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東京地裁民事3部作成の判決要旨 2001年10月3日

小田急線連続立体交差事業認可処分取消請求事件 判決要旨


平成6年(行ウ)第208号 小田急線連続立体交差事業認可処分取消請求事件
平成6年(行ウ)第288号 事業認可処分取消請求事件

原   告    水島英夫ほか122名
被   告    関東地方整備局長
参 加 人    東 京 都 知 事

判決要旨(文中の貢数は、判決書の頁数を示すものである。)


(事実の概要)

 本件は、小田急小田原線の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近まで(世田谷区内)の線増連続立体交差事業(注)に関し、沿線住民である原告らが、事業の方式につき優れた代替案である地下式を理由もなく不採用とし、その結果原告らに甚大な被害を与える高架式で同事業を実施しようとする点で、同事業の前提となる都市計画決定の事業方式の選定には違法がある等と主張し、被告に対し、平成6年6月3日付けで当時の建設大臣が都市計画法59条2項に基づいて都市計画事業の施行者である東京都に対してした各都市計画事業認可の取消しを求めた事案である。
 
(注)「連続立体交差化」とは、鉄道と幹線道路とが2か所以上において交差し、かつ、その交差する両端の幹線道路の中心間距離が350メートル以上ある鉄道区間について、鉄道と道路とを同時に3か所以上において立体交差させ、かつ、2か所以上の踏切道を除却することを目的として、施工基面を沿線の地表面から隔離して既設線に相応する鉄道を建設することをいい、既設線の連続立体交差化と同時に鉄道線路を増設することを含むものとするとされ、鉄道線路の増設を「線増」、線増を同時に行う連続立体交差化を「線増連続立体交差化」とそれぞれいう。


(争点)

 本件の争点は、大きく分けると、(1)各原告の原告適格の有無、(2)各事業認可の適法性であって、後者の争点では、各事業認可自体の適法性のほか、各認可の前提となる都市計画決定の適法性が争われた。[8頁〜](原告適格についての判断【110頁〜116貢】)
 
 都市計画法59条以下の認可の手続・要件等を定めた規定は、都市計画事業の事業地内の不動産につき権利を有する者個々人の利益をも保護することを目的とした規定と解することができ、したがって、事業地内の不動産につき権利を有する者は、認可の取消しを求める原告適格を有するものと解すべきである。[111頁]

 事業地の周辺地域に居住し又は通勤、通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しない者は、認可の取消しを求める原告適格を有しないというべきである(最高裁平成11年11月25日第一小法廷判決・判例時報1698号66頁)。[112頁]
 
 本件においては、本件各認可にかかる事業の対象土地全体を一個の事業地と考え、同事業地の不動産に権利を有する者が、本件各認可全体につき、その取消しを求める原告適格を有するというべきである。[115頁]
 
 別紙原告目録1記載の各原告9名については、本件各付属街路事業のいずれかの事業地内の不動産につき権利を有していることが認められるから、同各原告については、一体としての本件各認可の取消しを求める原告適格を有するものと認めることができ、その余の各原告については、本件各認可に係る事業地の不動産につき権利を有することを認めるに足りる証拠はないから、同各原告につき本件各認可の取消しを求める原告適格を認めることはできないというべきである。[115貫から116頁]


(各事業認可の適法性についての判断[116貢〜143貢])

 [以下の記載は、判決書141頁ないし143頁の「(6)本件各認可の違法性」の部分をほぼ、そのまま引用したものである。また、この項における文中の頁数は、当該事項についてより詳しく説示した部分を示している。]

 本件鉄道事業認可自体については、その基礎となる都市計画決定の経緯を理解せず[120頁、127頁〜128頁]、確たる根拠に基づかずに事業施行期間の適否を判断するなど、十分な検討に基づいて行われたか否かすら疑わしいし[120頁、105頁〜106頁]、事業認可申請書中の事業地の表示が本件鉄道事業の事業を行う土地の範囲を正確に表示せず都市計画決定とも一致していないにもかかわらず、これを看過したこと[116頁〜119頁]、及び事業施行期間についての判断にも不合理な点があること[119頁〜122頁]の2点において、法61条に適合しないものである。
 
 次に、本件各認可の前提となる都市計画決定(平成5年決定及びこれと一体をなす本件各付属街路都市計画)に当たっての考慮要素には、その当時の小田急線には騒音の点において違法な状態が発生しているのではないかとの疑念が生じる状態であったにもかかわらず、この点を看過し、この疑念を解消し得るものか否かや、それが解消し得ない場合には新たな都市計画によってその解消を図るという視点を欠いていた点において、その著しい欠落があった[129頁〜133頁]。
 
 また、都市計画決定に当たっての判断内容については、第1に、高架式を採用すると相当広範囲にわたって違法な騒音被害の発生するおそれがあったのにこれを看過するなど環境影響評価を参酌するに当たって著しい過誤があり[133頁〜136頁]、第2に、本件事業区間に隣接する下北沢区間が地表式のままであることを所与の前提とした点で計画的条件の設定に誤りがあり[136頁〜137頁]、第3に、地下式を採用しても特に地形的な条件で劣るとはいえないのに逆の結論を導いた点で地形的条件の判断に誤りがあり[137頁]、第4に、より慎重な検討をすれば、事業費の点について高架式と地下式のいずれが優れているかの結論が逆転し又はその差がかなり小さいものとした可能性が十分あったにもかかわらず、この点についての十分な検討を経ないまま高架式が圧倒的に有利であるとの前提で検討を行った点で事業的条件の判断内容にも著しい誤りがある[137頁〜141頁]。

 これらのうち、当時の小田急線の騒音が違法状態を発生させているのではないかとの疑念への配慮を欠いたまま都市計画を定めることは、単なる利便性の向上という観点を違法状態の解消という観点よりも上位に置くという結果を招きかねない点において法的には到底看過し得ないものであるし、事業費について慎重な検討を欠いたことは、その点が地下式ではなく高架式を採用する最後の決め手となっていたことからすると、確たる根拠に基づかないでより優れた方式を採用しなかった可能性が高いと考えられる点において、かなり重大な瑕疵といわざるを得ず、これらのいずれか一方のみをみても、優に本件各認可を違法と評価するに足りるものというべきである。したがって、以上の諸事情を考慮すると、本件各認可については、その余の点を判断するまでもなく違法であるといわざるを得ない。

  (行政事件訴訟法31条1項適用の可否【142貢〜144貢】)

 本件各認可が取り消されても、その手続自体又はそれに必要な公金の支出に関与した公務員が何らかの意味で責任を追求されるなどの可能性はないでもないが、これにより、既になされた工事について原状回復の義務等の法的効果が発生するものではなく、その他本件各認可の取消しにより公の利益に著しい障害を生ずるものとは認められないから、本判決において、本件各認可が違法である旨の判断をするに当たり、行政事件訴訟法31条1項により別紙原告目録1記載の原告らの請求を棄却すべき場合であるとは認められない。[144頁]
 
(結論)
 本件訴えのうち、別紙原告目録2記載の各原告の訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、その余の原告らの訴えにかかる本訴請求は理由があるからこれを認容する。[144頁]

以上


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