、殺気に気がついた。

詩織が振り返ると、優子が鬼のような形相で立っていた。

「あんた、自分のした事がわかってるの?」

 パシーン

詩織の顔が、大きく横を向いた。

「あんたたちが先に始めたんでしょ!」

 パシーン

今度は、優子の顔が大きく右を向いた。

「どっちが先に手を出したのよ!」

 パシーン

優子の平手が、再び詩織の頬にたたき込まれた。

「ふざけるなぁ!」

 ボコッ

詩織の握り締めた拳が、優子の頬を襲った。

「あうっ」

頬を押さえて膝をつく優子。

「このやろぉ!覚悟しろ!」

詩織は、優子のお腹めがけて爪先蹴りを入れた。

「うぐっ」

「は、離せ・・・」

優子は、お腹を襲った詩織の足を、両手でしっかりとつかまえていた。

「この娘たちの分、しっかりと償ってもらうわよ!」

倒れている順子と由美子にちらっと目をやると、優子はゆっくりと立ち上がった。

「あっ、は、離せ・・・」

右脚を掴まれたままの詩織は、バランスを崩しそうになった。

 バシッ

「あんっ」

優子の蹴りが太股に入ると、小さな悲鳴を上げて脚を押さえる詩織。

 ボコッ

優子の蹴りが、今度は詩織の下腹を襲った。

「あうっ」

詩織が倒れそうになると、優子が飛びかかってきた。

そのまま、ごろごろと床の上を転がる詩織と優子。

 

「やめなよぉ!」

「もうやめてぇ!」

周りのOLたちが口々に叫んでも、詩織と優子の闘いは終わる気配を見せない。

 

「このやろぉ!おまえなんか・・・」

 ボコッ

詩織は優子に馬乗りになると、握り締めた拳を顔面に叩きこんだ。

「あがっ・・あぁぁぁぁっ・・・」

あわてて顔を押さえた優子の手に、血がべっとりとついた。

「このやろっ、このやろっ・・・」

 ボコッ、ボコッ、ボコッ・・

両腕で顔をガードする上から、詩織は何度も優子を殴りつけた。

 

「きゃぁ、もうやめてぇ!」

「いやぁ・・・」

「やめなさいよ!」

優子の鼻から出た血が、頬を伝って床に落ちると、OL達から悲鳴があがった。 

 

詩織は、優子の髪を掴むと、頭を床に叩きつけた。

「このやろぉ、いつまでも調子にのってんじゃないよ!」

頭の痛みに耐えながら、優子は詩織の髪を掴んだ。

「痛てえなぁ・・・離せよこのやろぉ!」

優子は、詩織の髪を思いっきり引っ張った。

 ボコッ

詩織の顔が、優子の額に叩きつけられた。

「あぁぁぁぁぁぁっ・・・」

転がるように優子の上から降りると、顔を押さえてもがき苦しむ詩織。

詩織の手の間からも、血がこぼれてきた。

優子はゆっくり起きあがると、詩織に馬乗りになって、膝で詩織の肩を押さえた。

 ドコッ、ドコッ・・

優子が、詩織の頭を床に叩きつけるたびに、詩織の顔が鼻血で赤く染まっていく。

「もうやめてぇ!」

 ボコッ

摩耶は突然立ち上がると、優子の顔面に膝蹴りを入れた。

「がぁぁぁぁっ・・・」

後ろにひっくり返ると、顔を押さえ足でばたばた床を叩いて苦しむ優子。

「もういやぁ・・」

摩耶は両手で顔を覆うと、その場でペタンと座り込んで、泣き出してしまった。

 

 

3日後、廊下の掲示板に人事異動の張りだしがあった。

 

『 電算室 福岡優子  中央営業所へ

   同  矢澤詩織  退職     』

 

                               (おわり)

 

 

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