S005 →  次へトップへ戻る
寿命とともに磨り減る体
  (樹下先生作。浦川公左画。嘉永2年(1849)刊 『今昔道之栞』。[大阪]河内屋太助ほか板)
昔々、ある人が海上で難破し、ある島にたどり着いた。上陸して見ると、島の住民は、あるいは膝から下がない者、あるいは輿から下がない者、へそから上半身だけの人、首だけの人であった。漂流した男達は、驚いて難破船に逃げ帰ったという。
 この物語の趣旨は、極めて明快な教訓である。この話をよくよく考えてみると、例えば人生60年の寿命に6尺の体を引き当ててみれば、一寸が寿命の1年に相当する。3歳の小児は3寸減り、15歳にもなればもはや一人前という頃には膝くらいまで減った勘定になる。もはや57、8歳になればもう目玉ばかりがコロコロとするようなものである。
 「自分が死んだら財産がどうなる」「私が死んだらこの着物は誰が着るのであろう」と様々な迷いや悩みを起こして気骨を折るよりも、心の道理を会得する方が、ずっと安楽であり、諸願成就するものである。まさに「朝(あした)に道を聞くときは、夕べに死すとも可なり」という教えの通りである。