父母安堵艸 (ふぼあんどぐさ)

  (楠見広共作・序。文化11年(1814)序・刊。[和歌山]市井堂蔵板。

*「父母の十恩(懐担守護恩・臨産受苦恩・生子忘憂恩・乳哺養育恩・嚥苦吐甘恩・洗潅不浄恩・回乾自湿恩・意造悪業恩・遠行憶念恩・究竟憐愍恩)」を敷衍した教訓歌に挿絵を添えた教訓書。冒頭に外典・内典による「孝」の字義と、養育の辛苦と孝行の重要性、また、本書出版の意義を記す。他に所蔵を見ない孤本であり、紀州和歌山の地方版としても珍しく、また、子育ての苦労や父母の慈愛をいきいきと伝えるユニークな教訓書である。子が読めば孝行を誘う教訓であり、親が読めば子育ての心を知る書となろう。下記の教訓歌も反芻しながら味わえば、自ずと感謝の心になれるに違いない。

★本文 「洗潅不浄恩・回乾自湿恩」 の部分
○父母の十恩 (教訓歌)
(1)懐担守護恩…妊娠中に心を砕き胎児を守ってくれた恩
  ただならぬ 身をとやかくと おもやせで ものおもふとや 人のとふまで
(2)臨産受苦恩…出産時の苦しみを耐えて産んでくれた恩
  くるしみは 我ひとりとは おもはねど 死するにまさる
(3)生子忘憂恩…五体満足を祈願し、無事産まれてこられた恩
  生(ま)れぬる 子の六こん(根)を かねてより 神にいのりて そろふうれしさ
(4)乳哺養育恩…母乳を与え育ててくれた恩
  鳥だにも 反哺の孝は するぞかし あら口をし(口惜し)の 人なみで居て
(5)嚥苦吐甘恩…自分の身の衰えは構わずに、子の成長ばかりを願ってくれた恩
  けふ這へば あすはあゆめと たのしみて 身のしはすをも しらがおやぢは
(6)洗潅不浄恩…汚れたおむつなどを洗濯してくれた恩
  年老(い)て だれもわすれな 我親に ながく不浄を 洗はせしおん
(7)回乾自湿恩…おねしょで濡れた所に親が寝て、子どもには乾いた所へ寝かせてくれた恩
  我が親の めぐみもかくと 今ぞしる 副乳(そえぢ)のとこに 身をひたしては
(8)意造悪業恩…悪業を犯すほどに、溺愛してくれた恩
  親は子に 迷ふて日々の 悪業も この子をおもひ つるの孫まで
(9)遠行憶念恩…遠出や旅行をして親に心配をかけた恩
  子をおもふ 親ほどおやを おもひなば 遠くあそばず たびまくらすな
(10)究竟憐愍恩…どこまでも限りなく子どもを愛してくれた恩
  露霜の めぐみをしらぬ 艸や木は おのが身ままに えだ葉からしつ


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