百姓嚢 (ひゃくしょうぶくろ)

  (西川如見作。享保6年(1721)序・作。享保16年(1731)刊。[京都]茨木多左衛門板。

*「百姓」の字義や四民の違いなどから説き始め、日本における高官の登用制度が才能とは無縁なことなどにも触れ、さらに、四恩、質素倹約、福禄寿、和漢の米、百姓と町人の違いんどを始め、農業の心得や農民生活、衣食住にわたる生活心得までを記す。その第5巻に間引きの戒めを載せる。

★第5巻記事該当個所と奥付
○要旨
 山家の土民などでは、子沢山になると1、2人を残してあとは間引きしてしまうことが多く、特に女子は大方殺してしまうという習わしの村すらあったが、代々の為政者がこれを禁止するようになってからは、郷土の知識人達もこれを住民に教諭するようになり、近年ではそのような罪悪をなす者はいなくなった。子を殺すことは父母を殺すことに次いで重い罪である。
 また双子が生まれると、その父母が大いに恥じて赤子を踏み殺したり、取り上げ婆に頼んで絞め殺したりすることがあるが、これは愚蒙の悪行である。
 和漢ともに双子、三つ子の例は多くあり、古代ではかえって吉兆として慶び、父母の名や村の名まで特記されたほどであることを四民ともによくよく知るがよい。どうしてそのような子を養育せずにいられようか。
 また貧しくて、赤子を道端に捨て置く者もいる。これはもはや人間の心ではなく、畜生以下である。仮に赤子が飢え死にしたら、子どもを捨てた親自らも飢え死にするがよい。どうして子どもを捨てて、己の命を助けようと思えるのか。
 近年だれかが詠んだというこのような歌がある。
   子を捨てて 身を安かれと 思う親の 心ぞ闇に 猶迷いぬる

★本書は所蔵先も多く、翻刻も多数ある名著です。翻刻では『岩波文庫』『日本教育文庫・訓誡篇』『日本経済叢書』『日本経済大典』など種々あります。原本で読みたい方はデジタル複写をお申し込みください(ただし家蔵本は第3巻欠)。