別冊


 今の世の中は「付加価値語」であふれている。安全で、かつ充実した生活を送るために、それらの解説をしておくことはそう無駄ではない。以下の記述をよく読み、これからの道しるべとしていただきたいと思う。



 第1章 弱さ、柔らかさ、小ささなどを意味するもの

 マイルド

 なんとなく今までの味より薄いかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 マイルドと付いているから薄味のはずだが、食べ比べたところで結論は出ない。
 間違った用法………「広辞苑マイルド」。

 ライト

 なんとなく今までの味より軽いかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 ライトと付いているからダイエットに効果があると思うのは間違いで、ライトと付けたものをわざわざ売るということは、もともと体に良くないものである。
 間違った用法………「ライト兄弟ライト」。

 ミニ

 今までのものより小さい、という売り文句しかないときに付する付加価値語。
 その多くはただ小さいだけであり、おおむね大した違いはない。
 開発者の自己満足により、使いにくくなるものも度々ある。スポーツに付された場合も、またしかりである。
 間違った用法………「大仏ミニ」。

 ポケット

 今までのものより小さいという売り文句しかなく、かつ「ミニ」の代わりに新しく考えられた付加価値語。
 その多くはやはりただ小さいだけであり、おおむね大した違いはない。
 ポケットの大きさによっては入らない可能性もあるが、特にだれも気にしていない。その大きさも特に定義されていない。カバンに入れても影響はない。
 間違った用法………「スケートリンクポケット」。

 ソフト

 とりあえず今までのものよりやわらかい、というときに付する付加価値語。
 その多くはやわらかいだけであり、おおむね大した違いはない。
 やわらかい方がよい、というものは食品や柔軟剤など自然と限定されるので、使い方には注意が必要だ。
 間違った用法………「かなづちソフト」。

 フレッシュ

 特に見た目ではわからないが、新製品だとわかってもらいたいときに付する付加価値語。
 その多くは新しいだけであり、おおむね大した違いはない。
 新しくなった部分が、一言でまとめられないときにも使われる。
 間違った用法………「課長フレッシュ」。

 ホワイト

 とにかく前より白い、というときに付する付加価値語。
 その多くはただ白いだけであり、おおむね大した違いはない。
 これも白い方がよい、というものは自然と限定されるので、使い方には注意が必要だ。
 間違った用法………「赤信号ホワイト」。



 第2章 強さ、すごさ、豪華さなどを意味するもの

 スーパー

 なんとなく今までよりすごいかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 よりすごいというアピールはつまり、最初の商品開発を怠けていたことにほかならない。
 間違った用法………「スーパー猿」。

 ウルトラ

 なんとなく今までよりすごく、かつ「スーパー」の代わりに使われる付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 スーパーとウルトラの違いに関して、明解な答えは得られていない。スーパーマンとウルトラマンを比べても、あまり効果はない。
 間違った用法………「ウルトラ授業参観」。

 ハイパー

 なんとなく今までよりすごく、かつ「スーパー」で物足りなさを感じるときに使われる付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 現状では最高級の趣もあるが、この言葉もやがて麻痺することは間違いない。
 間違った用法………「ハイパープリン」。

 スペシャル

 なんとなく今までよりすごいかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 実は特別なものは質ではなく、大きさや量だったりすることも多い。
 間違った用法………「スペシャル雨宿り」。

 ゴールド

 とりあえず今までのものより価値があるかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 どう考えても金の価値ほどはないものに使われることも多いので、注意が必要だ。
 間違った用法………「銀メダルゴールド」。

 デラックス

 とりあえず今までのものより価値があるかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 価値のある部分が、一言でまとめられないときにも使われる。
 間違った用法………「デラックスくるぶし」。

 ロイヤル

 とりあえず今までのものより価値があるかな、というときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 王室のイメージを利用しているが、王室のイメージが落ちているのは否めない。
 間違った用法………「ロイヤルやきとり」。

 プラス

 とにかく前より少し増えた、というときに付する付加価値語。
 その多くはただ増えただけであり、おおむね大した違いはない。
 言わなければ、何が増えたのかわかってもらえないときにも使われる。言われても、よくわからないこともある。
 間違った用法………「胸さわぎプラス」。

 アルファ

 とにかく前より少し増えた、というときに付する付加価値語。
 その多くはやはりただ増えただけであり、おおむね大した違いはない。
 増やした部分が、一言でまとめられないときにも使われる。「プラス」よりもいろいろ増やされたような感があり、少し恐い。
 間違った用法………「和歌山アルファ」。

 ワイド

 とにかく前より少し大きい、というときに付する付加価値語。
 その多くはただ大きくなっただけであり、おおむね大した違いはない。
 大きい方がよい、というものは自然と限定されるので、使い方には注意が必要だ。
 間違った用法………「ウォークマンワイド」。

 ハイ

 とにかく前より少し高級だ、というときに付する付加価値語語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 値段が高い、という意味も含まれていると思われる。いい迷惑だ。
 間違った用法………「少年ハイジャンプ」。



 第3章 数字・アルファベット

 1

 タールが1ミリグラム、というときに付する付加価値語。
 少ないことを売り文句にするなら、最初からどうすればよいか自明のことである。
 間違った用法………「葉巻1」。

 2

 なんとなく前回よりすごいものができた、と言いたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 代わりの企画がないときにも、よく使われる。
 間違った用法………「タイタニック2」。

 3

 なんとなく前回よりさらにすごいものができた、と言いたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 3匹目のドジョウは、ほとんどいない。
 間違った用法………「ヤン坊・マー坊天気予報3」。

 21

 とにかく来世紀に通用するものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 来世紀になれば、そのうち自然と効果がなくなる。
 間違った用法………「幕府21」。

 100

 とにかく純粋なものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 フルパワーであるかのような錯覚をしてしまう数字なので、注意が必要だ。
 間違った用法………「100丁目」。

 A

 なんとなく最初に選ぶべきもの、というイメージを与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 エースと呼ぶと切り札という意味も含まれるが、単にビタミンAが入っているだけの時もある。
 間違った用法………「多摩川A」。

 C

 とにかく体にいいものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 含まれているものがビタミンCである保証はどこにもない。炭素もCである。
 間違った用法………「個人タクC」。

 X

 なんとなく効果があるもの、というイメージを与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 どんな効果が現れるにせよ、Xは未知数なので致し方ない。注意が必要だ。
 間違った用法………「カツ丼X」。

 Z

 なんとなく最後に選ぶべきもの、というイメージを与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 これ以上望まなくていいほど効き目があるならよいが、もうこれで終わりにしたいものもある。
 間違った用法………「味噌Z」。



 第4章 新しさ、続き、終わりなどを意味するもの

 新

 とにかく新しいぞ、というときに付する付加価値語。
 その多くはただ新しいだけであり、おおむね大した違いはない。
 使用範囲はかなり広いが、それだけにあまり新しい感じはしない。
 間違った用法………「新タイタニック」。

 ニュー

 とにかく新しいぞ、というときに付する付加価値語。
 その多くはただ新しいだけであり、おおむね大した違いはない。
 何年前につけられたニューなのか、調べる必要がある。
 間違った用法………「ニュー登場」。

 ネオ

 とにかく新しく、かつ「ニュー」よりもさらに新しさを持たせたいというときに付する付加価値語。
 その多くはやはりただ新しいだけであり、おおむね大した違いはない。
 「ネオ」とつけられたのは比較的最近のはずだが、つけられたものが本当に新しい機能を持っているかは、また別の話である。
 間違った用法………「ネオ発売」。

 続

 とにかく好評につきもう一度、という印象を与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 よくよく冷静に考えると、あまり話が続いていないときもある。
 間違った用法………「続タイタニック」。

 帰ってきた

 とにかく好評につきもう一度、という印象を与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 パワーアップしなくても、ただ帰ってくるだけで使われる。
 間違った用法………「帰ってきたタイタニック」。

 リターンズ

 とにかく好評につきもう一度、という印象を与えたくて、かつ「帰ってきた」より新しさを与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 その主人公は、自分の意志で戻ってきたわけではない。だいたいの場合において、テレビ局や映画会社に連行されたも同然である。
 間違った用法………「タイタニックリターンズ」。

 ラスト

 もうこれで最後だぞ、という印象を与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 心配しなくても、そのうち帰ってくる。
 間違った用法………「ラストタイタニック」。

 ファイナル

 もうこれで本当に最後だぞ、という印象を与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 心配しなくても、だいたい帰ってくる。
 間違った用法………「タイタニックファイナル」。

 完結編

 もうこれで本当に本当に最後だぞ、という印象を与えたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 心配しなくても、やっぱり帰ってくる。
 間違った用法………「タイタニック完結編」。



 第5章 場所、位置などを意味するもの

 日本

 とにかく日本を代表するようなものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 日本のイメージが低下している今、あまり得策ではない。
 間違った用法………「日本ペンギン」。

 東京

 とにかく日本における中心的な存在だぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 はっきりいって、東京にないものもある。
 間違った用法………「東京ディズニーランド」。

 国際

 とにかく国際的に通用するものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 本当に国際的なら、英語を使うべきである。
 間違った用法………「葛飾国際」。

 中央

 とにかく自分達が中心的な存在だぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 どこからどこまでの中央か、よくわからない。恐ろしく範囲が狭い可能性もある。
 間違った用法………「中央サイドカー」。

 第一

 とにかく自分達が一番だぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 何が一番なのか、もう一度確かめてみる必要がある。
 間違った用法………「第一準優勝」。

 ジャパン

 とにかく日本を代表しながら、世界的に通用するものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 「ヤオハンジャパン」「X JAPAN」「加茂ジャパン」に続いて、「エキゾチックジャパン」までが破綻したことを忘れてはならない。
 間違った用法………「アメリカジャパン」。



 第6章 時代を意味するもの

 江戸

 とにかく昔からあるものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くは時代と無関係であり、おおむね大した違いはない。
 東京のイメージにも使われるが、品川、新宿ですら当時は江戸ではなかった。「東京」の項と、同じ注意が必要だ。
 間違った用法………「江戸5年」。

 明治

 とにかく昔からあるものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くは時代と無関係であり、おおむね大した違いはない。
 どんな時代か、実際に知る者はいまや少ない。
 間違った用法………「明治70年」。

 大正

 とにかく昔からあるものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くは時代と無関係であり、おおむね大した違いはない。
 近代でもっとも長持ちしなかった元号であることを、忘れてはならない。
 間違った用法………「大正120年」。

 昭和

 とにかく昔からあるものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くは時代と無関係であり、おおむね大した違いはない。
 よく考えれば、あまりいい時代ではなかった。
 間違った用法………「昭和430年」。

 平成

 とにかく新しいものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くは時代と無関係であり、おおむね大した違いはない。
 そのうち一般性を帯びてくるという狙いだろうが、時間がかかる。それまでにつぶれないよう祈るばかりだ。
 間違った用法………「平成950年」。



 第7章 その他

 文化

 とにかく機能的なものだぞ、とアピールしたいときに付する一時代前の付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 この国の文化水準の低さにあきらめがついてからは、あまり使われない。
 間違った用法………「文化校長」。

 名誉

 とにかく特別扱いだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 本当に名誉があるなら、いちいち言う必要はない。
 間違った用法………「名誉アシスタント」。

 輝け

 とにかく価値あるイベントだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 言われなければ輝かないようでは、たかが知れている。
 間違った用法………「輝けバックミラー」。

 夢の

 とにかくなかなかないものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 そしてだいたい、実現する。
 間違った用法………「夢の公害」。

 リミックス

 とにかく新しく工夫したものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 もはや混ぜるしかアイデアがない時も多い。
 間違った用法………「塩素と酸リミックス」。

 オフィシャル

 とにかく正式なものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 正式に決める必要のないものも、かなりある。
 間違った用法………「オフィシャル筋肉増強剤」。

 おもしろ

 とにかく面白いものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 こんな名前が付いたものは、だいたいにおいて面白くない。
 間違った用法………「おもしろお化け屋敷」。

 なんでも

 とにかくいろいろ揃っているぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 こんな名前が付いたものは、だいたいにおいて役に立たない。
 間違った用法………「なんでも大臣」。

 いきいき

 とにかく元気ハツラツだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 こんな名前が付いたものは、だいたいにおいて元気がない。
 間違った用法………「いきいき幼稚園」。

 ニコニコ

 とにかく優しいものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 こんな名前が付いたものは、だいたいにおいて恐いはずだ。
 間違った用法………「ニコニコ告別式」。

 THE

 とにかく極めつけのものだぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 つける名前のアイデアがない時も多い。
 間違った用法………「THE ブランコ」。

 !

 とにかく力が入っているぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 ほとんどは省いても問題ない。省いた方が、力のなさが伝わるときさえある。
 間違った用法………「小さいダイヤモンド!」。

 ! !

 とにかくやたら力が入っているぞ、とアピールしたいときに付する付加価値語。
 その多くはただの幻想であり、おおむね大した違いはない。
 ここまでつけたら、いくつあっても別に構わない。だがこれ以上つけても、それほどインパクトはない。
 間違った用法………「巨大なペンティアムプロセッサ ! ! 」。









表紙


 発行/カクシゴト 編集長/かくたかひろ
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