姙娠心得記(にんしんこころえき)

  (松寿軒作。文政12年(1829)作・刊。大坂・著者施印)

*大坂の人・松寿軒については未詳。
*本書は、妊娠中の心得を綴ったもので、松寿軒という篤志家による施印(無料で配布された出版物)。

○本文より抜粋・要旨

・妊娠して10カ月で出産するがこの間を「臨月」といい、これが人間の1年にあたる。約300日に春夏秋冬があるため、一季75日である。諺に「初物を食べれば75日長生きする」というのも、一季分長生きするという意味である。
・懐妊後75日間は胎児は血の玉のような状態で形がない。3カ月目の中旬から次第に形が出来、5カ月目に人の形に調い、6カ月目から髪が生え、8カ月目から育ち始める。
・とかく妊娠は4〜5カ月目を大切の時と考え、万事慎まなくてはいけない。7〜8カ月目からは飲食さえ慎めば胎毒は生じない。この間は房事(性行為)は慎み、怪しいものを見たり、驚いたりするのは良くない。また、大いに泣いたり笑ったり、転倒して腹を痛めるなどは良くない。
・胎児は母の気を得て生まれてくるため、たとえ名将の子種でも母が愚痴であれば、子どもも愚将となって、ついに国家が滅びる。母の心得が無理非道で堪忍強くなければ、子どもも無理非道となり、親ばかりか先祖の名まで汚す。子どもが成人した後に親が泣いて暮らすケースが多い。諺に「氏より育ち」というように、生まれた後の育て方が根本である。
・妊娠中に心正しく、慎みよければ、子どもは知恵才覚人に優れ、孝行厚く、五常正しく、人に敬われ、立身出世の人となる。これは皆母の教育である。妊娠中は、『女大学』のような本や、『智恵鑑』などの本を読んで慎むことが第一である。同様に、夫も『孝経』『四書』そのほか童子のための往来物を読むべきである。


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