ラジオテレメトリーについて  はじめに  野生動物の調査手法のひとつであるラジオテレメトリーについてごく簡単に説明します。学 術的な調査データを背景にした研究的な部分や、理論的根拠などは本人自身理解不足なので他 の研究者の報告や書籍を参照してください。ということで、このページはごく個人的かつ主観 的な経験と受け売り知識に基づいて構成されています。特にラジオテレメトリーの決定版とか マニュアル作りのつもりはありません。  また、すでに2年以上ラジオテレメトリーを実地で利用されている方々、テレメトリーで1 本以上研究論文、業務報告書などを書いた等、十分実績があって各自固有のスタイルを確立し た方々にとっては新たに得るものはまったく有りませんので悪しからず。また、初心者のかた には所属される研究室や、組織などにそれぞれ”伝統”があるのでただの雑音、むしろ有害か もしれません。  基本的に思いつくままに作成しているコーナーですので、全体の構成はバラバラです。今後 もだらだらとかつ無責任に改定、増補して行く予定です。 ラジオテレメトリーとは  言葉の意味  まず、この言葉をいくつかに分解しますとラジオ、テレ、メトリーとなりますが、それぞれ 電波、遠隔的、測定の意味を持ち、電波を使った遠隔的な測定方法と解釈することができます。 歴史的に人体や生物にとりつけられたセンサーなどを遠隔操作して体の状態をモニターしよう という医学分野からの発想で、転じて超高高度を飛行する戦闘機の操縦士の状態をモニターす る必要があった軍事分野や宇宙開発の過程で発達してきました。おおむね1950年代からです。  一方、この方法は野生動物の生態調査や位置を知るためにも便利なので、1960年代ぐらいか ら活発に応用研究が進められてきました。しかし、当時は取り付けられた動物の体温や心拍数 など遠隔的(無線など)に測定して送り返してくるというような装置は、電池の寿命や小型化 できなかったため困難でした。そのため、水晶発振子を利用した単純なパルス発信機を一種の 標識として利用し、送られてくる信号の方向から遠隔的に位置を推定する方向に進みました。  これは今でも重要な調査手法であるタグなどの標識を電波発信機に置き換えたものとも言え ます。そのため遠隔的測定という直接的な意味は希薄になりました。そのため、通常はラジオ マーキング、ラジオタッギングなど電波標識という意味の言葉で置き換えられています。しか し慣例的にラジオテレメトリーで通用しています。  この場合、何ら測定機能を有しない単純なパルス発信機に対し、しばしば使われるテレメー ターという言葉は適切ではないかもしれません。私は単純に広い意味で発信機もしくはトラン スミッターと表現しています。  現在では、回路や電源の小型化省電力化が進んでいるので、生理状態の測定も含め様々な可 能性が考えられると思います。ここでは古典的(?)な単純なパルス発信機を用いたラジオテ レメトリーすなわち電波標識追跡法について紹介します。 ラジオテレメトリーで解かること  先に記載したた通り、送られてくるのは目的の動物につけられた発信機のパルス信号だけで 、発信機を中心に電波が広がっているだけです。これを位置情報に変えるには複数の観察点か ら電波の到来方向を観察して、それら観察地点の観察角度の差から三角測量法などで発信源の 位置を推定して行くというのが一般的です。  実際に地図上にいくつかの観察地点を設定し、指向性アンテナで電波の到来方向を観察する と、もっとも強く電波が受信できる方向が観察されます。その方向線をそれぞれの観察地点か ら延長すると地図上のどこかで交わることになります。これを発信源の位置とみなし評価して 行きます。  このようにして得られた位置情報を経時的に蓄積して行くと、たとえば1年間、その標識され た動物の1年の間にすごした場所の情報として現れてきます。また、もっと短い時間、1日、1時 間などの単位で評価できるような追跡を行えば、1日あたりの移動距離や1時間あたりの移動速 度の目安となるような情報を得ることもできます。  また、得られた位置情報と、実際に環境情報、たとえば標高、植生などと重ね合わせること でどのような環境をどの程度利用しているかなどの情報に結びつけることができます。  さきに、パルス発信機は標識した動物の状態を何も測定していないと書きましたが、ごく限 られた範囲であれば、単純なパルスの発信間隔を変えるなどの方法で動物の状態を遠隔的に知 る方法があります。例として、走っている、飛んでいる、休息しているなど、動物の活動状態 で姿勢が変わるような場合は、ガラス管の中に水銀を封じ姿勢が変わるたびに接点の位置が変 わりそれによって電波の発信状態(多く発信間隔)を変える装置を組み込むことができます( アクトスイッチ)。また、これを動物の体温変化で発信状態を変えれば、放した後の生死判別 ができ死亡率の推定にも応用できます(モータリティースイッチ)。古典的にはこれらのオプ ションがありますが、最近の技術革新により各種センサーなどオプション開発の可能性は広が ってきているものと思われます。  確かにラジオテレメトリーによって動物の位置情報ならびに関連した情報を導き出すことが できますが、それ自体は生態学的調査技法の一つに過ぎません。必要とされる生態学的調査全 体の中での位置付けや得られる情報の解釈方法は調査計画段階で良く検討する必要があります。 テレメトリーを行うこと自体が目的化してしまうと、得られたデータを活かす方向性を見失う ことになります。特に野生鳥獣保護管理の枠で被害防除や個体群保護対策のためにこの技法を 取り入れるのであれば、得られたデータの使い道について事前に良く吟味しておくことが求め られます。 GPSを利用した追跡  ここ2‐3年で、カーナビでおなじみのGPSを利用した追跡システムも普及し始めています。一 種のコンピューターのようなものなので大電力を消費するため、小型化が課題の一つといえま す(主にバッテリー)。ただし、古典的な追跡方法と異なり自動的に1日何時間おきなど自由 に設定してデータを取得できます。また、人では追跡しきれない奥山などのデータが取得でき るので、時間的な空白を減らすことができます。これによって、今まで知られていなかった生 態学的な情報が集まってくる可能性が示唆されます。  問題としては、リアルタイムでそれらの情報を入手しずらいことにあります。これはこの装 置がある一定期間位置情報を蓄積した後、タイマーなどで脱落させて回収するという操作が必 要だからです。事実上、これを装着してしまうと回収されるまでどのような行動をしていたか 解からないということがあります。確かに、これまでの電波標識法と同様に、VHFビーコンを出 しているので、それを元に大まかな位置を決めることはできます。目的にもよりますが、この システムではマニュアルでの追跡の2本だてで行うことも必要になるかもしれません。  また、取り付けられる動物の種類も限られています。大きさ重量など1kg前後となるものが 多いので日本ではシカ、ツキノワグマ、ヒグマなど大型の種類に限られます。これら動物の生 態にも関連して、生息環境である森林など電波を遮断する環境での有効な位置情報取得率や位 置推定精度の検証は重要です。  ナブスターからの情報を受信しデータを蓄積するだけでなく、データ送信機能を持ったもの もあります。これは動物につけるGPS受信機にモデムと送信機がついていて、航空機や地上ステ ーションでコマンドを送ってデータを回収したり、自動的にデータを送信するものなどです。 これらのことにより、データの取得が容易になるので現実的な保護対策などに応用が期待され ます。また、一度受信した位置データを再度アルゴス衛星などを経由してデータを回収する方 法は試験されています。しかしこれらは日本の電波法の規制を受ける恐れがあり、試験研究と いうのならばまだしも、野生動物の被害対策など保護管理の実務として普及しようとしたとき に何らかの問題が起こるかもしれません。  その他の可能性。GPSデータ現行の携帯電話通信網を利用して回収することも考えられますが、 サービス範囲の制限が大きく山奥で生活する野生動物の生態調査には不向きな点も大きいよう です。もっと先のことと考えれば、気球などの空中固定基地を利用した成層圏プラットフォー ムをラジオテレメトリーデータの中継装置として利用する可能性も検討すべきでしょう。周回 衛星軌道の10分の1程度の高度なのでデータ送信装置の低出力化、小型化、超寿命化などよ り様々なセンサー類などオプション測定装置の搭載など、自由度が増えるものと予想されるか らです。この技術は広域的通信網の拡充や、防災用通信基地などの利用が期待されていますが、 野生動物の保護管理への応用も大いに期待できますし、むしろそのための利用枠を今から確保 するなどの考え方もあっていいと思います。  現状では、とにかく精度の高い生態学的な情報を得たい等、純粋に研究が目的の場合(GPSが 良い?)、一方、大まかでも良いからリアルタイムで移動や現在地の情報が得たいなど、個体 群の保護、農作物など変被害対策などの保護管理面での必要性がある場合ー通常の発信機ーな どの選択ができると思います。別な表現をすると、目的と予算によって機材や追跡システムが 制限されるといえるのかもしれません。  GPS受信機はまだ費用が高額である必要など様々な問題や課題はあるものの、長期的に見れ ば古典的な発信機でマニュアル追跡にかかわる人件費と比べてお徳というケースも出てくるか もしれません。適切な使い道と応用方法の開発が期待されます。 ラジオテレメトリーに使用する機材  発信機  国内の野生動物研究には、現状では2m帯の非常に微弱な発信機が使われることが多いよう です。国内外いくつかのメーカーがあります。哺乳類、特に大型獣では外国製のものが多く使 われています。仕様は各社特色がありますのでそれぞれを参照してください(情報源情報のペ ージを参照)。  構造はごく簡単なものです。周波数安定性や消費電力が不安定などの問題を除けば、自作も 簡単です。ただし、自作されても出力の調整ができる技術がなければ、実際に動物などに装着 するのは控えたほうがいいと思います。一般の無線通信に障害を与える有害電波を撒き散らす ことになり電波法に抵触する恐れがあるからです。各自の知識や見識を深めるためとか、教育 実習のために微弱なものを試作してみるなどにとどめましょう。以下に紹介した回路でも、と りあえず発信はしますが、試験的に作ったかなりいいかげんな回路なので、スプリアスをばら 撒くなどいろいろと障害が起こる恐れがあります。 回路図 1 シングルステージタイプ50MHzで発振 回路図 2 2dステージタイプ50MHzを150MHzで発振  市販の発信機も発振出力は十分に微弱なものとされていますが、電波の公共性を損なうこと のないよう運用方法は十分注意する必要があります。  発信機の装着方法  発信機の装着方法は、外れ難いという点から首輪型が多いようです。そのほかにハーネス型、 バックパック型(鳥類など)、接着剤による固定(鳥類、海棲動物)、直接縫い付け(魚類)、 体内装着(蛇など)が見られます。  永久的な装着材料ではゴムベルトのほか、ビニールライニングした鋼鉄ワイヤーや、ボールチ ェーンも動物に負担をかけにくい材料といえます。  調査対象とする動物によって、最適な装着方法を工夫する必要があります。多くの発信機メ ーカーでは様々な装着オプションを用意しているようですが、それらだけで完全とは言えませ ん。たとえば首輪型の装着装置の場合、成長過程にある幼齢個体では成長にしたがって首がし まってきます。また、クマでは首輪をかなり積極的に取り外そうとすることがあるので、つい 強めに締め付ける傾向があります。その結果、首輪のベルト部分と皮膚がこすれて褥創ができ てしまうことがあります。  環境省の第9次鳥獣保護事業計画のなかで、電波発信機を利用した野生動物の調査には動物 を傷つける恐れのある装置を利用してはならず、必要がなくなったときには脱落するような工 夫をするように義務づけられてます。クマなどの大型動物ではシリコンライニングした強固な ベルをボルトで固定するなどの方法をを利用せざるをえませんが、耐候性の低い天然ゴムベル トや、麻布などをベルトの一部に使用して材質の劣化によって自然落下するなどの改良は不可 能では有りません(外部の条件でいつ落ちるか見積もりが難しいですけど)。  また、GPS受信機を利用したものでは、タイマーの設定で特定の日付に首輪を落下させる装置 や、無線でコマンドを送って脱落させることができます。今後様々なオプション機能が工夫され ることが期待できます。  発信機の種類、寿命、大きさ、重量など、さらに取りつけ方法は調査目的を良く吟味した上、 装着具に限って必要ならば、改造や自作もするつもりで対象動物に負担のかからないよう十分 な配慮をしなければなりません。  受信機、アンテナ  国内ではテレメトリー調査専用受信機はほとんど有りません。発信機の波長が2m帯という こともあってアマチュア無線でも使われるようなのオールモードトランシーバーが転用されて きました。とくに八重洲(現スタンダード)のFT-290、FT-290mkIIが一般的でした。これら はすでに製造販売されていませんが、純粋にトランシーバーとしても良くできている機種で一 つの時代を築いた名機として記録されるべきものです。しかしながら、現在では転用可能な高性 能機種、FT-817が有ります。ただし、この機種を受信専用化改造しないで運用するにはアマチ ュア無線免許を必要としますし、といって受信専用改造してテレメトリーに特化させてしまう にはかなり勇気がいる(もったいないぐらい高性能)と個人的には感じます。  一方で免許不用のワイドバンドレシーバーがあります。私はAOR社のAR-8000を使用していま す。私個人の経験ではFT-290と比較すると僅かに受信性能は低いようで人によって評価はまち まちです。しかし、軽さ大きさを重視した場合、改造トランシーバーよりは現場での取り扱い はかなり楽だと思います。私の場合、AR-8000にプリアンプ/アッティネーター(増幅器/減衰器、 Japan Information Medium M-100)を外付けで併用してアンテナからの入力を加減できるよう にしています。このことによって液晶パネル上のSメーターの振幅を微妙に調整でき、最大感度 の方向の特定など入感状態の確認が容易になりました。  アンテナは3素子の八木アンテナ(国内ではほとんど)、HB9CV型(海外のラジオテレメトリ ーメーカー)などがあります。国内では主に、アマチュア無線の2m帯用3素子アンテナが流 用されています。八木アンテナは素人でも簡単に自作でき、雑に作っても受信専用とするなら ば特に問題などは感じられません。個人的には折畳式5素子八木アンテナを自作して使用して います。  アンテナは、伝播されてくる信号を受け取る入り口にあたるもので追跡の成否を左右する大 きな要素の一つです。特に目標を見失いがちである、前回の追跡から空き期間が長いなど捜索 に手間取る場合は、アンテナの受信感度などの特性の良し悪しが問題にならないとも限りませ ん。しかし、市販2mアンテナは144.0000MHzから145.9999MHz(中心を145.0000MHz)で最 適化されている物が多いため、テレメトリーで使われる周波数帯(150MHzを超える場合もある ようです)ではアンテナの挙動が変わってくる恐れがあるにもかかわらず、あまり問題にされ ていません。  そのような状況なのですが、研究者によっては2m帯といっても比較的広い帯域幅を持ち、 ゲイン、FB比も良好、同調性も良好な機種を使用している人がいる一方で、異なった周波数帯 に最適化設計されたフォックスハンティングゲーム用のアンテナを使用しているケースも見ら れます。シミュレーションしてみれば解かると思いますが、使用している発信機の周波数に最 適化されていないために、取れるべきデータが取れていないこと、極端に言えばそれすら気が ついていない恐れもあります。アンテナ特性の確認や、そのアンテナによって得られたデータ の質の再検討をしておいたほうがいいかもしれません。  アンテナ設計シミュレーター。アマチュアなどがお手軽に使えるものとして、YSIM、MMPCな どが有ります。アンテナ自作専門書、「パソコンによるアンテナ設計」の付属CDに収録されて いますので興味のある方は自分で使用しているアンテナの基本特性を確認してみるのも良いか と思われます。 市販アンテナの特性比較例  比較する前に若干の用語説明など。アンテナ固有の特性を示す指標として、ゲイン、SWR、 F/B比、ビーム幅が良く用いられます。これらの指標を参考にして自分の調査や追跡スタイル に最適なアンテナを選定することができると思います。 ゲイン:利得とも呼ばれます。八木アンテナのようにある特定の方向に強く電波を放射する、 または、感度があることを指向性があるといいますが、等方向性の標準ダイポールアンテナを 基準に比較した場合、指向性のある方向にどれほど強く電波が放射されているかを示す相対的 な指標です。通常、電波を放射させてその強さを測りますが、放射時の電波の空間パターンと 感度のパターンは相同で可逆性が成り立つとされています。  単位は、dB(デジベル)ですが、設定条件によって表現の仕方が違います。標準ダイポール との比較ではdBD(デジベルD)と表現される単位を使います。これは宇宙空間のようなフリー スペースを基準としたものでアンテナの基本的特性を示す場合に使います。その他にある誘電 率を持った大地を想定した場合などあり単位を良く見ないで数字だけを比較するとつじつまが合 わないこともあり注意が必要です。このページの中でゲイン何dBと言う場合はdBDをさします。 SWR:定在波率ともいいます。アンテナは送信機から送られた電気信号を電波に変換する一種の コンバータですが、送られてくる信号とアンテナが良く共鳴しないとアンテナから逆向きの電 波が送信機に戻ったり、無駄に熱に変換されて空間に放射したりします。これは受信する場合 も同様で、アンテナに入った電波が効率良く電気信号に変換されないことを意味します。  アンテナは、送受信する波長にあわせたある一定の長さに調整されたエレメントを持ってい ますがこれはその波長の電波に良く共鳴するようにしてあるからです。この良く共鳴した状態 を、俗に定在波が立つとも表現します。完全に共鳴していれば数値は1になりますが、実際に は2前後それ以下にできればよくできたアンテナといえるでしょう。現実にはなかなか難しい ことです。たとえ受信専用とするならばそれほどうるさくする必要はないといわれたとしても、 それなりに良くできていることに越したことはないと思います。 F/B比:八木アンテナのような指向性アンテナの放射パターンはアンテナを中心に前後にひしゃ げた8の字型になります。その前後の比を−dBで表します。たとえば-10dBと-20dBでは後者の ほうがより前方に放射(感度)が偏っているといえます。  また、八木アンテナの場合、完全に後方への放射や感度を0にすることはできません。また、 ゲイン、SWR、F/B比それぞれの最適な値を示す周波数は必ずしも一致しません。これらのうち どれかを優先して設計し、それにあわせて使い方を工夫する必要があるようです。 ビーム幅:電力半値角を放射(感度)の強い範囲をビーム幅と称することができます。放射の 最大方向から両側にずれてゆき、ちょうど3dB減衰した角度(両側の和)で表現されます。 標準ダイポールで約78度、3素子アンテナは約60度、30度以下にするには10素子以上 となります。素子数だけではなく、アンテナ全長(前後の長さ)にも関係するようです。同じ 3素子でも、全長を短めに作るとビーム幅は広くなる傾向が見られます。 (八木アンテナの特性の模式図)  以上の要素をあらかじめ把握した上で、いくつかの市販アンテナの特性を比較してみたいと 思います。中には、細かく適合性などを論じればこれで大丈夫かなどという心配もあることと 思いますが、まったくおかしいとまでは言いきれません。一つの目安であるという点、また、 うまく調整することができたり、良く作れればそれにこした事はないぐらいに考えて結構です。  以下示される図表はYSIMを用いたシミュレーション結果で実測では有りません。しかし、ア ンテナサイズによる周波数特性の傾向を比較するには十分であろうと考えます。以下、他のモ デルについても同様です。 AF Antronics Inc. Model F146-3FB  ATSでアンテナを注文するとこのモデルもしくはこれに近いものが提供されます。 (周波数ごとのゲインの変化) (周波数ごとSWRの変化) (周波数ごとのF/Bの変化) (周波数ごとのビーム幅の変化)  これで顕著なのはこのアンテナ自身はF/B比を優先して設計されたアンテナであることです。 そのためゲインやビーム幅は多少犠牲になっているようですが、電波の到来方向をより明確に 判断するには適しているようです。また、最適化された周波数をSWRを基準に見てみるとやはり 144MHz付近に調整されているように思われます。  同じグラフには、試験的に147MHz付近で最適化できるようにエレメントの長さを調整し て計算したグラフと比較してあります。青点144MHz(オリジナル)、ピンクが147MHz で最適化を試みた場合です。F/B比以外は顕著な改良効果は見られませんが、エレメント長さ を調整するなどの改造が一概に無駄とは言えないように思われます。ただし、この結果はあく までもシュミレーションなので実際には計測機器を使いながらカットアンドトライで適当な数 値に追い込んでやらなければならないでしょう。  アンテナのサイズ。以下このシュミレーションで使った各エレメントのサイズを示します。 ここで最適化というのは最適化の試み、一例のことであり、他にも様々な組み合わせが存在 することは述べるまでも無いことです。       オリジナル   147MHzで最適化      共通部分           エレメント長さ エレメント長さ   エレメント間隔 エレメント直径  リフレクタ   1044    1024         0     6 ラジエタ     990     985       300     6 ディレクタ    946     920       282     6  以下、最適化改造前と改造後における各周波数での放射パターンを図示します。 (改造前。144MHzでの放射パターン) (改造前。147MHzでの放射パターン) (改造後。144MHzでの放射パターン) (改造後。147MHzでの放射パターン)  僅か3MHzとは言え最適化されている周波数を外れた場合、放射パターンは大きく変化する ことが示されました。特にF/B比は改造前は144MHzで小さくなり、147MHzでは大きく なる傾向が見られました。147MHzに最適化した場合はその関係が逆になったことが示され ました。  以下、4種類について改造前、改造後のサイズならびにゲイン、SWR、F/B比、ビーム幅に ついて周波数毎のグラフを示します。それぞれについての解釈はあまり多くを述べることは できませんので、ご覧になった皆様それぞれの判断に委ねます。 Maldol(モデル名不詳)       オリジナル   147MHzで最適化      共通部分           エレメント長さ エレメント長さ   エレメント間隔 エレメント直径  リフレクタ   1043    1012         0     3 ラジエタ     994     965       483     3 ディレクタ    931     925       384     3 (周波数ごとのゲインの変化) (周波数ごとSWRの変化) (周波数ごとのF/Bの変化) (周波数ごとのビーム幅の変化) Anten GY-23P       オリジナル   147MHzで最適化      共通部分           エレメント長さ エレメント長さ   エレメント間隔 エレメント直径  リフレクタ   1040    1012         0     3 ラジエタ    1002     965       528     3 ディレクタ    940     925       450     3 (周波数ごとのゲインの変化) (周波数ごとSWRの変化) (周波数ごとのF/Bの変化) (周波数ごとのビーム幅の変化) Araki Antenna       オリジナル   147MHzで最適化      共通部分           エレメント長さ エレメント長さ   エレメント間隔 エレメント直径  リフレクタ    945    1018         0     1 ラジエタ     920     980       340     1 ディレクタ    826     925       240     1 (周波数ごとのゲインの変化) (周波数ごとSWRの変化) (周波数ごとのF/Bの変化) (周波数ごとのビーム幅の変化)  このアンテナはコンパクトに折りたためることから、この機種を使用しているテレメト リー研究者も多かったように聞いています。しかし、グラフを見て解かる通りオリジナル のサイズで最適化されていると思われる周波数帯は157MHz(SWR)付近にあります。 現行でテレメトリー用発信機の周波数は146‐147MHz付近が使用されているものと 思われるのですが、それらにはまったく適合していないことが解かります。  実物のエレメントも相当に短いようよすが、短縮アンテナのためのローディングコイル などはその構造の中には見当たりません。これは本来はハムなどの通信用というよりは、 フォックスハンティングなどのゲーム用の特殊なアンテナなのではないかと推測していま す。特にビーム幅のグラフで140−147MHz付近で極端にビーム幅が狭くなっていま すが。これはこの周波数帯ではアンテナ前方ではなく、後方(観察者の背中の方向)に感 度が強いパターンを作っていることを示しています。このアンテナを使ってこの周波数帯 の発信機を観察すると、発信源の方向を180度反対に見ながら追跡するということにな ります。現状でこのアンテナを使用している場合、最適なエレメント長さに改造するか他 のアンテナを使用する等の対策を講じる必要があるかもしれません。  また、これによって得られたデータの解釈は、ちょっと困ったことになるのではないか と危惧されます。 藤田式折りたたみ5素子八木アンテナ2000型甲       147MHzでゲイン優先のサイズ           エレメント長さ  エレメント間隔 エレメント直径  リフレクタ   1012       0      4 ラジエタ     985     400      4 ディレクタ3   940     100      4 ディレクタ2   940     200      4 ディレクタ1   920     200      4 (周波数ごとのゲインの変化) (周波数ごとSWRの変化) (周波数ごとのF/Bの変化) (周波数ごとのビーム幅の変化)  私が実地で使用しているアンテナで、完全自作品です。それぞれエレメントなどのサイズは かなり安直かつアバウトなものです。ただし利点や欠点、性能の限界なども自分なりに十分把 握できているという点、自分で出した追跡結果に責任がもてることも確かです。  最適化周波数は147MHz付近ですので、グラフはゲイン優先とF/B比優先に設計した場合を 比較しました(上記サイズ表にはゲイン優先の場合のみ記しました)。  数理設計研究所。 YSIMのお問い合わせはこちら。 無線工学の基礎知識についてー自分では説明しきれない分野ー  日本のハム人口の裾野の広さにあいまって、アマチュア無線関係の書籍は多数出版されてい ます。その中にはアンテナの自作に関するものも多数あります。これらは無線工学に関する基 礎のページが充実してます。またあまり難しい無線工学の数式などは極力排してあり、専門で ない人たちが気軽に触れられるものです。以下に代表的な参考書を紹介します。  アンテナハンドブック    CQ出版社  八木アンテナを作ろう    CQ出版社  パソコンによるアンテナ設計 CQ出版社 など  ラジオテレメトリーを「見えない相手を見る一つの手段」として野生動物保護管理に応用し たり、大学で卒論研究等に利用するのであれば、電波の物理法則や性質を理解することは重要 です。アンテナなどの機材を自作するしないにかかわらず、実際に外に出る前に必ず一読する ようお勧めします(アマを含め無線技術者資格を持った人は無用でしょうけどね)。  以降”ラジオテレメトリーについて2”あたりからラジオテレメトリーのよりディープな部 分も紹介できたらと思っています。
フレーム対応でないブラウザの場合こちらをクリック
メニュー画面に戻ります