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■朝日新聞 2013年8月30日付夕刊
  「親父の小言 起源は江戸」
 
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「親父の小言」のルーツは江戸時代!
 今や、湯飲みや掛軸、プレートなど全国各地の土産物屋で目にする「親父の小言」。最近は、日本酒の銘柄にもなっているようである。ネット情報などでは、近代以降に成立したものと宣伝されているが、実は、この「親父の小言」のルーツは江戸時代に遡ることが、今回、初めて判明した。文面も多少違うが、今のところ、本書が「親父の小言」の最古本で、江戸時代に成立したことを示す確実な資料である。他に所蔵のない稀覯書のため、詳しく紹介しておこう。
 本書は、表紙とも3丁(6頁)の仮綴じ和本で、表紙にはタイトル「親父の小ごと 全」の刷外題、裏表紙には、「嘉永五年(1852)九月吉日、施主 神田住」とあって、嘉永年間に江戸神田の篤志家某によって無料配布(施印)されたものである。作者と正確な成立年代は不明だが、少なくとも19世紀半ばの江戸には流布していたものであることは確実である。
 本文は、二段組みで、「○火はそまつにするな、○朝きげんをよくしろ、○朝はやくおきろ、○神仏をいのれ…」で始まる全81カ条で。最後に、教訓歌2首を付ける。
 江戸時代人、いや、江戸っ子の気概や気風を示す資料であり、今なお、多くの現代人に共鳴を与えているのも、我々の先祖から受け継ぐDNAに、その記憶が刻まれているからかもしれない。
 この原物を見た時は大変驚いたが、改めて、江戸時代の資料の膨大さと奥行きを感じた。「江戸」をなめてもらっちゃ困る…と言わんばかりの存在感を感じた次第である。
 以下に、本文の一部を紹介しておく (各条に番号を付け、読みやすいように、適宜漢字をあてた。また、必要に応じて略注を施した)。

■ 親父の小ごと 
水色江戸版独自の項目。大聖寺版と著しく異なる項目は、【 】内に大聖寺版を並記。
1.  火は粗末にするな
2.  朝、機嫌を良くしろ
3.  朝早く起きろ
   (中略)
10.  人に腹を立たせるな 【人には腹を立てるな】
11.  人に恥をかかせるな
12.  人に割を食わせるな
 *損をさせるな
13.  人に馬鹿にされていろ
14.  人を羨むな
15.  利口は利口にしておけ

   (中略)
23.  子供の頭を打つな
24.  己が股(もも)をつねれ
 *わが身をつねって人の痛さを知れ
25.  たんと儲けて使え
   (中略)
37.  義理を欠くな
38.  子供はだまかせ *だまくらして上手に扱え
39.  女房に欺(だま)されるな
40.  博奕(ばくち)をするな
41.  喧嘩をするな
42.  大酒を飲むな
   (中略)
46.  門口(かどぐち)を奇麗にしろ
47.  三日に氏神へ参れ
48.  晦日に内を掃除しろ

49.  貧乏を苦にするな
50.  火事の覚悟をしておけ
51.  火事には人をやれ、内を守れ *出火の際は消火要員を出す一方で家も守れ
52.  風吹きに遠出をするな
53.  火事には欲を捨てろ
54.  火口箱(ほくちばこ)を湿(しめ)すな
 *火打ち石などが入った道具箱を湿らすな
   (中略)
63.  雷(らい)の鳴る時、仰向(あおむ)いて寝るな
64.  寒気(さむけ)の時、湯に入るな

65.  怪我と災難はバチと思え 【怪我と災は恥と思え】
66.  物を拾い、身に付けるな
67.  冬は物を取り、始末をして置け *冬に万事片付けておけ
68.  若い内は寝ずに稼げ
69.  年寄ったら楽をしろ
70.  折々に寺参りをしろ
71.  身寄りのない人を労(いたわ)れ

72.  小商物(こあきない)を値切るな 
*薄利の商売を値切るな
   (中略)
78.  泣き言を言うな
79.  病気は仰山(ぎようさん)にしろ 
*病気は軽視するな
80.  人の気を揉む時、力を付けてやれ 【人の苦労を助けてやれ】
81.  悪しき事も「よし、よし」と祝い直せ
   以上、八十一ヶ条
   上様や大名方は生きた神 滅多にするとバチが怖いぞ
   我(われ)人と隔てのつくが凡夫(ぼんぷ)なり 仲良くするが仏付き合い

     嘉永五壬子(じんし)年九月吉日      施主 神田住

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●希望者に 嘉永板 「親父の小ごと」 サンプル版を差し上げます。

  ★軽量画像のサンプル版(全頁)を御希望の方は、こちらに、ご氏名とご所属を明記してご一報下さい。
  ★研究用に、高精細デジタル画像を御希望の方には、送料込み700円(メディア掲載、番組での使用など商業的使用についてはご相談下さい)で提供いたしますので、こちらへご一報下さい 。


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■日本武道館月刊誌 『武道』 2013年9月号
  「 「人様」を教えた『親父の小言』」
(抄録)
 *2013年7月15日脱稿原稿(校了前)。
嘉永板『親父の小ごと』を初めて、大聖寺版と比較し、解説した原稿です。
………………………………………………………………………
 全国各地の土産物店や居酒屋・飲食店等でよく見かける『親父の小言』。「火は粗末にするな」「朝、機嫌をよくしろ」で始まるお馴染みの文句は、今や懐かしい「頑固親父」の象徴でもある。この小言は、これまで昭和三年(一九二八)に書かれた四五カ条がルーツとされてきたが、実は、既に江戸後期にはある程度流布していたものだった。最近発見された嘉永五年(一八五二)板『親父の小ごと』全八一カ条に江戸庶民の処世訓・教育論の一端を垣間見る。
………………………………………………………………………
 『親父の小言』と言えば、居酒屋の湯飲みや蕎麦屋の箸袋などに書かれたり、全国の観光地にも多彩な「親父の小言」グッズが溢れているから、誰もが二度や三度目にしたことがあるだろう。

●大聖寺版「親父の小言」四五カ条
 『親父の小言』は福島県浪江町(なみえまち)の「大聖寺(だいしょうじ)」が発祥の地という。現住職・青田暁知(ぎょうち)著『親父の小言──大聖寺暁仙和尚(ぎょうせんおしょう)のことば』(二〇〇三年、TBSブリタニカ)は、暁知氏の父・暁仙和尚がその父(暁知氏祖父)の言葉を思い出して書き綴った昭和三年一二月の『親父の小言』四五カ条をそのルーツとし、次の逸話を披瀝(ひれき)する。
…「親父の小言」は、庫裏(くり)の一室に古くから掛けられている言葉の数々です。父はこの小言集を印刷して皆様にお配りしていたようです。その最後にこんな文句を記していました。
親父生前中の小言を思い出して書き並べました。
今にして考えればなるほどと思うことばかりです。
                   大聖寺 暁仙
 暁仙とは私の父のこと。寺の先々代住職で昭和十六年に四十七歳で亡くなりました。小言が書かれたのは昭和三年。父がまだ三十三歳の頃のことです。私は、小言の由来などについては直接父から聞くことはありませんでした。…
 現在、お店などで額に入れられ、みなさんの目にもとまっている小言は、我が家の小言を、昭和三十年の半ばに町内の商店が売り出したものです。評判となり、全国に様々な形で広まりましたが、その際「てにをは」も変えられ、また知らぬうちに各地で言葉が加えられ、削除もされ、父が遺したものとはずいぶん違ったものになっているようです。…
 大聖寺版『親父の小言』は、「火は粗末にするな」で始まり「家内は笑ふて暮せ」で終わる全四五カ条だが、これが、昭和以降に「親父の小言」を全国に普及させたことは紛れもない事実であろう。

●江戸版『親父の小ごと』八一カ条
 しかしながら、「親父の小言」の淵源が江戸時代にあったことを証明する資料がこのたび見つかった。
 それは表紙に「親父の小ごと」の書名が印刷された袋綴じ三丁(六頁)の版本で、嘉永五年(一八五二)九月に江戸神田の篤志家某が私費で版木を起こして印刷し無料で配布した施本(せほん)で、匿名で施主と記すから、自著の私家版ではなく、既に流布していた「親父の小言」を上梓したものと考えられる。
 この嘉永五年板『親父の小ごと』は全八一カ条。文言や配列など多少の異同はあるが、大聖寺版の四五カ条をほぼ網羅し、さらに大聖寺版にはない三五箇条と末尾の教訓歌二首を載せる。

…… (中略) ……

  以上が全文で条々は多岐にわたるが、次のように整理すると興味深い事実が見えてくる。
 @対人関係 一六条(一九・八%)
   うち対弱者(老人・病人・鰥寡孤独(かんかこどく)等)  五条( 六・二%)
 A家業・家政 一五条(一八・五%)
 B危機管理 一三条(一六・〇%)
 C吉凶・信仰 一二条(一四・八%)
 D健康・養生・飲食 一〇条(一二・三%)
 E修己・修身  八条( 九・九%)
 F家族・家庭  七条( 八・六%)

●『親父の小言』を貫く「人様」の精神
 まず@対人関係の心得が最も多く、江戸版も大聖寺版も約二割を占める。朝機嫌良くしろ、人に腹を立たせ、恥をかかせ、割を食わせる(損をさせる)ような事はするな、人から馬鹿にされたり相手が利口ぶっても気にするな、恩は返して義理を欠くな、人の世話になるな、人を励ましてやれ…といった心得とともに、年寄り・病人・困った人・身寄りのない人・薄利な商売人など弱者への労(いたわ)りも多く、他者への気配りが重視されている。
 その一方で、F家族や家庭の心得では、女房の主張は半分聞いても子供の言う事は九割聞くな、子供は騙かせ、女房に欺されるなと戒め、子育て関連では「子供の頭を打つな」「己の股(もも)をつねろ(人の痛さを知れ)」くらいで、対人関係と比べて非常に少ない。『親父の小言』は他人との関係を最も重視し、それを子供や読者に強く求めた。そこに、世間の人を「人様」と呼ぶ精神が息づいている。
 石屋の家庭に生まれた評論家の草柳大蔵が中学三年のある夏のこと、銭湯に行く前に井戸端で行水し、体を奇麗に拭いている父親を見て、「これから銭湯へ行くのに体を拭くのは不合理だ」と言ったところ、父親から「銭湯で着物を脱いで汗臭かったら、人様の迷惑だろうが!」と叱られた。
 『親父の小言』を繰り返し読むうちに、ふと、この逸話が蘇ってきた。そう言えば、最近は「人様」という言葉を耳にすることもなくなったような気がする。


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■『痛快!気くばり指南「親父の小言」』
 
本文全文(江戸版81カ条と教訓歌2首)について、江戸時代の教訓書や俚諺等を交えて詳しく解説した書。「親父の小言」を分かりやすく読み解きました。 書影等はこちら
 
(小泉吉永著、2014年7月15日、青春出版社刊 *新書版・208頁・定価本体830円+税)



●日刊ゲンダイ 2014年7月9日付
  「江戸版「親父の小言」には生活の知恵が満載」
  コラムニスト 石原壮一郎氏の「これが話題の“大人力”養成本」のコーナーで、いち早く紹介されました。
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■NHKラジオ深夜便・ないとエッセー
  「江戸庶民の人生訓「親父の小言」に学ぶ」
 *2014年03月21日放送。概要は下記の通り。詳細はこちら

【1日目】 嘉永5年板「親父の小ごと」81カ条の発見の経緯/昭和3年、大聖寺「親父の小言」45カ条との違い
 → 嘉永板81カ条に、昭和版45カ条は全て含まれ、教訓の傾向も同様…など、全体の概要について。
【2日目】 「親父の小ごと」の対人関係の心得
 → 人の気持ちを推し量る小言や、弱者を労る小言を味わい、親父の人情を知る。
【3日目】 「親父の小ごと」の危機管理の心得
 → 「地震、雷、火事、親父」と言うが、天災(特に火事)などの危機管理や生き抜く知恵を「小言」に学ぶ。
【4日目】 「親父の小言」が現代人に伝えるメッセージ/平成版を作ろう
 → 「小言」が強調した「人様」という考え方は、江戸の「もてなし」や「ふるまい」に通じる心。新時代の小言も面白い。


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■NHK 視点・論点
  「江戸時代にあった「親父の小言」」

 
*2014年03月17日放送(写真はTV放映と収録時のスナップ)。
  *NHKのホームページはこちら
 
 約1年前、1冊の和本がネットオークションに出品されました。
 商品名には「和本、江戸期教訓書、「親父の小ごと」一冊」とあり、江戸末期の嘉永板とのこと。写真を見ると「嘉永5年(西暦1852年)」の刊記が確認できました。
 「親父の小言」と言えば、「火は粗末にするな」「朝、機嫌をよくしろ」で始まるお馴染みの格言集です。
 皆さんも、居酒屋の湯呑みや蕎麦屋の箸袋、あるいは、観光地の土産物など、幾度となく目にした覚えがある事でしょう。
 その「親父の小言」とは恐らく別物だろうと思いましたが、同じ書名の出版物が江戸時代にもあった、この事実だけでも十分面白いと感じて入札し、運良く落札できました。

 数日後に届いた原本を見ると、本文は全81カ条で、末尾に教訓の和歌2首を添え、最後に「嘉永5年」の年号と「施主、神田住」、つまり、江戸神田の住人が施しの為に出版したことを示す記載がありました。
 驚いたことに、本文冒頭は「火は粗末にするな」「朝、機嫌をよくしろ」という聞き慣れた文句。こうなると、今日流布する「親父の小言」とは、どこが同じで、どこが違うのか、そしてまた、江戸時代の文献がほかにもないのかが気になりました。

 まず第一に、現代と江戸の「小言」の違いです。現在の「小言」も箇条数や文言の異なるものが色々と出回っていますが、そのルーツは、昭和3年(1928)に書かれた45カ条です。それは、福島県浪江町の大聖寺──福島第一原発事故の影響で、現在は福島市内に避難中ですが、その大聖寺のご先祖の暁仙和尚が書かれた45カ条です。それを印刷して信者等に配布していたものが、いつしか地元の土産物となり、昭和30年代から一気に全国へと広がったそうです。
 ただし、その印刷物の最後に「親父生前中の言葉を思い出して書き並べました」と書かれており、45カ条は記憶にしたがって復元したものと言います。
 この昭和版の45カ条に対して嘉永板は81カ条ですから、例えば「子供の頭を打つな」「女房にだまされるな」「喧嘩をするな」など昭和版には欠落した箇条が数多くある一方、81カ条には45カ条の内容が全て含まれています。
 また、嘉永板の「恩はどうかして返せ」が、昭和版では「恩は遠くから隠せ」となっているように、文言や箇条配列の違いも散見されます。「かへせ」と「かくせ」は旧仮名遣いのくずし字では字形が似てくるため、転写や伝承の過程で変化した可能性もありますし、記憶違いによるものかもしれません。ただし、81カ条が45カ条に減ったのは意図的な取捨選択の結果と見るべきでしょう。どちらにせよ、81カ条から45カ条が派生した可能性が極めて高いと思われます。
 それでは、江戸時代の『小言』はほかにないのでしょうか。古典籍の主な所蔵先を示した『国書総目録』を見ると、成田山仏教図書館に『親父の小言』の写本が存在することが分かりました。インターネットでも蔵書検索ができるので確認すると、その写本が確かにありました。幸い、大聖寺の45カ条を紹介した書籍も架蔵されており、一石二鳥でした。
 余談ですが、自転車用のナビで調べると、自宅から仏教図書館までは往復約150qで、日帰りサイクリングが十分可能です。そこで、天気の良い7月初旬に、嘉永板の原本を持参し、妻と自転車で現地に赴いて調査をしてきました。
 結局、仏教図書館の写本は、江戸末期までに出版された教訓書10点を写して合本したものでした。その一つが「親父之小言」で、本文は嘉永5年板と同じ81カ条です。正確な書写年代は不明ですが、他の教訓書の内容から、江戸末期から明治初年にかけての写本と推定されます。
 したがって、江戸時代の「親父の小言」は、今のところ嘉永5年板の81カ条以外には存在しません。さらに古いものが見つかる可能性は十分ありますが、81カ条と同系統のものと考えられます。いずれにしても今回の発見で、『親父の小言』は昭和3年を約80年遡る嘉永年間には成立していたことが明らかとなったのです。
 この情報をマスコミ数社に伝えたところ、ある新聞社がいちはやく取り上げてくれ、東京版では「親父の小言、起源は江戸」、大阪版では「ガミガミ親父、江戸にいた」の見出しで報道していたのが印象的でした。

 さて、嘉永5年板『親父の小ごと』は、思いつくままに81カ条を列挙したようで、関連する箇条が前後に分散しがちです。また、嘉永板と昭和版とでは箇条数が大幅に異なるため、各箇条を分類・整理してみました。
 すると、両者の小言の構成比は大差ないことが分かりました。

│分 類 │小言の例 │嘉永5年・81カ条 │昭和3年・45カ条 │
│@対人関係 │人に腹を立たせるな 人に恥をかかせるな │20% │22% │
│A家業・家政 │身の出世を願え 家業は精を出せ │19% │18% │
│B危機管理 │万事油断をするな 火事の覚悟をしておけ │16% │11% │
│C吉凶・信仰 │神仏を祈れ 不吉を言うな │14% │13% │
│D健康・養生・飲食 │大酒を飲むな 寒気の時、湯に入るな │12% │13% │
│E修己・修身 │人を羨むな 何事も我慢をしろ │11% │13% │
│F家族・家庭 │家内笑うて暮らせ 女房の言う事半分聞け │ 9% │ 9% │

 この分類では、@の対人関係の心得が最も多く全体の2割を占めます。その三分の一は、老人、病人、困窮者、身寄りのない人など弱者に対するものです。この点は「小言」の大きな特徴です。
 Aの家業・家政の心得が多いのは当時の教訓書の通例です。また、Bの危機管理も家業・家政と関連しますが、特に、火事や天災に対する心構えは「小言」の強調点の一つです。
 その一方で、Eの修己・修身や、Fの家族・家庭の心得が極端に少ない点が目立ちます。当時の教訓書では、むしろEやFに関する事柄に比重を置くのが一般的です。
 このように、「親父の小言」は、対人関係の箇条が際立っています。そこには、世間の人を「人様」と呼ぶ精神が息づいているように思います。「小言」を読むと、私はいつも評論家の草柳大蔵さんの逸話を思い出します。
 石屋に生まれ育った大蔵少年が中学三年のある夏の日。これから銭湯へ行こうというのに、わざわざ父親が井戸端で行水をして、体を奇麗に拭いていました。それを見た大蔵少年は、「銭湯へ行くのに、どうして体を拭くの。それは不合理じゃないの」と言いました。すると、父親は「銭湯で着物を脱いで汗臭かったら、人様の迷惑だろうが!」と叱ったそうです。
 私もそうですが、現代人の多くの人が、大蔵少年と同じ発想になるのではないのでしょうか。
 そう言えば、最近は「人様」という言葉もあまり聞かなくなりました。ややもすると、「人様」より「俺様」の時代かもしれません。江戸時代に庶民道徳を説いた「石門心学」の教えも、「俺が俺がが増長すると、一生おかしな人間になる」と戒めています。

 嘉永板を公開後、多くの方々から感想を頂きました。160年前の『小ごと』は今や懐かしい「頑固親父」の象徴であり、そこから、多くの人が日本人の心を感じ取っているようです。特に、対人関係を重視する『小ごと』は、江戸の「もてなし」や「ふるまい」の心を現代に伝えるメッセージと言ってもよいでしょう。
 本来、無名の「小言」を国民的な格言に引き上げたのは、紛れもなく大聖寺の45カ条であり、暁仙和尚の尽力によるものです。そして、今回の嘉永板の発見は、江戸時代の文化や歴史の痕跡が意外と身近な所に残っている事を示す一つの証であり、江戸文化の奥行きを感じさせるものでしょう。
 45カ条にしろ、81カ条にしろ、「親父の小言」が時空を超えて語り継がれ、近い将来、その文言が「ことわざ辞典」に採録されることを密かに願う次第です。

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■『江戸版 親父の小言』
 
原本の原寸大の影印と翻字に、簡単な解説を加えたものです。
 
(小泉吉永解説、2013年8月23日、大空社刊 *B5判・16頁・定価本体500円+税)





















【『江戸版 親父の小言』読者からのメッセージ】
 *書名を『江戸版 親父の小言』に統一し、漢字表記や誤字脱字を一部改めたほかは原文通りです。
 *ご本人の承諾を得ていないため匿名としました(ネットで公開されているもののみ実名)。


●(財)神奈川県高等学校教育会館教育研究所 香川七海氏

 小泉吉永さんから『江戸版 親父の小言』を献本していただきました。…よく、飲み屋さんや食べ物屋さんにある、「親父の小言」、これまで、昭和3(1928)年ごろの作だとされていましたが、実際は、嘉永5(1852)年には、すでに流布していたそうです(著者の小泉さんが嘉永版を発見)。この著作は、その嘉永版(江戸版)を活字化したものだそう。500円の格安ブックレッドですので、お求めください。私が拝読して
興味深かったのは、嘉永版の「親父の小言」には、「子供のあたまを打つな」という一文が存在していたということ(現在流通している「親父の小言」には、この一文はありません)。体罰が好まれていなかった江戸期の教育観を反映しているのかも?……と、おもしろく読みました。昭和版との異同を見るだけでも、時代性/価値観の違いがわかって、おもしろいかも。

●某自治体教育長 B様

 今度は『江戸版 親父の小言』をご恵送賜り、誠にありがとうございます。昨今は核家族化や隣近所との交流もなく、伝来されるべき行動の指針や教訓、教えなどが次世代に引き継がれなくなっているので、
「親父の小言」のような本は、現代にこそ必要なのかとも思います。「親父の小言」の中には、私自身も気を付けねばならないことが多数見受けられますので、心していきたいと思います。

●元幼稚園園長 T様
 この度は、『江戸版 親父の小言』出版おめでとうございます。また、ご丁寧にお送り下さり、とってもうれしいです。…中略… 
箇条を一つひとつ読んでみると、味わいのある小言ばかり。当たり前のようですが、その当たり前が日本人の背骨に今でもなっているんでしょうね! 東北大震災の時、苦しい中、列を乱さず順番を待って支援物資を受け取る多くの被災者の姿を見て、「静かなる尊厳」と題し日本を讃えた外国人ジャーナリストのレポートを読み、感動したことを、貴君の「親父の小言」を読んで思い出しました。
 それから、外国へ行く飛行機の中で日本人客のシートが、他国の客に比して奇麗なことは誇りさえ感じましたが、日本人として当たり前のこと、江戸時代から往来物、あるいは躾として子孫に伝えられてきた(親がそうしてきた)積み重ねの賜だろうと思います。
 これからも、今、忘れられようとしている大切なことを掘り起こして、後世に残していって下さいね。陰ながら応援しています。

●元宗教団体幹部 M様
 この度は、小泉さんの著書『江戸版 親父の小言』をご恵送いただきまして有り難うございました。…中略…
 小泉さんがご自分のライフワークとしてこの研究を深めていらっしゃることに、大聖寺の奥様のお言葉ではありませんが、み仏様、ご先祖様が見守られて、お慈悲のおはからいを次々とお手配くださっているように感じまして、うれしくなりました。…中略…
 早速読ませていただきまして、小言ではありましても、人間としての成長には欠かせないものですし、なにか温かいものを感じました。
 私の父は穏やかな人で、あまり怒られたことはありませんが、折に触れてはここに書かれている様なことを話してくれた事を思い出しました。
 また、戦争中、千葉県にあります母の実家に弟と疎開をしておりましたが、元治元年生まれで山梨県出身の祖父と祖母がいつも厳しく、ここに書かれているような躾をしてくれた事も思い出しました。…中略…

●日本公文教育研究会 U様
 『江戸版 親父の小言』の出版おめでとうございます。教育関連企業に勤務する者として、昨今、家庭を始めとして
「親が子どもに対して“ものの考え方”を教えていない」ことについて、危惧を感じている一人であります。親としても自信はないことは理解するものの「お父さんは、こう考える」ということを、伝えていくことが大事かと思うものです。
 『江戸版 親父の小言』をお送りいただきましてありがとうございます。81カ条もの小言のうち、自分の信条として言えるものはいくつあるか、数えてみましたら13ありました。
 
こういう言い切りは気持ちがいいですね。気候が暑かろうが、寒かろうが、こういうものの言いようができる人は、しっかり生きていけるのでしょうね。ありがとうございました。

●某大学名誉教授 I様
 このたびは『江戸版 親父の小言』をご恵送下さり、厚く御礼申し上げます。私は大聖寺版の存在も知りませんでしたので、
嘉永期の施本との比較、興味深く拝見致しました。これからも、この「小言」、施本として流布すると良いですね。

●某大学名誉教授 M様
 この度は珍しい物を入手され、お喜びでしょう。
近代になって現れたと思っている物が近世からであることは意外とあるものです
 写真を見て驚いたのは、お寺の奇特な施主が係わっているのに「神仏」が出てくることです。近世の人にとって「神」は何だったのでしょう。
この小言は心学道話より素朴な当時の道徳なのでしょうね

●某大学名誉教授 E様 *お電話での御礼の要旨
 相変わらず、色々と精力的にやっていますね。連載中の『武道』の記事も先日、図書館で拝見しました。
『江戸版 親父の小言』は、文章が短くて分かりやすく、影印と翻字と所々語注もあって、くずし字学習にも使えそうですね

●元某大学教授 F様
 この度は、江戸版『親父の小言』の発見、おめでとうございます。
このようにして、新事実が解明してゆくのですね。小泉様の探究心に敬意を表します。

●元某大学教授 U様
 『江戸版 親父の小言』をご恵送下さいまして、誠にありがとうございました。精力的なご研究ぶりに大変刺激を受けています。
内容は父親の温かみも感じます。嘉永5年の刊本とは驚きました。ありがとうございました。

●元某大学講師 N様
 御無沙汰しております。早速ですが、『江戸版 親父の小言』を御恵贈いただきまして、ありがとうございました。
昭和版が土産物店で売られていることも全く知らず、比較しながらの翻刻、興味深く、読ませて頂きました。新発見の資料を写真版で読めるのも、素晴らしいですね。私は研究からは全く離れて、コーラスやピアノや水泳や孫の世話で、のんびり暮らしていますので、久しぶりに江戸時代の世界を見た気がします。今後とも、どうぞご研究に、資料の紹介にと、御活躍下さい。

●某私立高等学校長 T様
 先日は『江戸版 親父の小言』をわざわざ学校までお届けいただき、ありがとうございます。
今の世の中に求められていることで、こうした書物を用いて少しずつ世の中が住み良くなることを目指したいと思っています。

●某公立中学校教師 O様
 『江戸版 親父の小言』出版おめでとうございます。貴重な資料をありがとうございます。一つずつ形を残して丁寧にまとめていき、素晴らしいですね。
人生訓の中で、自分にいくつあてはまるか比べながら楽しく拝見しました。今後も、益々のご活躍お祈りいたします。

●歴史研究家 S様
 『江戸版 親父の小言』をご恵贈下さり有り難うございました。
現代の教育の底に流れる江戸の教育の素晴らしさ、面白さを解き明かすご研究に頭が下がります。「人様」の存在を意識して生きることに欠ける現代の我々への教訓書(庶民の親父のつぶやき)として心して拝読しました。時々読み返して心したいと思います。

●某企業役員 S様
 このたびは『江戸版 親父の小言』をいただきまして、ありがとうございました。小泉君がこの江戸版を発見されたそうで、すごいですね。これまでの研究の成果の賜物ですね。「親父の小言」も
現代に通じる処世訓がふんだんに入っており、新鮮で参考になります。ありがとうございました。

●某企業社員 O様
 素敵な企画をありがとうございました。
私は、江戸時代が好きということに加えて、福島県のいわき市出身なので浪江がルーツのお話しは、個人的にとても興味があります。…中略… ご本の話し、帰省の折に、さっそく家族に報告したいと思います。

●元某企業経営者 N様
 『江戸版 親父の小言』拝受致しました。
江戸版は新発見だそうですが、他にも明治以降の創作・登場とされていたものが、実は江戸時代からすでにあった物は多々あるように思えます。…中略… 今回の『小言』を拝見していると、『平成版小言』や、『女房の小言』も考えたくなります。募集すると面白そうです。どうも有難うございました。

●某青色申告会 I様
 『江戸版 親父の小言』を拝受致しました。楽しく読ませて頂きました。知り合いにも奨めてみます。

●元税務署職員 S様
 貴重な資料大変有難うございました。
いつも気になっていたものですが、やっと原点がわかりました。