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先を見通した盲人
  (樹下先生作。浦川公左画。嘉永2年(1849)刊 『今昔道之栞』。[大阪]河内屋太助ほか板)
昔、萩一という盲人が、いつもある屋敷へ来ていたが、ある日、屋敷に入ろうとした時、杖が門の敷居に真ん中に当たったので、二、三度引き返して、杖をたたいてみた後、家には入らずにそのまま引き返してしまった。
 その日の晩、その屋敷に乱入者があり、宿直の者を斬り殺してしまった。その場所はいつも萩一が休む場所であった。
 翌日、その事件を萩一に告げると、「昨日、門に入ろうとした時に、杖の当たり具合がいつもの調子と違っていた。私のような者が死ぬべき夜ではないと感じたので帰りました」と答えたという。
 盲人は不自由なようだが、欲の目がつぶれて、心の目があいたことで、命を全うすることができたのである。