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NEW116  〈今様文章〉御所女筆 (ごしょにょひつ)
大本2巻2冊。筆者不明。延宝8年7月刊。跋文によれば、女筆手本は種々あるが男性筆の手本を「女筆」と称して板行するものも多く、これらの男筆手本は「そのさまいやしくして、幼女のてほんとなりがた」いものである、よって、御所で格別能書の女筆を尋ね求めてこのたび新たに上梓したものであると経緯を記す。同時期の女筆手本と比べても筆跡が独特であり、強いて言えば、同じ延宝期に遊女の筆跡を集めた『手跡文章』の趣に近いものがある。全文が散らし書きで、上巻は新年祝儀の文以下16通、下巻は「他国出張の人へ送る文」以下19通の合計35通を収録する。大散らしの文には小さな数字で読み順を示すのも特徴。上下巻ともに見返しに挿絵を掲げる。
★本書は珍品中の珍品。戦前には女子学習院が所蔵していた旨を『女流著作解題』で知りうるが、無刊年本と思われ、年号の記載無く、単に「通油町、山形屋板」と紹介している。ただし、この本は戦災で焼失しており、今回の発見までその内容が全く分からなかった。家蔵本は板元の記載はないが、「延宝八つのとし七月吉日」と明記されており、さらに下巻には原題簽を存す上でも貴重な発見であろう。未発見の女筆手本はまだ多いが、これでまた新たな女筆手本の正体が明らかになった。



NEW117 女嗜草 (おんなたしなみぐさ)
半紙本1冊。文久元年5月書。表紙に「女耆草」と打ち付け書きされているが、正しくは「女嗜草」であろう。まず、「古の聖の御教にも女の三従の道と申事御座候由、まづ家にありては父母にしたがひ、嫁してはしうと・しうとめ・夫にしたがひ、老ては子にしたがふ…」で始まる前文で、女子三従と女性の本分について略述した後、「一、嫁は舅・姑に背事なかれ」で始まる二七カ条の心得を列記した往来。『女大学』風の心得が多いが、「家業のいとまあらば手習・よみものすべし」、また「教の書物など心がけべし」などのように余力学問を奨めたり、「何につけても一度うそをつけば、たとへ誠をいひても、まこととする事なし」とか「下部の者を養ふに食物上下の隔なく平等にすべし」「食事のへだてより下部は心ひがむものなり」と家内一統を掌握するための心得や、火の用心・戸締まりなど家内安全の注意など実生活に即した心得も含まれるのが特徴。本文を大字・五行・無訓で記す。
★写本にしてはかなり高価であったが、本文冒頭の写真から新発見の物と判断し、あえて購入した。刊本の女子用往来の頭書からの写しの可能性はあるが、私のデータベースでは相当する記事は見当たらず、心のままに書き加えていったような文面からもオリジナルではないかと思われる。



NEW118 用文章稽古車 (ようぶんしょうけいこぐるま)
半紙本1冊。刊記によると、宝暦3年3月開板、天保10年8月求板(大阪・柏原屋源兵衛、京都・山城屋佐兵衛板)という。『〈享保以後〉大阪出版書籍目録』にも出てこないため、宝暦板等の詳細は不明である。「貴人え年始状」から「家督譲祝儀状」までの消息例文37通と、「証文手形案紙」と題して「金銀預り証文」から「関所手形」までの証文文例11通および「諸国御関所附」「日本国尽」を収録する。前半の主要例文については上・中・下別の例文を示す。本文を大字・5行・付訓で記す。巻頭目録上部(頭書)に「八算割声之事」「見一之呼声」、また、表紙見返しに「月の異名」「書翰尊下」「九々之こゑ」「片かないろは」を掲げる。
★この手の用文章も際限なく出てくる。いったいどのくらいの往来物が刊行されたのか計り知れないほどである。



NEW119 当用諸文章 (とうようしょぶんしょう)
横本1冊。玄考堂書。文化3年3月書・刊。江戸・花屋久次郎板。「年始の状」から「日待のいわゐ」までの108通を収録した用文章。特定の例文のみに返状の例を掲げ、その他は往状のみで、その分収録例文が多彩になっている。最初に五節供や四季折々の行事や交際の手紙、続いて、祝儀や通過儀礼に伴う手紙、さらに各種招待状・依頼状・見舞状やその他諸用件の手紙などをある程度整理・分類して列挙する。本文を大字・6行・付訓で記す。
★巻末広告には「手形証文のしたゝめ方」等を示した本書の後篇を紹介するが未詳



NEW120 〈新撰〉農家今川准状 (のうかいまがわじゅんじょう/のうかいまがわなぞらえじょう)
中本1冊。寺井義道作。明治12年刊。東京・小森宗次郎板。江戸後期に流布した『百姓今川准状』の明治期改編版。「一、時候を弁ずして農家終に豊作を不得事」から始まる19カ条および後文からなる往来。明治期の実情に合わせて適宜修正してあり、「地税所当は微細に吟味を遂、大切に可致事」「朝旨を遵奉し時々廻順之御布告を可相守事」などと綴られている。本文をやや大字・6行・付訓で記す。
★あまり期待していなかった即売展で思いがけなく入手したもの。やはり足を運んだだけのことはある。