映画館がやってきた! 映画鑑賞記

野生の証明

■DATA

Story

 自衛隊特殊部隊の長距離単独行の訓練中、殺人事件に遭遇した 主人公(健さん)が、一般民と関わってはいけないという禁を破ってしまったのを きっかけに除隊し、殺人事件のたった一人の生き残りで記憶喪失の娘を引き取り、 東北の地方都市で保険外交員として生活するが、担当した事故の調査をきっかけ に地元財界を牛耳る一族の横暴、殺人事件を暴いてしまい、対決を余儀なくされ る。
 しかし、警察が動くことで彼の身元が割れ、特殊部隊の存在が明るみに出ることを防ぐべく、 元の上官たちが関係者の抹殺を企てる。
 自衛隊の演習に紛れて送り込まれた22人の特殊部隊に彼は生き延びることが 出来るのか。
 …てな話(大ヒット作だが、若い人は知らんじゃろ)。

感想

[2000.9.26](DVD) ★☆
 とにかくデビュー当時の「薬師丸ひろこ」が可愛いでしょ。ということで、 購入必死の一本だが、ストーリーの荒唐無稽っぽさで減点なのだ。とはいえ、 B級ハリウッド映画ほどめちゃくちゃではないのかも知れないけれど(^^;

■カドカワ映画は社会現象だった

 カドカワ映画というと、大量のTV-CMで映画の出来とは関係なく観客を 動員してしまうというので、当時話題になり揶揄もされたものだが、 本作の「おとうさん怖いよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」という 薬師丸ひろこのナレーションの入るCMは今でも記憶に鮮明だし、 『人間の証明』の「お母さん、僕の麦わら帽子どこに行ったんでしょうね」 なんてセリフも、脳に刻み込まれてしまっている。 (もっとマシなことに記憶を使いたい気もする(笑))
 ともあれ、同世代の人には懐かしいだろう。
 DVDの出来としては、古い作品なのにずいぶん解像度、発色とも 頑張っていると思える。特典は「デジタル・パンフレット」で、 動画のメイキングがないのは残念だが、それなりに当時の風俗を感じて 楽しめる。
 この出来なら、今後の作品も買って安心と言えそう。

 さて、久しぶりに見返しての感想。
 冒頭の特殊部隊の訓練風景で「レンジャー」と叫んでジャンプしたり、 走ったりする繰り返しが延々映るが、そういえば「レンジャー」という 叫び声も映画以外のメディアで結構流行った記憶がある。今見ると 「こっぱずかしい」という以外ないのだが(^^;;
 「超法規的な対テロ特殊部隊」という設定は、当時としては絶対に 新鮮だったと思う。
 特殊部隊を演じた役者は、全員アメリカで数ヶ月の特訓を受けたそうだが、 話は凄いが、活躍部分が短すぎて気の毒。後半健さんとやり合うシーンでは ひたすらやられ役なので、良いところが無いのだ。
 この特殊部隊が活躍する「米国大使を人質に取って山荘に立てこもる 赤軍テロリスト」というのは、30年前には、まったくの現実だったのも 思い起こされ、懐かしい。
 私らの子供時代は、国産テロリスト終焉の時代で、社会主義革命思想が 現実から遊離してきて、行き詰まったセクトが内ゲバで殺し合うという時代 だったから、設定としては、この作品はそれより少しだけ前の時代なんだろ うな。今は普通のおとなしそうな子供が普通の人を殺すけれど、昔は貧乏や 思想に燃えた人間が人を殺した。

 健さんが訓練中に遭遇する「村人全員惨殺事件」の現場の村は、 茅葺き屋根の農家が立ち並ぶ寒村で、斧を振り回す狂気の人は 「あぁ、森村誠一だ」って感じですね(笑)

 健さんが事件の生き残りのひろこちゃんを引き取ってから流れ着いた 東北の街で地元経済を牛耳るボスと息子、土建会社の下っ端どもの極悪 非道ぶり、新聞、警察もぐるになって悪事隠し…というのは、ちょっと そらぞらしくて、この辺は感心しません。
 また、健さんを「惨殺事件」の犯人とにらんでつけ回す、よそ者の刑事 も、地元警察のような不正を働くわけではないけれど、周囲の犯罪行為を 見て見ぬ振りしたり、組の息の掛かった暴走族に健さんが襲われたときに わざわざ凶器となる斧を投げて渡したりと、非常識にも程があると糾弾 すべき極悪人。
 自分で斧を手渡しておいて「それがおまえの本性だ」は無いだろ。 あんたは事件を止められただろ。と叫んでやりたい、まったく(^^;

■オール・アメリカ・ロケのアクション

 で、地元の暴力団をやっつけた後に今度は「特殊部隊」に追われるわけ だが、自衛隊の出演部分はオール・アメリカロケらしい。
 なんか、生えている草木が東北っぽくないのですぐ違和感が沸くのだが、 そういうこと。まあ、自衛隊が悪者の映画だから、戦車の行進などに 自衛隊が協力するわけないよな…というのも有る。
 実弾も飛ぶし、戦車とトラックが衝突して爆破炎上するシーンの 豪華なことと言ったら、国内ロケでは絶対無理。特撮物を別にすれば 日本映画最大の爆発といっても良いだろう。
 とはいえ、ヘリコプターを爆破する予算はなかったと見えて、 そのシーンだけは「あ、ラジコンじゃん」と一目でわかっちゃうの だけれど。これは、編集テクニックの無さだと思う。

 さて、これらのシーンでの最大の疑問は、いくら健さんが元の ベストコマンドだっとはいえ、刑事と子供連れであんなに簡単に 特殊部隊をやっつけられるのか、ということと、冒頭22人のうち 半数の11人を爆破でやっつけるのだけれど、残りの11人は、ちゃん と数が合っているのか?ということ。
 どうも11人以上殺している気がするのだけれど。
 ラスト近くの、ヘリの上官との撃ち合いにしても、あまりにも 弾が当たらなさ過ぎで、長々と打ち合っているが、マシンガンの 弾が無限にあるように見える。
 すなわち、な〜んか嘘臭く緊迫感がそがれる。
 ハリウッド映画なら、激しい撃ち合いの中で、マガジン交換で 間合いを作るのは定石。たまに「撃ち尽くしたら捨てちゃう」という 『マトリックス』みたいなのも有るけれど。
 大ラス、何もかも失った健さんが、拳銃片手に戦車部隊に 突っ込んでいくのも変でしょう。敵は特殊部隊の生き残りのはずで、 隊長から全員片づけてしまったのだから、目の前の戦車部隊は、 演習中の一般隊員であって敵じゃないのに。

 …と、後半に進むに連れて無茶が爆発しているこの作品だけれど、 やっぱり薬師丸ひろこは鮮烈だった。というのが結論。
 記憶喪失のやや自閉症気味の…という設定のため。どうも 演技と言うほどの演技はしていないような気もするんだけれど 存在感は凄いと(^^;


■関連URL

[戻る | 目次]
文:唐澤 清彦 映画館がやってきた!