NEW311〜315  → 次頁へ目次へ


NEW311 書翰諺解 (しょかんげんかい)
【作者】不明。【年代】延宝八年(一六八〇)刊。[京都]文台屋次郎兵衛ほか板。【分類】消息科。【概要】異称『尺牘諺解』。半紙本三巻三冊。尺牘(漢文体の手紙)の書式・作法や書翰用語の解説書(準往来物)。上巻はまず尺牘書翰の基本的な形式や作法を記した「書式」を掲げ、封筒式等の図解を載せ、さらに、尺牘体を構成する要素を一八に分けてまず旧来からの書式である「奉書旧式十八体(具体・称呼・間闊・胆仰・即日・時令・伏惟・頌徳・神相・起居・欣喜・自叙・少稟・入事・臨書・保重・祈亮・結尾)」について、適宜、用語の解説を交えて記載例や類語・類句、待遇表現(多く「尊長用」と「平交用」の二様で示すが内容により「官員用」「武官用」「師儒用」「隠者用」などに分けて記載)等の作法などを詳述する(十八体のうち「時令」では時候の表現や月の異名などを多く列挙)。中巻は「奉書旧式十八体」の「神相」以下を収め、続いて、その返状である「答書式十七体」について同様の解説を施し、さらに添え状の「副啓式」と「単帖」の書式と例文を掲げる。下巻では招待状の「請召式」、贈答状の「餽送式」の書式について図解を掲げたり、類語や多様な例文を示したりしながら説明する。本文を楷書・小字・一〇行・稀に付訓で記す。
★このような漢文尺牘体の例文集も広義の用文章と見なしてよいだろう。『書翰初学抄』が最も有名だが、類書が江戸前期を中心に数種類あり、江戸後期に編まれたものもある。



NEW312 万国旗章図譜 (ばんこくきしょうずふ)
【作者】鱸重時(鈴木金谷・奉卿・露川・半次郎・半兵衛)作・序。藤森弘庵(大雅・淳風・天山・菁阿堂主人・如不及斎・恭助)序。森庸軒(尚蔚・豹卿・太郎右衛門・豹蔵・静観廬)跋。【年代】嘉永四年(一八五一)作・凡例。嘉永五年序・跋・刊。[江戸]門倉臨江堂蔵板。山城屋佐兵衛ほか売出。【分類】地理科。【概要】半紙本一冊。幕末において諸外国の地誌についてはかなり把握できてきたものの国旗についての情報が不備なことから、世上に流布する諸本を校合して諸外国の国旗を色刷りで掲げ(半丁に最大八図)、解説を施した図譜。清・韃靼(ダッタン)・蒙古・暹羅(シャム)・琵牛(ペギュー)・満刺甸(マラツテン)・毘尓満(ビルマン)・瓜哇(ジャワ)など東アジア・東南アジアから、米利堅(アメリカ)(南米・北米諸国)まで二四カ国(見出数)二九一種の国旗類を紹介する。例えば、和蘭(オランダ)国旗では、正式な国旗を始め小旗、州旗、七州一致旗、東西印度通商旗、船手会館旗など三五種に及ぶように、船舶等に掲揚される種々の旗章を網羅的に集める。
★幕末にはこのような国旗の図柄を集めた色刷りの教科書類が種々刊行されている。



NEW313 〈編輯葦原豊吉〉神国道しるべ (しんこくみちしるべ)
【作者】葦原豊吉編。【年代】明治一六年(一八八三)刊。[徳島県富田浦町]葦原豊吉蔵板。【分類】教訓科。【概要】半紙本一冊。和讃風の七五調美文体で神国の教えを説いた神道入門書。刷表紙とも一四丁の小冊子。巻頭に「我親をおやとも知らぬかたわ子を 猶かわゐさに守る親神」「大道を道とも知らずふみ迷ひ 魔によはぬやふ魔によはぬよふ」の道歌二首や「三条御教憲(敬神愛国ノ旨ヲ体スベキ事、天理人道ヲ明ラカニスベキ事、皇上ヲ奉戴シ朝旨ヲ遵守セシムベキ事)」などを掲げ、続いて「夫神国と生れては、万国諸州と事替り、万代不朽の我国の、神の教の元をしれ、教は国々かわるとも、何れの教も尊とけれ、人の性質国風に、合して立たる道なれば、ことなる教も道理なり、異なる教はくにの、人の気質に寄なれば、是非を論ずる事もなし…」で始まる文章で、日本神道の由来や神の心、日本に生まれた恩、神を敬うこと、忠孝・夫婦和合が神の道であり天地の道であること、正直・正路の心、「人」や「仁」の意味、人間が一個の小天地であること、円満な心と知足安分、学問の目的、幼児の動作(つむりてんてん・てうち等)と神の教え、太陽の根元である「あ」音、神の御恩を知り神を敬うべきことなどを諭す。本文を小字・一一行・所々付訓で記す。また巻末「道歌の部」に「玉みがけこゝろの清き水晶に 日の移るこそ尊かりけり」などの道歌一七首を掲げる。
★仏教教訓書によく用いられる和讃風に綴った点が面白い。和讃形式の文章は江戸時代に膨大な量が編まれ、日本人に親しまれたものである。往来物では『孝行和讃』が最も有名である。



NEW314 静岡町名尽・静岡近郷村名 (しずおかちょうめいづくし・しずおかきんごうそんめい)
【作者】浦野鋭翁作。【年代】明治八年(一八七五)刊。[静岡]晩翠閣板。【分類】地理科。【概要】異称『〈静岡町名・近郷村名〉都久し』。半紙本一冊。「静岡町名尽」と「静岡近郷村名」を合綴したもので、主に静岡県第一五番中学区内を中心に町内および周囲の地名・小学校名等を列挙した往来物。凡例によれば本書で言う「近郷」は「静岡城ヨリ三里内外」を意味し、基本的にその地域の地名を対象とする。まず「静岡町名尽」は、「市中繁昌駿河城、さて城内の小学は、第一番の教勧舎、文化も追々開けきて、市中所々にも設けたり。まづ城の追手の門前は追手町、こゝに県庁を建置る、そのかたはらに進修舎、二十五番の小学なり。しかも名高き高札の、札の辻より七間町、三丁ありて藤右衛門町、また東西の町々は呉服町、六丁にて両替町も同じこと…」で始まる七五調の文章で綴り、若干の形容句を伴って地名等を紹介する。続く「静岡近郷村名」は「仁者静の静岡城、これより東は清水山、やまに傍(そび)たる大道は、東海道の道筋にて、蜘蛛手につゞく村々は、柚木(ゆのき)小黒や曲金、聖一色に池田村、小鹿に設けし小学は、二十番にて小鹿村庠(しょうろくそんしょう)…」と起筆する七五調の美文で、小学校名その他の地名を列挙する。本文を小字・六行・付訓で記す。
作者の浦野氏は明治初年に静岡板の往来物を多く執筆している。



NEW315 初学入門 (しょがくにゅうもん)
【作者】森立之作・序。飯島光峨画。【年代】明治六年(一八七三)序・刊。[東京]三家村佐平(弘文堂)板。【分類】教訓科。【概要】半紙本一冊。「童蒙(わらんべ)の初学(ういまなび)より心魂(こころね)を悪(あしき)に入らず善道(よきみち)に出よと手を携(とり)て案内」するために、父子篇(一〇章)・君臣篇(三章)・夫婦篇(三章)・長幼序(一章)・朋友篇(一章)の五篇に分けて人倫を諭した教訓書。父子篇では親の大恩に報いる孝道を心懸けること、孝養の趣旨(父母の口腹とともに父母の志を養う)、誠に基づく育児(親の心得)、愛と敬による教育、先入主の教育、幼少よりの好みを選ぶこと、高慢の心を去ること、嘘偽りを戒めること、友を選ぶこと、礼と仁義を重視し書法・算術を教えるべきことなどを説く。君臣篇では臣民としての家業出精、国家への報恩、余力学問と学業兼備を、また夫婦篇では夫婦の大倫、斉家の基本としての夫婦和合、離縁や不義の戒めを説く。そのほか、長幼序や朋友における心得などを平易に諭す。本文を大字・五行・付訓(所々左訓)で記し、所々に挿絵を掲げる。
★似たような教科書があるが、内容が異なることが多いので、書名だけでは鵜呑みにできない。本書もそんな同名異本の教科書類である。