朝日新聞199323日の記事より


うどんには「四季」、「田園」は食パンに

クラシック音楽でなぜか原料の熟成活発

うどんにはビバルディの「四季」、食パンにはベートーベンの「田園」、日本酒にはモーツァルト ── 原料を発酵や醸造させる過程で、クラシック音楽を聞かせる試みが話題を呼んでいる。人間が、音楽によってリラックスできるように、酵素や酵母菌も、クラシック音楽を聞くと、その働きが活発になるというのが、食品メーカーの説明だ。

うどん試食、数十人が「聞いた方がおいしい」

 ビバルディを聞いたうどんは、9月にもスーパーなどに、300グラム300円から330円で並ぶ。めん製造中堅の高砂食品(本社・埼玉県岡部町)が作り、スーパーなどに置く。
 うどんは、小麦粉に干ぴようなどの食物繊維、カルシウムを混ぜながら塩水を加えてつくった生地を細長く切り、熟成させながら乾燥させる約4時間の間、「四季」と鳥のさえずりを録音したテープを聞かせる、高砂食品では、昨年暮れから4回試作し、社員ら数十人に他の銘柄とともに試食させたところ、全員が音楽を聞いたうどんの方がおいしいと指摘した。「こしがある」「滑らかだ」というのが主な意見だった。
 業界関係者によると、そばやうどんなど乾めんの市場は約一千億円で、ここ数年、画期的な新商品が生まれず、横ばいを続けている。西野商事の星名桂治・開発部長は「音楽を聞かせればおいしくなるかどうかについて、データを取って分析する。遊び心いっぱいの商品なので、市場を広げるきっかけになるだろう」と、新商品に期待する。
 ベートーベンの食パンは、'90年春から、製パン業界2位の敷島製パン(本社・名古屋市)が、注文生産をしている。パンを焼き上げる前にイースト菌を72時間熟成させ、その間に「田園」を聞かせる。熟成時間に通常の十数倍かけており、1本が3きんで2000円と普通のパンより3〜4倍高い。月約300本の生産で、贈答品などに使われている。
 福島県喜多方市の小原酒造店では、5年前からもろみにモーツァルトを聞かせた日本酒をつくっている。酵母の密度が約10倍高い結果を得たという。北島三郎やベートーベンも試してみたが、モーツァルトが一番結果が良かった。今では、大吟醸など7種類をつくっており、品評会でも高い評価を得ている。
 パイオニアの子会社でスピーカーを生産する一方で、音楽と野菜やきのこ菌などの生育との関連を研究している東北パイオニア(山形県天童市)は「音楽から受ける振動の度合いが、生育に影響を与えているようだ」(バイオ生産部)と分析している。