2005年12月19日 北海道新聞【社説】
行政訴訟*門前払いが大幅に減る
住民の訴えを「法律上の資格がない」という形式論で門前払いにすることが多かった行政訴訟の門戸が広がった。
東京都世田谷区の小田急線高架化事業をめぐって、住民が国の事業認可取り消しを求めた訴訟で、最高裁大法廷が訴えの資格である「原告適格」を広く認める判決を下した。
事業用地内の地権者にしか認めなかった判例を変更し、事業地の周辺住民をも対象に含めた。
今後の行政訴訟に大きな影響を与えるだろう。画期的な判決として評価したい。行政側も、判決の意味を受け止め、許認可手続きのあり方を見直してほしい。
司法制度改革の一環として、今年四月、改正行政事件訴訟法が施行された。行政処分の根拠となる法令だけでなく、その法令と目的を共通にした関連法令の趣旨や、被害の内容、性質、程度などもあわせて考慮する規定を加えた。
司法の行政に対するチェック機能を強化するのが狙いだ。
この規定を具体的に適用したのが今回の判決である。都市計画事業の認可に関連する公害対策基本法と都の環境影響評価(アセスメント)条例を参考にすれば、都市計画法は事業地の周辺住民への被害発生防止も目的にしているとした。
そのうえで、アセス条例の対象地域の住民について「騒音や振動などで健康や生活環境に著しい被害を直接受ける恐れがあり、法律上の利益を有する」として、原告適格を認めた。
これまで、住民は行政訴訟の門戸の狭さに苦い思いをしてきた。道内でも、かつて北電伊達火力発電所の建設に反対する漁業者ら住民が訴訟を起こしたが、最高裁は原告適格がないとして上告を棄却した。
その後、新潟空港の騒音被害をめぐる訴訟や、高速増殖炉「もんじゅ」の訴訟では、原告の範囲を広げたが、まだ限定的だった。
高架化訴訟は大法廷判決を受け、同第一小法廷が事業認可の適否を審理する。国民の権利、利益の救済範囲を拡大するという改正法の趣旨に沿って、本訴でも住民の側に立った判断を期待したい。
今回の判決によって、高速道路の建設など他の行政訴訟でも、地権者だけでなく、周辺の住民にも訴えの資格が認められるだろう。
実際に被害を受けている住民たちの声が届くように、司法改革をさらに進めてほしい。
行政は、許認可の前に、事業の内容を関係住民にもっと丁寧に説明し、その声を聞く努力が求められる。
それが、司法の出番を待たずに、住民の納得が得られるまちづくりにつながる。