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NEW066 消息詞 (しょうそくことば)
寺沢政辰書。 正徳3年書。正徳4年刊。[江戸]野田太兵衛ほか板。古往来。大本1冊。菅原為長作『消息詞』とほぼ同内容を大字・4行・無訓で記した寺沢流の手本。「進上、謹々上、謹上、者依、天気、執達如件、執啓、上啓、依院宣(上皇仰)、依令旨…」以下、主として消息に用いる語句を中心に地名・産物・食品・日用品などの名称も数多く盛り込む。また、本文中程で「重点」と題して「早々、進々、怱々…」以下約60語の畳字を列挙するほか、末尾では「興津鯛、丹後鰤、能登鯖…」以下の各地の名産品にも触れ、最後に「…文庫、筆架、硯屏、硯箱、文鎮」までを列記して締め括る。
★書籍広告により以前からこのような手本があったらしいことは知っていたが、原本を初めて見出した。それでも本書見返しに並んだ14冊の政辰の手本のうち、未見のものが数冊ある。



NEW067 新用文章(新板文章) (しんようぶんしょう)
作者不明。 寛文(1661〜72)頃刊。刊行者不明。 異称『新用文章』。大本2巻2冊。『〈江戸〉新用文章』の影響下に編まれた用文章の一つで、版式等から寛文頃の刊行と思われる。上巻には「正月初て状を遣事」から「庭前の花盛に人をよびに遣す状の事」までの15通と「瀟湘八景詩歌」(絵入り)、下巻に「家沽券状(うりけんじょう)書様の事」「金銀借状書様の事」「借家請状書様之事」「奉公人年季之書様之事」の4通と「平安城竪横町之名(京町尽)」「十二月之異名」「偏并冠の字尽」「細川幽斎状」を収録する。本文を大字・4〜5行・ほとんど付訓で記す。冒頭などに『〈江戸〉新用文章』と同様の主題や似通った例文が数通含むが、五節句・四季など『〈江戸〉新用文章(新板用文障)』にはあまり見られない四季用文や差出人・宛名人・脇付等の表記も多く、全体として他の『新板用文障』類に比べて独自性が強い。また上巻後半部の「瀟湘八景」は、各風景の漢詩文(八景詩)一首毎に大字・5行・ほとんど付訓で記し、その裏側に風景画とともに「瀟湘八景和歌」を掲げたもの。『新板用文障』類では亜流に位置づけられるが、逆に初期用文章の展開を知る好史料となろう。
★数年前に上巻のみを状態に比して極めて高額で入手したが、今回、その下巻と思われるものを発見。しかも下巻には原題簽が付いており、原題をしることができた。


NEW068 文林節用筆海往来 (ぶんりんせつようひっかいおうらい)
山本序周作・序。享保2年刊。[大阪]秋田屋市兵衛ほか板。異称『万宝字林文法綱鑑』『新刻文林節用筆海往来』『〈書札往来〉文林節用筆海綱目』『〈書札往来〉文林節用筆海大全』。大本一冊。「未逢人に遣す状」から「すそわけ物を遣状・同返事」までの286通を収録した最も浩瀚な用文章の一つ。各状とも比較的短文でほぼ同輩向けの例文となっており、これを短句に分けて大字・9行・付訓で記し、さらに割注形式で尊卑別の表現や略注を施す。書名の「節用」は、例文の配列や語彙集(頭書「節用字づくし」)で、『節用集』の如きイロハ分類を用いたことに由来し、例えば本文の「ホ」項で「奉公に出たる人に遣す状」「蛍見を催す状」「盆の祝儀につかはす状」「法躰したる人に遣す状」のように、主題の頭字によって分類するのが特徴。自序によれば、従来の用文章では例文が少なく、「四季の式目、若(もしく)は婚姻、饗応の躰をそふるのみ」であるのを不満に思い、「民間の文通すへき」例文の数々を収録したとする。付録記事も多彩で、特に頭書に盛り込んだ語彙集には、序周編の宝永6年刊『女節用集文字袋家宝大成』や享保元年刊『男節用集如意宝珠大成』の影響も見られる。前付・頭書に「難波風景之図」「本朝能書の三筆」「京・江戸本海道道中記」「文字略上中下の次第」「唐土の三筆」「書の十体之事」「物の数書様之事」「人倫家業絵尽」「伊勢斎宮の忌詞」「書札教訓状」「節用字づくし(草木・鳥獣魚虫・衣食道具・人倫支躰・天地時節)」「故実来歴之絵抄」「文章用捨之聞書抄」「異名尽」「近代年号記」等を掲げる。享保2年初板本以後、一部、書名や付録記事などを変えながら、享保4年・享保6年・享保18年・延享4年・宝暦11年・天明7年・寛政11年・文政元年とたびたび刊行されたが、このほか、携帯用に小型化された横本(三切本)の安永8年板『文林節用筆海往来』†もある。
★本書は従来から周知の往来物だが、従来知られた享保4年板(上田市立図書館蔵)よりもさらに古い最古本が発見された。残念ながら原装本ではないが、現存唯一の初板本である。


NEW069 手紙文集 (てがみぶんしゅう)
篠原門次(雲竜軒・正永)書。安永7年刊。[大阪]小刀屋六兵衛板。異称『手紙指南』。半紙本1冊。明和〜安永頃に活躍した大阪の書家・篠原門次の書道手本の一つ。新年祝儀状から移徒祝儀状(引出物贈答状)までの例文30通を大字・4行・所々付訓で記す。巻末には、近江八景を紹介した短文「八景文章」を付す。なお、巻末広告および『大阪出版書籍目録』によれば、雲竜軒の書道手本として本書のほかに、明和5年刊『御家歴代芳翰』、同6年刊『尊円親王鷹手本』『俗家日用文章』『雲竜軒消息』、同7年刊『尊円親王秦甸帖』、安永2年刊『嘉祥文章』、同8年刊『御家流慶賀帖』等があり、いずれも小刀屋六兵衛による板行である。
★本書の書籍広告によって、また新たな往来物と同一作者の作品群を確認できた。書籍広告といえども貴重な資料である。


NEW070 女要訓和歌文庫 (おんなようくんわかぶんこ)
桃江舎漁舟編。長谷川光信画。寛保3年7月刊。[大阪]河内屋太助板。従来から書名は知られていたが原本を初めて手にした。しかも、最近、同板の往来を2冊、ほぼ同時に入手した。編者の跋文を要約すると、女子教訓の書は昔から言い古されてきたような内容が多いので、この本では新たな趣向で、『栄華物語』の大意と挿絵、また『源氏物語』帚木の巻の前半部「雨夜品定」を題材にした教訓で1冊とした旨を記す。巻頭口絵に「赤染衛門家形之図」、前付に「紫式部以呂波歌」「女万要品鏡」などを載せるが、この「女万要品鏡」は、のちにこの部分のみを抽出して、延享元年に『女訓万要品鏡』(横本)と題して出版されたものである。
★管見の限り、『栄華物語』を題材にした女子用往来は本書のみであり、特異な往来物と言えよう。