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NEW121 〈世話難字・頭書図尽〉曽我状絵抄 (そがじょうえしょう)
大本1冊。宝永5年刊。[江戸]山形屋勘右衛門板。いわゆる『曽我状・同返状』に頭書絵抄を施したもので、簡単な筋書き付きの絵解きになっている。全4丁の小冊子で、江戸初期の古状短篇の特徴を醸し出している。うち、最後の1丁は本文欄を「魚字尽」に、上欄(頭書)を「世話難字」に宛てている。
★この手の古状系往来物には、しばしば武者絵の悪戯書きがあるが、本書にも写真のように、子どもの稚拙だがなかなか楽しい悪戯書きが見える。そばに「天保三年」とあるから、我々は180年前の子どもの絵を見ていることになる。



NEW122 〈新版・改字〉時宗下状絵抄 (ときむね(に)くだしじょうえしょう)
大本1冊。元禄〜宝永頃初刊。題簽の商標は山形に「三」とあり、これが同じ長さの三本棒ならば江戸後期の江戸書肆・伊藤与兵衛に酷似するが、いずれにしても板元は未詳。内容は源頼朝から曽我五郎時宗に宛てた「時宗下状」に、「曽我状・同返状」を加えたもので、全3丁半。最終丁(裏表紙見返し)は一連のストーリーを10コマの漫画風に描いたもので、通常は頭書に1〜2コマ掲げるものを最後にまとめた恰好になっている。「曽我状」は比較的多いが、「時宗下状」を加えたものは今のところ本書のみである。
★『日本教科書大系・往来編』別巻「往来物系譜」によれば、横山重旧蔵書中にあり、元禄以前刊とする。その可能性は否定できないが、見返しの挿絵の様子から、宝永頃の可能性もある。



NEW123 〈ひらがな両てん〉名字〈并〉仮名尽 (みょうじならびにけみょうづくし)
大本1冊。体裁から明らかに江戸前期の刊行である。「津田勘右衛門尉(つだかんえもんのじょう)」「生駒孫左衛門尉」「武田半兵衛殿」「深尾彦五郎殿」…のように、半丁に4人の人名を大字で列記して、その読み方を右側に示し、個々の漢字の訓を「津(しん)」「田(ところ)」「勘(かんがへる)」「右(みぎ)」「衛(まもる)」「門(かど)」「尉(うかゞふ)」のように左側(左訓)に施したもの。重複する単漢字の左訓は原則として省略するが、そうでない場合もある。全7丁で末尾が「小笠原助之進殿」となっている。特にイロハ順でもないため、これで完本かいなかは判断しかねる。
★本書は某古書店で二束三文で入手したものである。最初はある方が先に手にしており、密かに『古版の珍本だな』とは思いながらも諦めていたが、その方が手放したので、喜んで購入させて頂いた。



NEW124 在郷童教訓書 (ざいごうわらべきょうくんしょ)
原三省作。大本1冊。末尾に「二間手村・原三省撰述也」と明記し、さらに「安政二卯歳孟春吉祥日」と年号も記す。最終丁には「郡上歩岐村・山本鑿四郎主」と旧蔵者の居住地域と名前を別筆で認めてある。前後2巻構成で、前半は全10カ条、後半は全1カ条の教訓になっている。前半は、まず「一、春暖之時分に相成候節より蓑・荷縄・鎌を用意し、布半纏を着し蚕飼、杪を伐初候より、相続て小き簣を肩に懸け…」と書き始めて、家業の手伝いを誠実に行うべきことを説き、休憩時の行いや、往還の人々に対する心構え(特に地域社会で他人の迷惑をやめ、困っている人を助けるといった心得)を説くのも、独特である。このような悪態への戒めとともに、火の用心、盗み、参詣時の態度、小遣い用向きの心得、成人に求められる礼儀や社交上の心得までを詳しく諭す。後半の一文では、丁稚奉公の時代から養生に配慮することや、飲食・飲酒・疾病・色欲の注意などを説く。総じて、生涯の心得として、地域社会の一員としてのあり方や養生に重点を置いた生活心得を述べる点が独特である。
★裏表紙には「此本儀、何方様え御貸遣候共、御一見之上、早速御戻可被下候。扨、又がし之儀はかたく御断申上候」と、用済み次第の返却と又貸し禁止のお願いを朱筆で記す。このような往来物も大切に扱われたのであろう。



NEW125 〈絵抄〉商売往来 (しょうばいおうらい)
半紙本1冊。江戸後期刊。[大阪]伊丹屋善兵衛ほか板(江戸・京都・大阪のほかに肥前佐賀の書肆・紙屋惣右衛門を含む10書肆)。流布本の『商売往来』に頭書絵抄を施したもの。本文の要語をいくつか取り上げて図解を交えた解説を付す。スペースの関係から限られた要語の紹介に止まるが、例えば「算」については算木の図を掲げて1から90までの数字の表し方なども図解で示すように、比較的丁寧な注を心掛けている。巻末では仁徳天皇の「高き台にのぼりてみればけむりたつ…」の有名な御製に触れて、仁義礼智信の心得とそれが商売の基本であることを諭す。
★『商売往来』の絵抄本は多いが、要語解説の方法や出版地に佐賀が含まれている点で、興味深い資料である。