瀬戸内海に面した秦氏ゆかりの港町・坂越を訪れたところ神社の境内で東儀氏の名をみつけ、東儀氏が秦氏から分かれた一族であることと秦氏が雅楽の世界と深い関わりをもつことを知った。これを契機に雅楽への興味が増し、近くの雅楽堂(福岡県春日市平田台)の取材を通じて雅楽の歴史を調べた。

東儀秀樹氏の言葉より
 神事は10月11日の朝から始まった。前日まで気さくに笑顔で話していた宮司さんの顔つきが変わる。衣冠装束のその姿からは高い威厳と品格が漂う。町の人たちがどんなにお酒を飲んで騒いでも動ずることなく、背筋をピンと伸ばして笏(しゃく)を持ってとても素敵だと思った。先祖が神となって祭られている神社の宮司がこういう人だととてもうれしい。神の御扉を開き、捧げ物を献じ、雅楽も捧げる。家族をはじめ、門下十数人を連れ、神前で一堂に演奏した。  海を見下ろす神殿のある浜から数100m離れた小さな無人島に墓があり、神主、祭りの役員と和船で渡る。天然記念物に指定されたその島は、ほとんど人の手がかかっておらず、うっそうとした茂みの中に古墳ともいうべき墓がある。墓前で祝詞(のりと)を上げ、雅楽を奉納した。ここでは今の僕のしていることをそのまま伝えたいと思い、オリジナルの曲をひとりで捧げた。(*無人島は坂越・生島)


雅楽は日本の伝統的な宮廷音楽で、多くの伝統的な楽器を使ったオーケストラで演奏される。雅楽は、唐より伝わったといわれる唐楽と朝鮮から伝わった高麗楽そして日本古来の音楽の3つの要素から成り立っている。
現在我が国で行なわれている「雅楽」とは、それら外来の音楽と、日本古来の歌謡(神楽歌・東遊)や平安時代に作られた歌曲の総称である。 朝鮮半島の百済より仏教が伝来してから、次々と楽人が渡来した。
特に聖徳太子は仏教を篤く敬い、、雅楽を三宝供養の法楽として楽家を創設し、701年の大宝令により、国家の楽制として雅楽寮(うたいのつかさ)がもうけられた。
そこで雅楽の演奏家や舞踊家の育成が公的におこなわれるようになり、平安時代になると、代々の天皇は雅楽が必須の教養とされたので、宮中の貴族の間でもますます雅楽が盛んになり、優雅に洗練されていった。
さらに平安の中頃から、雅楽寮の機能は「楽所」に受け継がれ京都御所の「京都楽所」、奈良興福寺・春日大社・東大寺などの「南都楽所」、大阪の「四天王寺楽所」を「三方楽所」といい、その楽人は「三方楽人」と称された。
1467年の応仁の乱の勃発により、京都楽所の楽家は解散させられるが、戦国期の正親町天皇の時代に秦氏のもとで四天王寺に属していた楽家がかつての京都楽所にかわって京都御所に招かれた。
秦氏は林氏・小野氏。岡氏・東儀氏にわかれて宮廷に仕えた。
東儀氏は、安部氏の姓を与えられて宮廷の御神楽の式典では篳篥を演奏した。

明治維新の東京遷都とともに「三方楽所」の楽人は東京に移り、合体して今日の宮内庁式部職楽部となった。

So(13-stringed zither of Chinese origin)
中国より伝えらる。雅楽で用いる箏を、後の歌曲伴奏用の俗箏と区別して楽箏ともよぶ。総長約190cm。桐材製。内部は空洞。13弦。右手の親指、人さし指、中指にはめた竹製の爪で演奏する。全体を龍にみたてて、名称が付けられている。
和琴 Wagon
(6-stringed zither of Japanese origin)
弥生・古墳時代以来の日本の『こと』の系譜を引くといわれる。総長約190cm。桐材製。内部は空洞。6弦。末は葦津緒とよばれる絹の編み紐に結び、頭の凸部にかけてあります。右手にもったべっこう、または水牛角製の琴軋で演奏する。
琵琶 Biwa(Lute)中国より伝えらる。総長約100cm。木製。甲には紫檀、花梨、桑などの硬い木が選ばれ、表にはやわらかな塩地や桐を用いるなど様々な樹種の材を使い分けている。4弦、4柱。ばちは一般には黄揚(つげ)製だが、げっこうや水牛角製のものもある。
Sho (Mouth organ)
中国より伝えらる。全体の姿を鳳凰に見立て鳳笙とも言われる。総長15cm。吹口のついた木製漆喰塗の頭に17本の竹管を差し込み中程を銀製の帯金具でしめてある。下の吹口から息を吸ったり吹き込んで音をだす。主に5、または6音からなる和音を奏でる。
篳篥 Hichiriki(Short cylindrical-bore oboe)
中国より伝えらる。総長18cm。指孔は楕円形で、表に7孔、裏に2孔。上端に芦の茎の肉厚の部分で作った芦舌(リード)を差し込んで演奏する。主旋律を司る。
龍笛Ryuteki,Komabue,Kagurabue(Flutes)中国より伝えらる。竹製の横笛。総長40cm。指孔は7孔。乾燥した煤竹を用い、皮を削り内部の形を整え、吹口と指孔を除いて漆が塗られた樺巻(あるいは藤)を施す。主に唐楽に用いる。
太鼓 Taiko(Drum)一般には管弦用の釣太鼓(53cm)をさすが架台に乗せる形式の坐太鼓があり、他に舞楽用の大太鼓(650cm)、道楽用の荷太鼓(担太鼓)がある。大太鼓は火炎太鼓とも呼ばれ、縁に左方は雲気をともなった龍、右方は鳳凰を表わし、上部には日月の飾りがつく。極彩色。
羯鼓 Kakko(Small drum)インド起源、以後中国より伝えらる。長さ約30cm。木製の胴の両側に鉄枠に張った牛皮製の皮を牛皮の細紐でしめてある。架台の上に置きたたく。
鉦鼓 Shoko(Bronz gong)舞楽用の大鉦鼓と道楽用の荷鉦鼓、管弦用の釣鉦鼓(約15cm)がある。大鉦鼓は立って、釣鉦鼓は座って演奏する。