天明8年(1788)刊『書状案文』(江戸・山崎金兵衛板)の一枚刷り広告。広告文そのものには宣伝向けの誇張も含まれるが、著者や板元、出版意図や価格なども分かり、書誌学的な資料として捨てがたい価値を持つと思う。
 この説明文も他の広告とあまり変わりばえしないものだが、それだけに当時の庶民のニーズなども思い起こされるだろう。
 下記の説明によれば、当時巷間に流布していた各種用文章には文面が簡潔でなかったり、書きたい手紙文にぴたっと当てはまらない場合も少なくなかったようである。
 実際の『書状案文』(写真下)では、商取引、五節句等佳節祝儀・見舞状、通過儀礼その他吉凶事、その他の順に105通の例文からなるが、必要に応じて身分別の例文を複数載せるなど、即座に使える利便性への配慮も伺われる。


[全文]
〈平生重法〉書状案文 東都・山金堂蔵。全一冊。世に用文章数多(あまた)ありといへとも、其文言迂遠(まわりどお)にして日用(ひにもちゆる)の間にあはす。此書は、専ら文字を自在に働し、文を案するに隙を費(ついやさ)ずして直(ただち)に文章を作(な)す事速(すみやか)なれば、則(すなわち)『書状案文』と題(なづけ)新刻(しんぱん)せしむ。最寄の書林(ほんや)にて御求可被下候。


■原寸 縦170mm×横121mm