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NEW146 小野篁歌字尽 (おののたかむらうたじづくし)
小野篁歌字尽(寛文11年板系統) 【作者】不明。【年代】寛文11年(1671)刊。[江戸]松会(まつえ)板。【分類】語彙科。【概要】寛文11年板を含め江戸初期刊本はほとんどが大本1冊。寛文2年(1662)刊『小野篁歌字尽』の改編本で、寛文板系統と並んで普及した別系統の『小野篁歌字尽』。何らかの意味で類似的あるいは対照的な語彙を1行に並べ(これを仮に1単元と呼ぶ)、これに和歌を添えて記憶の便を図った往来で、内容・構成ともに寛文板と酷似するが、(1)寛文板の第1単元「椿・榎・楸・柊・桐」を本書で「木・椿・榎・楸・柊」に改めた点、(2)寛文板の第64単元(「広・店・庇…」の行)から第87単元(「桶・涌・踊…」の行)までの24単元を、本書では第88単元以後に移動させ、それに替えて寛文板の第89単元(「討・腕・腰…」の行)以下の24単元を挿入した点などが異なる。本系統は寛文11年板を最古として延宝3年(1675)板木屋板、天和3年(1683)鱗形屋板など多くの重板・異板が存するが、その嚆矢となった寛文11年板は本文を大字・5行・付訓で記す。
★冒頭が「木」で始まる『小野篁歌字尽』は、従来、延宝3年(1675)板(鶴見大蔵)が最古であったが、それに先立つ最古本が今回発見された寛文11年(1671)板であり、本書も江戸板であることから、「椿」で始まる『小野篁歌字尽』が上方で普及したのに対し、「木」本は江戸で流布したものであろうことが推定される。いずれにしても本書を含め、寛文年間に出版された4本のうち3本(寛文2年板2種、寛文13年板1種)が京都または大坂板で、本書が唯一の江戸板となる。



NEW147 〈頭書絵入・増割駄賃附〉東海道往来 (とうかいどうおうらい)
【作者】岡芳玄作か。【年代】宝暦四年(一七五四)以前刊か。安永四年(一七七五)再刊。[江戸]花屋久治郎板(安永板)。【分類】地理科。【概要】異称『〈都路〉東海道往来』『〈新撰〉東海道都路往来』『都路往来』『みやこぢ』『京路(みやこじ)往来』『五十三宿往来』『〈東海道中〉都路往来』『都五拾三駅路』ほか。安永四年板は半紙本。ただし現存本の多くは中本一冊。『宝暦四年書目』に載る岡芳玄作『東海道往来』が初板本と思われるが未発見。また、後世流布本の最初と思われるのが、『江戸出版書目』に載る安永四年板『東海道往来』(花屋板)である。内容は、「都路は、五十余にみつの宿、時得て咲や江戸のはな、浪静なる品川や、頓(やが)てこえくる河崎の、軒端(のきば)ならふる神奈川は…」で始まる七五調・文字鎖の文章で東海道五三次の宿駅名を列記し、最後に女文形式で「…はなのにしきの九重に、こゝろうきたつみやこそと、君の寿きいわゐたりけり。かしく」と結ぶ。安永四年花屋板は半紙本仕立てで、本文を大字・四行・付訓で記し、口絵に「亀戸天満宮図」(滕雪仙画)、頭書に「東海道名所名物駄賃増」(寄居庵作)、巻末に「片仮名真字古文字いろは」を掲げる。
★今回新発見の『東海道往来』最古本。従来から花屋板が安永期の刊行であることは分かっていたが、今回はそれを裏付けるもの。記録ではさらに遡る可能性もあり、今後の発見が期待される。



NEW148 新宝大和順路 (しんぽうやまとじゅんろ)
一般に『大和廻』と呼ばれる往来物で異称がいくつかあるが、同内容のうちで『新宝大和順路』が最古本。【作者】林昌院(良主軒・俊盈)書。【年代】明和5年(1768)書。【分類】地理科。【概要】異称『大和廻り之文章』。横本1冊。ある老母が念願の大和旧跡歴覧を果たすという筋書きで、大和および京の名所旧跡を紹介した往来。「老母年比の望に付、暮春頃より存立、和州旧跡の旅行仕候…」で始まる全文一通の女文で綴り、まず当麻寺・法隆寺・竜田・多武峰・吉野川・三輪・興福寺・春日神社等の奈良の名所を列記し、さらに洛中・洛外の名所旧跡・神社・仏閣の名称と風趣等を旅行記風に綴る。四条河原・祇園・清水寺・音羽山・清閑寺・蓮華王院・知恩院・聖護院・黒谷・法性寺等々の京名所を順々にめぐり、最後に「…桂川の辺にて筆を止め畢。穴かしこ」と結ぶ。
★表紙に「長岡大和守以書本写之」と記すように、本書の先行書があることは明らかで、成立年代はさらに早まるが、本書は類書中の最古本。



NEW149 万体用文章 (まんていようぶんしょう/まんたいようぶんしょう)
【作者】山田賞月堂作・書・序。【年代】安政3年(1856)序。安政4年刊。[江戸]井上氏蔵板、山城屋佐兵衛ほか売出。【分類】消息科。【概要】横本1冊。従来の用文章が「変化自在ならしむるの書」ではないことから、上中下の替え文章(○は上、×は中、▲は下)を付して多彩な表現ができるように試みた用文章。「四季之部(上・下)」「見舞之部」「祝儀之部」「頼事之部」「雑用之部」「商家之部」の六部に分け、「年始祝儀状」から「為替取組状・同略返事」までの218通を収録する。本文を大字・6行・付訓で記す。各行の左側に替え文章(上中下の類句)や替え言葉(類語)を細字で注記する(本文が中輩向きであれば、上輩向けと下輩向けを注記)。巻末には「年中時候之詞」「〈真草〉偏冠旁構字尽」「十二月異名」「片仮名伊呂波」「願成就日・不成就日」「十干十二支」を掲げる。
★以前から明治2年板を所有していたが、初版本は新発見。



NEW150 尊純親王真翰〈国尽・京条里・百首題・腰越状〉 (そんじゅんしんのうしんかん)
【作者】尊純親王書。【年代】江戸後期刊。[江戸か]翰香館板。【分類】語彙科。【概要】折本1帖。尊純親王の筆跡を模刻した陰刻手本。「国尽」「京条里」「百首題」「腰越状」を収録する。このうち「百首」は建保3年(1215)10月に内裏での宴で詠まれたものという。
★本書は書袋も付いており、極めて状態が良い。翰香館は尊円親王を始め御家流の手本をよく販売した書肆だが、活動の中心は江戸後期以降であろう。