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NEW276 百姓掟 (ひゃくしょうおきて)
【作者】田辺某書。【年代】嘉永二年(一八四九)書。【分類】産業科。【概要】半紙本一冊。遠州恒武村(現・浜松市)で使用された手習本で、百姓の心得を略述したもの。「百姓に生れたるも天命、貧福も天命なりとおとし付なば、悔も頑もなかるべし…」と筆を起こして、まず、百姓の身分では諸礼・諸芸は無知でも恥にならないが、百姓も天子同様の明徳を備えているため不仁・不義こそが恥となること、また、当代の奢りの世相を反映して百姓でも諸芸を習いたがり、家業が疎かになって種々の不都合が生じがちなため、早く「奢りの病」を見付けて五常・倹約を仕込むべきこと、町人や富貴を羨んだり、分不相応の遊芸に耽るべきでないことなどを説く。本文を大字・四行・稀に付訓で記す。
★虫損が多くて一部判読不可能だが、明らかに新発見の農業教訓書。百姓に生まれた天命を全うせよと種々諭す。



NEW277 農業横座案内 (のうぎょうよこざあんない)
【作者】船津徳次郎書(文政七年(一八二四)写本)。【年代】安永六年(一七七七)作。文政六年書。【分類】産業科。【概要】異称『農業書横座案内』。大本一冊。筑前地方で成立した村役人子弟向けの家訓的農書で、手習本としても使用された。序文は「我等愚蒙ながら今の世を考見るに、天下泰平にして上の御政道正しく、農工商の輩まで豊に身を養ふ。就中、農家の身分は難有時節に相成候」と幕府の仁政を尊ぶ一文から始まり、この恵みに報いるためにも正直・勤勉に農業に励むとともに、幼時より耕作の道を教えるべき親の義務と子供の務めに触れ、人間一生の三つの勤め(若年時は親の仰せに従う、家督相続後は財産を維持する、隠居後は一家の無事や子孫長久を祈る)を説く。続く本文で、一月から一二月までの月毎の農耕の要点を述べ、後文では雨天・公役・病人等の場合の雇用や日常生活必需品の確保など、家長および名主としての心得を十数カ条にわたって記す。作者不明だが、末尾の「散人弘氏」の識語に「此一巻は祖父様二代農業之道数年御例被成無相違所記おかるゝもの也。加之、序文・奥書追加等は後世永久に身柄勤方之儀、委細ニ被仰置条々誠に万代不易の金言…」と、先祖の書き残した農書に加筆した旨を記す。文政七年写本は本文を大字・六〜七行・無訓で記し、随所に細字の注記を施す。また、嘉永七年写本は大字・四行・無訓の純然たる手習本で、学習開始日と思われる日付の記載もある。
★「日本農書全集」三一巻に翻刻されているように、従来から農書の位置づけで紹介されてきたものだが、今回、2冊入手したうちの1冊(写真右および中央)は明らかに手習本として書かれており、往来物の性格も有していたことが判明した。


NEW278 〈和漢〉筆道指南大成 ひつどうしなんたいせい
【作者】浪花隠士某編。【年代】安永二年(一七七三)刊。[大阪]和泉屋卯兵衛板。【分類】教訓科。【概要】異称『和漢筆道手習指南』。大本三巻合一冊。元禄一二年(一六九九)刊『〈手習指南〉和漢字府諺解』†の改題本の一つ。直接的には元禄一二年の刊記および序文を存した江戸中期改題本『〈新板〉和漢字府諺解〈手習指南〉』から序文を割愛して刊記を改刻したもので、他は全く同一である。
★従来からその存在は知られていたが、原本を初めて確認できた。とはいえ、表紙や刊記以外は元禄板同様で、目新しい点は皆無である。



NEW279 歴代略歌 (れきだいりゃくか/れきだいりゃっか)
【作者】竹内貞(東仙)作。諏方健亨跋。【年代】明治五年(一八七二)跋・書。【分類】歴史科。【概要】異称大本一冊。「上古ユ矣、時属鴻荒、功蹟神異、難得而詳、神武明達、始議東征、掃蕩妖邪、其業丕張…」で始まる漢字四字一句、合計二五〇句一〇〇〇字で、神代から大政奉還、明治維新までの歴史を綴った往来。特にどの時代にも深入りせずに、歴代天皇毎の統治上の特色や主要事件などを記述し、時に文化面にも触れ、最後を「…我日出処、位震体乾、首出万国、一君二民、俗尚忠孝、世重彝倫、嗚呼小子、歳不我延、夙夜弗懈、稽古師賢、立身報国、尚其勉旃」と結ぶ。本文を大字・四行・無訓で記し、所々に細注を施す。
★史詩型の往来の一種だが、これも埋もれているものが多数ありそうである。



NEW280 田夫耕作状 (でんぷこうさくじょう)
【作者】高橋千太良作・書。【年代】安永四年(一七七五)書。【分類】産業科。【概要】特大本一冊。正月から年貢納米までの月々の農事耕作や関連の年中行事に沿って農業関連の語彙を列挙した往来。「夫、耕作之業者、昼夜不可有油断。先、青陽之春始十一日之早旦権輿雪上之糞負祝粉取餅、望正月者為当国之風俗再門松、如元朝之規式…」と起筆して、農家正月の行事(十六夜の祝言田植え歌、二十日の幣打等)や彼岸・弥生頃の農作業、五月女の田植え、夏場の田畑の管理や種蒔きの時期、穀物の種類、収穫と納米の手順などを述べる。本文を大字・五行・無訓で記す。
★作者の直筆本と思われる。時代とともに文字を書く農民は珍しくなくなり、このような往来物を子孫に残したケースが無数に出てくる。『農業往来』や『百姓往来』などの流布本もあったが、農耕の具体的な内容については自作の方が圧倒的に使いやすかったはずである。文字を獲得した農民は独自の往来を次々に著していった様子を垣間見ることができる。