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江戸前期
【慶安 一六四八〜五二】

1 女筆小野のおづう手本
 にょひつおののおづうてほん
[異称]『篁筆抄』。
[書型]二巻二冊(大本か)。
[作者]小野通書。
[板種]慶安五年(一六五二)刊。
慶安五年板(江戸・松会市郎兵衛)*『往来物分類目録』。
[類型]女筆手本。
[内容]不明。
[備考]岡村金太郎『往来物分類目録』に「(書名僅ニ篁筆抄ト判読ス)於通ノ筆蹟ヲ板行シタルモノ也 慶安五(松会市郎兵衛板)」とある。ただし、同氏大正一一年講演「往来物に就きて」では慶安元年刊とする。また、『元禄五年書目』に「二、同(女筆)小野ゝおづう手本」とある。
[所蔵]現在所在不明。
[複刻]なし。

【万治 一六五八〜六一】

2 女庭訓
 おんなていきん
[異称]外題『女庭訓 女筆』。首題『女庭訓往来』。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]一花堂(一華堂・和田宗翁・以悦)作。窪田やす書。
[板種]万治二年(一六五九)以前刊。
刊年不明板(京都・丸屋源兵衛)*謙堂・文学堂。
[類型]女筆手本。
[内容]『女庭訓往来』『女庭訓御所文庫』『女庭訓宝文庫』等の書名で江戸中・後期にかなりの普及(板種にして約六五種)を見た女子用往来だが、女筆手本は初板本のみで、『女庭訓 女筆』の題簽を有する三巻三冊本である。上巻には一〜四月、中巻に五〜八月、下巻に九〜一二月の各月往復二通、一年一二カ月で合計二四通の女文を収録するが、実用の消息例文というよりは、年中行事の故実を主とする女性の教養や女性の言葉遣いや心得などに重点を置いて編まれたものであって、女用文章そのものではない。一月は宮中の正月風景や行事について述べた後で楊弓の会を案内する往状とその返状。二月は東山の花見の誘引状とその返状。三月往状は任国に赴く道中について問う文で、その返状で粟田山から関の藤川までの名所旧跡をかなりの長文で紹介する。四月往状は女性の道について教示を求める手紙で、その返状で「四徳(婦徳・婦容・婦言・婦功)」などについて詳しく説かれている。五月状は端午の節句祝儀状で、特に御厨子・黒棚の飾り方に関する往復文。以下、六月状は祇園会、七月状は乞巧奠、八月状は八朔祝儀と秋の極楽寺参詣、九月状は重陽の節句と庚申待ち、一〇月状は猪子の祝儀と女性の心映え、一一月状は新嘗祭、一二月状は着物の染色についての問答文を収録する。いずれも往状で問い、返状で答える形式のため、多くの場合返状が長文で綴られている。このように本書は、女性としての知識・教養・心得の習得にウエートが置かれた往来である。全文を並べ書きで綴り、本文中の任意の語句に細字の略注を施す。
[備考]冒頭部「としのはしめの御よろこひ、事ふりさふらへとも、つきせぬめてたさにて候」。『万治二年書目』に載る。また『寛文一〇年書目』では「三冊、女庭訓、一花堂作、大津のやす女筆」と記す。各書目に記載された価格は、元禄九年が二匁七分、宝永六年・正徳五年が三匁七分で、板元を「丸や源」と記す。
[所蔵]他に小泉(上)・筑波大。類書は多数あるが初板本はわずかである。
[複刻]初板本は『稀覯往来物集成』一三巻のみ。類本は『往来物大系』九一巻/『往来物分類集成』R二七/『日本教育文庫』教科書篇/『日本教科書大系往来編』一五巻/『女学叢書』/『女訓評釈』/『女子用往来物分類集成』R一七・R二二・R二三に収録。

3 女筆手本
 にょひつてほん
[異称]不明。
[書型]一冊(大本か)。
[作者]不明。
[板種]万治二年(一六五九)以前刊。
[類型]女筆手本(『寛文一〇年書目』に「女筆手本、一冊、女筆」と記す)。
[内容]不明。
[備考]『万治二年書目』。また各書目に記載された価格は、元禄九年に五分、元禄一一年では一冊本(本書)が五分、二冊本(小野通書)が一匁と別記されていたのが、宝永三年・宝永六年・正徳五年で一匁に一本化されている。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

4 女初学文章
 おんなしょがくぶんしょう
[異称]なし。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]一花堂(和田宗翁・以悦・一華堂)作。窪田やす書。
[板種]万治三年(一六六〇)六月刊。
万治三年板(京都・丸屋源兵衛)*東北大。
万治三年板(刊行者不記)*小泉・東大・謙堂(下)・弘前市図(下)。
[類型]女筆用文章。
[内容]寛永六年(一六二九)刊『初学文章抄』上・中巻の例文の題材に沿って編んだ女用文章(本書例文の六二%は『初学文章抄』の模倣)。上巻に「用の事ありて文をつかはす事・同返事」以下の往復文二〇通、中巻に「やくそくなしに物をかりにやる文・同返事」以下二一通(うち「弔状」のみ返事なし)、下巻に「乱舞に人をしやうじて礼にやる文・同返事」以下二二通の合計六三通の例文を収録した女用文章・女筆手本。四季時候の手紙はごく少数で、大半が実用的な用件中心の文面で、いずれも散らし書きにする(特に弔状の散らし書きは他にほとんど例をみない特異なもの)。本文上欄には界線で仕切った頭書欄を設け、例文中の語句の略注や、簡単な書翰作法などを記すが、本文との対応関係を丸付き数字で示す(女子用往来の頭書注釈として最も早い例)。娘の宮仕えのための事前教育を依頼する手紙や、賀茂川の石伏(淡水魚)や桂川の鮎を贈る手紙など、例文は主として京都の上・中流階級の女性の日常生活に関するものである。いずれにしても本書は、女用文章・女筆手本では近世期最初の刊本の一つとして重要である。
[備考]冒頭部「さいつ比あからさまに申入候つる御事たのみ申たく候」。『寛文一〇年書目』に「三冊。女初学文章。右(一花堂)之作。右(大津のやす)之筆」と記す。各書目に記載された価格は、元禄九年が一匁七分、宝永六年・正徳五年が二匁七分であるから、『元禄九年書目』の記載は誤植であろう。なお、板元を「丸や源」とする書目が多い。
[所蔵] 他になし。
[複刻]『江戸時代女性文庫』六〇巻/『女子用往来物分類集成』R一七(下のみ)。

5 女筆往来
 にょひつおうらい
[異称]なし。
[書型]大本三巻三冊。のち三巻合一冊。
[作者]中川喜雲作。武藤氏書か。
[板種]万治(一六五八〜六一)頃刊。元禄以降(あるいは初板本以降)の板元は、京都・秋田屋平左衛門。
刊年不明板*謙堂。
刊年不明板(京都・秋田屋平左衛門 *後印)*筑波大。
[類型]手本(男筆か)。
[内容]主として四季折々の女消息文を集めた手本で、上巻が新年祝儀状から端午節句祝儀礼状までの一四通、中巻が暑中見舞いから歳暮祝儀状・返状までの一四通、下巻が女性の芸能(双六・俳諧)についての手紙から婚礼祝儀状までの七通で、全三五通のうち散らし書きと並べ書きが相半ばしている(散らし書き一九通・並べ書き一六通)。中には「髪を洗い始めたばかりなので簡単に返事します」と断ったものや、霜ばれの薬を頼む手紙など生活感のある例文も見え、また、下巻には「手心通」と称する女性の隠語について紹介した例文も見え興味深い。なお、上巻巻頭に女性手習い図を掲げるが、これは万治三年(一六六〇)刊『知古往来』(武藤氏書。京都・秋田屋平左衛門板)の口絵と同体裁であり、本文の筆跡も武藤氏のそれと酷似するため「女筆」と題するが、男性筆の可能性が高い。また、本書後印の三巻合一冊本(秋田屋平左衛門板)には三冊本と内容に異同がある。後印本ではまず巻頭口絵一葉を省き、上巻第七・八状の二通を下巻第三状の前に移動させ、さらに下巻第一状の前に「子猫所望の文・同返状」の二通を増補する一方、下巻第五状の「手心通」に関する手紙と記事を削除した点が大きな変更点で、このほか上巻第一二状では返書(折り返して書く文面)の一部を削って短くしてある。また後印本には表紙見返に梅花の挿絵と表題を掲げ、巻末跋文に「此本は手ならふ女わらはへたすけにも成へきかと、硯の海をくみ、もしほくさとも書あつめ、梓におこなふ」の一文を載せる。
[備考]冒頭部「みつのはしめの御祝、何方も限りあらさることふき申納まいらせ候」。再板本では見返に挿絵・書名を加える。『寛文一〇年書目』に「三冊。女筆往来。中川喜雲作」と記すが、字体や体裁が武藤氏筆の『知古往来』に酷似する。また各書目に記載された価格は、元禄九年に二匁二分だったが、宝永六年・正徳五年は三匁二分となっているから、『元禄九年書目』の記載は誤植か。
[所蔵]他になし。
[複刻]『往来物大系』九一巻/『女子用往来物分類集成』R一七/『江戸時代女性文庫』七九巻。

6 新板 女手本 かはり
 おんなてほん
[異称]異本外題『新板 女てほん』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]不明。
[板種]万治(一六五八〜六一)頃刊。
刊年不明板*吉海。
刊年不明板(*上記と異板)*吉海。
刊年不明板(*上記二本と異板。絵入)*学芸大(「文づくし」下)。
[類型]手本(女筆か)。
[内容]女筆手本の初期刊本の一つ。筆者名及び刊年を記さないが、装訂などから万治頃の刊行と思われる。上巻には新年から早春の頃の手紙や、旅立ち餞別状、男子出産祝儀状など六通を載せ、下巻には弥生節句祝儀の礼状以下、郭公の初音、端午節句、夕涼みの祇園散策、七夕、八朔、通天の紅葉見物などを題材にした七通を収録する。全文散らし書きで、うち、同一文中に「かしく」を三回使用する例も見られる。また、原題簽下部に「かはり」、角書に「新板」の文字を添えることから、先行板の存在も推定される。なお、本書には異本二種(いずれも下巻のみで異板)が確認されている。一つ(吉海本)は上記下巻七通に続けて、初雪の日の詠歌の披露かたがたお越し下さいという主旨の手紙と、歳暮祝儀の礼状の二通を増補したもので、さらにもう一本(学芸大本)は字配りが大幅に異なり、挿絵数葉を加えたものである。なお、高尾一彦氏が「女筆手本をめぐる諸問題」(樟蔭女子短期大学『文化研究』一号)に紹介する「新版 女筆 かはり」は本書の異本か。
[備考]冒頭部「此春のめてたさ、いよ覚しめし候御まゝの御まんそくと、いく久しく申し候はんとのめてたさにておはしまし候。めて度かしく」。なお、異本のうち学芸大本には「宝永」の書き入れがある。
[所蔵]他になし。
[複刻]『江戸時代女性文庫』七九巻。

【寛文 一六六一〜七三】

7 女筆手本
 にょひつてほん
[異称]不明。
[書型]二冊(大本か)。
[作者]小野通書。
[板種]寛文六年(一六六六)頃刊。
[類型]女筆手本。
[内容]不明。
[備考]『寛文年間書目』(寛文六年頃刊)に一冊本「女筆手本」に続いて二冊本「同二ノ」と記す。また『寛文一〇年書目』中、本書に相当する記事に「女筆手本、二冊、小野のつう女」とある。ただし、通には既に 慶安五年(一六五二)刊『女筆小野のおづう手本(篁筆抄)』(二冊本)が出版されているというから、これを指すか、あるいはその改訂版かもしれない。また、『延宝三年書目』では「一、女筆」に続いて「同二ノ」「同三ノ」「三、同往来」と記す。最後は喜雲作『女筆往来』であるが、前二者は『女筆手本』二冊本と三冊本の二種あったことを示すものであろう。ただし、現存本ではこれを特定できない。さらに『天和元年書目』では「一、女筆、九分」「同二ノ、一匁五分」「同三ノ、(不記)」「三、同往来、二匁五分」とそれぞれ価格を記す。また『元禄一一年書目』では二冊本の「女筆手本」の価格を一匁とする。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

8 女筆かほよ草
 にょひつかおよぐさ
[異称]異称『女筆手本かほよ草』。
[書型]一冊(大本か)。
[作者]女筆手本か。
[板種]寛文六年(一六六六)頃刊。
[類型]不明。
[内容]不明。
[備考]『寛文年間書目』(寛文六年頃刊)。また『寛文一〇年書目』に「一冊、かほよ草、手本」と記す。『天和元年書目』には「一、かほよ草、八分」と価格を記す。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

9 女筆文章
 にょひつぶんしょう
[異称]不明。
[書型]三巻三冊(大本か)。
[作者]不明。
[板種]寛文一〇年(一六七〇)頃刊。元禄以降の板元は、京都・秋田屋清兵衛である。
[類型]女筆用文章か。
[内容]不明。
[備考]『寛文一〇年書目』に「三冊、女筆文章」とある。ただし、『元禄九年書目』等によれば後一冊にされたか。また各書目に記載された価格は、元禄九年・宝永六年・正徳五年とも二匁。板元は「秋田や清」と記す。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

10 女用文章
 おんなようぶんしょう
[異称]不明。
[書型]二巻二冊(大本か)。
[作者]不明。
[板種]寛文一〇年(一六七〇)頃刊。
[類型]女筆用文章か。
[内容]不明。
[備考]『寛文一〇年書目』に「二冊、女用文章」とある。ただし『寛文一一年書目』では「一冊」と記載され、その改訂版『延宝二年書目』では再び「二冊」に訂正された。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

【延宝 一六七三〜八一】

11 嶌原大夫 手跡文章 もんつくし
 しゅせきぶんしょう
[異称]書名は原題簽による。序題『嶋原手跡文章』。
[書型]大本一冊。
[作者]多色軒編・序。よしざき・たかを・花崎・瀧川・かほる・いくよ・よしほ・きん太夫・よしたか・こまち・はん女ほか書。
[板種]延宝二年(一六七四)一一月序・刊。
延宝二年板*早大。
[類型]女筆手本(艶書)。
[内容]京都・島原(公許遊里)における遊女(太夫)二一人の筆跡を模刻した女筆手本。男に送る短文の艶書一九通と恋歌二首(「しまはらのよるの契りも絶ぬへし 明なわひしきかつらきのきみ」ほか)を大字・無訓の独特な散らし書きで綴る。各丁ごとに筆者が異なり、手紙または和歌の冒頭部上部に家紋、同下部に筆者名掲げる。
[備考]冒頭部「ひとへは思ひよらすのこけんさんと、わかみのうからんにおもゑは…」。
[所蔵]他になし。
[複刻]なし。

12 新板 四季仮名往来
 しきかなおうらい
[異称]再板本等の外題に『御家 仮名往来』または『再板 仮名往来』がある。柱題『仮名往来』。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]置散子作・書。松葉軒(置散子門弟)跋。
[板種]延宝六年(一六七八)八月刊。延宝七年八月再刊。
延宝六年板(江戸・吉田屋喜左衛門)*謙堂。
延宝六年板(江戸・井筒屋三右衛門 *後印)*小泉・東大・玉川大・京大。
延宝七年板(江戸・井筒屋)*謙堂・東博。
延宝七年板(*前記から刊行者を削除)*筑波大。
刊年不明板(江戸前期)*三次市図。
[類型]男筆手本。
[内容]延宝期に活躍した置散子の代表的な手本。幼少の「おさな」と「綾小路の局」との間で交わす各月往復二通、一年一二カ月二四通の女文で、年中行事(元三・門松・若菜・子の日の遊び・左義長など一月の行事から、御髪上げ・節分など一二月の行事まで)の内容・由来・意義を綴ったもの。女文の書き方とともに年中行事故実等の基礎知識の並行学習をねらった往来で、おさなが往状で問い、綾小路の局が返状で答えるという問答形式も含め、『女庭訓往来』にならって編まれたものであろう。なお、本書は筆跡・内容などの点から『女学仮名往来』との関連が考えられる。
[備考]冒頭部「初春の御ことふき、いく千代よろつ代まてもつきし候ましくといわゐ入まいらせ候」。延宝六年・井筒屋板の題簽に二様あり。一つは初板本同様の『新板 四季仮名往来』(小泉本等)、もう一つは『再板 仮名往来』(玉川大本等)である。
[所蔵]他に鹿沼大欅・西尾市図。
[複刻]『往来物大系』七六巻/『往来物分類集成』R一八/『女子用往来物分類集成』R二五/『日本教科書大系往来編』六巻。

13 新板 女学仮名往来
 じょがくかなおうらい
[異称]なし。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]不明。
[板種]延宝(一六七三〜八一)頃刊か。
刊年不明板(京都か)*謙堂・弘前(上・中)。
[類型]手本(男筆か)。
[内容]蘭と妙智、または蘭と綾小路住の女性など複数の女性間で送り交わす四季折々の手紙(各月一通合計一二通)の形をかりて女子一生の教訓を述べた往来。各状の冒頭は修辞に富んだ四季時候の挨拶だが、例文の主内容は女子心得についての問答である。まず一月状で、御所奉公が長く学問の機会が少なかったとする蘭が比丘尼妙智へ人の道を尋ね、その返状である二月状で『列女伝』『礼記』によりながら「胎教」の概要を説くという具合に展開する。以下、『小学』『礼記』『孝経』などに基づいて、人間生得の「良知・善心」の発現を根本としながら、年齢別・男女別の教育法や心得、六徳(智・仁・聖・義・忠・和)、八刑(不孝、夫または妻の親類との疎遠、兄への不敬、友への欺瞞、他人の不孝への不仁、空言、惑乱)、五倫、孝行、夫婦の道、女子三従、七去・三不去、長幼、朋友までの諸教訓を諭す。大字五行、稀に付訓の並べ書きで記す。作者不明だが、宛所に小路名を使う公家の伝統的な書簡形式が見られることや例文内容から京都で編集・出版されたものと思われる。いずれにしても、教訓を説いた女筆手本類の早い例として重要であろう。
[備考]冒頭部「あさみとり春たつそらにうくひすの、初音まちつけてきくものから、四方のけしきののとけさ、松のいろそふ御代なれは、風えたをならさす、雨つちくれをうこかさぬ御事とて、ぬうてうも三皇の御代を初音に唱へ…」。『延宝三年書目』の増補版たる『天和三年書目』に「三、女学仮名往来」と記すのが書籍目録上の初出である。また、『元禄五年書目』に「三、女学かな往来」と記す。なお、本文内容や筆跡などの点で、前項『四季仮名往来』と密接な関連がある。
[所蔵]他になし。
[複刻]『往来物大系』七六巻(四季仮名往来)/『女子用往来物分類集成』R二五。

【天和 一六八一〜八四】

14 当流 女用文章
 おんなようぶんしょう
[異称]上巻外題『当流 女用文章 四季』、中巻外題『当流 女用文章 祝言』、下巻外題『当流 女用文章 雑并字尽』。なお、改編版の外題は小振りの文字に変わり、各巻の概要を示す「四季」「祝言」「雑并字尽」等の添え書きも省かれた。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]源女書・跋。
[板種]天和二年(一六八二)七月刊。江戸中期補刻。
天和二年板(京都・山崎屋市兵衛・吉野屋次良兵衛)*謙堂・小泉・ 東大。
刊年不明板(*異板)*小泉(上・下)・吉海(上)。
[類型]女筆用文章。
[内容]江戸初期の女用文章・女筆手本の一つ。跋文によれば、本書はある人の娘のためにしたためた、散らし書きの四季女用文章である。上巻は一月から一二月までの一二カ月往復二四通の例文、中巻は三・五・九月の節句祝儀状と通過儀礼に伴う手紙の二〇通および「しん上のおりかみかきやう」の記事、下巻は「ふるまひよひにやる文」など諸用件に関する手紙二〇通および「字つくし(万着類之分・諸道具之事)」の記事で、書状数は合計六四通。いずれも大半が散らし書きだが、並べ書き数通を含む。特に、頭書に本文要語の略注を載せた女用文章としては、万治三年(一六六〇)刊『女初学文章』についで早い。なお、本書の目次および下巻末の語彙集の全てと本文約四〇丁分を割愛して例文の配列を任意に改めた、同名の二巻二冊本(あるいは三巻三冊か)がのちに刊行されている。題簽と本文の丁付けを改刻してあり、江戸中期の刊行と思われる。この改編版では目録はなくなり、書簡作法や各種字尽など例文以外の記事も全て削除された。
[備考]冒頭部「此春よりの御ことふき、子日まつも万代とめてたく申まいらせ候」。『天和三年書目』に「三、女用文章」とあり。
[所蔵]他に吉海(中)。
[複刻]『往来物大系』九一巻/『江戸時代女性用文庫』七九巻/『女子用往来物分類集成』R一七。

【貞享 一六八四〜八八】

15 増補女初学文章
 ぞうほおんなしょがくぶんしょう
[異称]不明。
[書型]三巻三冊(大本か)。
[作者]一花堂作か。窪田やす書か。
[板種]貞享二年(一六八五)頃刊。
[類型]女筆用文章。
[内容]不明。
[備考]『貞享二年書目』には、本書の書名を二カ所に重複して記載するが、一方はオリジナルの『女初学文章』を指すか。なお、『元禄五年書目』では、「三、女初学文章」に続けて「三、同増補」と記す。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

16 御所女筆
 ごしょにょひつ
[異称]異称『女筆御所』。
[書型]二巻二冊(大本か)。
[作者]不明。
[板種]貞享二年(一六八五)頃刊。元禄以降の板元は、江戸・万屋庄兵衛。
[類型]女筆手本か。
[内容]不明。
[備考]『貞享二年書目』。『元禄九年書目』から「女筆御所」と記載。また各書目に記載された価格は、元禄九年・宝永六年・正徳五年ともに一匁で、板元を「万や庄」と記す。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

17 女筆手本尽
 にょひつてほんづくし
[異称]『元禄五年書目』に「三、女筆手本づくし」と記す。
[書型]三巻三冊(大本か)。
[作者]不明。
[板種]貞享二年(一六八五)頃刊。
[類型]女筆手本か。
[内容]不明。
[備考]『貞享二年書目』。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

18 女今川
 おんないまがわ
[異称]首題『今川になぞらへて女いましめの条々』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]窪田つな書・跋。
[板種]貞享四年(一六八七)六月刊。
貞享四年板(京都か・福森三郎兵衛)*東博。
[類型]女筆手本。
[内容]『女今川』には本書に始まる貞享四年板系統と次項の元禄一三年板系統の二種あるが、江戸中期から明治期に至るまで両系統で二五〇種以上の板種と二〇種近くの異本を生み、女子用往来中最も普及した。両系統とも同趣旨の教訓を全二三カ条と後文からなる壁書形式の文章で綴るが、これは『今川状』のスタイルにならったものである。貞享板系統は第一条が「一、常の心ざし無嗜にして女の道不明事」で始まり、以下、女性にあってはならない禁止項目を列挙し、家庭における女性の心得全般を諭す。各箇条は、家庭における女性の日常の心得を、親や舅、姑、夫、その他家内の構成員(下僕等)、親類、友人、他人、特に僧侶や夫以外の男性との関係の中で説いたもの。後文を含め、全文並べ書き。本書以後多数出版されたが、そのうち明らかな女筆手本は両系統を含めても数本に過ぎず、ほとんどが男性書家によるものと想像される。なお、貞享四年板(本文一面大字三行)はのち、各丁の本文行数を増やして丁数が減らされたが、この改刻本では窪田つなの署名は削除された(跋文はしばらく残されたが、版を重ねるうちに消滅した)。
[備考]冒頭部「一、常の心ざし無嗜にして女の道不レ明事」。『元禄五年書目』に「二、女今川」とあるのは貞享板を指すものであろう。各書目に記載された価格は、元禄九年が八分、宝永六年・正徳五年が一匁二分である。また、板元を「福森」と記す。
[所蔵]初板本は他に所蔵なし。
[複刻]『稀覯往来物集成』一三巻/『往来物大系』八六巻/『女子用往来物分類集成』R六/『日本教科書大系往来編』一五巻。

19 絵入 当流女文章
 とうりゅうおんなぶんしょう
[異称]書名は各巻の外題による。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]吉田半兵衛画。
[板種]貞享五年(一六八八)一月刊。
貞享五年板(京都・寺田与半次、大阪・平野屋庄左衛門、江戸・橋本重兵衛)*玉英堂。
[類型]手本(女筆か)。
[内容]原本未見だが、『玉英堂稀覯本書目』第一八九号によれば、まず「女性のための手紙の見本並びに書道の手本の絵入本として最も初期のものの一つ」で、貞享頃に活躍した上方の版下絵師・吉田半兵衛の挿絵を多く掲げた独特な女筆手本である。絵入りの女筆手本はこの当時は極めて少ないが、本書は上巻九葉、中巻一〇葉、下巻四葉の合計二三葉と桁外れな豊富さである(紙数は上中下の順に二〇枚、一八枚、一六枚)。同書目の表現を借りれば「画面大きく、構図に勝れ、人物の姿態艶治、浮世絵の逸物吉田半兵衛の円熟期の力作として一種の品格がある」挿絵である。内容は上・中巻は後述の『当流絵抄 万宝女文』と同じと思われるが(詳細は同項参照)、下巻も同様の散らし書きの手本であろう。妙躰流が普及する以前の小野通・居初津奈・沢田吉らとも異なる軽妙な筆遣いである。なお、本書に若干の記事を追加した改題本に、江戸前期刊『当流絵抄 万宝女文』がある。
[備考]冒頭部「はつ春の御ことふき、うへ宮々様かた御機嫌よく御としかさねあそはされ、幾久いはゐ入まいらせ候…」。
[所蔵]小汀文庫・ハイド(D.& M. Hyde)氏旧蔵。他に所蔵なし。
[複刻]なし。

20 女文章鑑
 おんなぶんしょうかがみ
[異称]上巻外題『女文章鑑』、下巻外題『女文章かゝ見』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]居初津奈作・書・序。
[板種]貞享五年(一六八八)三月刊。
貞享五年板(京都・中村孫兵衛)*母利。
[類型]女筆手本。
[内容]本書には執筆者の記載がないが、元禄三年(一六九〇)刊『女書翰初学抄』の序文により本書が、ある人の依頼により居初津奈が著した女筆手本であることが明らかである。津奈の往来物には独特なものが多いが本書も例外ではなく、上巻に二〇種、下巻に一二種ずつ不適当な例文と適切な例文の二通り(従って実質六四通)を掲げて女性らしい手紙文を教えようとした独特な往来である。それぞれ日常の交際に伴う五行程度の短文で、各丁の表には俗語、片言、男言葉など不適当な女文を掲げてその問題点を指摘し、その裏に正しい文章(正風躰)を載せたものである。さらに下巻末に女性書札礼全般に関する記事を掲げるが、これらは後、『女書翰初学抄』下巻末「文かきやうの指南十ヶ条」に集約された。なお、本書の改題本に享保五年(一七二〇)刊『女中文章鑑』がある。
[備考]冒頭部「先度は御こしの所にふたと御帰にて、なに事も申さす、さて御残多存まいらせ候」。『元禄五年書目』に「二、女文章かゝみ」と記す。各書目に記載された価格は、元禄九年・宝永六年・正徳五年とも一匁五分である。また板元を「永原や」と記すが、これは永原屋孫兵衛(中村氏)のことである。
[所蔵]他になし。
[複刻]『江戸時代女性文庫』八六巻。

【元禄 一六八八〜一七〇四】

21 女書翰初学抄
 おんなしょかんしょがくしょう
[異称]なし。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]居初津奈(都音)作・書・序。
[板種]元禄三年(一六九〇)一月作・刊。
元禄三年板(京都・小佐治半右衛門)*玉川大。
[類型]女筆用文章。
[内容]本書は、居初津奈がある人の求めに応じて女子手習いの手本として著わしたものを上梓したもので、三巻三冊からなる女用文章である。例文は全て月次順に配列されており、上巻には一〜五月に相当する例文(「正月初て遺文之事」以下二一通)、中巻には五〜一〇月に相当する例文(「五月雨に遺文之事」以下二一通。ただし、第一六状「紅葉を送る文之事」の返状は頭書欄に掲載されているため、これを含めると二二通)、下巻は一一〜一二月に相当する例文(「雪のふりたる時遺文之事」以下一五通)と付録記事六項からなる(全五七通収録)。四季時候の手紙を主とするが、用件中心の例文や弔い状なども含まれている。上巻のほとんどが散らし書きなのに対して、中・下巻は並べ書きが大半である。また、本文の要語にはそれぞれ、振り仮名、漢字表記、略注などが添えられており、特に頭書注釈が広範に及んで、かつ類語や出典を明記しながら詳しく施してあるのは、女子用往来中異色である。また下巻巻末には「女中詞遣字尽」等の字尽や、「文かきやうの指南十ヶ条」といった書翰作法の記事を載せる。本書は後続の女用文章に多大な影響を及ぼし、付録記事を改めただけの改題本・改刻本として、元禄一一年(一六九八)刊『女用文章大成(女用文章綱目)』、元禄一二年(一六九九)刊『当流女筆大全(増益女教文章)』、享保六年(一七二一)刊『女文庫高蒔絵』、元文三年(一七三八)刊『女文林宝袋』の四本があるほか、元禄一〇年刊『女万用集』にも本書の内容のほとんどが収録されている。
[備考]冒頭部「あら玉の春のめでたさ何かたもおなじ御事にて、いはゐ入まいらせ候」。『元禄五年書目』に「三、女書翰初学抄」と記す。各書目に記載された価格は、元禄九年・宝永六年・正徳五年とも二匁七分。また板元を「かなや半」と記す(金屋半右衛門は小佐治氏)。
[所蔵]他になし。
[複刻]『江戸時代女性文庫』六〇巻。

22 女筆手本 沢田のお吉
 にょひつてほん
[異称]上・下巻外題『女筆手本 沢田のお吉』、中巻外題不明。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]沢田吉書。
[板種]元禄四年(一六九一)一月刊。
元禄四年板(江戸・板木屋新助・本屋清四郎)*逓博。
刊年不明板*島原(中・下)。
[類型]女筆手本。
[内容]短文の女消息文例四二通を綴った女筆手本。並べ書き三通を除くほとんどが散らし書き。内容は、四季折々の手紙や、日常の諸事にかかわる手紙(礼状・見舞状・挨拶状・誘引状など)、また通過儀礼(髪置き・成人・結納・婚礼等)に伴う祝儀状などから成るが、収録された文例は月順とは無関係に並べられている。中には、江戸両国の花火などの風物や、当時流行していた帯の結び方など風俗に触れた文例も見られる。筆者は元禄一三年(一七〇〇)板『女今川』の作者で有名な女流書家。
[備考]冒頭部「此春よりの御めてたさ、松のみとりもひとしほに、千とせをのふる御ことふき、いつくもおなしかるへく候。めてたくかしく」。『享保一四年書目』に「二、沢田女筆手本」とあるのは、本書の再板本であろうか(本書では同一と見なしておく)。
[所蔵]他になし。
[複刻]『江戸時代女性文庫』二〇巻。

23 四季 女文章
 おんなぶんしょう
[異称]上巻外題『四季 女文章 おをづのうゝ』、下巻外題『四季 女文章 小野のおづう』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]小野通書。
[板種]元禄四年(一六九一)九月刊。
元禄四年板(江戸か・大塚屋)*小泉(下)・早大(下)。
刊年不明板*東大。
[類型]女筆手本。
[内容]文面の偏りや文字の大きさ、字配り等の不統一が見られるが、換言すれば、各状の書法は変化に富んでいる。小野通の手本は本書以前に数種刊行されたと見られるから、既刊の手本数種を合冊したものかもしれない(本書以後も収録順序を変えた改題本が出版されている)。巻頭に新年祝儀状六通を掲げ、以下、五節句祝儀状や四季折々の贈答の手紙を中心に合計二三通を収録する(うち四通が並べ書きで他は散らし書き)。この二三通中第一〇状「上巳節句祝儀状」、第一三状「端午節句祝儀状」、第二三状「手紙礼状」の三通を削除し、さらに収録順序を全く改めたうえ、「『源氏物語』拝借の文」「通天の紅葉見物誘引状」「男子出産祝儀状」の三通と、独特な散らし書きの和歌四首を増補した改題本が享保頃(一七一六〜三六)刊『女筆春の錦』である。能書家お通の融通無碍な筆跡である。因みに、神戸大学文学部に寄託の『新版 女筆 かはり』の図版(高尾一彦「女筆手本をめぐる諸問題」)を見ると、本書下巻巻末の一状と筆跡が全く同じ(ただし異板)で、小野通の手本が様々な書名で出ていたことを想起させる。
[備考]冒頭部「はつ春のめてたさ、誠にいくよろつ世もつきし候はぬ御ことふきを申うけ給はんと、かすかすいわゐ入まいらせ候」。板元は大塚屋清兵衛か。『享保一四年書目』に「一、四季女文章」とあるのは、本書再板本か(本書では一応同一と見なしておく)。題簽では「おづう」と濁るように「於通」は「おづう」と読むのが正しい。
[所蔵]他になし。
[複刻]『往来物分類集成』R二七

24 ひいな女筆手本
 ひいなにょひつてほん
[異称]一名『ひいなの女筆』。
[書型]一冊(大本か。ただし『元禄九年書目』等によれば二冊)。
[作者]不明。
[板種]元禄五年(一六九二)頃刊。京都・永原屋(孫兵衛か)板。
[類型]女筆手本か。
[内容]不明。
[備考]『元禄五年書目』。また『元禄九年書目』『宝永六年書目』によれば、板元は「永原屋」、価格は九分。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

25 首書絵抄 女筆四季文章
 にょひつしきぶんしょう
[異称]序題『女筆四季往来』。首題『四季往来』。(標記角書は上巻。中巻は「首書絵入」、下巻は「首書絵抄」)。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]中村甚之丞(栄成)作・書。
[板種]元禄六年(一六九三)一月刊。
元禄六年板(京都・福森兵左衛門)*三次市図。
元禄六年板(京都・堀重兵衛)*牽牛庵。
[類型]男筆用文章。
[内容]万治二年(一六五九)以前刊『女庭訓』や延宝六年(一六七八)刊『四季仮名往来』と同様に、花鳥風月を主とした四季の移ろいや年中行事について記した往来。各月往復二四通(上巻一月〜四月、中巻五月〜八月、下巻九月〜一二月)の女文で、五節句その他の年中行事故実、四季の風趣などを紹介する。全文を大字・五行・付訓の並べ書きで綴る。一部『女庭訓』の影響が認められ、本文は『女庭訓』よりも記述がやや簡単であるが、頭書には年中行事故実等についての詳しい説明と図解を多く掲げる。なお、本書に前付記事を増補した改題本が享保六年(一七二一)刊『女つれ色紙染』である。
[備考]冒頭部「あらたまりぬる初春の目出たさ、秋津嶋の外迄も波風しつかに歳徳神は一年の福をむかへ、千とせを延る錺松まても一入にきしく、去年の鴬のねも梅花の雪をおとしてゆるやかに、谷の氷春の日にとけ、泉のなかるゝ音、みちてきこえ申候」。
[所蔵]東大・小泉(中)・小松(上のみか)。
[複刻]『稀覯往来物集成』四巻/『女子用往来物分類集成』R二五/『日本教科書大系往来編』六巻。

26 絵入 女教訓文章
 おんなきょうくんぶんしょう
[異称]外題『絵入 女教訓文章 女筆』。首題『鏡にむかひてあしき所をなをし、よきを猶いつくしくす女の本心明らかなるべき教訓』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]居初津奈(都音)作・書。
[板種]元禄七年(一六九四)三月書・刊。
元禄七年板(京都・文台屋治良兵衛)*謙堂・家政学院大・三次市図(「孝逆之教」上)。
[類型]女筆手本。
[内容]中江藤樹作『鑑草』八章の根本理念を「孝は孝行也。逆は不孝なり。孝行なる人には天道さいはひをあたへ、不孝なる人には天罰をくだしたまふ…」のように簡潔・平易に綴った教訓文。上巻に「孝逆之教」「守節背夫の教」「不嫉妬毒の教」「教子のをしへ」「慈残のをしへ」の五章、下巻に「仁虐のをしへ」「淑睦の教」「廉貪の教」の三章を載せる。『鑑草』に頻出する説話などは一切省き、各章の主旨のみを大字・四行・付訓の並べ書きで記し、本文中の任意の漢語に左訓を施す。さらに、『実語教・童子教』同様に、章ごとに自画の挿絵も掲げた、津奈ならではの女筆手本である。
[備考]冒頭部「孝は孝行也。逆は不孝なり。孝行なる人には天道さいはひをあたへ、不孝なる人には天罰をくだしたまふ」。『元禄九年書目』等に「女教訓」と記す。各書目に記載された価格は、元禄九年が一匁七分、宝永六年・正徳五年が二匁二分。板元を「文台や」と記す。
[所蔵]他に高知県。
[複刻]『往来物大系』八二巻/『女子用往来物分類集成』R二。

27 しのすゝき
 しのすすき
[異称]題簽題『しのすゝき 女筆』。一名『女筆しのすすき』。
[書型]大本三巻三冊。のち三巻合一冊。
[作者]長谷川貞(妙躰)書。
[板種]元禄七年(一六九四)六月刊。宝永六年(一七〇九)五月再板。
元禄七年板(京都・井上忠兵衛、津田市三郎、山岡市兵衛)*都立中央・学芸大・玉川大。
元禄七年板(京都・山岡市兵衛、榎並甚兵衛)*小松(「女筆手本」)。
宝永六年板(京都・伏見屋藤治郎)*小泉・吉海・学芸大(「文のいと」中)・小松(「女筆手本」)。
刊年不明板*玉川大。
[類型]女筆手本。
[内容]長谷川妙躰の手本のうち、最初に上梓されたと思われるもの。例文の大半は四季の情景豊かに種々の挨拶や用件を綴った文章であり、上巻は新年祝儀の文など春の手紙八通、中巻は春を惜しむ手紙から五月雨までの手紙六通、下巻は秋の野の風景から初雪までの手紙六通、合計二〇通を収録。本文は全て散らし書き。ただし中・下巻中に挟む詩歌(『和漢朗詠集』からの抜粋)のみ並べ書き。再板本では各巻巻頭に四季の和歌と挿絵が増補された。
[備考]冒頭部「四海波静に御代も納りて、民も賑はしく巌の亀やひな鶴あそふ風情、宝来山もよそならす。千秋万歳めてたくかしく」。筆者は『女学範』によるが、『享保一四年書目』に「三、女筆しのすゝき、長谷川妙躰」とある。なお元禄板の刊記のうち「山岡市兵衛」は埋木のため、初板本の板元は異なるか。
[所蔵]他になし。
[複刻]『江戸時代女性文庫』一九巻。

28女誡絵入 女実語教 女筆・女誡絵入 女童子教 女筆
 おんなじつごきょう・おんなどうじきょう
[異称]なし。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]居初津奈(都音)作・書・序。
[板種]元禄八年(一六九五)三月刊。
元禄八年板(京都・文台屋治郎兵衛)*東大・東北大・京大・東博・ 秋田県図(下)。
元禄八年板(京都・銭屋庄兵衛 *享保頃後印)*謙堂・樟蔭女子短大・国会・三次市図・学芸大(下)。
[類型]女筆手本。
[内容]「女実語教」は「一、品勝たるが故に貴からず。心正しきを以てよしとす」で始まる四七カ条、「女童子教」は、「一、夫、上つかたの御前には恭有て、立事をせざれ」から始まる一二八カ条の条々で、容姿よりも女性の心持ちの大切さや、忠・孝・礼節など諸般の教訓を説く。本文は大字四行、全文並べ書き。また、津奈の自画の挿絵を本文中に掲げる。なお、『女実語教(女童子教)』は板種が多く、『女実語教嚢』『女実語教宝箱』『女実語教千代鏡』『女実語教姫鏡』『女実語教操鏡』『女実語教操種』『女実語教操稚』などの書名で刊行された。『女実語教』は元禄八年(一六九五)本を初刊とし、江戸時代末期に至るまで約四〇種の板種が伝わるが、このうち明らかな女筆は本書のみ。元禄一三年(一七〇〇)板『女今川』と同様に、女性によって著わされた点が注目される。
[備考]冒頭部前記。各書目に記載された価格は、元禄九年が一匁七分、宝永六年・正徳五年が二匁二分。いずれも板元を「文台や」と記すから、銭屋板の刊行は享保頃であろう。
[所蔵]家政学院大・早大(上)・小泉(上)・香川大(上)ほか。
[複刻]『往来物大系』八七巻/『女子用往来物分類集成』R七・R一四・R一六/『日本教科書大系往来編』一五巻/『国民思想叢書』一〇/『女学叢書』/『女訓評釈』/『日本教育文庫』教科書篇/『日本精神文献叢書』一五。

29 女雛形用文章
 おんなひいながたようぶんしょう/おんなひながたようぶんしょう
[異称]書名は序題・尾題による。目録題『用文章』。序文中『女ひいながた用文章』。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]橘納軒永康作・書・序。
[板種]元禄一〇年(一六九七)三月序。同五月刊。
元禄一〇年板(京都・上村平左衛門、吉永七郎兵衛)*母利・岡山県。
[類型]男筆用文章。
[内容]上・中巻に女用文章、下巻に染色その他衣装関連の知識を始めとする一種の重宝記である「女のもてあつかう重宝」を収録した往来。上巻本文は「正月に遣す文之事」から「あつき時分に遣文・同返事」までの二一通を収録する。全文散らし書きで、四季折々(上巻には春〜夏)の手紙の間に、婚礼祝儀状や出産祝儀状をはさむ。中巻は未見だが、秋から冬にかけての手紙を二〇通前後収録したものと思われる。なお、書名は、頭書に当時流行の衣装の染め模様(雛形)を多く載せていることに由来し、上巻には「松にくまざゝのもやう」など春・夏向きの四二例を図解する。(従って中巻には秋・冬の染め模様と推定される)。なお、下巻には本文欄に「諸色てぞめの事」「おとしものゝ事」「かなづかひの事」「衣装裁ちよう」「草木の異名」「女字づくし」、頭書に「双六手引」を載せる。
[備考]冒頭部「春の御事ぶき、松はいろをまし、梅は鴬のさへつり、ま事ににきしく子の日のまつもよろつ代とまんいはゐ入まいらせ候」。
[所蔵]他になし。
[複刻]なし。

30 女用文章大成
 おんなようぶんしょうたいせい
[異称]目録題・柱『女用文章綱目』。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]居初津奈原作。
[板種]元禄一一年(一六九八)一月刊。
元禄一一年板(大阪・柏原屋清右衛門)*謙堂(中・下)・神戸大・文学堂・慶大。
[類型]女筆用文章。
[内容]居初津奈作・書、元禄三年(一六九〇)刊『女書翰初学抄』の改題・改編本。本文と下巻末記事の一部を模倣して序文・前付・頭書を全て改め、居初津奈作であることを隠蔽した。下巻末尾の「とふらひ文遣事」一状が削除されたほかは、本文内容は『女書翰初学抄』と全く同じだが、『女書翰初学抄』の例文が各丁の表から始まるのに対して、本書は常に裏から始まっている(改編時の編集の都合であろう)ように、全くの異板である。付録記事は、上巻口絵「鄭氏女孝経を作事并絵抄」「七夕まつりの事」ほか、頭書「七夕歌尽并絵抄」、中巻口絵「紫式部の事并絵抄」「源氏物がたりもくろく」、頭書「加茂の斎宮の事」「増補大和詞絵抄」、下巻口絵「女諸芸の事并絵抄」、頭書「女孝行鏡(熱田縁采女ほか略伝)」「万しみ物をとしやうの事」「同あらひ粉の事」「同そめ物仕様の事」、巻末「小笠原流包折形の図」「女中節用字尽」「文の書やう指南十ヶ条」「目録折紙書やうの事」をそれぞれ掲げる。要するに、本書は作者の名前を故意に消して一部改編した海賊版である。
[備考]冒頭部は『女書翰初学抄』に同じ。『元禄九年書目』に「女用文章」とあり、『宝永六年書目』で「女用文章大成」と改められる。各書目に記載された価格は、元禄九年が二匁、宝永六年・正徳五年が二匁八分。板元に「山崎や」と記す。あるいは元禄一一年板(柏原屋板)以前の刊本があったか。
[所蔵]他に凌霄。
[複刻]『女子用往来物分類集成』R一七(零本)。

31 女筆調法記
 にょひつちょうほうき
[異称]不明。
[書型]六巻六冊(大本か)。
[作者]不明。
[板種]元禄一一年(一六九八)頃刊。板元=京都・吉田三郎兵衛、金屋九兵衛。
[類型]女筆手本か。
[内容]不明。
[備考]『元禄一一年書目』による。各書目に記載された価格は、元禄一一年・宝永三年・宝永六年とも三匁だが、正徳五年に四匁に変更。また、板元を「吉田三郎、金や九」と記す。
[所蔵]現存せず。
[複刻]なし。

32 当流女筆大全
 とうりゅうにょひつたいぜん
[異称]目録題『増益女教文章』。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]居初津奈原作。
[板種]元禄一二年(一六九九)九月刊。
元禄一二年板(京都・和泉屋茂兵衛)*奈良女大。
元禄一二年板(大阪・柏原屋清右衛門 *後印)*玉川大(下)・中根家。
[類型]女筆用文章。
[内容]居初津奈作、元禄三年(一六九〇)刊『女書翰初学抄』の本文を丸取りして、付録記事のみを改めた改題・改編本(むしろ海賊版)。本文は『女書翰初学抄』下巻末尾の弔状一通を削除したほかは全く同じで、頭書の全てを『女鏡秘伝書』に改め、さらに、巻末に「小笠原流万包様折形之図」のみを収録する。なお、本書に先立って、板元の一人、大阪書肆・柏原屋清右衛門は同じく『女書翰初学抄』の海賊版である『女用文章大成』を元禄一一年(一六九八)に、さらに本書の改題・改訂本である『女文庫高蒔絵』を享保六年(一七二一)にそれぞれ刊行しており、本書を含め少なくとも三度にわたって『女書翰初学抄』の海賊版を刊行している。
[備考]冒頭部は『女書翰初学抄』に同じ。
[所蔵]他に家政学院大学。
[複刻]『女性生活絵図大事典』一巻。

33 絵入 女今川
 おんないまがわ
[異称]書名角書は東博本の書き入れによる(貞享四年板との区別のため仮に角書を付す)。首題『自を戒む制詞の条々』。改刻本外題『新板 新女今川』『女今川 教訓書』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]沢田吉作・書・序。菱川師宣画。
[板種]元禄一三年(一七〇〇)一月刊。
元禄一三年板(江戸・伊勢屋清兵衛、板木屋新助)*東博・内閣・平出・芸大・西尾市図・広島大。
刊年不明板(外題『新板 新女今川』)*香川大。
刊年不明板(外題『女今川 教訓書』)*小泉。
[類型]女筆手本。
[内容]本書は、『女今川』の二大系統の一つ、元禄一三年板系統の始祖となったもので、元文二年(一七三七)刊『女今川錦の子宝』を始め種々刊行された。貞享四年(一六八七)板『女今川』の改編版であり、特に本書は菱川師宣画と推定される挿絵八葉を本文中に収録するのが特徴である。沢田吉の自序に「此比有人の書し『女今川』をみるに…」とあり、「然るに、今また改かふる事は、全我言をよしとするにあらず。自かたましき所をひそかにしるして…」とあることから、執筆の動機が知られるが、このことは貞享板の首題「今川になぞらへて女いましめの条々」をあえて「自を戒む制詞の条々」と改めている点からも窺われる。説くところの教訓は貞享板とほぼ同傾向とはいえ、後文については改編の跡が著しく、具体的な文言では「心かだまし」と「心すなほ」の強調が目立つ。本書を自戒の書として書いた吉の理想は、「かだまし」き点のない、「すなほ」な心映えの女性にあったのであろう。また、第五条では「主・親の深き恩」を「父母の深き恩」と言い換え、「忠孝」の代わりに「孝の道」とした点、さらに後文で、天地の道や五常を説いた抽象的な表現や、下僕や他人に対する心得などを割愛する一方、孝・貞の見地から己の心の善悪を内省することを説いた点に特色がある。なお、本書の改刻板二種はいずれも挿絵と刊記を削除して一冊に合本した異板である。
[備考]冒頭部「一、常の心さしかだましく、女のみち 不 明 事」。
[所蔵]小泉(上)・玉川大(上)。
[複刻]『稀覯往来物集成』一三巻/『日本教科書大系往来編』一五巻/『女性生活絵図大事典』第一巻/『往来物大系』八六巻/『女子用往来物分類集成』R六。

34 首書絵抄 女世話用文章
 おんなせわようぶんしょう
[異称]序題『女世話字用文章大成』。目録題『女世話用文章大成』。
[書型]大本三巻三冊(ただし『享保一四年書目』では一冊とするから、後に一冊本も出版されたのであろう)。
[作者]前田さわ作・書・序。
[板種]元禄一三年(一七〇〇)五月序・刊。
元禄一三年板(大阪・万屋仁兵衛 *初印か)*家政大(下)。
元禄一三年板(江戸・須原茂兵衛、大阪・万屋彦太郎)*弘前市図。
[類型]女筆用文章。
[内容]元禄五年(一六九二)刊『世話用文章』の女性版ともいうべき異色の女用文章。序文に「章句めつらしく、其上女の弁かたき難字を加へ」とあるように、世俗諸般の事柄を俗語で綴った女文を集めたもの。上巻には「正月遊び云やる世話ぶんしやう并返事」「伊勢ぬけ参りの事云やるせわ文并返事」など一六通、中巻には「娘によひ子に成し事しらせやる文并返事」「かたびら染もやうたのみにやる文并返事」など一八通、下巻には「加茂の競馬見物に行し事云やる文并返事」「お物師紅たち損ないし事云やる文并返事」など一四通の合計四八通を収録する。例文には『世話用文章』の明らかな影響が見られる。なお頭書にも「浦嶋物語并鶴亀島台の由来」「浦嶋大明神御縁起」「今やう薄雪物語并歌つくし、ふみつくし」「五節句の由来」「色紙短尺書やう」「女手かゝ見」など特色の多い記事を載せる。
[備考]冒頭部「此春は賑敷心うきたち、昼は軾羽子、夜は宝引にて日を饋まいらせ候」。『宝永三年書目』『宝永六年書目』『正徳五年書目』によれば、板元は「万や仁」で、価格は二匁七分。従って、初刊本は万屋仁兵衛板であろう。
[所蔵]他に平出氏旧蔵(散逸)。なお、三巻揃った弘前市図本にも落丁がある。このほかに個人蔵本の存することを聞く。
[複刻]なし。

35 浅香山
 あさかやま
[異称]上巻外題『浅香山』、下巻外題『あさかやま』。
[書型]大本二巻二冊。
[作者]服部康音作・書・跋。爪木晩山序。
[板種]元禄一五年(一七〇二)一一月刊。
元禄一五年板(京都・丸屋源兵衛)*小泉。
[類型]男筆用文章。
[内容]年中行事を主題とした例文を集めた女用文章。全文散らし書きで、上巻に一〜六月(「はつ春月文章」〜「水無月文章」)、下巻に七〜一二月(「文月文章」〜「春まち月文章」)の合計一二通を収録する。頭書に年中行事故実等について極めて詳細かつ考証的に施注するのは女筆手本類中随一。例えば、冒頭の「はつ春月文章」一通に対して「年始元日并歳徳神の事」「千里の外并寿の事」「院并五摂家の事」「機嫌と云言葉の事」「十五日粥并爆竹の事」「歌の会の事」「賭并調度の事」「門松并歯朶・杠の事」など一四項に及ぶ詳しい注釈を付す。
[備考]冒頭部「年濃はしめの御めてたさ、千里の外まてもよろつ世濃御ことふき数々むべに御座候」。なお『宝永六年書目』等には女筆手本と紹介。
[所蔵]他になし(国書総目録でチェック)。
[複刻]『江戸時代女性文庫』八六巻。

36 頭書絵抄 女文常盤の松
 おんなぶみときわのまつ
[異称]目録題『常盤の松』。首題『常盤のまつ』『ときはの松』。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]蘭下人乞童作・序。
[板種]元禄一六年(一七〇三)九月序。元禄一七年一月刊。
元禄一七年板(京都・原田佐右衛門)*早大。
[類型]男筆用文章。
[内容]序文によれば、和歌の教養の一つとして月々の風物などを多く採り入れた、各月往復二四通の女用文章。いずれも五節句その他の年中行事の故実を主題とし、実用的な手紙の案文というよりも女文の体裁で諸知識を綴った往来である。頭書には本文要語の注解・図解または関連知識が掲げられるが、特に下巻には女性が多用する器材・衣服・絹布類・染色等の字尽も収められている。なお、本書に前付記事を増補した改題本が享保一四年(一七二九)刊『女訓文章真砂浜』である。
[備考]冒頭部「曙の空を見送ば、新玉の賀として、若ゑびすの声、大福、蓬莱、きそ初、祝終ば、福寿草を愛して、屠蘓を汲…」。
[所蔵]他にカリフォルニア大学。
[複刻]『稀覯往来物集成』二七巻。

37 女しき文章
 おんなしきぶんしょう
[異称]上巻外題『女しき文章 沢田おきち筆』、中巻外題『をんな四季文章 沢田お吉筆』、下巻外題『女四季文章 さはたお吉筆』。また享保頃後印『当用玉置 初学往来』広告中に『女用四季文章』とある。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]沢田吉作・書。
[板種]元禄(一六八八〜一七〇四)頃刊(刊年は筆者および山口屋の活動年代から推定)。享保(一七一六〜三六)頃後印。
刊年不明板(江戸・山口権兵衛)*小泉。
刊年不明板(江戸か・須原屋与兵衛 *享保頃後印)*小泉。
刊年不明板(*後印)*東大。
[類型]女筆手本。
[内容]沢田吉の女筆手本の一つ。上巻には新年挨拶状から七夕祝儀状までの七通、中巻には八朔祝儀状から小姓の踊りを讃える文までの五通、下巻には歳暮祝儀状から婚礼祝儀状までの六通を載せる。全一八通のうち七通が並べ書きで、他は散らし書き。元禄四年(一六九一)刊『女筆手本』と同様に、隅田川や目黒の遅桜といった江戸の名所を題材にした例文を含む。
[備考]冒頭部「あらたまりまいらせ候此春よりの御めてたさ、幾千代万代まても替らぬ門の松かさり、ちさともおなし御事にいわゐ入まいらせ候。めて度かしく」。なお、山口屋権兵衛板と刊行者不明板とは異板である。
[所蔵]他に謙堂(「四季消息帖」上・中)・吉海(上)。
[複刻]『往来物分類集成』R二八/『稀覯往来物集成』二七巻。

【刊年不明(江戸前期)】

38 小野おづう筆(仮題)
 おののおづうふで
[異称]書名は後簽による。
[書型]大本一冊。
[作者]小野通書。
[板種]江戸前期刊。
刊年不明板*東大教養(黒木文庫)。
[類型]女筆手本。
[内容]現存するお通の手本には、元禄四年(一六九一)刊『四季 女文章』とその改編・増補版である享保頃(一七一六〜三六)刊『女筆春の錦』があるが、そのいずれとも共通する内容を含むものの、書状内容・配列に若干の異同があり、また両者のいずれとも異板である。ただし、字配りなどの微細な点で『女筆春の錦』に酷似しており、その先行板の可能性が高い。収録書状は「あらたまりぬるこの春のめてたさ…」で始まる新年状(元禄板では第六状、享保頃板では第二状に相当)から、「一筆申まいらせ候。両御所様…」で始まる並べ書きの挨拶状(第二〇状。元禄板では第一七状、享保頃板では第一二条)までの二〇通である。小野通の手本は『寛文一〇年書目』の「女筆手本(二冊本)」など数本が書籍目録に載るが、これら古板手本の板木を組み替えたり、被せ彫りにした改編本・改刻本が何度も出版されたと考えられる。
[備考]冒頭部「あらたまりぬるこの春のめてたさ、いよおほしめし候御まゝの御まんそくと、いわゐ入まいらせ候」。
[所蔵]他になし。
[複刻]なし。

39 女中手本(仮題)
 じょちゅうてほん
[異称]柱『女中』。
[書型]大本二巻二冊か(現存本一冊。巻数不明)。
[作者]筆者不明。
[板種]江戸前期刊。
刊年不明板*小泉。
[類型]手本。
[内容]現存の端本には、政所様より小袖拝受の礼状(披露文)や四季贈答の手紙、諸用件の手紙など短文の女文一五通を収録する。ほとんどが並べ書きの女筆手本。
[備考]冒頭部「めつらしき御くはしいろをくり下されかたしけなく、すなはち賞翫いたしまいらせ候。めてたくかしく」。
[所蔵]他になし。
[複刻]なし。

40 新版 女筆 かはり
 にょひつ
[異称]不明。
[書型]大本一冊。
[作者]不明。
[板種]江戸前期刊。
刊年不明板*神戸大。
[類型]手本。
[内容]不明。
[備考]高尾一彦氏「女筆手本をめぐる諸問題」(樟蔭女子短期大学『文化研究』一号)に図版を掲げる。その他は、万治(一六五八〜六一)頃刊『女手本』項参照。
[所蔵]他になし。
[複刻]なし。

41 当流絵抄 万宝女文
 まんぽうおんなぶみ
[異称]標記書名は推定。中巻の原題簽の上部だけが残存しており、わずかに角書と書名冒頭の「萬」だけが判読できる。また、表紙には「萬萬宝女文」と記されているため、「万宝女文」というのが元々の書名と推定される。
[書型]大本三巻三冊。
[作者]吉田半兵衛画。
[板種]江戸前期刊。
刊年不明板*香川大(上巻は「万万宝女文」、中巻は「絵入女用消息文」)。
[類型]手本(女筆か)。
[内容]貞享五年(一六八八)刊『絵入 当流女文章』に若干の付録記事を増補した改題本。上巻には「新年祝儀に呉服を贈る文」から「重陽の節句祝儀状」までの九通、中巻には「婚礼祝儀状」から「盆の供養に写経を贈る文」までの九通を載せるから、全巻で約二七通前後であろう。上巻は五節句・八朔等の佳節祝儀状、中巻は婚礼・出産、その他通過儀礼祝儀状だから、下巻は諸用件に伴う女文であろう。上・中巻の全文が散らし書きで、主文に続く小字の返書の部分に白抜きの丸付き漢数字で読み順を示すのと、各状に因んだ挿絵を随所に掲げるのが特徴である。また、上巻巻頭に増補された前付二丁には「何大納言殿息女のかたへ遣し給ふせうそく」、いわゆる『仮名教訓』型の女子教訓を下段本文欄に掲げ、同頭書に紫式部『源氏物語』執筆図等の平安貴族の風俗画数葉を載せる。
[備考]香川大学附属図書館本は、上巻・中巻に別々の書名を付すが、中巻の原題簽から推定される表記書名が両者の原題であろう。冒頭部は『絵入 当流女文章』に同じ。
[所蔵]他になし。
[複刻]なし。