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NEW091 婦人警戒集 (ふじんけいかいしゅう)
【作者】信斎作(「愚婦のむかし」)。 【年代】享保二年(一七一七)作(「愚婦のむかし」)。延享五年(一七四八)跋・書。 【分類】女子用。 【概要】大本一冊。「はなむけ草(贐草)」と「愚婦のむかし」を合本した女訓書。跋文に「右此二書、「はなむけ草」は先儒の息女へ給ひし書也。「愚婦のむかし」は信斎先生の姪子の方へつかわされし書なり。よく御覧あれがしとぞんじ候。今此二巻をあわせて『婦人警戒集』と名付侍り」と記すように、本来別々の女訓書を合わせたものである。冒頭に序文にかえて「一筆申上まいらせ候。兼て申入候通、婦人(おんな)の道は丈夫(おとこ)とちがい?(したが)ひ順(したが)ふをもつて自然のみちといたし候…」で始まる文章で本書の由来や心得を述べる。続く「はなむけ草」は、「富る人は宝をはなむけにし、よき人はこと葉を贐にすとなん。我はよき人にもあらず、また、とめるにあらず、何をはなむけにせん…」と起筆して、嫁いでいく娘に生涯の心得となる事柄を聖賢の教えや古歌を引きながら説く。後半の「愚婦のむかし」は、跋文に「姪なる者の今年七才になるが雨の日来りて、むかし語れといゝ侍るまゝ、舌切すゞめの舌の廻らぬむかし語もうるさし、是よみて見よかしとて、反古のうらに終に筆をぬぐいて送り侍り」とあり、末尾に「享保二酉五月十日」と記す。本文は「むかしから国の堯舜の御代には、かしこき教の道有て、位高き人恥有。さむらいは更也。とうふうるおやぢ、茶つむ小あま迄、人の人たる道を知りて父母に孝をつくし、臣としては奉公にかけごなく、兄弟むつまじく、夫婦あい正しく、友だちたのもしく…」と書き始め、数段に分けて、人道、欲、明徳、人倫、分限、孝行、学問・読書、智恵などについて教え諭す。最後に「水はたゝ、器によりて、円くなり、四角にもなる、そのごとく、人も難波の、善あしは、皆習わしに、よる物を、あしき事には、まじはらず、行儀正しく、よき人に、親しみよれば…」で始まる教訓長歌で結んでいる。
★教養のある武士家庭などでは、嫁入りの際にこのような女訓書を自ら娘に書き渡すことが多かったのであろう。親の愛情が伝わってくるような資料だ。



NEW092 〈御家〉別後帖 (べつごじょう)
【作者】照岡懿徳書。熊木庸宣跋。 【年代】文化一〇年(一八一三)刊。[酒田]熊木金兵衛板。 【分類】消息科。 【概要】特大本一冊。「別後忽一年余相成候…」で始まる手紙文など準漢文体書簡一一通と、「桜さく遠山とりのながき日をいたづらにすぐるも口おしく候まゝ…」で始まる女文四通を収録した大判の手本。準漢文体書簡は、久しく会わない者へ安否を尋ねる手紙、昨日の馳走に対する礼状、桃李鑑賞の誘引状、松島遊覧への同伴を願う手紙、会読の集いの招待状など私人間の手紙である。また、女文は花見誘引状、五月雨の徒然に一首を贈る手紙、秋の夜長に送る手紙、山里の雪景色をうらやむ手紙など四季の女文で、散らし書きと並べ書きを交互に交えて綴る。本文を大字・三〜四行・無訓で記す。
★よくぞ原装本で残っていてくれたと思う。珍しい酒田板の往来物。



NEW093 和歌浦八景 (わかのうらはっけい)
【作者】平尾忠兵衛書か。 【年代】江戸後期書。 【分類】地理科。 【概要】異称『和歌名所』。特大本一冊。「或人に誘れ候て、和歌の浦へ参候。先高松の水茶やに、しばしは腰をやすめつゝ、むかふをみれば其むかし、小野小町と業平と、妹背の契りをこめしやま、右はにみゆる布引の、松にかられる藤代や、二番の札所紀三井寺、三国無双の景地なり…」で始まる七五調の文章で、和歌浦八景などの名所の様子を綴った往来。本文を大字・二行・無訓で記す。
★地理科往来は、このような写本に面白いものを見出すことが多い。



NEW094 〈御家〉文寿用文章 (ぶんじゅようぶんしょう)
【作者】不明。 【年代】文化一三年(一八一六)刊。[江戸]丸屋文右衛門板。また別に[江戸]平林庄五郎板(天保五年(一八三四)求板)あり。 【分類】消息科。 【概要】大本一冊。「年頭祝儀状」から「太々講之状・同返事状」までの二九通を収録した用文章。四季用文、婚礼・出産・旅行・元服・店開き等の祝儀状、および「奉公人世話状」等諸用件の手紙の順に収録する。本文を大字・五行・付訓で記す。巻末には頭書も含め「借用申金子之事」「年季奉公人請状之事」「乳母奉公人請状之事」「店請状之事」など一〇通の証文文例を収録する。そのほか、頭書に「江戸往来」「商売往来」「消息文談三段之書様」を載せる。
★挿絵が比較的多い用文章。後半部の単行刊本があるように、前半部のみ抜刷本も存在したと思われる。



NEW095 〈長雄〉花尽文章〈并書札・唐詩歌仙〉 (はなづくしぶんしょう)
【作者】長雄東雲(数楽東雲)・数楽耕想(長雄耕想)書。 【年代】寛政一〇・一一年(一七九八・九九)書・刊。[京都]蓍屋宗八ほか板。 【分類】社会科。 【概要】異称『長雄花尽文章』。大本一冊。「高砂の尾上の松も色増り、鶴八千代をことぶき、亀は万代の齢ひをちぎる若竹や、四季おりの時を得て、まづ初春は東雲に、わろふゑ顔の福寿艸、咲そめしより久方の、月かつらの色さへて、匂ひも深き紅梅の、さくや椿もおりをたがへず、彼岸ざくらや山桜…」で始まる七五調の文章で、四季の草花の様子を綴った長雄流手本。この「花尽文章」に続く散らし書き消息一通までが東雲の筆で、さらに後半部に耕想筆の書翰文数通と詩歌数編を付す。散らし書きを除き、本文を概ね大字・三行・無訓で記す。
★以前から気にかけてきた往来の一つ。四季の草花を織り込んだ往来物。