養子訓 (ようしくん)

  (三田義勝作。穂積以貫序。享保7年(1722)作。享保17年(1732)刊。[大阪]河内屋宇兵衛板。

*主として武士家庭における養子の心得と養子を取る側の心得を記した教訓書。上巻「総論」、中・下巻「奉仕」の3巻2部構成で、養子の歴史や養子の選び方、養子の育て方、また養子たる者が養父母にいかに仕えたらよいかなどを記す。作者は讃岐丸亀の人で自らの養子の実体験や反省から本書を著した。凡例には、作者が8歳で養子となり、10余年養父に仕えた。その間、しばしば艱難辛苦の経験をし、また自ら過ちも犯し、自ら後悔しつつ、悟ったこともあったので、それからは養父の広大な恩に報いようと日夜努めたが、著者が二十歳の時に養父が亡くなり、その悲しみのあまり、本書を著したのだという。

★本文冒頭と末尾
○養父母の心得(上巻「養育」)
・他人の子を養うには、まずわが子と思って誠の心で愛育すべきである。その心は必ず養子にも伝わる。この点が先ずもって養子を保つ秘訣である。
・養父母が少しも分け隔てなく接し、何でも率直に言って、腹に隠すようなことがなければ、養子も程なく打ち解けるようになるものだ。養父母と養子が互いに、「うわべだけ和合しているように振る舞っているが心の底はさてどうやら」などと思う心から、疑心暗鬼に陥り、果ては大事に至るのである。
・自分が生み育てた実子ですら、親の心にかなわないのに、他人の子どもはなおさらである。お互いに「忍」の一字を忘れてはならない。
・実父母と養父母の子育て法には少し違いがある。実父母は「厳」をもって教えるのが良いが、養父母の場合は「寛」をもって教えるのが良い。
・養父(*養母ではない)は、よくよく心を配って養子に衣食の施しをしてやり、芸能の務めをさせるが良い。
・養子を養うに、吝嗇(ケチ)で養子を苦しませることがあってはならない。逆に、養子の恣にして奢らせてもならない。その両方共に養子を養う道ではない。
・どれだけ篤実な養子であっても、昼夜いっしょに過ごしていれば、平穏なことばかりであるはずがない。養父母からみて不本意な変化があっても、害のない程度であれば許してやり、それを咎めてはならない。過ちがあったら、道理を諭して改めるようにさせよ。静かに述べて、少しも怒ったり罵ってはならない。
・世上の養子には、実父母からの付け届けが不十分で、衣服や刀剣などが見苦しい場合には、その家の分限に応じてこしらえ与えよ。実子を持ったことのない人は、子どもへの慈愛や養育の誠実さが本当には分からないものである。
・養子が若いうちは、その友人をよくよく見極めなくてはならない。文を学び、武を嗜む友人以外はまず無用である。有益な友には礼を厚くして親しくさせ、そのような益友が来たら、折々ご馳走などしてやり、たえず行き来するように仕向けよ。博奕や好色の友との交際は堅く禁止せよ。
・世間には実子が出来たとたんに、たちまち心を翻して、養子に言いがかりをつけて追い出す者がいるが、これは言語道断の不仁である。

★本書は他に京都大学が所蔵。影印・翻刻等はありません。原本で読みたい方はデジタル複写をお申し込みください。