0715。Valdez 出航。100 人乗りくらいの船に 30 人くらいの乗客、こんなに空いているのは珍しいらしいけれど、オフシーズンにかかっているからでしょう。200トン以下、最大速力 20kt 強と思われますが、いずれも詳しい数字を訊くのを忘れました (Y_Y|)。それはとにかく、きれいな船です。
左舷に Alyeska Pipeline のタンクと積み出し施設が見えます。1300km 余の pipeline の終点です。ここが選ばれたのは、不凍港であることと、フィヨルドで水深が深いためです。
0750。ラッコが 2匹、水面上で仰向けになっています。エンジンを止めて接近。日本の動物園等で見るように、胸のところで貝を割っています。双眼鏡 (8倍) ではよく見えますが、相変わらず 110mm のレンズの写真では豆粒のような大きさにしか写りません。
0808。The Narrows。Port Valdez の湾口の幅の狭い部分で、通行可能な部分は 1/2 mile しかない由。右舷側に coast guard の船が一隻、急に備えて常駐していました。船の往来は多く、私たちの船も前方に見えていた州営フェリーをみるみる追い抜いていき、向こうからはタンカーが反航してきました。Valdez に入港するタンカーは平均 2.5隻/ 日。
0832。左舷の島は 1790年代にラッコの乱獲が行われたところ。当時の中国 (清朝) へ毛皮が高価に売れたからだそうです。船首方向の向こうには白い氷が転々と浮かんでいます。霧の帯が海面を覆い、その上に島影がぽっかりと頭を出しています。氷河から来た冷たい海水と暖かい空気の境界ではこのような霧が出る、ん、学校でもそう習ったっけ。
船は徐々に面舵をとって、 Columbia Glacier が海に面している湾内へと進んでいきます。
船は氷が密に浮かぶ海面まで船足を落としながら進みます。ときどき、船底で氷を擦る音がゴ〜ン、ゴンという、鐘を叩くように響いてきます。船の中央部では、船員が網で氷を掬い、船室前方の机に出してくれました。触って良し、舐めて良し、かじって良し、ジュースに入れても良い。少なくとも 1万年くらい前の水が口の中へ広がっていきます。(氷河観光に行くと世界中どこでも似たようなことをするみたいですけど、あおやまはこのときが初めて)
しかし、景色の方は如何せん、氷河末端までは 7.5 miles あるそうで (このページ最初の写真)、氷河壁は小さくしか見えないし、まして、崩れる場面は見えないし、ごちそうを目前にぶら下げられたまま「おあずけ」を喰っているようでちょっと物足りません。これでも、今日は天気がよいので、いつもよりは奥まで進んだとのこと。
0915。反転、氷の浮かぶ海を後にしました。まだたくさんの氷の浮かぶこのあたりは水温 2 〜 3℃, 落ちたら 5 〜 6分しか命が持たないそうです。太平洋戦争中の Kiska 撤退作戦時、船が沈められたら泳いで助かる可能性は全くないので、かえって死ぬ覚悟が固まった、という海軍軍人 (南太平洋で泳いで助かった経験を持つ) の話を思い出しました。
やや進むと、氷の帯が海を 2つに分けている海面まで戻ってきましたが、このあたりなら、水温は 10℃くらいとのこと。
0945。右舷前方の岸辺の岩にトドの群が日向ぼっこをしています。水際の岩の上に折り重なるようにして寝そべって (岩の上の方にはいない)、朝日を浴びていました。このあたりの巣はよく知られているらしいが、好天でないと接近できないそうです。エンジンを止めて接近 (ラッコの時と同様に)。
1015。左舷側遠方の島が "Three Islands" (島が 3つある)。1900 年代前半はキツネが餌付けされ、農園が作られていたそうです。キツネは泳げないので、離れ島の方が飼うには好適と。飼い殺しかぁ。1952 年に閉鎖。
1030。Unakwik Inlet。このあたりが '64 Mar. の大地震の震源地と推定されています。今は鮭の養殖が盛んです。
1105。鮭の孵卵場。世界第 2の規模だそうです。湾奥の右舷側では生簀のような木の枠で海面を囲った区画があります。湾口ではトドが遡行する鮭を狙っており、生簀付近のの海面では鮭がピチャッと跳ねています。左舷では、2隻の漁船の間に渡された網の中で鮭がおどっています。大きい方の漁船からホースが網の中の獲物の上に出され、掃除機でゴミを吸い取るかのごとく、鮭を吸い上げています。船の甲板上に鮭が吐き出され、余分の海水は別のホースからジャーと海に戻されています。工場を見ているような気もします。
1120。「Good news !, Lunch time !」2F に陣取っていた人も 1F の船室へ降りてきます。机にトレーをセットし、皿、ナイフ、フォークがしつらえられ、船尾のスナックコーナーから食事 (鮭のグリル他) が運ばれてきました。
1150。左手に見えてきた Blackstone Bay に入っていきます。一番湾奥には幅広の氷河が 3つ、並んで海へ落ち込んでいます。中央の一番大きいのが Blackstone Glacier (このページ最初の方の写真) 。はじめの湾口からの眺めは、鏡のような海面に氷河の遠景の全体がそっくり写っていて、それはそれで神秘的でしたが、船がの氷河末端まで静々と進んで行くにつれ、、段々氷が圧倒するかのように迫ってきました。
皆、氷河が間近に見える方の舷側でどれか氷塊が海へ落ちないかな〜、と待ち構えています。右の滝の横なんか、上部が割れて手前に反り返っているように見えるから、落ちるんじゃないかな、とか言い合っているうち、中央寄りの海面に近い (低いところにある) 小さな塊が、
ちゃっぽ〜んと飛沫を上げて海に落ちたのが見えました。小石が落ちたようなもので、なんか、あまりにあっけない。と思っていると、ややあって、
「ど〜ん」と、なるほど雷のような音がしました。あんなに小さな塊でもこんな大きな音がするのかぁ。落ちる場面を見損ねた人達が、なになに…、と寄ってきました。
さらにじりじり待っていると、今度は右手で氷壁中腹やや上方の大きな氷片が、ぐい、と手前に倒れてきた。「あ、あ、あ、…」と言っているうち、その氷片の下部から小さなかけらがパラパラと海面に落ちた後、氷片の本体も、
ざざ〜っと海面に滑り落ちていきました。
「おーっ」果たして、しばらくの後、さっきよりもはるかに大きな、腹に響くような音が響いてきました。こりゃぁ、昔の人が火山の噴火音と間違えたのも無理はありません。手前の海面では、氷が落ちたのがどうした、とでもいうかの如く、ラッコが貝を胸で割っていました。
最初に落ちそうだと思った右の滝の横の氷塊は、1252、船が引き返しはじめた頃に落ちました。(Sony の TV CM 等で見るような巨大な氷壁の崩落はめったに見られるものではないようです)
1320。Blackstone Bay の湾口まで戻ってきました。Point Decision という岬の名前は、昔の船乗りはここでどの湾が Whittier へ向かうものなのかの判断を迫られたからだといいます。ほとんど同じように見える 3つのフィヨルドが口を開けており、間違ったフィヨルドへはいっていった挙句に遭難した例も多いそうです。太平洋戦争中に軍によって標識が建てられ、今は迷うことがありません。その、白と蛍光オレンジに塗りわけられた菱形の標識が、山の稜線が海面に落ち込むところに立っています。
1340。Whittier 港入口。小さな港町が一望できます。この町の説明は次のページに譲ることにしましょう。町の対岸の滝の両側の崖にミツユビカモメの巣が固まっていました。白頭鷲がいないので、営巣に好適だからだそうです。何年か前に雪崩で巣が全滅したこともあったけれど、今は 3,000 余あるそうです (よくも数えられたものだ)。
そういえば、この航海で白頭鷲を見かけることが出来ませんでした。沿岸の木の頂上にある白いものは白頭鷲だょ、とここに来る前から教えられていたのですが、あおやま が間抜けだっただけかもしれません。
1400。Whittier 入港。 隣には、朝 The Narrows で追い越したフェリーが既に入港していました。ここから、鉄道とバスで Anchorage へ戻ります。
このほかの有益な情報はこちら。
Bell's Alaska Travel Guide の Valdez 編