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NEW316 〈御家正風〉苗字・名頭・国尽 (みょうじ・ながしら・くにづくし)
【作者】石川仰山書。【年代】文久二年(一八六二)書・刊。[江戸]大橋堂弥七板。【分類】語彙科。【概要】半紙本一冊。「苗字」「名頭」「国尽」の三つを合綴した往来物。「苗字」は「松平、保科、前田、嶋津、伊達、田村、細川、黒田、浅野、毛利…」から「…建部、山口、北条、青木、谷、新庄、一柳、柳生、遠藤、田沼、松前」までの苗字一一七種を行書・大字・三行・無訓で掲げ、頭書に再録した楷書本文に読みを付す。「名頭字」は「源・平・藤・橘…」から「右衛門・左衛門・太郎・次郎・様・殿」までの名前に用いる漢字一二六字(語)を同様に列記する。また「諸国(国尽)」も同形式で五畿七道毎の国名を掲げ、末尾に「君が代のひさしかるべきためしには かねてぞうへしすみよしの松」の一首と和漢能書の筆道格言などの「書則」を載せる。
類書が多いが、少し変わった構成のため、新種と見なして紹介した。



NEW317 父母状講釈 (ふぼじょうこうしゃく)
【作者】加藤重昌注・序。【年代】元文二年(一七三七)作・序。天保四年(一八三三)書。【分類】教訓科。【概要】異称『御遺訓衍義』。半紙本一冊。紀州藩初代・徳川頼宜(南竜大君)が万治三年(一六六〇)に著した『父母状』†の注釈書で、加納大隅守政直家に伝わる『父母状』の伝本に、加藤氏門人の沢辺九郎右衛門重矩(しげのり)の求めにより施注したもの。本文を小字・七行・所々付訓で記す。「父母に孝行に法度を守り、謙り、奢らずして面々の家職を勤め、正直を本とする事、誰も存たる事なれども、弥(いよいよ)能相心得候様、常に無油断、下へ教可申聞者也」という『父母状』の全文を冒頭に掲げてその由来に触れ、続いて、同本文を八段に区切って詳細な注を施す。例えば冒頭の「父母に孝行」の説明だけで約七丁を費やすように、一言一句の内容を丁寧かつ平易に敷衍するのが特徴。
★「父母状」は紀州地方の往来物で、所蔵が少ないが、本書はその注釈書で、さらに貴重な資料である。



NEW318 〈士農工商〉童子要字海絵抄 (どうじようじかいえしょう)
【作者】不明。【年代】江戸中期(安永頃)刊。[大阪]糸屋市兵衛ほか板。【分類】語彙科。【概要】半紙本一冊。職業別に日用語を集めた@「農家用文字尽(のうかようぶんじづくし)」(柱「士農」)とA「商家文字(もんじ)尽」(柱「工商」)、また、手紙用の日常語を集めたB「書札要字集」(柱「要字」)からなる語彙科往来。@は、地之部、人倫之部、諸道具之部、雑之部、米穀・菜瓜(さいか)之部の六部に分け、語彙を半丁に七行・付訓(稀に左訓)で掲げ、適宜割注を施す(特に「地之部」は語彙のほとんどに割注を付す)。本文の途中に挿絵数葉を施すほか、頭書に「武用文字尽」や挿絵、冒頭に「仁徳天皇御製」「神武天皇故事(武用の起源)」、末尾に「破軍星」の記事を載せる。Aは見出しのない商家用語、衣服・織物・染色、食物之字尽、魚・鳥・貝・虫尽、草木字尽の五部毎に掲げる(七行・付訓(稀に左訓)で、少ないが一部割注も施す)。頭書には「諸職用字尽」と挿絵、冒頭に「鍛冶・番匠」「商いの起源」、末尾に「間尺之図」と関連記事を掲げる。B書簡用語集で、ほぼ手紙の書き出しから結語までの流れに沿って要語・要句を八行・付訓で掲げ、稀に左訓や割注を施す。本文中に挿絵数葉を掲げ、頭書に、一文中に謡の番組名を多数織り込んだ「謡番組文章」と挿絵、冒頭に「王仁来朝」「天武天皇」「仮名の由来(弘法大師故事)」、末尾に「文字来源」「五音口中開合」の記事を掲げる。なお@〜Bは、同時期の他の往来物にも随時合綴されたらしく、例えばBは糸屋市兵衛板『用文章手形鑑』†の巻頭に収録されている。【影印・翻刻】『江戸時代庶民文庫』一三巻(二〇一三、大空社)。
★字尽型往来物の新種。その一部が他の往来物の前付等に流用されている。同じ板木で色々流用して販売した書肆の様子が分かる。



NEW319 洋算訓蒙図会(初編)(ようざんくんもうずえ)
【作者】橋爪貫一(松園)作・序。【年代】明治四年(一八七一)序・刊。[東京]近江屋岩次郎(誠之堂)板。【分類】理数科。【概要】異称『洋算訓蒙図絵』『洋算訓蒙図解』『洋算訓蒙』。半紙本一冊。頭書に挿絵や略注を施し、平易な俗語で綴った洋算指南書。巻頭「凡例」で四則計算の符号や九九合数表読法、あるいは数符(漢数字・アラビア数字・ローマ数字)や「商売ノ記号(通貨および西洋度量衡)」を示したうえで、「加法(寄算)」「減法(引算)」「乗法(掛算)」「除法(割算)」の順に初歩的な計算問題を掲げて解答と筆算の方法を説明する。本文の所々に頭書欄を設けて、設問に関する諸知識を盛り込むほか、解説文中でも西洋の時法・暦法など周辺知識に言及する。本文を小字・一〇行・付訓(所々左訓)で記す。
★明治初年の往来物・教科書類は西洋文化との折衷や導入など、海外文化との違いが色濃く見られ、面白い。



NEW320 〈委細用文〉書札字尽大全 (しょさつじづくしたいぜん)
【作者】中村三近子作。【年代】享保(一七一六〜三六)頃刊。刊行者不明。【分類】消息科。【概要】異称『』。半紙本四巻四冊。作者と冊数は『享保書籍目録』等によるが、現存本は二〜四巻のみ。消息例文も多く載せるが、消息用語や書札礼に関する記事の比重が高く、書翰用語・用例集と言うべき往来物。第二巻は諸用件の手紙に用いる数行程度の短文を数多く列挙し、頭書に本文要語の類語や語注・挿絵を掲げる。第二巻後半部は「借屋請状之事」「年切奉公人請状」「預り申銀子之事」「永代売渡申家屋敷の事」「売渡し申田地之事」「養子一札」「子里ニ預り申一札」「売上一札」の証文八通を掲げ、頭書に要語解と挿絵を載せる。第三巻は「書札上中下之書分」で書簡用語における尊卑上下と書札礼、また、「四季之異名」「月之異名」「十干十二支」「分毫字(点画のわずかの違いで音訓が異なる漢字)」「諸官位名」および各種日用語(乾坤門・器財門・草木門・衣食門・人倫門・支体門)を収録する。第四巻は「名所門」「日本国尽」「名字門」「人之名頭字(五性相生之文字)」「〈男女〉法躰名之文字」「家名門」「名乗字」など人名・地名とその関連知識を載せる。
★往来物を数多く編んだ中村三近子の作品。これまで全く知られていなかったもの。残念ながら第1巻を欠くが、おおよその内容は分かる。このように埋もれた往来物もまだまだ沢山ある。