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孤島に捨てられた盗人
  (樹下先生作。浦川公左画。嘉永2年(1849)刊 『今昔道之栞』。[大阪]河内屋太助ほか板)
「護摩の灰」と呼ばれた旅行者目当ての盗人の話。150〜200両の大金を所持した近江商人が2人連れで旅をしていた。それに目を付けた盗人は、その金を奪おうとしたが二人連れなので、まずは馴れ馴れしく近づいて、「私も所用がありまして、近江へ行くところなんですよ」と同行した。盗みのチャンスをねらっていたが、近江も目前に迫り、まさに湖を船で渡ろうとした時に、「船中で奪い取らねば、もうチャンスはない」と思った盗人は、船頭にもぐるになるように迫った。
 船頭は心で、『今、騒ぎ出せば、あの盗人が何をしでかすかも知れぬ。何とかこの盗人をうまく片付けられないか…』と思案するうちに、一つのアイデアが浮かんだ。
 船頭は、「船中で奪うのは難しい。この先に白石という小島がある。そこの眺望は素晴らしいからと二人の商人に誘って、そこで大金を奪おうじゃないか」とひそひそ話で盗人に持ちかけると、盗人は「そいつは名案だ」とその気になった。
 「あの白石は非常に風景がよろしうございます。ちょっと立ち寄って眺めていきませんか」という盗人のすすめのままに一行は白石へ船をつけた。盗人が一番乗りで島に上がったとたん、急いで、船頭は船を出し、沖へと向かっていった。
 商人達が理由を尋ねると、船頭は「しかじかでございます」と事情を説明し、「盗人は干物になってしまうでしょう。あの島は湖水も深く、陸まで3〜4里(12〜16km)もありますから、翼がないと助かることはできないでしょう。自業自得です」と話したという。