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NEW281 青葉山之由来 (あおばやまのゆらい)
【作者】不明。【年代】江戸前期作。宝永五年(一七〇八)書。【分類】地理科。【概要】大本一冊。異称『青葉山の由来』『青葉山由来』。大本一冊。「往昔、用明天皇之御時、始而築此城…」と筆を起こし、用明天皇の時代から慶長五年(一六〇〇)に伊達政宗がこの地を本拠とし、さらに翌年に築城を開始し寛永一六年(一六三九)に二の丸が完成して二代・忠宗が移り住んだ経緯など、青葉城の由来や繁栄ぶりを記した往来。寛永一六年より慶安三年(一六五〇)に至る約一〇年間の作と推測される。『仙台状』の類本中最も流布したもので、宝永三年系統(『仙台状』†)と宝永五年系統(『青葉山之由来』)の二つがあるが、後者は室町後期作『富山之記』†の影響が見られ、より原型に近いと考えられる。内容は、「青葉山の由来」「城内・城下の様子」「伊達政宗の御諚、御台の計らいによる酒宴遊興のありさま」「奉行所の評定」の四段と結尾の言葉から構成される。宝永五年写本は本文を大字・五行・無訓で記す。
★本往来は従来から知られた往来であるが、今回、類書中の最古本を入手したため、系統の記述を改める必要があり、『往来物解題辞典』の記述を上記のように訂正しておく。



NEW282 新今川状 (しんいまがわじょう)
【作者】不明。【年代】宝永(一七〇四〜一一)頃刊。[仙台]本屋治右衛門板。【分類】教訓科。【概要】異称『今時登山児童手習制詞条々』。大本一冊。江戸中期刊『〈新撰首書〉新今川状絵抄』†や享和三年(一八〇三)刊『手習今川制詞条』†の先駆と考えられる往来物。『今川状』†を模した手習い教訓で、「一、不達文筆而諸道終不得自由事」の一条から始まる全二三カ条と後文から成る。討論・相撲や無益な遊興を好まず、無礼な着席をせず、年少者いじめをせず、紙・机・文庫を粗末にせず、師匠の場所を乱したり汚したりせず、師匠の恩を忘れず、学問や師命を軽視しないなど、寺子の稽古や生活態度に関する禁止条項を列挙する。また後文には、幼少の時に正しい筆法を身に着けることの大切さや、筆道修練に励むべきことなどを諭す。本文をやや小字・七行・無訓で記す。なお本往来は、享保七年(一七二二)に始まる京都板の合本科往来『童訓往来(仮称)』†の頭書にも収録されている。
★本書と同内容の往来物は数種見つかっているが、書名も種々ある。


NEW283 農民童子百姓往来 (のうみんどうじひゃくしょうおうらい)
【作者】不明。【年代】江戸後期書。【分類】産業科。【概要】異称『百姓往来』『農民教訓書』。特大本一冊。農家の童子が守るべき人倫や心掛けを記した往来。流布本の『百性往来』†(禿箒子作)とは全くの異文。まず「雖民者軽、御百姓者国家之根本ニ而、御上之宝者土地・人民と云。従殿様御撫育専思召被為下、昼夜御国恩之難有事、夢々不忘可。第一、父母ニ尽孝心、増而老人者他人たり共念懇ニ敬…」と筆を起こして、孝行・和順、百姓にとって春と朝の勤めが肝要なこと、勤勉・正直に努めれば天の加護が頂けること、倹約・分限を守るべきこと、農家児童といえども相応の手習いが必要なこと、年貢や信仰の心得などを説いた後、「…御公儀江不奉懸御苦労、第一身詰働申候得者、神仏之誓二茂相叶、富貴繁昌可致者也。仍而、農民教訓書如件」と結ぶ。本文を大字・五行・無訓で記す。なお、後半部に「今川状」を収録する。
★『百姓往来』の異種も数多く、未知のものが時々見つかる。



NEW284 〈長雄〉増補婚姻女国尽 (ぞうほこんいんおんなくにづくし)
【作者】岩岡耕渕(慶山・信景)書。江沢耕営(玉川)跋。【年代】享和二年(一八〇二)跋。享和三年書・刊。[江戸]板。【分類】地理科。【概要】大本一冊。岩岡耕渕が門人の江沢耕営に書き与えた書道手本を上梓した陰刻手本。耕営の熱望によって上梓の運びとなり、その経緯を当時一四歳だった耕営が跋文に記した。滝沢馬琴作、寛政一二年(一八〇〇)刊『〈幼婦筆学〉国尽女文章』†の改編版の一種で、婚礼祝儀状に見立てた文章で諸国の国名と婚礼関連の贈答品の名称を列記した往来。「増補」と称するように、寛政板と比べると随所に文言の増補や改変が行われている。「御姫様御儀、此たび山城守様御媒にて、大和守様え御縁組相整、御日柄能御結納進ぜられ御互に御めで度様上まいらせ候。だん御道具も揃ひ候御事、先、御幕箱、御弓・蟇目、御鈴守、御挟箱、御長刀は河内守様、御厨子・黒棚・簇(しいし)箱は和泉守様…」で始まり、「…薩摩守様、壱岐守様、対馬守様とは近き御続様のよし、御化粧料等進ぜられ候て、幾久しく万々年も御長久御繁昌あそばし候御事にて御座候。千秋万歳めでたくかしく」と結ぶ文章を大字・四行・所々付訓で記す。
★『女国尽』の異本。本書のように、筆者によって少しずつアレンジされ変わっていく往来物は決して少なくない。



NEW285 青陽帖 (せいようじょう)
【作者】橘峻江(成正・仲貞・目仲鼎・画竜斎)書・序。松原屈求信序。【年代】文化四年(一八〇七)序・刊。[上州藤岡]福原吉右衛門(鶴鳴堂)蔵板。[江戸]丸屋文右衛門売出。【分類】消息科。【概要】特大本一冊。もともと筆者が近隣の童子のために書き与えた「五節句往来」の書道手本を書肆の求めに応じて刊行した陰刻手本。「青陽之御吉慶千祥万悦猶更不可有際限候…」で始まる新年挨拶状を始め、三月節句状、五月節句遣状、七夕節句状、重陽節句状までの五節句祝儀の往復文一〇通と漢詩・和歌各一編を収録する。本文を大字・三行・無訓で記す。上州藤岡で出版された数少ない往来物の一つ。
★上州藤岡板の往来物は、恐らく初めて見たものと思う。田舎板として貴重である。