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老婆の正直
  (樹下先生作。浦川公左画。嘉永2年(1849)刊 『今昔道之栞』。[大阪]河内屋太助ほか板)
正直な老婆の話。足元に財布が落ちているのに気付いた老婆が、いったんは拾ったが捨てて行ってしまった。後から来た男がその財布を拾って見ると、中から5両ものお金が出てきた。『さっきの婆さんは、なぜ拾わずに行ってしまったのか…』と不審に思い、その老婆に訳を尋ねた。
 すると、老婆が言うことには、「私は非常に貧しく、日々働いてようやく命をつないでいる。もし一日か二日働かなくても済む食料があれば、落とし主を捜してあげたいところだが、私にはそんな余裕はない。本意ではないが、そのままにしておいた」と。
 この話を聞いた男は、愕然として、「本当に正直・無欲な婆さんだ。もし、この婆さんに出会わなかったら、財布を拾って行くところだったが、婆さんの話を聞いて、なんだが自分が恥ずかしい…」と、その男も拾わずに過ぎたという。