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NEW201 〈河村貞山著〉地学窮理往来 (ちがくきゅうりおうらい)
河村貞山(政明・与一)作。川瀬白巌(益)書。明治7年(1874)6月刊。[京都]杉本甚助、佐々木惣四郎板。理数科。半紙本1冊。
 「造花の精巧、絶妙不可思議、浅智をもつて測るべからず。言舌をもて論ずべからず。先、此世界の形状は、団欒宛(だんらんあたか)も毬のごとく、南北の極(はて)●(扁+匚、ひら)みあれば、橙実(だいだい)にも類すべし」と筆を起こして、地球の形状や赤道・経緯度・子午線、両極、気候、太陽・月の形状、天然の七色、惑星の特徴や運行、気候や自然現象などの気象、陸海の地形、人種・風俗・生活、主要列国の概要にも触れる。本文を大字・6行・付訓で記す。また、巻頭に銅版刷りの「天球儀之図」「星学(=天文学)教導之図」「惑星繞大陽図」を掲げ、頭書には本文と対応した「地球赤道大圏ノ図」「緯度・経度図」「地球五帯図」等の挿絵や説明を付すが、挿絵の一部は銅版刷りの貼付になっている。また、頭書後半部の「日用調法記」では、ビードロ鏡、玳i、麦酒の製法や、傷病の応急処置など雑多な新知識を紹介し、さらに、世界の七不思議に関する記事や、主要国の面積・人口・首都を列記した「列国表」も載せる。
★美本・稀書のため比較的高価であったが、これまで未確認の往来と判断して、即売会にて購入した。明治期にもこのような新発見の往来物がまだまだあると思われる。



NEW202 〈改正大字〉万証文亀鑑 (よろずしょうもんてほん)
作者不明。安永3年(1774)春刊。[京都]阿波屋定治郎板。消息科。半紙本1冊。
原題簽に「よろづしやうもんてほん」と明記。江戸中期の比較的早い証文文例集で、「預申銀子之事」「永代売渡申家屋鋪之事」「家質(かじち)証文之事」「売渡申田地之事」「養子一札之事」「奉公人請状之事」「通駕籠一札」「売渡申道具之事」「荷物送状之事」の9通を収録する。本文を大字・概ね五行・付訓で記す。また、巻頭に「五性名づくし」、巻末に「立願成就日・ふじやう日」「知死期時」「時の十二支」、頭書に「御制札之写(正徳元年・明和七年)」を掲げる。
★消息文例集である用文章中の証文文例は江戸前期から見られるが、証文類文例のみの単行本は江戸中期後半からで、本書はその最も早い例の一つ。



NEW203 彼岸状 (ひがんじょう)
文化15年(1818)書。社会科(宗教関連)。大本1冊。北山村(
岐阜県山県郡、または和歌山県東牟婁郡か)住人の樋口伊之輔自筆の手習い本で、彼が用いたもの。末尾に「文化十五寅歳二月廿九日夜に書申候。北山村、樋口伊之輔」と自署する。「智度論に曰、彼岸と云は、六欲天之内、夜摩天と都卒天之間、中陽院と云処、爰に有。樹、号天正樹。彼之木之花開時を春の彼岸と云、果を結時を秋之彼岸と云…」で始まる文章で、仏説に基づく死後の世界、即ち、閻魔大王によって生前の善悪が裁かれるまでの経緯やその後の行き先である地獄や極楽など彼岸のあらましを記したもの。本文を大字・4行・所々付訓で記す。
★寺子屋には文字通り仏教寺院で経営されたケースもあったため、仏説に由来する手習い本もしばしば用いられたであろう。宗教関連の刊本の往来物も数点見つかっているが、多くは本書のごとき手習い本が用いられたであろう。



NEW204 〈新板〉 篇尽・字尽 (へんづくし・じづくし)
作者不明。元禄頃刊。刊行者不明。大本1冊。現存本は全5丁の小冊子で、「諸道具之事」「万着類之分」の2種の字尽と、「偏・付(つくり)・冠・沓・構之事」と題した部首一覧を掲げた往来物。前者では各語を大字・4行・付訓(語句の左右に音訓を付す両点形式)で記して、所々、数量呼称(例えば「屏風」なら「一双」、「葛籠」なら「一荷」のように)も付記する。また、後者では部首のいくつかを楷書と行書にかき分けたり、部首名の別称などについて触れる。本書の内容は、江戸前期に流布した『新用文章(新板用文章)』にも収録されており、本書のごとき単行本が先行したのではなく、『新用文章』からの抜粋として刊行されたものであろう。
★刊行年や板元を明記しないが、明らかに元禄頃の版式である。いずれにしても『新用文章』の系譜や変遷については、十分解明されていない。



NEW205 高松詣 (たかまつもうで)
溝渕佐八書。嘉永7年(1854)書。同年に書かれた手習い本『七福神文章』とともに入手したもの。特大本1冊。「玉藻城や讃岐の国の名にしあふ、音に聞や高松や、商家軒を並べて建続き、幾万代も限りなふ、君の御代と仰て、春広き御町、筆の跡先内町をおもひ立、何か用意を工み町、心の内は磯屋町にて、城本町末掛之常盤の松の色かへぬ…」で始まる一文中に、高松周辺の地名、神社仏閣その他の名所や地域の産業、風趣等を織り込んで綴った往来。概ね七五調の文章を大字・三行・無訓で記す。
★四国方面の地理科往来はあまり見つかっていないが、この種の地理科往来はまだ数多く埋もれているはずである。