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NEW226 黎民百姓御訴訟状 (れいみんひゃくしょうごそしょうじょう)
【作者】勅使河原某作。【年代】寛文〜延宝(一六六一〜一六八〇)頃書。【分類】歴史科。【概要】大本一冊。文禄五年(一五九六)二月に百姓から郡奉行宛に出された訴状を手習本としたもの。末尾には「御披露、武蔵国小机之内、都筑郡大棚之郷之住人、作者勅使河原記□」とある。本文は「謹而奉拝上。夫、天地之御代、天下之国郡令分記給時、四海トモ一反歩三百六十歩被相定候…」と起筆して、太閤検地以後の年貢負担の増加による農民の惨状を伝え、農民の生活の窮乏を救う役所の慈悲を求めたもの。本文を大字・六行・無訓で記す。本往来は信州上田領内小井田村で使用されたもので、本訴状に続けて、延宝四年(一六七六)の書き入れがある「義経之含状」、寛文九年(一六六九)書「童子教」、寛文四年書「手習学文教訓之状」、「暮戦之状」(建久四年五月)、「弁慶状」、「熊谷送状」「経盛返状」を合綴しており、本訴状が江戸前期より往来物として使用されていたことを明快に示しており、訴状型往来の先駆としても極めて重要である。
★『白岩状(白岩目安)』を始めとする訴状型の往来もこの時代延宝頃までに読み書き教材として使われるようになっていたと考えられるが、本書の題材は江戸時代以前の訴状である点で他に例がないものである。



NEW227 町家往来 (ちょうかおうらい)
【作者】重光作?(さくがく)書。【年代】文久元年(一八六一)書。【分類】産業科。【概要】特大本一冊。勢陽晁川浜西、高松郡在住の渡辺春が使用した手習本『文学鏡』中に所収。「夫、工商之輩者、国家の庸用也。先、第一家業大切相専、人品柔和、廉直而、不奢質朴而、不貪、高利常不忘、算盤分厘毛払、利徳、又者考時之相場高下、本正路而…」と起筆して、先ず商人の基本的な心得を述べ、続いて、職人の心得として、家業を油断無く勤め、幼時より師匠や父母の言いつけを守って読み書き・算盤に精を出し、悪友とは付き合わず、和歌・誹諧・茶の湯・立花などの芸能は家業の暇に多少嗜む程度にし、それ以外の無益な芸道には手を出さないなどと述べ、最後に、工商の輩は朝から晩まで家業に励めば天道の正理に叶い、神明の加護も得られ、子孫繁栄につながると諭す。本文を大字・四行・無訓で記す。なお『文学鏡』には本往来のほか、「初登山手習教訓書」「商売往来」「隅田川往来」「消息文」などを合綴する。
★女性が使用した2冊の手習本の1冊。漢詩もあれば、このような往来物も数種含まれ、比較的多くの教材を学んでいる。



NEW228 筆徳往来 (ひっとくおうらい)
【作者】辻信番書。【年代】明和五年(一七六八)書。【分類】教訓科。【概要】大本一冊。書筆の重要性を説いた往来物。「凡、一切の道に躰用あり。先、士農工商の四職、人間之躰也。琴碁書画は其用なり。就中、琴碁画のみつは中人以上の翫びにして更に下部の用ゆべきにあらず…」と筆を起こして、琴碁書画のうち書のみが庶民にも不可欠な芸であることを述べ、文字や筆の発明と日本への伝来のいきさつ、さらに、禁裏の政道も武家の法式等が先年も伝わり、詩歌が後代まで残ってその名が広まり、遠方や海陸を隔てて直談が不可能でも書札で意思疎通ができるのも皆文字の徳であり、幼少より文字を学ぶ事が大切であると説いて結ぶ。本文を大字・五行・無訓で記す。『要筆伝〈付リ〉筆徳往来〈并ニ〉仮名づかひ』と題した写本中に所収。

★筆道教訓形の往来に位置づけられるが、これまで聞いたことのない往来物だった。



NEW229 信濃地理歌 (しなのちりうた)
【作者】宇治橋正則書か。【年代】明治後期書か。【分類】地理科。【概要】異称『信濃地理伊呂波歌』。半紙本一冊。匡郭のみを木版刷りにした上伊那高等小学校の「生徒手帳用紙」にペン書きと毛筆の両方で認められた教材で、信濃国の地理や信州各地の物産などをイロハ歌に読んだもの。「(い)位置は本土の中部にて、広さ高さは日本一」「(ろ)六里に及ぶ和田峠、小川路番場これにつぐ」「(は)原は御牧に中の原、野辺山六道鉢伏よ」「(に)二十二万の家数よ、百十万の人の数」など四七首を収録する。本文をやや小字・九行・無訓で記す。内容から明らかに明治後期以後の作で、稚拙な筆跡のため、表紙に書かれた旧蔵者(宇治橋氏)自身が書いたものであろう。
★毛筆とペンの両方で書かれており、筆記具が過渡期の時代の教材という点でも面白い。



NEW230 〈文通自在〉書状大全 (しょじょうたいぜん)
【作者】不明。【年代】嘉永七年(一八五四)刊。[山形]北条忠兵衛板。【分類】消息科。【概要】横本一冊。四季・祝儀の二部に分けて消息例文を集録した用文章。四季之部は「年頭披露文」から「歳暮祝儀文・同返事」までの二四通、祝儀之部は「縁談聞合之文」から「振舞に逢し礼文」までの三〇通で、合計五四通を収録する。本文を大字・六行・概ね付訓で記す。
★山形板の横本の用文章。題簽の大きさなども独特である。