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NEW141 嫁取往来 (よめとりおうらい)
大本1冊。弘化5年、滝沢実次書。裏表紙に「信濃国小県郡塩川南方村、滝沢市郎左衛門」と旧蔵者の氏名を記す。「態(わざ)と馳専使候御消息、忝致拝読候。疇昔御熟談仕候通、御嫡男勒負殿早免鼠来々御成長ニ付、御嫁取被成度趣媒之儀…」と書き始めるように、縁談の媒を頼まれた者が嫁の候補を紹介する手紙文の形式で綴る。女性の家柄や女性の人柄、教養、容姿、家事の堪能さ、さらに婚礼道具等の支度のあらましを紹介し、最後に日取りの吉凶を占うべきことなどを説いて結ぶ。
★江戸後期の『婚礼往来』と同じかと思って注文したが、実際は全くの別内容だった。『婚礼往来』のように婚礼のあらましや婚式の作法等を述べたものではなく、どのような嫁が理想的で、婚礼までの準備には何が必要かという実際的な視点で書かれており、このような内容が往来物になっていることが興味深い。



NEW142 農家四季の務 (のうかしきのつとめ)
中本1冊。堀重修編。明治8年刊。[越後]榑井佐吉、[村松]市川久平板。「億兆の生命を繋ぐ食物と、寒暑を防ぐ衣服の料、其他百需の品物を作出すは農の業。道を尽して勉れば、家富栄え、国も富、武備整て兵強く、外侮を受ず、内も亦、安く治まる源ぞ…」で始まる七五調の文章で、農業耕作や地方・地租の概要を記し、続けて、農具・肥料・天気・穀物ほか農作物、農耕施設の営繕・修理、治水・防災、四季耕作などの基本を示したうえで、学校教育や法令遵守、親孝行・朋友との交流に触れ、「一年の四季の務の終りには、慰労や寿の酒酌かはし、諸共に君万歳を祝しつゝ、又来歳の営みの備を早く致すべし」と締め括る。
★明治期になると往来物の地方出版もますます盛んになるが、本書は明治初年の農業科往来の地方出版の事例として貴重である。当時広まっていた『地方往来』が単語の羅列に近いことを思い合わせても、人間味のにじみ出た本書の文面は面白い。



NEW143 庄屋日記 (しょうやにっき)
大本1冊。文政3年書。冒頭から「抑庄屋之為役儀事…」を書き始めるように、庄屋子弟に庄屋に必要な教養(用語)と心得を教えた往来物である。冒頭では、まず庄屋の役割が、天皇によって定め与えられた役職であり、これを「庄屋」または「名主」ということ、また、庄屋は公方、将軍家から国司・領主・守護・地頭、郡代・奉行・代官までの命令を受け、これを村内の年寄・肝煎・組頭・長百姓・後家・鰥寡まで厳重に申し渡したり、下々に異変があればすぐにお上に届け出る職分たることを説く。そして庄屋たる者は、『御成敗式目』や一切の往来物を始め、「四書五経」その他和漢聖賢の書を学んで身を修め、正心(正直か)・始末・倹約を第一として務め、智恵・才覚をめぐらして、堪忍の慎みが大切であるとする。以下、村内経営に必要な帳簿類の整備や切支丹宗門や御高札制禁の監督、養子縁組・出奔・病死など村内人員の掌握、寺社宗門の監督、関所通行手形の管理、村内における賞罰経営など、庄屋の職分のあらましを綴る。
★秋の古書店で大量に出た和本の中から発見したもの。全面小虫ばかりで、一見すると「ボツ」にしたいような状態だったが、内容が面白そうなので購入した。本文は『在郷往来』『庄屋往来』『庄屋式目写』と酷似するが、本書はこれらよりも書写年代が早く、本書自体も「写し」であることから、成立年代がさらに早まる可能性を示唆する点で重要である。



NEW144 〈沢田〉国尽并郡附 (くにづくしならびにぐんつき(つけ))*表紙は『商売往来并官名』も掲載
大本1冊。沢田泉山(北広堂・沢田新五郎)書。埼玉県有数のマンモス寺子屋だった泉山の寺子屋で使用された往来物の一つ。本文は「国尽」や「郡尽(所沢・狭山周辺)」で月並みなものだが、本書は泉山私家版(自費出版)ではこれまで知られていなかったものである。
★地元埼玉県内の寺子屋ということで、沢田泉山の往来物を密かに探してきたが、本書の発見で泉山私家版の往来物は、まだまだあったのではないかと実感した。ちなみにこれまでに発見されている泉山の往来物は次の通り(アンダーラインは家蔵)。
 ・慶応1年刊──近郷村名(板本のほか一枚刷りあり)
 ・慶応2年刊──隅田川往来
 ・慶応3年刊──江戸往来(自遣往来)
 ・刊年不明──風雅帖/当用并名頭国尽并郡附商売往来并官名
*以上のほか、板本ではないが、泉山が地元の地理を綴った『北野往来』も写本で残っている。



NEW145 手紙之文言後集 (てがみのもんごんこうしゅう)
中本1冊。蓮池堂作・書。文政11年刊。江戸後期に何度も版を重ね流布した十返舎一九の『手紙之文言』の後編として刊行した用文章。序文によれば、一九の『手紙之文言』は俗用には最適の用文章だが、やや遺憾な点もあるため、雅俗の半ばをとって編んだものという。「年頭披露状」から「送注文荷之手紙・同返書」までの66通を収録し、所々難語に左訓や割注を施す。
★一九の『手紙之文言』は良く知られているが、本書は書籍広告で見た覚えがあるくらいで、現存するとは思わなかったが、たまたま入手できた。一九の用文章に対して通俗に過ぎるという批判めいた一文が序文に見えることからすると、本書をつぶさに『手紙之文言』と対比することによって何か面白い発見があるかもしれない。