●江戸後期刊 『新撰女消息往来』 の色刷り書袋と、幕末刊 『道具字引図解(初編・二編)』の色刷り書袋
 『新撰女消息往来』の本の方は地味だが、書袋は鮮やかな多色刷りになっている。往来物に限らず、多く書袋は、書名に著者や板元を明記し、多少の飾りを添えた表紙見返しと全く同じ版木を用いて作られるケースが多いが(従って、たいてい単色刷り)、本書には表紙見返しはなく、明らかに書袋としての宣伝効果をねらったものである。
 下に掲げた『道具字引図解』の書体は、見返しと同じ版木を用いているが、見返しは大抵単色刷りであり、書袋の方は背景に色を引いて目立つように工夫してある。
 中野三敏 『江戸の板本』によれば、このような書袋(袋)は、唐本や韓本には例がなく、日本でも、寛文五枚図の江戸図に付されたものが最古とも言われ、版本では享保2年刊、竹田春庵作 『孝経釈義便蒙』のものが古く、浄瑠璃本などにも享保頃の書袋の例が見られるという。
 また、中野氏の説として、見返しと密接な関連を持つことから、あるいは見返しが登場した明暦〜万治頃に、書袋も成立していた可能性もある
 なお、見返しと独自に作成された書袋の場合には、本の方に刊年を明記せず、書袋だけに刊年を記すケース(例えば、蔀関牛注、慶応元年刊 『実語教童子教具註鈔』など)もあり、時として重要な資料となる。
 ちなみに 『江戸の板本』によれば、書袋は天よりも地の方が若干広め作ってあり、本を袋に収める時は下から入れるのが正しいとのこと。