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NEW186 禁制掟之事 (きんせいおきてのこと)
【作者】不明。【年代】文化9年(1812)書。【分類】教訓科。【概要】異称『禁制之事』。特大本1冊。信州上諏訪郡南真志野村で使用された手習い本。(1)「禁制之事(一)」、(2)「父母孝行之事」、(3)「禁制之事(二)」、(4)「御壁書」の四本を収録する。(1)は、「一、手習行儀者、目前之仕業、其外路じ・往来之節、飛ず、はねづ(ず)、追詰、追伏、石投等堅く停止之事」以下の全11条で、寺子屋内外での生活態度全般を戒めたもの。(2)は「一、夫、孝と者、必ず金銀・衣食ニ而のみなすものにあらず。只、我心差しの真実を饗応すべし…」で始まる一条以下の全2条で親孝行のあり方を説いたもの。(3)は、「一、幼少之時より、かるたと云物手にも取べからず…」で始まる一条以下の全2条で穴一・宝引等の賭事やその他の悪事を戒め、倹約等を説いたもの(正徳3年(1713)刊『近道子宝』末尾の「禁制」に酷似する)。(4)は、「一、苦は楽の種、楽は苦の種と知るべし」以下の全9カ条の教訓。いずれも本文を大字・4行・無訓で記す。
★同様の教訓科往来が色々あるが、『近道子宝』の影響が大か。



NEW187 訓蒙示言略 (くんもうじげんりゃく/きんもうじげんりゃく)
【作者】万化陳人(嘯谷)作・書。【年代】弘化3年(1846)書。【分類】教訓科。【概要】大本1冊。「夫、我国は日の始て出る国なるが故に、日本(ひのもと)とも扶桑国ともいえり。此国未だ開けざる前、一面の葦原なりけるに、一人の尊き御神開出させ玉ふを国常立尊(くにとこたちのみこと)と申奉る…」と筆を起こして、本朝が神国である由来や神道に基づく生き方などを諭した教訓。まず、日本開闢以来の神々の歴史を綴り、聖徳太子以後に仏法が広がったことに触れ、そのため日本人の心情は「花につけ月に寄せて無常を観じ、後世を願うのみ」となったとする。しかしながら、神道は「今日の天道」であり「人の道」にほかならず、まず神を第一に尊信すべきとする。他方、聖人の教えである儒教は修身・斉家・治国・平天下の基本だが、日本人には神道こそがなじみ深いこと、たとえ神仏を拝んでも誠の心が無ければ無意味なこと、わずか50年の人生を正しく生きるべきことなどを説く。裏表紙見返に「授読、森田多計女」と記し、学習者が女性であることを示す。本文をやや小字・7行・所々付訓で記す。
★女性が学んだ点が興味深い。



NEW188 宝鑑大(太)閤状 (ほうかんたいこうじょう)
【作者】不明。【年代】江戸中期刊。[仙台か]刊行者不明。【分類】教訓科。【概要】異称『太閤秀吉公三拾ヶ条』『太閤様三拾ヶ条』『太閤三十ヶ状』。大本1冊。秀吉作を装った壁書スタイルの教訓。第1条「天道は偏に正直にして叶。非道にして仏神の加護なし」以下30カ条から成る。説くところの教訓は、正直、福人は大敵、科ある身の置き所なし、大切・安堵、分別、貴賤との参会、人に勝つ苦労、算用、修行、家業、火事、見知らぬ者からの贈り物、諸道、公事、孝行、知音へ宿を貸す、夫婦、男女、覚悟、地頭・代官への服従、農業・商業、祝言、酒、世上の批判、喧嘩、他人の美女、見知らぬ者との遭遇、親を恐れよ、愚痴など処世訓全般で、本文を大字・5行・無訓で記す。末尾に「心だに誠の道に叶ひなば、いのらずとても神やまもらむ」の教訓歌1首を付す。装訂から江戸中期の仙台板と考えられるが不詳。なお、同様の往来に『太閤二十ヶ状(条)』がある。
★写真は文久2年写本。次項も参照。



NEW189 太閤二十ヶ状 (たいこうにじっかじょう)
【作者】寛京書。【年代】天保3年(1832)書。【分類】教訓科。【概要】異称『太閤秀吉二十ヶ条』。大本1冊。江戸中期刊『〈新板絵紗〉太(大)閤状』と同様の一つ書きで列記した教訓書。「一、欲に離れよ」「一、大酒飲べからず」「一、朝寝すべからず」「一、女に心を赦すべからず」「一、物に退屈すべからず」「一、少の事も分別せよ」「一、恥を慎めよ」以下20カ条を掲げる。太閤秀吉作が仮託であることは言うまでもないが、同種の教訓書が種々編まれたことは、庶民の秀吉観を示す例として興味深い。天保3年写本は「太閤二十ヶ状」「太閤三十ヶ条」「隅田川往来」の三書を収録し、本文を大字・四行・無訓で記す。なお、本書と同様の文言を含む往来に天保3年書『禁物』がある。
★往来物は似たようなものが多く、区別が付きにくく、混乱しやすい場合がある。文章の冒頭や末尾なども整理してデータベース化できたら、便利だが…。



NEW190 人間平生記 (にんげんへいせいき)
【作者】不明。【年代】嘉永5年(1852)書。【分類】教訓科。【概要】特大本1冊。「夫、聖人の教を立、人を道びき給ふこと、古へ八歳より小学にいれ、十五歳より大学にすゝませ、各々其教をなさしむ…」と起筆して、人間一生の基本的な心得を諭した往来。人間は本来、天理を備えているものだが、美食や放逸な暮らしをして徒に月日を過ごすことは鳥獣に変わらないと戒め、人間に固有の天理に随って五倫の道を守るべきとする。さらに、人間が学ぶべき六徳(智・仁・聖・義・忠・和)、六行(孝・友・睦・●(女+渕-さんずい)・任・恤)、六芸(礼・楽・射・御・書・数)を説いて、これらを身に付けた者は「人の中の人」であり、これらの道を子どもに教えなければ親たる甲斐がないと結ぶ。本文を大字・4行・無訓で記す。
★子どもが習う手習い本や往来物に、親の心構えがしばしば含まれる。