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1994年4月7日付 朝日新聞 論壇

公共事業情報の積極的公開を

山川洋一郎


 東京都世田谷区内を通る小田急線連続立体交差事業にかかる都の調査報告書は、都公文書開示条例により、市民に公開されるべきものか。

 この点が争われていた裁判で、東京地方裁判所は第二回期日において、都に対し公開を勧告し、都もこれに応じ、文書の主要部分を開示する和解が成立した。この種の事件で、裁判所が早期に公開を勧告するのは異例であり、大規模公共工事にかかわる情報公開の重要性を示すものとして注目と評価に値する。
 この問題は同線の梅ケ丘−喜多見間(約六・四`)を複々線化する事業について、都市環境の観点から地下化を望む世田谷の住民が、都に高架方式を選択した根拠を示す事業調査報告書を開示するよう公文書開示条例により請求したのがきっかけだった。

 都が、公開すると報告書のとりまとめに協力した国などとの信頼関係が損なわれる、などを理由に非公開決定をしたのを不服として、住民が提訴したものである。住民に対しては非公開とした文書が、他方では建設業者らには広範囲に開示されていたと言われている。
 市民側は、住宅、商業地のなかでは環境の面からみても地下が高架に勝ること、工期や事業費についても、地下鉄技術の発達により用地買収に時間と金がかかる高架より早くて安いと主張した。専門家による対案の提起から裁判に至るまであらゆる方策を尽くして見直しを求めたという。

 東京地裁民事第二部は、都知事に対して調査報告書の全面開示を求める勧告をした。都側は、調査の核心である構造形式の比較設計、事業費の積算等の情報開示について入札に影響がある、用地買収に支障をきたすなどとして難色を示していたが、結局、開示に応じることとし、当事者問に和解が成立した。情報公開訴訟において、巨大な公共事業の見直しにつながる情報の公開は、和解はもとより判決にもなく、画期的なものである。

 現在、調査報告書の分析が進んでいるが、すでにこの高架事業は鉄道計画だけで約五百憶円余計にかかることや、道路事業費に少なくとも三千二百憶円、不動産開発事業費など数千億円、計一兆円を超える事業費が隠されていたことが判明したとされている。

 公共事業の最大の問題は、重要な情報から市民が疎外されているといる点である。これは単に知らされないということではない。情報を独占している政、官、業から間違った情報や虚偽の情報を流されても、その真偽の判定が出来ない状態におかれているということである。
 このような状態では、公共事業は自然や都市の生活環境に対する影響の的確な評価が不可能となる。最近のゼネコン汚職に見られるような不透明な利権と汚職の温床と堕してしまうのである。

 公共事業の見直しといってもその切り口は色々ある。
 その方策の一つとして、しきりに規制緩和が唱えられている。これは、官僚の無用な権限を制御するという面では確かに役に立つ。しかし、これだけでは決め手にはならない。環境政策や都市政策の観点等から、公共事業には一定の合理的規制が必要であり、アセスメントのように規制を一層強めなけれはならないものもあるからである。

 いわゆる地方分権だけでも決め手にはならないという点では同様である。地方自治体における公共工事をめぐる腐敗が深刻で広範であることは、ゼネコン汚職がすでに証明しているからである。

 政府癒着の公共事業の見直しは、なによりも情報の独占を打破し、行政の意思決定過程を透明、公正化することから始められなけれはならない。
 この点からも自治体の積極的な情報公開と国の情報公開法の早期制定が強く望まれるところである。

(弁護士・第二東京弁護士会情報公開制度推進委員長〉


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